第5話:感染率5%
「五時まで後四時間か」
昼食を食べ終えた和司は時間を確認していた。
「やっぱ、あれは買っておいた方が良いか」
そう言って六本木ヒルズで拾ったクレジットカードを持って和司は自宅を出た。そうやって三年三組の男子は必要なものを集めていた。
「ただいま午後五時ちょうどをお知らせいたします」
こうちゃんの持ってきたラジオからそう流れた。そのときにはグラウンドの三年三組の男子は全員集まっていた。
「よし、全員いるな」
俊弥がそう言うと早速、康太は本題に移した。
「みんなはこれからどうするつもりでいるんだ」
それを聞くとみんなは黙ってしまった。まだ答えが出ていなかったのだ。その時、こうちゃんのラジオからとんでもないニュースが流れた。
「た、たった今、外国への移住手続きを行っている現場にライスヒューマンが発生しました。現場からのリポートです」
「キャー、イヤイヤ、来ないでー」
「ちょっと現場は大変なことになっているようです」
「これは、政府の責任ですね」
「そうですね、ここで新しい情報が入りました」
「どうしたんですか、早く言ってください」
「い、今入った情報によりますと、各国の大統領が日本人の移住を拒否し、空港、港を完全に封鎖するということを発表したようです」
現場はすごい状況になっていた。
「それじゃあ、日本は鎖国状態じゃないか!」
高林幹弘(以降、幹弘)は声を荒げながら言った。他の人は声を出すこともできなかった。そんな時和司が
「一か八か自力で外国へみんなで逃げよう」
「えっ」
みんな驚きのあまり聞き返してしまった。そして和司はもう一度
「自力で外国へ逃げよう」
「そんなの無理だって」
野末健斗(以降、健斗)は力無く呟いた。
「いや、日本に今いても未来は無いし、いい考えだと思うよ」
後藤一将(以降、一将)は和司の意見に賛成だった。
「はぁっ?逃げるにしたって空港も港も封鎖されてんだぞ!一体どこへ逃げんだよ!」
純が一将に怒鳴った。その時、今まで黙っていた山崎尚人(以降、尚人)が
「そんなの簡単じゃん。空港や港以外から出ればいいだけだら」
みんなはそれを聞いて一斉に吹き出した。
「いいね、それ」
「それが一番良いよ」
みんな尚人の考えに賛成だった。反対していた純と健斗も難しく考えていたのが馬鹿馬鹿しく思ったのか、尚人の意見に賛同した。そんな和気藹々している中で康太が口を開いた。
「みんな生き残って日本を脱出しようぜ」
「そんなん当たり前だぜ」
幹弘がそう言うとみんなで円陣を組んだ。そして俊弥が
「いくぞー!」
「オォォ~!」
そうしてみんなは誓いを交わした。「一人も欠けることなく日本を脱出する」と。この後みんな教室へ行き、これからのことについてついて話し合った。非常時だが楽しい一時だった。このとき、こうちゃんが星野の机を見ながら呟いた。
「そういや、星野がいなくなったのとライスヒューマンが出たのって同じくらいだよな」
その一言で教室に戦慄がはしった。そしてみんなお互いの顔を見合わせた。
「もしかして最初にライスヒューマンになったのあいつなんじゃないか」
「その可能性は充分にあるな」
「何かのウイルスか突然変異ってやつか」
みんなが口々に言う。
「それだったら俺外国へ逃げるのやめるわ」
森田和磨(以降、和磨)が言うと、一瞬沈黙した。
「みんなで生きて日本を脱出するんだろ」
秋田佳享(以降、秋田)が和磨を止めようとするが、
「俺達も和磨の意見に賛成だ」
「うん、星野殺したら日本出るわ」
「ケジメはつけないと」
こうちゃん、リョスケ、和司は和磨の隣に並んだ。
「じゃあ、国外逃亡準備班と星野討伐班の二つに分かれて行動するのがいいだろ」
その康太の意見に全員が賛成した。そして話し合いの結果
星野討伐班・・・康太、こうちゃん、和司、リョスケ、亮太、俊弥、和磨
国外逃亡準備班・・・秋田、一将、純、鈴木高之(以降、高之)、幹弘、健斗、尚人
になった。
「あ~今日は疲れたからもう寝るか」
亮太がそう言うとみんな自分の席で深い眠りに就いた。
この時、防護服を着た二人の男が目の前にあるモニターを見ていた。モニターには日本地図が映っていた。モニターをみながら一人の男が不適な笑みを浮かべた。
「Rウイルス感染率5%」
二人は顔を見合わせ笑った。
午前二時、高之は目を覚ましていた。だが寝ぼけていて再び眠りに就こうとしていた。コツ…コツ…コツ、コツコツと足音が聞こえてきた。足音はだんだん大きくなってくる。教室に入ってきた。まぶたが重くなっている顔を上げた。そして顔を確認する。見覚えのある顔だ。
「や、山・・・本」
高之はすぐに眠りに就いた。山本は別れを告げるようにして一人、一人の顔を見ると窓から飛び降りた。