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第136話 まずは敬意を

「ゲホっ、ゲホっ!? く、クリスティールさん、何故……今それを」


「? 寧ろ、今ではないのですか?」


恋バナというのを知らない訳ではなく、クリスティールとしては……その一件も、この場で語り合う話の種の一つだと思っていた。


「もしや、イブキ様とイシュド様の仲は、既にお兄さんの……シドウ様が公認しているのですか!!」


いずれイシュドと未来の妻の間に生まれる子供の世話をするのが夢であるメディにとって、イブキがイシュドの伴侶になるというのは、非常に大歓迎である。


「いや、ま、待ってほしい。待ってくれ。その、だな……あれは、シドウ兄さんが一人で盛り上がっていただけと言うか」


「でも、否定はしなかったのですよね!!」


「うぐっ!!」


イブキの脳裏に思い浮かぶは……先日、イシュドの精神統一に付き合った後に、一緒に夜食を食べた時の光景。


大丈夫だと解っていても、本当に死をも恐れず強者に立ち向かう好奇心と向上心の強さに惹かれた部分もあるが……それはあくまで、一戦闘者としての関心。


だが、共にイシュドが作った夜食を食べた時に感じたものは……今思い出しても、悪くないものだったと思える。

それはイブキ本人も認めてはいるが、何の意地か、必死に思い出し笑みが零れないように口を結ぶ。


「メディさん、落ち着いてください。イブキさんが困ってるじゃないですか」


「おっと、申し訳ありません。しかしリュネ様、イシュド様の未来の伴侶かもしれないと思うと……色々と盛り上がりませんか?」


「それは否定しません。でも、イブキさんは……こちらの大陸でいう貴族に値する地位の家の方ですよね?」


「一応、そうなりますね」


「メディさん。確かにイシュド兄さんは戦斧ではなく刀を使って、しかもバーサーカーソウルは使ってなかった。でも、シドウさんに負けたという事実は変りません」


「っ……つまり、イブキ様のご実家は中々のお家だと」


二人だけではなく、クリスティールやミシェラの視線もイブキに集まる。


「えっと、私としてはあまりその辺りを気にせず接して貰えばと思っていて」


苦笑いを浮かべながらそう応えるも……それがある程度の答えになっていた。


全員が思った通り、イブキの実家は大和でもそれなりに名の知れた武家であり……イブキはこの大陸で例えるなら、立派な貴族令嬢。


「分かりました……とはいえ、これに関しては一応訊いておきたいのですが、イブキ様ほどの方が、婚約等を申し込まれたことがないとは思えないのですが」


メディの言葉に、ミシェラたちは揃って頷く。


容姿、体格などだけではなく、体から溢れ出す品格。

加えてその強さも、引き付ける要素となる。


「……これまで、何度かそういった申し込みはありました。ただ、自分よりも弱い人とは……」


つまり、全力で申し込んで来た相手を叩きのめしてきた、という事である。


何故まだ婚約者、もしくは許嫁といった存在がいないのかという理由に、四人は苦笑いを浮かべながら納得。


「その気持ちは良く解りますわ。しかし……そうして断られて来た方々は、全員納得してるのかしら?」


「再度申し込んでくる場合もありそうですね」


「そこでイシュド兄さんの出番が出てくる、ということですか?」


何故そこで? とツッコむ者は、この場に誰一人としていなかった。


ただ……全員の脳裏に、血の海に一人だけ立つイシュドの光景が共有された。


「…………あの、とりあえず私のイシュドに対するあれこれは一旦止めませんか? ほら、まだクリスティールさんの感想を聞いてませんし」


「そうでしたね。是非とも、お聞きしたいです」


これ以上、イブキに対して追及するのは一旦ストップし、今度はクリスティールが根掘り葉掘り尋ねられるターン。


「私にとって彼は……こんな事を言うのは、イシュド君に失礼かもしれませんが、兄の様に感じるところがあります」


「兄、ですか?」


「えぇ、そうです。なんと言いますか、尋ねれば嫌々な表情を浮かべながらであっても、彼なりに考え抜いた真剣な内容を教えてくれます」


クリスティールには実兄がおり、特別仲が悪いわけではない。

寧ろ、世間一般的な貴族の兄弟姉妹仲を考えれば、良い方であると言える。


だが、イシュドの「公爵家の娘だろうが、んなの知らねぇよ」といった態度での接し方に、歳が近く……本当の意味で気軽に話せる兄がいれば、こういった存在なのかもしれないと思ったことがあった。


「彼は私にとって異性云々の前に、まずは敬意を感じる相手、ですね」


「け、敬意、ですか」


ミシェラは……イシュドの強さ、その点だけに関しては敬意を持っていなくもない。

ただし、その他の部分には殆ど敬意など持ち合わせていない。


だからこそ、そんなクリスティールの感想に首を傾げざるを得なかった。


そんな仲……イシュドを幼い頃から知っているメディとしては、あの……あのイシュドが、目の前にいる高貴な品格、容姿、男に負けない強さを兼ね備える令嬢から敬意を持たれていると知り……思わず涙が零れそうになる。


「そうですよ。彼の考えは、私に多くの事を気付かせてくれました」


「むっ………………それは確かに、否定は出来ませんわね」


強さ以外に敬意など持ちたくもない。


既に諦めているとはいえ、自分をデカパイ、デカパイと呼び続ける相手に、強さ以外の部分で敬意を持てと言うのは……無理な話であった。


出会った経緯的にミシェラに非があるとはいえ、そこは今でも諦めど、納得はしてない。


ただ……ここでクリスティールの考えを完全に否定すれば、求める領域に一歩遠ざかる気がした。


「……因みに、クリスティールさんがイシュド兄さんと、そういう関係になっても良いと思い、イシュド兄さんもそれを受け入れた場合……やはりすんなりといきませんよね」


レグラ辺境伯家対、アルバレシア公爵家。


クリスティールは当然実家の戦力を把握しており、ミシェラもクリスティールの実家に何度も足を運んだことがある為、ある程度把握はしている。


そして二人共…………レグラ家に訪れてから、見てしまった。


あのイシュドが本気を出し、放たれた渾身の一撃ですら首の皮膚に届くことすらなく、猛る暴獣の攻撃に対応しきった……亜神とも言える正真正銘の怪物を。


仮に、亜神ロベルトが参加せずとも、では誰までが参加するのか……考えても考えても……先程イブキの件で想像した時と同じく、血の海の真ん中に立つ狂戦士たちの姿しか思い浮かばなかった。

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