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転生者、有名な辺境貴族の元に転生。筋肉こそ、力こそ正義な一家に生まれた良い意味な異端児……三世代ぶりに学園に放り込まれる。  作者: Gai


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第168話 何を教えた

「戻ってきたみたいだな」


「あぁ~~、なるほど。戻ってくるのが遅かった理由はそれか」


ただ盗賊を討伐して戻ってくる。

それだけなら、時間が掛かっても一時間程度で戻ってこられる。

今のガルフたちにはそれだけの実力があった。


「よぅ、おかえり。面倒な戦いだったか?」


「いや……そんな事は、なかったよ」


「そうか」


盗賊団のアジトには、囚われていた女性冒険者たちがいた。

しかし、彼女たちが人質として扱われ、ガルフたちが被害を被ることはなかった。


「そういえばイシュド、盗賊団のアジトにあいつらが溜め込んでた物はどうするんだ?」


「フィリップ、それは今する話ではないのではなくて? というより、まずあなたはアジトの討伐に参加していなかったでしょう」


「いやいや、それは解ってるっての。けど、そういう話は先に済ませちまった方が良いだろ。なぁ、リーダー」


「……そこでリーダーって呼ぶってことは、フィリップは俺の選択に同意するってことで良いのか?」


「勿論。俺に決定権がないのなんて解り切ってるからな」


イシュドがガルフたち……冒険者達、商人たち、囚われていた女性冒険者たちに顔を向けると、全員が異論を口にすることなく頷いた。


「分かった。それじゃあ、盗賊たちが溜め込んでた物は、お前らで適当に分配してくれ。俺らはいらない」


「「「「「っ!!!???」」」」」


冒険者、囚われていた女性、商人。

全員が驚きを隠せなかった。


「ど、どうして…………い、いや。そういう訳にはいかないよ」


共にアジトへ乗り込んだリーダーの冒険者は、とてもイシュドの選択を素直に受け取れなかった。


「あんた達にも、そちらの女性にも金は必要だろう。こっちはこっちで良い経験を積むことが出来た。だから気にしないでもらって大丈夫なんで」


「そ、そうか……」


「んじゃ、一緒に最寄りの街まで行きましょう」


囚われていた女性は冒険者とはいえ、現在は非常に衰弱した状態であり、商人と護衛の冒険者たちにとっては完全にお荷物。


後で実は死んだという話を耳にするのは目覚めが悪くなってしまうため、イシュドたちは特に何かを貰うことなく最寄りの街まで送り届けた。


ただ……それでは商人や冒険者たちの気が済むわけがなく、礼としてその街でイシュドたちに夕食を奢った。



「んで、話ってなんだ」


既に就寝時間であるにもかかわらず、イシュドはミシェラとイブキに呼び出され、街のバーに訪れていた。


「あなた、ガルフに何を教えましたの」


「……もうちょい細かく話せ。お前が何を聞きたいのか解らん」


何を聞きたいのかは解らないが、やや心配な表情を浮かべるほど聞きたい事がある……ミシェラはそんな表情を浮かべていた。


「イシュド。ガルフは……アジトに居た盗賊と対峙した時、雄叫びを上げながら突っ込みました」


「ふ~~~ん。まだ、嫌な感覚が残ってて、それを払拭する為だろうな。俺も似た様な体験はあるぞ」


イシュドの場合、武者震い故にいつも以上に吼えながら戦ったことが何度かあった。


「ガルフは、一人で半分以上の盗賊を倒しましたのよ」


「振り切ろうとして戦った甲斐ある結果じゃねぇか。もしかして、二人ともガルフに無理させてしまったって思ってんのか? そりゃあいつにとって有難迷惑になるだろ。この先、人を殺す経験なんて何度も経験するだろ」


優しさだけで他者を守れるほど、世の中甘くない。


ガルフは確かに他者に優しいが、それが解ってない甘ちゃんではない……と、イシュドは捉えている。


「それは否定しませんわ。それに、まだそれはそこまで思うところはないわ。問題はその後……盗賊の一人が捉えていた女性を人質に取った時ですわ」


人質に使える人間がいるというのに、それを使わないという選択肢はあり得ない。


「お前らの表情から察するに、ガルフの奴が何とかして助けたってことか」


「……確かに、ガルフが助けましたわ。それはそうなのだけど……ガルフは、私たちに一切相談することなく、瞬時に落ちていた石を投げましたのよ」


「投げられた石は上手く盗賊が武器を持っていた手に当たり、武器を落しました」


「良いじゃねぇか。悪いところなんて、一つもなくねぇか?」


今のところ、イシュドから見てツッコむところは一つもなかった。


だが、二人からすればありありの状態であった。


「あるに決まってますわ!!! まず、何故小声で私たちに相談しなかったんですの!!!」


「仮にガルフ一人で助けるとしても、一人で突っ込むのは得策とは……」


「…………マスター、同じのをもう一杯」


「かしこまりました」


二人の意見を聞き終えるも、イシュドは特に表情を崩すことなくグラスに入っていたカクテルを呑み干し、同じ物を再度頼んだ。


「話を聞いてますの!!??」


「聞いてる聞いてる。ちゃんと聞いてるからバーでそんな大声出すなっての」


「っ…………」


既に多くの住民が寝床に入っているが、バーはいる客たちにとっては、まだまだこれから酒を堪能する時間。


当然、三人がいるバーにも他の客たちがいる。


「そういえば、いつだったか……ガルフから、そういう状況になったらどう動けば良いか質問されたっけな」


「それで、イシュドはどう答えたのですか」


「人質は……人質として形を成してるからこそ、意味がある存在」


イシュドの口から人質、その言葉が零れると同時に、他の客たちの意識が吸い寄せられるように次の言葉を待った。


「人質としての価値をなくしてしまったら、意味がない。だから、基本的にバカ共が人質の首や心臓に刃を添えたところで、死んだから無価値になるから動かせないんだよ」


盗賊たちは、今更誰かの命を奪うことに躊躇するような存在ではない。


だが……シリアルキラーの様な狂った存在でなければ、明確に次は自分が死ぬかもしれないという強烈な圧に耐え切れない。


残った盗賊は、人質という盾が無くなってしまった瞬間、死が確定する。

だからこそ動くべきだとガルフに教えた…………そんなイシュドの思考、考えが……全く理解出来ない程、二人は愚かではなかった。

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