第167話 本人が、そう捉えた
「ん? ありゃあ……盗賊、だな」
「降りますわよ」
商人を襲っている盗賊団を発見。
自身も姿を確認したミシェラは即判断。
俺がリーダーなんだが? と思いながらも、商人を護衛している冒険者たちが押されているため、ツッコむことなく地上へ降りた。
「ガルフ、いけるか」
「うん…………いける」
「っし」
本来であれば手助けが必要かと声を掛ける場面だが、敵対している相手がモンスターではなく盗賊であれば、話は別。
「っ!!?? んだてめぇらはっ!!!!!」
「答える義理はないに決まってるだろ」
いきなり現れた制服姿の乱入者たちに驚くも、冒険者たちからすれば……制服を着ている人物イコール、敵対者ではないという結びつきに即至り、寧ろ盗賊たちの混乱によって生まれた隙を上手く突いた。
(とりあえず一人は残しておくか)
「ホガっ、ァ……」
イシュドは慣れた動きで意識を刈った。
その後は二人ほど鉄拳を頭部に振り下ろし、頭蓋骨を陥没させ……そのまま脳を粉砕し、文字通り撲殺。
「はぁ、はぁ……あ、ありがとうございました」
「ウロロロロロロロロロロロロロロロロ」
冒険者のリーダーらしき青年が加勢に入ってくれたイシュドに感謝の言葉を伝えると同時に、別の位置で思いっきりガルフが今朝食べた朝食をリバースしていた。
「あぁ、どうも。今吐いてる奴のことは気にしないでください」
最初、イシュドの問いに対していけると答えたガルフ。
結果として二人の盗賊をロングソードで斬り裂き、斬殺することに成功したが、それでも直ぐにモンスターという別生物ではなく、同じ人間を殺したという何とも言葉にし辛い罪悪感に襲われ…………盛大に吐いてしまった。
「わ、分かったよ」
「んじゃ、ちょっと待っててくださいね」
「え」
「こいつからしっかりアジトの場所聞き出すんで」
「うごっ!!!!????」
先程まで意識を刈り取って寝かしていた盗賊の腹に蹴りを入れる。
「よ~~し。素直に吐くとは思ってねぇけど、アジトの場所を吐け」
「て、てめぇみたいなクっ!!!??? ~~~~~~~~っ!!!!!!」
「そういうのは良いから、ホラさっさと吐けっての」
「ア゛~~~~~~~っ!!!???」
指の爪を一つ……二つと、平然とした表情で剥がしていく。
「だ、誰がっ!!!!!!!!!」
「言っとくけど、指の爪を全部剥がし終えた後は、指の骨を折っていくから」
「っ、っ、っ!!!」
「あと、俺らポーション持ってるから、多分三周ぐらいは余裕で出来るから」
サラッとえげつないことを言い、四つ目の爪を剥ぐ。
「い、言う!!! 言うから、も、もぅ」
「オッケ~~~~。んじゃ、さっさと吐け。十秒以内に言い出さなかったら直ぐに剥ぐから」
七つ目の爪を剥がれたところで根を上げた盗賊。
そしてイシュドに宣告された通り、十秒以内に呼吸を整え、アジトの場所を口にした。
「い、言った、言っただろ! もう、これで」
「はい、ご苦労さ~~~ん」
「い、ぃ…………」
アジトの場所、アジトに残っている盗賊の人数を聞き出し終えた後、イシュドは直ぐに手刀で男の首を斬り落とした。
「さて、冒険者の方々、どうしますか? 自分たちと一緒に乗り込んで潰すのも良いですし、最寄りの街の冒険者ギルド報告するもありです」
「っ……」
リーダーの青年は悩んだ。
当然の事ながら、イシュドたちを入れても、まだアジトに残っている人数の方が多い。
加えて、先程の戦闘……自分たちだけでは非常に危うかった。
だが、目の前の学生服を着た青年は、一緒に乗り込むか否かと口にした。
(……学生さんに頼るのは情けない。ただ、折角のチャンスを逃すのは……それこそ情けない)
くだらないプライドは、もはやプライドと呼べない。
リーダーの青年は意を決して右手を前に出した。
「よろしく頼むよ」
「襲撃するってことっすね」
両リーダーが握手をしたことで、盗賊団のアジトを潰すことが決まった。
「それじゃあ、攻める人と守る人で別けましょうか」
当然ながら、盗賊団のアジトを攻めている間に、冒険者たちの護衛対象である商人を守らなければならない。
商人の男は学生服の男が猪突猛進タイプではないことにほっと一安心した。
「い、イシュド。僕、攻める方、やるから」
「攻める方やるって……ガルフ、お前さっき吐いたばっかりだろ」
「もう吐くものはないから、大丈夫」
「ふ~~~~~ん…………オッケー。んじゃ俺はこっちに残るから……イブキはとりあえず攻める方に入ってもらって良いか」
「分かりました」
イシュドを除いた面子の中で一番遠距離攻撃が出来、乱戦に慣れている。
後一人は誰にしようかと悩むも……フィリップは面倒なことをサボりたいタイプであり、ミシェラは盗賊という悪そのものをぶった斬りたいタイプ。
「デカパイ、よろしく頼むわ」
「あなたねぇ……初対面の方々がいる前で、その呼び方は止めなさい」
「模擬戦で一本取れたら考えてやるよ」
冒険者側のメンバーたちに別け終え、攻めチームは即座に出発。
「なぁ、ガルフの奴、また吐くんじゃねぇのか?」
先程の殺し合いの中で、ガルフは殺し合いが終わるまで吐くのを我慢出来た。
それだけでも十分ではある。
戦闘中に吐いてしまうなど、殺してくれと言ってる様なもの。
「まだ昼飯は食ってないから、本人が言った通り吐くものはないだろ」
「そうかもしんねぇけど……大丈夫か、あれ?」
「大丈夫なんじゃねぇの? 自分から攻める方をやりたいって言ったのは、今それを越える絶好の機会だと思ってるからだろ」
「な~ほど。誰かに強制されたんじゃなくて、本人がそう捉えての判断なら……まぁ、問題ねぇか」
「そういうこった。つか、人を殺す体験はいつか経験しかなきゃなんねぇ壁だ。早いうちに体験出来て寧ろ良かったって感じだろ」
商人と荷物が襲われないように待機している二人は、ガルフたち三人が戦闘に関して苦戦するとは、欠片も考えていなかった。