第315話 連れ回せば良い
「……レオナさん。ガルフは、解ります。イシュドも………………強さという点に関しては、一応理解出来ます。ですが、何故そこにフィリップが入ってきますの?」
ミシェラとしては、貴族の令嬢であっても、候補の中にガルフが入ってくるのは、血統という要素を除けば十分理解出来る。
イシュドに関しても……血統に関しては、蛮族だの野蛮だのどうたらこうたら言われているが、それでも辺境伯の血筋。
加えて、強さは学生の中でもトップクラスどころか、そこら辺の騎士よりも圧倒的に強い実力を有している。
なので、一応理解は出来る。
ただ……ミシェラから見て、血統といった部分は理解出来るものの、その他の要素が全く理解出来ない男がいる。
それが、フィリップである。
「そんなに不思議かい? 私が割と悪くない強さを持ってると思うけどね」
「…………私も、あの男が弱いとは思っていません」
その言葉に嘘はなく、今のミシェラからすればフィリップという男は、口が裂けても弱いとは言えない。
相変わらず普段から模擬戦を行うことはあるが、勝率は今のところフィリップの方が割と上であり、その事実から結果を少し持ったとしても彼を弱いとは言えない。
(いずれは私が戦績を上回るけれど、確かにフィリップは弱くない……強いと言っても、良いでしょう。ですけれど……)
イシュド程、ノット紳士な部分を搔き消せるほどの強さはない、というのがミシェラから見た評価であった。
「じゃあ良いじゃん」
「っ、ですが、あの男はちゃらんぽらんのめんどくさがり屋ですのよ」
「だろうね。クルト先生と同じ感じがするしね。でも、そういう人って案外巻き込んじゃぇば、後はなるようになるっていうか、やる事はやってくれるんだよ」
巻き込んでしまえばこちらのもの、という無茶苦茶な考えを口にするレオナに対し、親友であるステラは苦笑いを浮かべるしかなかった。
「あぁいうのは、とっ捕まえて無理やり振り回せば、案外楽しく過ごせるタイプね」
「「…………」」
ミシェラとしては、あの男は本当に良くないですよと伝えたかった。
イブキとしても、フィリップは色々と話せはするものの、それでも友人止まりになるタイプの男性と認識していた。
ただ、レオナの考えを聞いて、仮にレオナとそういう関係になったフィリップに……ほんの少し同情してしまった。
「そっちは良い男たちが揃ってて羨ましいね~~~」
「……今回は両学園の生徒だけに絞ってしまいましたけれど、アンジェーロ学園以外の学園に在籍している学生の中に、良き男性はいらっしゃらないので?」
「ん~~~~~~~~…………世間一般? 的な眼から見れば、良い男は揃ってるんでしょうね。でも、うちからすれば面倒というか、頭堅い、思考が堅い。そんなつまらない連中が殆どでね」
「な、なるほど」
それの何が悪いのかとツッコミたいところではあるが、ミシェラは敢えてツッコまず、話の続きを待った。
「うちの好みには合わないんだよね~~~。かといって、そういう枠から外れてる奴らも何人かいるけど、そっちのイシュドみたいに良い感じにぶっ壊れてるっていうか、突き抜けてる? 感じの奴はいないのよ」
「確かに、あの男はぶっ壊れて突き抜けてますわね」
良い意味なのか、悪い意味でなのかは、敢えて明言しなかった。
「でしょ。だから、イシュドはありなんだよね。それで言うと、ガルフも似た様な感じかな。良い意味で向上心がズバ抜けて高い感じがする」
「かもしれませんね」
「ガルフは、ようやく自身の実力に対して自信が追い付いてきた……それでも、目指す頂きがすぐ横にあるからこそ、慢心せず前に進もうとしてるのかと」
「なるほどね~~~。はは、ますます良いじゃん。だって、普通はあのびっくり狂戦士の強さを目の当たりにして、追いつこうなんて思えないでしょ」
レオナやステラは三年生であり、もう少しで三次職への転職が見えてくるからこそ、イシュドの強さを見ても心が折れることは全くなかった。
だが、同学年の者たちからすれば、実力的には本当の意味で雲の上の存在だと感じ、心がバキバキの粉々に砕け散ってもおかしくない。
「……イシュドに、本気で追いつこうと思ってる者は、確かにいないかもしれませんね」
「でしょ。そこら辺も含めて、割とありだと思うんだよね~~~……どうせなら、卒業したら色々と蹴ってそっちに行ってみるのもありかもね~~」
「「「っ!!!!????」」」
レオナの発言に、主にアリンダとローザ、ステラの三人が紅茶や菓子によってむせた。
「ゴホっ、ゴホっ! れ、レオナさん? それは、その……どういった意味で?」
「一応騎士団とかの内定とか決まってますけど、別に憧れとかなくて、実家にも民を守りに行くために別の国に行く! って言えば割と納得してくれるかなって」
「…………」
半分冗談……しかし、もう半分は本気で言っているのが解るからこそ、アリンダはポカーンとした状態が続いてしまった。
「れ、レオナ先輩。それは、多くの方々が、許しを出さないかと」
「えぇ~~~、なんでさ~~~~~。別に良いじゃん、どこに居ても民を守るってことには変わりないんだしさ」
ニヤニヤと笑いながらローザの言葉に返すレオナ。
ガサツで乱暴に思われることが多いレオナだが、自分の意思を通すことになると、普段以上に頭が回るようになる。
「まっ、私の話はこれぐらいにして、ステラはどうなのよ」
「私? 私は……ん~~~~…………イブキさんと同じで、イシュドとガルフになるかな」
本当の意味で今のところ気になっている人物はイシュドであるものの、本当にイシュドだけを口にしてしまうと……それはそれで面倒な予感に発展しかねない。
加えて、ガルフが気になると言えば気になる男というのは、決して嘘ではなかった。
「理由に関しては、イブキさんやレオナと似た様な感じかな」
ある程度自分の立場を理解しているからこそ、ステラはこの場では多くを語らなかった。




