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第174話 前に進めるとは限らない

「そう簡単に見つかんねぇもんだな」


オーガとリザードマンの融合体を探索し始めてから四日が経過。


一般的には探索した翌日は一日は休憩を挟んだ方が良いのだが、フィリップたちは普段の学園生活やレグラ家で過ごした日々の影響もあって、連日探索を行っても特に重い疲れが残ることはなかった。


強敵との戦闘もないため、五日目も変わらず探索を行っている。


ただ……疲れはないものの、多少の焦りは生まれていた。


「そうですわね。痕跡らしい痕跡もありませんし……」


「……イシュド、野性の勘的なもので例の個体の居場所を予想出来ませんの?」


「お前、俺をなんだと思ってんだ。獣人じゃねぇんだから、んな事出来るわけねぇだろ」


さすがの異常な狂戦士イシュドであっても、出来る事と出来ない事がある。


「ですが、このまま何も収穫を得られないというのは駄目ですわ」


「………………つかさ、今も思ったんだけどよ、例の個体ってまだこの辺に生息してんのか?」


冒険者たちによって討伐された、という情報はまだ耳に入っていない。


だが、イシュドたちが到着してから遭遇したという情報も……耳に入っていなかった。


「あぁ~~~、なるほど。もしかしたら、既にこの辺りの連中とは戦っても得られるものがない、なんて考えに至ってる可能性があるかもしれないってことか」


「超個人的な考えだけどな」


「いや、全然あり得ないことじゃないと思うぞ」


イシュドからすれば、前世でプレイしていたゲームと同じく、強くなれば自動的に同レベルの者たちがいるランク帯でプレイする……そういった思考がモンスターの中に生まれたと考えれば、素直に納得出来る。


「ふ、二人とも何をそんなへらへらと笑っていますの!!!」


二人の態度に怒りを覚えるミシェラ。

対してイシュドは「そんな大声を出したらモンスターが寄ってくるだろ」とはツッコまず、ただ冷静に自分の考えを伝えた。


「デカパイ、この前王様のくせに王様らしくねぇモンスターと出会ったばかりだろ。それを考えれば、例の個体がフィリップの言う様な考えに至っても別におかしくねぇだろ」


「その理屈は解ってますわ!! ただ、仮にそうだとすればもっと焦るべきですわ!!!!!」


今回、五人はただ旅行先で面白い情報を得たため、詳しい内容を探ろうとしているのではなく、学園に届けられた依頼を受けて調査に来ている。


調査の結果、得られた内容によって五人に与えられる評価が変わる。


ミシェラからすれば、当然目指す評価は満点。

マックスの点数を目指さなければ、高得点を得られないというのは、これまでの人生でよ~~~く理解していた。


だからこそ、二人のへらへらとした態度に怒りを覚えずにはいられなかった。


「落ち着けってのデカパイ。ヒステリックになるにはまだ若けぇだろ」


「っ!!!!!!!!!」


思わず双剣の柄に手を伸ばしてしまったミシェラ。

しかし、ここでイシュドと争ったところで問題解決に繋がらないことは明白であり、それが解らないほど頭の中が怒りで一杯ではなかった。


「物事が上手くいかねぇ時に焦って手足をジタバタ動かしたところで、前に進めるとは限らねぇ。心に余裕を持つのも大事なんだよ」


「ぐっ!!! っ…………」


それらしい言葉をぶつけられ、直ぐに反論する言葉が出てこない。


「なるほど~~。確かに、焦ってジタバタして物事が上手く進むなら、一生ジタバタしてる奴がそれぞれの分野で一番になってるよな」


「反省も大事っていうこと?」


「心に余裕を持つ、ですか……そうですね。少し焦りの気持ちが大きくなっていたかもしれません」


フィリップはもとより基本的にイシュドの味方であり、ガルフも基本的にイシュド派の人間。


味方だと思っていたイブキがイシュドの考えに納得してしまい、ますます反論出来る空気ではなくなる。


「……あ、あなたはそうやって、生きてきた、という事ですのね」


「おぅ。俺だって全部が全部上手くやれてきた訳じゃねぇからな。質より量派ではあるけど、質軽視してる訳じゃねぇぞ」


それは少し話がズレてないか? とツッコミたいところだったが、一つ深呼吸をし……多分その通りなのだろうと、イシュドの考えをひとまず受け入れた。


「…………いきなり大きな声を出して悪かったですわ」


「解りゃ良いんだよ。別にそれでモンスターが寄ってくんのは良いけど、デカパイ的にヒステリックは直した方が良いぜ? 将来、嫁の貰い手がなくなるぞ」


「~~~~~~~~~ッッッッッ!!!!!!!!!!!」


褒めたかった。

ミシェラはここで大声を出して怒鳴り散らかさなかった自分を褒めたい。


誰のせいだと思っている。

余計なお世話だ。

お前が思ってるよりモテてる。


色々と怒鳴り散らかしたい気持ちが爆発寸前になるも、なんとか栓にコルクをぶち込むことに成功。


拳を握る力が強まるも、無意味に血を流すことはなかった。


しかしその日の夕方、五人は内容的にあまり喜んではいけないのだが、ある冒険者パーティーが例の個体と遭遇して戦闘になり、これまでと同じく殺されることはなく……ただ向こうの気が済むまで戦い続け、結果的にボロ負けの敗北を体験。

そんな情報を耳にし、明日からも探索に力を入れようという気持ちが湧き上がる。



(……見られてる、か?)


探索七日目の昼過ぎ、イシュドはガルフとミシェラが数体のブラックウルフと戦っている間、自分たちの方向に視線が向けられていることに気付いた。


しかし、ガルフとミシェラが戦闘を終えると、直ぐに向けられた視線は薄れて消えた。


(俺らを殺るつもりはねぇのか? もしかして、実家に恨みでもある奴らが裏の連中でも雇ったか?)


その後も度々戦闘中に視線を感じるものの、視線の主がイシュドたちに襲い掛かってくることはなく……十日目の探索が終わった。

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