第326話 それなら、話は別だ
「俺としては、ロブストさんたち以外の連中を疑ってるんすよ」
疑うリスト候補から完全には外せないものの、依頼を受けている最中に自分たちを狙うのは、アンジェーロ学園の者たちにとって、色んな意味でリスクが大きい。
「ぶっちゃけ、他の学園からは反発があったんじゃないっすか? なんであんな強いだけの蛮族なんかをわざわざ招待するんだって」
「なかった、とは言えないのう」
実際のところ、その話はアンジェーロ学園外からだけではなく、内側からも少々上がった。
「だろ。そんな連中からすれば、自分は認めてないって理由で殺すべきだ、なんてクソみてぇな考えを実行するかもしれないじゃないっすか。つっても、俺だけを狙うなら別に良いんすよ、別に」
本気の……殺し合いという場で格上の者と戦う時……数的にも振りとなれば、イシュド的には使いたくなくとも……バーサーカーソウルなどのスキルとはまた別の切り札を使用すれば、どうとでも出来なくはない。
だが、そのレベルの面子が集まれば、シドウとアリンダがいたとしても……全員守れるとは、限らない。
「けどなぁ……ダチに何かあれば、俺は疑わしい連中を全員殺さなきゃならねぇ」
「「っ!!!!!!」」
「…………」
先程の戦意と狂気がミックスされた圧とは異なり、刺す様な殺気を放つイシュド。
「今、たかが友人の為にそこまでするのは馬鹿だと思ったっすか? 考え方は人それぞれだ……否定する気はねぇ。でもな、そうなれば俺が死んでも疑わしきを全員殺す理由は、それで十分なんだよ」
街を、領地を出て……出会った知人、友人、親友。
誰かが理不尽で死ねば…………言葉では言い表せない狂気と憎悪が零れだす。
イシュドには、そうなる確信がある。
「後、リスクを背負うのは、あんたらも同じだろ。なぁ、ロブストさん」
「……エリヴェラの事だね」
「そうだ。あいつが侯爵家以上……いや、せめて伯爵家の生まれであれば、そこまで気にする必要もなかっただろうな。ただ、あいつの実家は男爵家だ。既に歴史に名を残すことが確定していたとしても、目障りに思う奴らはいるでしょう」
エリヴェラは、フィリップの様にセンスや才があるにもかかわらず、世の為人の為に使おうとせずダラダラ過ごしたい……なんて思うタイプではない。
寧ろ、全身全霊で世の為人の為、その聖剣を振るおうとしている。
まさに、聖騎士の鏡とも言える生き方を目指している。
本来であれば、その姿に感心し、そのまま道を外れることなく進んでくれと祈るだけ。
だが……貴族という、明確な権力や立場を持ってしまうが故に、愚か者は物事を自分に都合の良いように解釈し、判断してしまう。
「まぁ、イレギュラーが起きてあいつが死にそうになったら、それはそれで動くぜ。あいつはこの先が楽しみな人間の一人だからな」
「ふふ、随分と彼を気に入ってくれたようだね」
「あいつの事が気に入らない連中は、自分の弱さに対して良い訳しか出来ない連中だけだろ。クソだりぃなと思ったヨセフでさえ、エリヴェラの事を認めてたしな」
自身の弱さを、足りない部分を認められない人間は、否が応でも突き付けられる……自分が頑張っていない、胡坐をかいているだけの現実を。
エリヴェラの実家は男爵家であり、一応貴族ではある。
だが……エリヴェラにとって、途中まで師と言える人物はいても、現在のエリヴェラに対し、教えられる人物はいなかった。
努力とは、正しい環境で、正しい方向に進めば、結果として現れる。
エリヴェラは正しい方向に進もうという心は持っていた。
だが、正しく努力出来る環境が整っていたかと言えば……そうではない。
しかし、それでもエリヴェラは現時点で結果を出してしまった。
「狂戦士のくせに何を怖気づいてんだって思うっすか? さっきも言った通り、俺だけが狙われるなら、まだ良いっすよ。その後実家がどういう反応をするかは知らないっすけどね。ただ……ダチの命が関わってるなら、話は別だ」
何が来ようが、自慢の暴力で全て弾き返して叩き潰してやる……とは言わない。
彼は自身の戦闘力に対し、確かな実力を有している。
それでも、多くの強者たちの強さを身を持って知っているからこそ……慢心もない。
「なぁ、ロブストさん。俺は……何か間違った事を言ってるか?」
「……ふっふっふ、はっはっはっはっはっはっは!!!!!!! いやはや、流石噂以上の狂戦士といったところか。儂を前にして、ここまで物怖じず自身の考えを口にするとは……バトレア王国の未来は明るいのう」
「ロブストさん、俺は別に卒業後、騎士になるつもりはないんで、別に明るいとは限らないっすよ」
「のっほっほ! そうじゃったか。確かに、お主が騎士になれば上司と喧嘩が耐えなそうじゃのう……して、その件だが、勿論儂の方でしっかりと手を回させてもらう」
「そうっすか…………俺は、あなたの何を担保に、その言葉を信じれば良い。この学園の存在っすか? それとも、あなたの親族か……それとも命か」
「「ッ!!!!」」
先程までの言動に関しては、圧に押されていたからというのもあるが、まだ理由が理由であるため感情が昂ることはなかった。
だが、再度……無視出来ない言動が耳に入り、男女二人はアイテムバッグに収納している武器に手を伸ばす衝動を必死に抑える。
「クソ生意気でクソ失礼だと思うっすか? そう思われて結構ですよ。貴族が……
さらに言えば、大人が多くの意味で汚い、ズルいなんてのは世界の常識でしょう」
「のっほっほ、それは確かに最もな常識じゃのう…………ひとまず、これを担保にしようか」
そう言いながら、ロブストはアイテムリングの中から、五つのアイテムを取り出した。
「今回の討伐依頼が終わるまで、是非……君に預かってもらっておこう」
「っ……なるほど。こいつは、担保になりそうっすね」
ロブストがアイテムリングから取り出したアイテムは、全て……剣である。
当然、ただの剣ではなく、全てが聖剣。
五つの内、二つがランク七の聖剣であり、もう三つが……ランク八の、聖剣。
文字通り、ロブストが持つ最強の武器であり、相棒たちである。




