第145話 見た目から漂う強さ
「そういえばイシュドはさ、あの三人の中で誰を一番気に入ってるんだい」
夕方まで何度も何度もボロ雑巾にされた後、腹八分目……を少し越えるぐらい食べて食べてエネルギーを補給。
そしてまた夜まで何度も何度もボロ頭巾にされ、夜の訓練が終わった後に……二人はイシュドが作った夜食をもりもり食べていた。
「あの三人っつーと、デカパイとイブキと会長パイセンのことか?」
「勿論その三人だよ。いやぁ~~~、この餃子っていう料理美味しいね!!」
イシュドの問いに答えながら、アドレアスは口の中がニンニク臭くなるのを全く気にせず、餃子と炊き立てご飯を同時に食べていた。
「もしかしなくても異性的な意味でか」
「勿論だよ」
「なんか前にも話した気がするが、特にあれこれ思うことはねぇって言うか、正味な話、面倒事しか寄ってくる物件だろ」
物凄く失礼な言い方ではあるが、イシュドからすればそういった対象である。
「……イシュド。俺もあまり口が上手い方ではないが、その言い方はさすがに失礼が過ぎるのではないか」
「狂戦士にあれこれ求められてもって話だ。んで、ディムナ。米のおかわりはいるか?」
「あぁ、貰おう」
クールなディムナも口内がニンニク臭くなることなど一切気にせず、イシュドが作った餃子を堪能していた。
「強いて言えばで構わないよ」
「強いて、ねぇ…………ってなると、イブキか?」
強いて言えばの回答に、二人はやはりという顔を浮かべた。
「予想はしてたけど、やっぱりイブキさんなんだね。彼女より前から付き合いがあるミシェラさんの事はあまり興味はないのかい」
「寧ろなんでそういう意味でデカパイに興味があると思うんだよ。デカパイだぞデカパイ」
「「…………」」
性格が合わないあの一々口うるさい女だぞ……的な事を言いたいのだと解らなくはない。
しかし、デカパイデカパイと連呼されては、会話内容が上手く入ってこないのも致し方なかった。
「抱くって意味なら全然ありだけどよ、そういう関係になるってんなら絶対に願い下げだ」
「向こうから告白をしてきてもかい」
「…………アドレアス、今日俺にボコボコにされ過ぎて頭がおかしくなったか?」
イシュドは本気で……本気でアドレアスの体調、精神状態を心配するような顔を浮かべる。
(あっ、これは…………本当に、ないみたいだね)
照れ隠しで言っている訳ではないと、直ぐに把握。
アドレアスからすれば、ミシェラという女性は多くの意味で悪くない、寧ろ優秀なイメージがある。
だが、イシュドからすれば、そもそもの出会いが出会いだったという事もあり、ありかもしれないという線上にすら浮かばない。
「けどまぁ、人によっちゃあ、ミシェラみたいな女がタイプって場合もあるだろうな」
「豊満、だからか?」
物凄く、超慎重にミシェラの身体的特徴を言葉にしたディムナ。
「それはある。ただ、夫婦になってから上手くいくか否かって、その元々の関係的な部分が関わってくると思うんだよ」
「「……?」」
イシュドの個人的な考えに対し、二人は軽く首を傾げる。
「いや、ほら、だからなぁ……って、そうか。俺が言うのもあれだが、王族貴族じゃあ感覚が違うか」
「それはどういった差、なのかな」
「一般的な家庭と比べたら、お前らは多分夫婦で顔を合わせる機会が少なくなるだろ。けど、一般的な家庭はそうじゃないんだよ」
世間一般的な貴族の令息と比べて、イシュドは平民の友人や知人が非常に多い。
「俺個人の意見ではあるけど、元々友達に近い関係の男女の方が、結婚した後も上手くいくと思うんだよ」
「友達の様な関係か。もう少し深く訊いても良いかな」
「深く? 深くっつわれてもな……ほら、ダチって大切だろ。そりゃ恋人も嫁も大事な存在ではあるんだろうけど、大切に思う期間が早くて長いほど、より大事に出来るんじゃねぇかと思ってな」
「なる、ほど………………」
イシュドとしてはなんとなく自分の考えを語っただけなのだが、アドレアスは深く考え始めた。
「? なぁ、アドレアスの奴、随分と悩んでやがるな」
「みたいだな……王族ではあるが、アドレアスは基本的に王位を継ぐ可能性は限りなく低い。だからこそ、夫婦……家族というのを大事にしたいのかもしれないな」
「ほ~~~~ん。ちなみによ、ディムナ。てめぇはどんな女がタイプなんだよ」
自分だけ訊かれるのは癪ということもあり、若干圧を出しながらディムナに好みのタイプを尋ねる。
「自分の身を自分で守れる女だな」
「……解らんでもねぇけど、もうちょい外見とかそういう内容に決まってんだろ」
「ふむ……………………解らんな。あまり考えたことがなかった」
当然のことだが、ディムナはイシュドと違い、これまで何度も社交界に出席していた。
その中で容姿端麗、実戦的な実力も飛び抜けており、侯爵家の令息という……厳しい性格など以外は完璧と言えるディムナは何度も何度も令嬢たちから声を掛けられていた。
理想が高過ぎる、という訳ではない。
声を掛けてくる令嬢たちを見て美しい、可憐という感想は零れるものの……その数があまりにも多いということもあり、そういった容姿に対し、あまり拘りを感じなくなってしまっていた。
「おいおい、それでもチ〇コ付いてんのかよ。思春期真っ盛りの男だろうが」
「この前、共に娼館に行っただろ」
「それはそれ、これはこれだバカ野郎」
「………………強いて言えば、イブキの様な女性か」
「ほ~~~~ん。良いね良いね、もうちょい詳しく訊かせろよ」
イシュドも口をニンニク臭くしながら、捕らえた得物を逃さない。
「これまで出会ってきた者たちと違い、その姿に強さを感じさせる」
「言いたい事は解らなくもないな。でも、この国にもそういった女はいるだろ」
「同世代の中でも、か?」
女性の中にも強者はいる。
それはディムナも認めており、決して男尊女卑を助長させるような思想は持ち合わせていない。
「姿、見た目に強さを感じさせるってなると、確かにあんまりいねぇかもな……そんならよ、もしお前に婚約者とかいねぇなら、今度イブキに会った時に訊いてみたらどうだ」
「何をだ?」
「大和の方で、お前と同年代でまだ相手がいねぇ女がいるかどうかだよ。お前の実家の方はごちゃごちゃ言うかもしれねぇが、大和との関係を強められるってなら、悪くねぇあれだろ」
「………………頭の片隅に、置いておこう」
その後も三人は夜食……という事を忘れ、炊いた米と調理した餃子を全て食い尽くし……しっかりと歯を磨いたものの、ニンニク臭さが残ったまま眠りについた。