第353話 そんな部隊はいない
SIDE フラベルト学園メンバー
「思ってたよりも厄介だったな」
そう呟くフィリップの目の前には、ゴブリンとDランクモンスターのグレーウルフの死体が倒れていた。
「そうね……少し、油断していましたわ」
ミシェラたちは数分前に襲撃され、襲ってきたモンスターの数は合計六体。
ゴブリンが三体と、グレーウルフが三体。
イシュドが参加せずとも……全員が暴れるのであれば、直ぐに戦闘は終らせることが出来る。
しかし、全面戦争時のことを考えれば、なるべきゴブリンライダーとの戦闘に慣れておいた方が良いと……そんなイシュドからの提案が出された。
普通なら、実戦なのに慣れる為にわざと戦闘時間を引き延ばすのはどうなのかとツッコミが入るところだが……今のミシェラたちは、一切そのツッコミを入れることなく了承し、数分ほどゴブリンライダーたちと戦い続けた。
「いやぁ~~~、本当に二人の言う通り、油断してると死にはしないけど、そこそこ痛いダメージは食らいそうだったぜ」
結果として、レブトたちは切傷や打撲といったダメージを負うことなく勝利を収めた。
それでも、何度かヒヤッとする場面を感じた。
「全員、騎乗のスキルを持ってんだろうな」
「……それだけで、ここまで変わるものなのですね」
「グレーウルフが誰かを乗せて移動するのにそこそこ慣れてるってのもあるだろうな。んで、俺ら人間の感覚と違うところがあるとすれば……俺はあんまり経験ねぇけど、お前らは馬に乗ったりしてたろ」
イシュドの問いかけに、ガルフ以外の全員が頷いた。
「だろうな。俺らの中での騎乗はあれだが、ウルフ系モンスターに跨っての騎乗は話がクソ別だ。そこら辺がギャップなんだろうな」
「随分と、知っている様な口ぶりですわね。以前に戦った事があって?」
「ここ数年の詳しい記憶はねぇけど、それよりも前に……戦った記憶がチラッとだけあるな。つっても、今みてぇに説明出来んのは、うちの実家に仕えてる騎士の中に、ウルフ系のモンスターを従魔にしてる人がいるんだよ」
「っ……い、一応訊きますけど、あなたの実家に……従魔を率いる騎士たちの団、などはありませんわよね?」
恐る恐る……ミシェラは本当に恐る恐る尋ねた。
レグラ家が、自分の常識で測れる家ではないということは、夏休みの間にお邪魔した際に十分過ぎるほど理解した。
だが、従魔を持つ者たちの部隊まで存在するとなると、ある種の恐ろしさまで感じるようになる。
「? そんな部隊は聞いたことねぇな。従魔っていう相棒がいるのはそのウルフ系モンスターを従えてる人だけじゃねぇけど、多分そんな部隊はねぇと思うぞ」
「そ、そうですのね……それで、あなたはその騎士の方が戦う姿を見ていたと」
「それもあるし、実際に乗せてもらったこともあるからな」
「なっ!!!!!?????」
「「「「っ!!??」」」」
実際に乗せてもらった。
その言葉を聞いて驚いたのはミシェラだけではなく、フィリップやイブキたちも同様に驚きを隠せなかった。
「ひ、人の……従魔、なのでしょう?」
「おぅ」
「にもかかわらず、他人を……乗せますの?」
「あぁ~~~~、そこら辺は従魔の主や、従魔の性格によるとは思うけど、俺が乗せてもらったウルフ系モンスターは大人しいっつーか、基本的に誰が相手でも態度を変えない奴だったし、強い相手には理不尽な要求じゃなかったら応えるタイプなのかもな」
「あぁ……なるほど。そういう事でしたのね」
強い者からの頼みであれば応える。
それを聞いて、先程の驚きが嘘のように消えたミシェラ。
「それで、感覚が全然違うと、身を持って体感したのですわね」
「そういうこった。あいつらは周囲の木々すら足場にすっからな。そこに人間が……人型の何かに跨って行動してるとなりゃあ、出来ることが間違いなく増える」
どういった事が出来るのかは、敢えて口にしなかった。
(……本人は否定しますでしょうけど、やはりイシュド君は教師に向いていますね…………騎士団に所属したら、お金を払ってでも…………し、新人研修? を、レグラ家にお願いしたいですね)
敢えてイシュドが、ウルフ系モンスターに人型モンスターが跨ることで増える行動内容を教えなかったことにクリスティールは気付き、小さな笑みを浮かべながら未来のことについて少し考えた。
「他種族のモンスターが手を組めば厄介というのは解っていたが、完全に見誤っていたな!!」
「……同感ですわね」
レブトの言葉に、ミシェラは渋々といった表情ではあるが、現実から目を逸らすことはしなかった。
「キングが確定でいるか、それともメイジか……ワンチャン、ウィザードがいるかもな」
「魔法が得意にな上位種に進化すれば、知能も上がるってことだよね」
「知能が上がるっつーか…………俺の見立てだと、てめぇの弱点を理解してるからこそ、どうにかして生き延びようと考えた結果、割とまともな対応策を思い付くって感じだな」
「悪知恵が働く、ということですね」
「そうそう、そういう感じだぜ、イブキ」
(悪知恵ねぇ~~~~……人間のハイレベルな魔導職が考えた悪知恵ならともかく、ゴブリンのメイジやウィザードが考えた悪知恵なんざ、イシュドなら暴力であっさりぶち壊しそうだけどな)
事実、イシュドは過去に何度も暴力でモンスターの悪知恵をぶち壊してきた。
ただ……イシュドは今回、どうしようもないイレギュラーが接近しない限り、適度にしか討伐に参加しない。
(…………いやいやいや、さすがに無理無理無理、死ぬ死ぬ死ぬ。マジでキャパオーバーってやつよ)
イシュドが基本的に参加しないことを考えれば、誰かがモンスターが考える悪知恵に気付かなければならない。
そういうのに気付きそうな人物は誰だと考えた際、無意識の自画自賛で自分を思い浮かべたフィリップだったが、大乱戦の際に圧倒的な中衛を頼まれているため、どう頑張ってもそこまで手が回らない。
(……やっぱ、あいつに頼むしかないか」
数時間後の昼食時、フィリップはある人物に声を掛けた。




