第319話 本当に解らない
「はっはっは! それは俺も気になるな」
イシュドの「お前らぶっちゃけ誰が気になってんだ?」発言に対し、教師であるクルトも興味を示した。
「っ……い、イシュド。その、気になるというのは……恋愛的な意味なのか?」
「それ以外に何があんだよ」
関りが深いレグラ家の騎士や騎士見習いたちであればもっと下品な意味で尋ねるものの、これまで見てきたヨセフたちの反応から、さすがにそういう話は出来ないだろうなと、イシュドにしては意外とまともな判断をした。
「あっ、あれか。もしかして、三人とも婚約者がいる感じが?」
「いや、まだそういった相手はいないが」
意外にも、ヨセフやパオロにも婚約者はいなかった。
「良いね。んじゃあ、遠慮なく恋バナ出来るってやつだな」
「こ、恋バナ、か……」
「むぅ…………」
貴族令息たちの中でも堅い方であるヨセフやパオロは、こういった話をするのは初めての経験であり、どう喋れば良いのか解らなかった。
「っと、あれか。やっぱ言い出しっぺの俺が先に言わないとフェアじゃねぇか」
「イシュド君の話は、確かに気になるね」
「そうっすか? つっても、恋愛的な意味でのってなると……恋愛……恋愛…………
ん~~~~、恋愛的な意味だと、レオナになるっすかね」
「ほぅ、そうなのか」
シドウ的には、妹であるイブキが変わらずイシュドの中でトップだと思っていたため、表情にこそ出ていないが、ほんの少し動揺していた。
「一番気が……波長? が合いそうな気がするんですよ」
非常に感覚的な理由ではあるが、レオナの性格などを知っているヨセフたちは、何の疑問を抱くことなく「確かに」と呟きながら頷いた。
「ほ~~~ん? 俺はてっきりイブキだと思ってたんだけどな」
「そうだね。僕も、イシュドはイブキの事を一番気に入ってる? って思ってた」
「ん~~~~……確かに恋愛的な意味ではレオナって言ったけど、未来を共にって考えると、イブキではあるな」
恋愛的な意味ではレオナだが、家庭的な意味ではイブキだと……見方によっては非難の声が聞こえてきそうな内容ではあるが、それを聞いてシドウはほっと一安心した。
「なるほどぉ~~。けどよ、それって二股ってやつになるんじゃねぇの?」
「別に実際に付き合ってる訳じゃねぇんだ。語るぐらい、構わねぇだろ」
「それもそうか」
「そうだよ。んで、お前らはどうなんだよ」
しっかりと、言い出しっぺであるイシュドは答えた。
フィリップ辺りであれば、聞きたい話は聞けたのだから、のらりくらりと躱して自分の情報は渡さなそうだが……堅いヨセフたちだからこそ、そういった真似はしない。
「俺は…………ん~~~~~~~~~」
一年ということもあり、先陣を切ろうとしたエリヴェラだが、これといった人物は定まっていなかった。
「えっと………………クリスティールさん、かな」
「へぇ~~、会長パイセンか。どんなところが良いんだ?」
「なんて言うか……落ち着きのある大人の女性って感じが、良いなと思って」
適当に言葉を並べているわけではなく、本気で立場などを抜きにして考えた結果、エリヴェラがもし恋愛的な意味で相手を選ぼうと思ったのは、クリスティールだった。
「……エリヴェラは、歳上の女が好きなのか?」
「歳上……っていうわけじゃないかな。どちらかと言うと、落ち着きがあって……ほ、包容力って言うのかな。そういうのがある人が、好み……なのかもしれない」
ここまで赤裸々に話したのは初めてであり、最後の方は若干声が小さくなってしまったエリヴェラ。
何はともあれ、エリヴェラはしっかりと選んだ理由も話した。
後輩がここまで話したにもかかわらず、同級生と先輩が逃げるというのはあり得ない。
「私は………………ミシェラさん、だろうか」
「おっ、ヨセフも巨乳派か?」
「そ、そういう理由ではない!!!!!!」
イシュドの言葉に、思わず強く反応してしまったヨセフ。
「そうなんか?」
「あぁ、そうだ」
全くもってそういう眼で見れないイシュドにとって、そこが理由に含まれていないというのに理解は出来ないものの、ひとまずこれ以上からかうのは止めて、理由を聞くことにした。
「……感覚的な話ではあるが、もし自分の隣にいるのであればと考えると……彼女の顔が浮かんだんだ」
「ほぅほぅ……確かに感覚的だが、納得出来る理由ではあるかな」
どこが良いかという理由を付けるとして、見た目的な点を上げれば、ミシェラ・マクセランはあれもこれもと多くの理由が挙げられる。
だからこそ、容姿に関しては前提条件として拒否する部分がない……といった感覚を、イシュドは一応理解は出来る。
(前世の基準で見れば十分……いや、今世の基準で考えても、面は十分トップクラスだし、そこら辺に関して特に理由はねぇか)
とはいえ、イシュドはミシェラはどうなんだと尋ねられれば、速攻であり得ないと答える自信がある。
「…………なぁ、ヨセフ君さ」
「よ、ヨセフ君?」
「それって、一目惚れに近いんじゃねぇのか?」
「っ!!!!」
変な呼び方に戸惑うヨセフに、フィリップは遠慮なく直球で思った事を尋ねた。
「そうだね。俺も同じ事を思ったかな」
「ぼ、僕も……もしかしたら、そうなのかなって思いました」
他の一年たちも同じ感想だった。
「良い面はしてる訳だし、そこに感覚的なマッチ? があれば、別に珍しくはねぇだろうな」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。その、確定で話を進めないでほしいのだが」
「だってよ、一番傍にいるのがイメージ出来るんだろ。それってつまり、そういう事なんじゃねぇの」
やっぱり巨乳が好みかと、お前もおっぱい星人だったかと口にしたときとは違い、真剣な顔で言葉を返されたため、ヨセフは思わず言葉を詰まらせる。
「……………………正直なところ、良く解らないといった感覚だ」
逃げた、という訳ではなく、平民たちと違って恋愛をする機会が極端に少ないからこそ、ヨセフは本当に良く解らなかった。




