第154話 急所以外はバキバキのスパスパ
「戻って来た、な……」
「イシュド様、良き学園生活を」
「おぅ、気ぃ付けて帰ってくれ」
学園の正門前まで馬車で送ってもらい、一先ず使用していた寮の部屋へと向かう。
「ふ~~~ん? 一応、荒された形跡はねぇな」
寮部屋に置いていた物などが荒らされていない事を確認し、ホッと一安心のイシュド。
荒した人物がいれば、そいつを殴り潰せば済む話ではあるが、犯人を捜すのが非常に面倒である。
「……一人じゃやることねぇし、寝るか」
まだ時刻は昼手前であり、これから王都の有名料理店を巡ることも出来たが、なんとなくそんな気が起こらず、イシュドは寮部屋のベッドに寝転がり……そのまま昼寝した。
(……ん? 鍵音???)
部屋の鍵が開く音を耳にし、睡眠から引き戻されたイシュド。
誰かと多少警戒するも、冷静に考えれば基本的にカギを持ってるのは一人しか存在しない。
「ガルフか」
「久しぶり、って言っても最後に別れてからそんなに日数は経ってなかったね。というか、イシュドが昼寝って……なんか珍しいね」
「まぁそうだな。基本的に特訓して筋トレして昼飯食って特訓して……実戦がある人は日が暮れる手前まで実戦を繰り返してって感じだったもんな」
そんな生活は学園に入る前も変わっていなかったが、イシュドでも何となく気分が乗らないといった時はあり、その時は潔く昼寝をしたりして怠惰を貪っていた。
「寝るのは嫌いじゃねぇから。二度寝も同じく嫌いじゃねぇけど……もう体が朝食を食う前には起きるようになってるから、二度寝なんてする事まずねぇけど」
「う~~~~ん……確かに、二度寝は良いよね。ところで、僕たちが帰った後はどうしてたの?」
「どうもこうも、やる事はガルフたちが居た時と変わんねぇよ。試合をする相手が俺になって、あの坊ちゃんたちをボコり続けてただけだ」
当然ながら、一応試合形式で行っていた。
その為、思いっきり顎をぶん殴って粉砕骨折したり、腕や足を切断……することはなかった。
ただ、骨にヒビが入るのは当たり前。
切断とはいかずとも、三分の一ほど切れることは何度もあり、骨が顎や頭蓋骨以外の骨がバキッと折れることも何度もあった。
「…………アドレアス様や、ディムナさんを疑ってる訳じゃないんだけど、それって大丈夫なんだよね??」
「あぁ、特に問題ねぇだろ。ちゃんと治療はしてるし、飯も満腹になるまで食わせてるんだし」
「それなら……そう、なのかな?」
レグラ家では、本当に腹が一杯になるまで食事を用意してくれる。
フォークやナイフが勝手に動いてしまほど食欲が進み、夜食も同じく最近使い慣れてきた箸がよく進んでしまう。
(……いやいやいや、侯爵家と王族の息子なんだから…………けど、彼らの方から頼み込んで来たんだから、大丈夫なのか)
良い感じに思考が毒されてきているガルフ。
「どうする。ガルフも昼寝するか?」
「そう、だね……正直、がつり動いてご飯を食べたら、直ぐに眠くなるもんね」
「人間、そういうもんだ」
ガルフは制服の上着だけ脱ぎ、そのままベッドに転がった。
熱すぎず……良い暖かさを感じることもあり、ガルフも直ぐにシャットアウト。
「? …………ガルフ、起きたか?」
「う、うん。起きた。もしかして、お客さんかな」
「だな。けど、あんまり野郎の知り合いなんざ、フィリップぐらいしか思いつかねぇんだけど……このノックの感じ、絶対フィリップじゃねぇよな」
いったい誰が自分たちの部屋のドアをノックしているのか。
開けるまでに浮かんだ顔は、クリスティールと同じく生徒会に所属している二人の男子学生。
「っ、遅いですわ!! 学園に戻ってきたら、まずは一声かけるべきでしょう!!!!」
「…………んだよ、デカパイかよ」
生徒会に所属してる二人の男子学生がいても、それはそれで面倒事の予感しかしないものだが、目の前にぶるんっ!! と揺れる万乳を持つミシェラがいても、それはそれで面倒であった。
「なんですの、その顔は!!!!」
「そんな顔にもなるに決まってるだろバカたれ。俺とガルフは気持ち良く昼寝してたんだよ」
「もう夕方ですわよ!!!!!」
「別に良いじゃねぇか。もう数時間寝たら体動かし、飯食って風呂入ったら寝るつもりだったのによ」
「あら、イシュド君にしては珍しい生活内容ですね」
追加で現れたのはクリスティール……と、来る途中でバッタリ出会ったイブキだった。
「会長パイセンもか。って、イブキもか。いったい何のよ…………つか、こっちは野郎の学生寮だろう。基本的に女の学生は入ってこれねぇんじゃねぇのか?」
「そこは生徒会長権限で」
「…………んでそんなところで使うんだよ」
ぶつくさと文句を言うイシュドだが、来客が予想が合いの人物だったこともあり、すっかり目が覚めてしまい、このままもう数時間寝ようとは思えなかった。
それは同じく昼寝していたガルフたちも同じだった。
「ったく……飯でも奢ってくれるんか?」
「えぇ、勿論です。では、早速いきましょう。っと、どうせならフィリップも連れて行きましょう」
まさかの元々クリスティールはイシュドたちに夕食を奢るつもりであり、これまた予想外の展開。
(マジか……まっ、先輩が奢ってくれるなら、断らずにご馳走になるのが後輩だよな~~~~)
前世も含めて対して先輩後輩の関係を身に染みて解ってないものの、話を聞いていたガルフも夕食を奢って貰えるとなれば、これ以上ケツをベッドにくっ付けてられない。
「んじゃ、着替えっから」
速攻でしっかりと制服に着替えた後、フィリップがいる部屋へと移動。
「フィリップ! いるのでしょう!!!」
(こいつ……フィリップ以外の寮生がいるの忘れてんじゃねぇのか?)
翌日からは再び授業が始まる。
それを考えればフィリップが部屋にいる可能性は高いが、同時に同じ寮部屋の生徒がいても全くおかしくない。
「ったく、なんなんだよ。人が気持ち良く寝てたってのによ~~~」
扉を開けたフィリップは大きな欠伸をし、とても眠そうな顔をしていた。
ここから先に結論を説明しなければ、万乳がぶるんぶるんと揺れるのと同時に、甲高い声がキンキン響きそうなため、イシュドはまず結論を伝えた。
「フィリップ、会長パイセンとデカパイが美味い飯奢ってくれるってよ」
「っ!!!???」
「……マジかよ。しゃあねな~~~。制服に着替えるから、ちょっと待っててくれ」
聞いてない!!!! と言いたげな顔をするミシェラを無視し、一瞬で眠気が冷めたフィリップは光の速さで着替えを終えて出てきた。