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転生者、有名な辺境貴族の元に転生。筋肉こそ、力こそ正義な一家に生まれた良い意味な異端児……三世代ぶりに学園に放り込まれる。  作者: Gai


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第218話 あれと比べれば

「ブルルルゥゥゥウウウウウアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!!!!!!!!」


「「「「っ!!!!!?????」」」」


放たれた突然の咆哮。


それは……イブキやアドレアスにとっては、チャンスとも取れる動きだった。


溜まりに溜まったストレスを声に出して発散する。

特に狙った訳ではない怒号…………本来であれば、吼えている間に斬撃を、刺突を叩き込める筈だった。


ただ、計算外の事態が起きた。


それは、ミノタウロスが今、この瞬間に主の咆哮というスキルを得てしまったこと。


モンスターであれば……一定以上の重さを持つ武器を扱う前衛職であれば、ウォークライといった似た様なスキルを会得でき、更にリーダー経験を積み重ねれば咆哮という上位スキルを会得出来る。


ミノタウロスが会得した主の咆哮とは、その更に上位スキル。

ほんの短期間の間とはいえ、ミノタウロスは他種族のモンスターを従えて行動し、群れの長だった。


その経験が……フィリップたちにとって、最悪のタイミングで活きてしまった。


(ま、不味い!!!!!!!)


ウォークライ、咆哮、主の咆哮にはそれぞれ敵対者を怯ませる、精神面への攻撃を行う。

しかし、一定以上の精神力を持つ者には効かず、ある程度距離を取っていなければ、逆に大きな隙を晒すことになる。


だが、ミノタウロスの放った主の咆哮は……四人全員、怯ませることに成功した。


「ッ!!!!!!!!!!!」


そして真っ先に狙われたのは……メインアタッカーであるイブキだった。

ミノタウロスからすれば、四人とも全員ウザい、鬱陶しい。

纏めてぶっ殺せるならそれが一番なのだが、本能が囁く。まずは、あのメスを殺せと。


(う、動け動け動け、動きやがれ!!!!!!!)


(友人が、仲間が死ぬかもしれないと、いうのにっ!!!!!!!!!!!)


意識の問題ではない。

二人の闘志は未だに折れていない。


だが、主の咆哮を発動しながら放たれた怒号による破壊力が、彼らの精神力を上回り、怯ませた。


(せめて、せめて、脚を、動かさなければ!!!!)


そして真っ先に狙われたイブキも闘志は折れていない。

ただ、今自分が行わなければならないのは相殺やカウンター、受け流しでもなく……全力で振り下ろされる雷大斬から逃げること。


ぎりぎり躱せたところで、地面に突き刺さった影響で飛び散る石などのせいで、無傷とはいかない。

それでも、直撃だけは避けなければならない。


何故なら……振り下ろされる雷斧は、間違いなくイブキを一刀両断、一撃粉砕してしまう。


「さ、せるかあああああああああッ!!!!!!!!!!!」


そんな中、唯一……ただ一人、ガルフだけが動けた。


主の咆哮を発動した怒号の影響を受けなかったのか?

結果は、ノーである。

ガルフは間違いなくミノタウロスの放った怒号を受け、間違いなく怯んだ。


だが……即座に思い出したことがあった。


それは、レグラ家に滞在している際、個人的に稽古を付けてほしいと頼み込んだレグラ家の長男であり、次期当主のアレックス。


彼はガルフのイシュドに並びたい、追いつきたいという意を汲み取り、出来る限りのことはした。

その中の一つに……蟻と暴獣の差を教えるという内容があった。


(あれに、比べればッ!!!!!!)


ニコニコ笑顔が寧ろ恐ろしさを与えるアレックス。

普段は気の良い兄ちゃんではあるが、そのニコニコ笑顔にバーサーカーとしての狂気が混ざれば……二次職に転職している戦闘職の者であっても、ジョボぉ……ではなく、ジョバババババババババババババババババと、勢い良く漏らしてしまう。


アレックスは実際に襲い掛かることはなかったが、本気のプレッシャーを与え……当然、ガルフはなんとか失神するのだけは耐えられたが、生まれたての小鹿の様に震え……ジョバババババババババババババババ!!!!!! と、思いっきり零してしまった。


事前にアレックスがあれこれ用意していたため、その失態がイシュドにバレることはなかった。


ただ強烈な殺気を向けられ、明確な死をイメージしてしまうのとはまた違う。

逃げ場のない空間に、生物として絶対に勝てないと……死ぬのではなく勝てない、このまま食われると……そんな真の意味で敗北とも思えてしまうプレッシャーが、ミノタウロスの怒号を上回った。


(ガード、するしかない!!!!!!!)


欲を言えば、全力で振り下ろされる雷斧の側面にドロップキックをかまし、軌道を逸らせればよかった。


遠距離攻撃という方法もあるにはあったが、本能がそれでは無意味だと悟った。


結果、ガルフが取った行動はイブキの前に入り、振り下ろされる雷斧をガードすること。


(無理だ、ガルフッ!!!!!!!!!!!!!!!!!)


叫んだ、心の奥底から叫んだ。

このままでは、無理だと。ぶっ倒れるほどの闘気量を纏ったとしても……振り下ろされた雷斧に、ガルフが叩き潰されるイメージしか湧かない。


それは……ガルフも同じだった。

動けた、それは良かった。

イブキに向けて振り下ろされる雷斧をガードする……これもイブキを助けるといった行動を考えれば、最善の選択肢と言えた。

ただ…………最善が、確実に成功するとイコールで結びつくとは限らない。


(守るんだ、守るんだ。絶対に…………絶対にッ!!!!!!!!!!)


一瞬、一瞬だけ……脳裏に浮かんだ。

もし……この場にイシュドがいればと。


あの人がいれば、どんな状況でもその圧倒的な身体能力で友人を、仲間を助けることが出来た。


それが、ガルフにとって後悔ではなく、着火剤となった。


「っ!!!!!!!???????」


ガルフのロングソードと、ミノタウロスの雷斧が激突した。

その衝撃は、大気を震わせる。


離れた場所にいる冒険者たちの耳にも、その衝撃音が届いた。

だが……地面には亀裂が入った、凹んだ………………それでも臓器が零れ墜ち、鮮血が舞い散ることはなかった。


(っ、あれは……護身剛気!!!!????)


アドレアスの視線の先で、ガルフが身に纏っていた力は……イシュドがガルフに感じていた可能性だった。

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