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  作者: フライ・ド・オリオン
出会い
3/3

【2】


 ギラギラと瞼を貫通してくるような眩しさに眠りを妨げられ、僅かな苛立ちを感じながら緩慢な速度で瞼を持ち上げた。

 朝日が眩しすぎる。目が痛いのを堪えながら首を持ち上げて見回す。なんだか己は今随分と狭い部屋にいるらしい。広さ的に小人の家かと思うが、それにしては家具が大き過ぎる。

 一体ここはどこだ。

 どこに。どこに…?

「頭が痛え…オレ様どうしたんだっけ…」

 何も覚えていない。眠る前、己は何をしていたのか、何処にいたのか、欠片も思い出す事が出来ない。

「つーか何でこんな小さくされてんだ?誰だよ寝てる間にこのオレ様にマクロの魔術かけたやつ…」

 かけられている魔術を解く前に、ぐぐ、と手のひらに力を込め、人型へと一度姿を変える。それをする理由は一つである。こんな場所でドラゴンの姿のまま魔術を解いてしまったら、それはそれは大変なことになってしまうからだ。部屋の壁も屋根も瞬く間にして木端微塵である。

「んー……何か凄い久しぶりにこっちの姿になったような感じがする」

 もう長い間ずっとドラゴンの姿のままでいたかような、まるで初めて人型になった時のような、肉体のズレを感じる。違和感を感じる。今更そんな事が起こるなんて筈はないのに。なにせ常の生活は人型で過ごしているのだ。馬鹿でかい図体を引き摺って城を歩いていたら周りから何の遊びかと笑われるか、どうしたんだ風邪でも引いたかととても心配されるかのどちらかだ。

「…なんか色々おかしい気がするけど、まぁ、取り敢えず解くか」

 パチン、と指を弾いて解術すれば、三十センチだった目線は元の百九十センチまで一気に高くなる。

「酒でも飲んでたのか?…弱くはないんだけどな…マジで浴びるくらい飲んだのか」

 そうして仲間とふざけ合って魔術の掛け合いでもしたのか。ああ、もし本当にそうだったとして、それが主にバレたらしこたま叱られてしまいそうだ。

「絶対ルピナスも居たに決まってる。とっとと何があったか話を聞かねえと…つーかマジで何処だよここ…」

 ドラゴンの姿のまま移動したのかこの部屋に服は無い。そもそも城にこんな無意味に陽当たりがいい小部屋なんてあったか。

 裸足のままぺたぺたと唯一ある扉に近付き、手を掛けてそっと捻る。

「…何…このあまりに小さな炊事場は…誰が使ってんだよ」

 誰が想像できるだろう。ドアの先が廊下もなく直接今いた部屋よりも小さな炊事場に繋がっているなんて。

 そしてその設備が放置されて埃を被っているまだしも、つい先程まで使われていたような形跡があるのが恐ろしい。と言う事は誰かが、この狭すぎる空間を直近で利用している、のだ。

「マジで…ここどこ…」

 その場で呆然と立ち尽くしていると、突然隣の扉の奥からがさごそと何かを引きずるような物音がして、咄嗟にしゃがみ込み口を押さえた。散々独り言を呟いた後なので大分遅い気もするが、扉の向こうに何かいるのが分かった以上は警戒しておいて損はない。

 よく聞けば這いずるような音だ。音量からして、大きい生き物が立てる音では無いようだが一体何がいると言うのだ。

「……」

 そろりとノブに手をかけて、小さく小さく隙間を開けて覗き込み、途端に目が合った音の主の姿に詰めていた息を盛大に吐き出した。

「何だ、ヘビか」

 キイ、と扉を開けて中に入れば、音を出していたヘビが入った水槽のとなりにも別のヘビが二匹。更に奥には小さなトカゲとカラフルなカエルもいて、皆それぞれ大人しく閉じ込められている。

「お前ら、こんな所で何してるの?」

『まさかアンタもご主人様の飯に胃袋掴まれちまったのか!?』

 こちらの質問には答えず質問を飛ばして来たのは音を立ていた黄色いヘビだ。己がここに居ることに酷く驚いているようで、落ち着きなく動き回り水槽の中を掻き回している。

「はぁ?」

『…やはりドラゴンともあろうお方でも、ご主人様の飯テクニックには敵わなかったか……』

「悪い、何言ってるかさっぱりわっかんねぇんだが…」

『ご主人様はな!丁度腹が減ったジャストタイミングで美味い飯をな!差し出してくれんだよ!それもな、目の前で美味そうにほれほれってやってくる。そりゃもう食いついちゃうよなぁ!食いつかない訳ないよなぁ!』

「はぁ…?」

 黄色いヘビは興奮した様子でそう捲し立てるやいなや、ちょっとこっちへ来てくれと尾で招いてくる。

『なぁなぁ、出してくれよここから、あの扉の向こうの部屋にその最高の飯があるのは知ってんだ、今ご主人様はいないしさ、ちょっと狩りに行こうぜ』

「か、狩り?」

『いつもはご主人様が締めた後にくれんだが、生きてるのも食ってみたいと思ってたんだよ』

「良いの?勝手に出て」

『大丈夫大丈夫!だってアンタがいっし』

『あーーもう!!アンタ本当にうるっさいわね!!』

 黄色いヘビの言葉を叩き切るように叫んだのは、彼の隣の水槽で苛立たしげに舌を見せている真っ黒なヘビ。

『姫…ご、ごめん』

『謝るくらいなら初めからしないでよ!』

『ごめんって……』

 怒られた黄色いヘビはしゅん、と一気に大人しくなり、おずおずと体を隠すように穴の空いた器のような中に隠れていってしまう。

『それにワタシの名前は姫じゃない!ワタシには夜空って名前があるの!!勝手にワタシの名前を変えないで!!』

『ひめ…じゃなかった…よ、夜空、ごめん』

「…あー、その、オレ様も悪かった、夜空ちゃん、ごめんな」

 夜空と名乗る真黒のヘビに己も頭を下げてみるも、怒りは収まらないようで彼女はまた口を開いた。

『って言うか、アナタはなんでこんな所に居るのよ!バッカじゃないの!?』

「へ?」

『何でドラゴンが人間に飼われるような事になるわけ!?』

「あ?今人間って言」


 ガチャリ。ギィ、バタン。


「ただいま……ッてあれ、俺ドア閉めてかなかったか?」



 おかしい、部屋のドアが全て開いている。

たった十五分朝食を買いにコンビニへ行って帰って来るまでの間に、まさか空き巣にでも入られたのか。

 その割には荒らされた形跡は無く、開いているのはドアだけで引き出しなどの様子は変わっていない。

「…っあ、脱走してないか確認…ッておわぁあああああああ!!」

 我が愛しの爬虫類達の部屋に飛び込んだ瞬間、叫ばずにはいられなかった。全ての合点がいき、買ったものも放り出して王子と姫の水槽の前にぽつんといる小さなドラゴンに駆け寄って膝を折る。

「そうかお前が開けたのか!!流石ドラゴンだな!!頭良いんだな!お前!!」

 ドラゴンはつぶらな緑とも黄色とも言い難い不思議な色の瞳で静かにこちらを見上げていて、とんでもなく愛くるしい。可愛い。可愛すぎる。

「お前一週間も眠ってたんだぞ!!ああ、良かった、もうダメかと思ってた。そうだ、寒くないか?暑くないか?喉乾いてるか!?あっ!いや腹減ってるよな!!って言ってもドラゴンって何食ってるんだ?いいのかマウスで…まぁでもこの見た目で草食って事はまずあり得ないよな、あからさまに肉食の牙持ってるしな」

 ドラゴンが目覚めた事が嬉しすぎて興奮が収まらないまま鼻息荒く見詰めていると、少しだけ気まずそうにしてふい、と顔を背けた。

「か、かわいい…」

「…?」

 溢れてしまった無意識の呟きに(と言うか音に?)反応してか顔をこちらに戻したドラゴンは、ぱちぱちと数度瞬きをして、ぱきゅ、と鳴いた。

「……………何だそのあざとすぎる鳴き声」

 これが所謂、可愛すぎてキレそう、と言うやつか。



(いや、いやいやいやいや、オレ様何やってんだぁッ!?ヤッベェェ……めちゃくちゃこの人間興奮してるし何言ってるか分かんねぇぇ…何語だよ…えぇ)

『バッカじゃないの、アナタ』

 頭上から半笑いの見下した声が降ってくる。ああ、彼女の言う通りである。

『あれ、ドラゴンって案外小さいんだなぁ!オレもっとデッカいって思ってた〜』

 己の小さな姿を見た黄色いヘビの感想に、黒いヘビはまた呆れたようにため息を漏らして嗜めた。

『そこのバカ、後で怒られても知らないわよ』

『ひ…じゃなかった夜空だってそう思うだろぉ?』

『見てなかったの?本当、アンタって目も節穴ね』

『ひっでぇ!!』

 あちらもこちらも騒がしく、耳を塞ぎたいのに下手に動くことも出来ない。

「………ぱきゅ(オレ様、何やってんだろ)』

 あ、声を出してしまった。

(と、取り敢えずこの目の前の人間から殺意は感じられない。それは安心だが、人間がいると言う事はここは百パーセント城どころかハンロンドですらないってことだ。……嘘だろ、マジでオレ様は今、どこにいるって言うんだ……)



「……………………きゅ(なんだこれ)」

 突然立ち上がって隣の部屋に消えたかと思えば、しばらくして戻ってきた人間が持ってきたのは白いネズミの死骸である。

『うわぁいーなー、いーなー!ドラゴン、アンタだけずるい』

「…まさかお前が言ってた美味い飯ってこれの事か?」

『そうだけどなんだ、アンタはそう感じないのか?』

「いや、いやいやいや無理ィ……」

 大きなトングで口元に近付けられそうになり、全力で身体を逸らして拒否をした。

 一つ、ドラゴンは美食家である。

 二つ、ドラゴンは料理をする。

 三つ、ドラゴンは獣肉を生食すると普通に腹を壊す。


 

「あー、やっぱネズミは食わないか。王子には昨日やったからな。もう一回温めて姫に出してみるか。まぁ食わないだろうけどな」

 渋々取り下げて皿に戻し、代わりに水を差し出す。するとドラゴンはじっと観察するように水を眺めてから、ちろ、と舌を出して水面を揺らす。僅かな水分を時間をかけて口の中で転がして、飲めるものだと理解したのか、ドラゴンはようやく口を開けてがぶがぶと犬のように飲み始めた。

「やっぱり爬虫類と哺乳類を足して二で割ったような感じだな。顔も身体も動きも」

 見た目は鱗とヘビのような目のせいで爬虫類に近しく見えるが、骨格と動きは完全に四足系の哺乳類だ。しなやかさは猫、体格の良さは犬と言った所だろうか。

 しみじみ眺めている間に水はみるみるうちに量を減らし、容器はあっという間に空になった。その小さな身体のどこに大量の水分が吸収されたのかは謎であるが、それだけ飲むと言う事は、腹が減っていたのは間違いない。

「何をご所望なんだお前は。何なら食ってくれんだ」

 水をたらふく飲んで少し満たされたのか、さっさと身体を丸めてしまったドラゴンにそう語りかけても返事はない。


 本日の姫の食事チャレンジにも見事失敗し、とぼとぼとキッチンに戻り投げたせいでぐちゃぐちゃになったコンビニ弁当を電子レンジに突っ込む。

 温まるのをぼんやり待っていると、丸まっていたはずのドラゴンが急に部屋から飛び出してきて、ガンッとシンクの上に降り立った。

「うわ、何だッ!?」

 ドラゴンは鼻をくんくんと揺らし、パッと電子レンジの方を見ると今度はそちらへ飛び上がりがりがりと扉を引っ掻いた。

「は、いや、まさか」

 チン、と軽快な音で電子レンジは中の物が温まった事を知らせる。

「そこにいると出せないから降りてくれないか…って言っても分からないよな」

 触れても大丈夫だろうか。暴れて火でも吹かれたら大変な事になるが、だがずっとそこにいられたら弁当を取り出せない。仕方なしにゆっくりと脇の下に手を入れてみれば、ドラゴンは暴れる事なくされるがまま腕に抱かれた。

「……大人しいな」

 そっと床に下ろしてから電子レンジの扉を開けて弁当を回収し、ダイニングテーブルへと置く。するとドラゴンはばさりとひとっ飛びして弁当の前にやってきては、そわそわと首を動かした。

「これが、食いたいのか?」

 返事の代わりに、だら、とドラゴンの口から涎が溢れた。

「塩分やらなにやら、本当に大丈夫なのだろうか」

 しかしこのまま餓死されても困る。何も食べないよりは、何か食べてくれた方が良いような気がする。何はともあれ全部はあげなければいい。少しだけ、少しだけなら問題ないだろう。

 蓋を取り、差し出すように容器を少しだけ押せば、ドラゴンは一度こちらを見詰めてから、すぐに貪るように食べ始めた。

「……すごい食いつき」


 結局、取り上げる隙を全く見せてくれなかったドラゴンはすっかり弁当を平らげ、汚れた口元をぺろぺろと舐めて掃除するとそれはそれは満足そうにしてテーブルの上で寝そべった。丸くならないのは腹が一杯だからか。

「人間と同じ物で、良いのか…?」

 返事は無い。ドラゴンはもう眠っている。



「……ハァ、やっと寝たか人間」

 今日一日これでもかと構い倒されてもうへとへとである。ようやく人型に戻ることが出来る。魔術を解いて姿を変えれば再び襲い来る四肢の違和感。多少でも感覚を馴染ませるため肩やら首やらの関節を回しつつ、ベッドの上で警戒心のかけらもなく安心しきって眠っている男の枕元に近付いた。

「今日何より不便だったのは言葉だよなあ。悪いけど、ちょっと頭ん中失礼するぜ」

 男の額に手を当て、魔術を施して言語にまつわる情報を引き摺り出す。そうして取り出したものを直接自身の脳に流し込み、高速で焼き増ししてインプットすれば、言語の習得は完了する。とても便利な魔術で平素より重宝している。

 しかしなかなかの情報量だ。想定していた時間よりも長く魔術は作動し、男の脳から言語を吸い上げている。

「もしかして、こいつが使っているのは一つの言語じゃないのか」

 それだけではない。単語を一つ二つ得る度に大きな大きなズレに気付いていく。気付きたくない真実に辿り着いてしまう。

「……」

 この魔術で言語を得る際、どうしても自身の知っているものとそれぞれを摺り合わせる作業が必要な為、相手の記憶にも当然触れる事になる。

 冷や汗が首筋をひたりと伝っていく。

「どうなってんだ……これ………」

 魔族の国、ハンロンドに対応する言葉が無い。魔物、魔獣に至っては、全てが架空の存在とされている。ドラゴンの項目だけは実在すると修正されており、それはおそらく己と出会ったからである。

 この惑星の名は地球と呼ばれ、恐ろしい事に大陸全てが人間に支配されている星であるらしい。

 人間の国は己が知るモンスペイただ一つの国ではなく、国境や海で隔たれる毎に国の名前が違い、それによって言語も違う。

 エルフの国もエルフも、魔物の国、魔物魔族達と同様に全てがこの世に存在しない事になっている。

「何が……起こって……」

 意味が、分からない。

 


 言語にまつわるものだけで無く、男の持つこの世界に関する全ての情報を吸収し終える頃には、朝日が登り始めていた。

 窓辺に近付き、音を立てずにカーテンを引き開けて外を見る。

「…………眩し」

 白み始めた空に照らされて広がるのは、男の記憶の中にあった通りの鉄とコンクリートのジャングル。生まれてこの方初めて見る、奇怪な都市の形。


 これが、魔法も魔術も無い世界の発展か。

 木を切り岩を積み石を溶かし、鉄を鋼を組み上げて空高くへと伸ばし、科学と化学の研究を探求した末、応用して出来上がった一が二を産み二が四を産む進化と営みを続けた結果、この惑星の人類は他の生き物を退け大陸全てを支配したらしい。

「……オレのいた世界の人間とは、違う」



 そっとカーテンを戻し、足音を殺して男の寝室を出る。

 狭い炊事場改めダイニングキッチンの真ん中あたりで立ち止まり、魔力を練ってゲートを開いてみる。この世界でも、ゲート自体を作る事は魔術を使うことと同様で可能らしい。

「……ゲートは空間移動しか出来ないものかと思ってたけど、それは別の世界の座標を当然知らないからだけであって、ここでハンロンドに座標を合わせたら世界線ごと飛べる可能性は」

 ゲートを覗き、ハンロンドの中心、魔王城の座標を探す。普段なら目を凝らす事なくすぐに見付けることが出来るのに、どんなに見回しても、見当たらない。そもそも普段は点在してある筈の座標は何一つ、浮かんでいない。つまりこのゲートは完全にどこにも繋がっていないと言う事になる。残念だが、己の生きていた星エスラに戻る事は、現時点では不可能だと言う事が示された。

「……今は、まだ」

 溜息と共にゲートを閉じて、今後どうするかを漠然と考える。取り敢えず暫くはこの爬虫類愛好家の家に匿ってもらうのが良いだろう。言語を得たから、昨日のような事態には比較的陥り難くなるのは間違いないし、いざとなったらドラゴンの姿のまま会話してしまえばいい。その方がむしろここに住む男、殿巻しずくは喜ぶかもしれない。ドラゴンは喋れるのかと。そうやって適当に懐柔しておけば、情報と共に垣間見た彼の性格から鑑みるに、酷く扱われる事は決して無いように思う。

『おーい、ドラゴン、ドラゴン起きてるならこっち来いよ』

 殿巻しずくの寝室の隣の扉の奥から、おーいおーいと呼ばれて致し方なくそちらへ向かう。

 一体誰の手によって、世界を超え、別の世界へと飛ばされたのかは分からない。それか、何がしかがあり、己の意思でここへ来た可能性もある。記憶が無いと言うのは大分痛手だ。

 今頃、主は己の身を心配しておられるだろうか。それとも己の異世界転移を存じておられるのだろうか。分からない。

 どちらにせよ主の為にも出来るだけ早くハンロンドに帰らねばとは思うが、己の意志でここに来ていた場合、何か目的があっての事であるはずだ。なにより真っ先に取り戻すのは記憶であろう。

 しかしいくら頭を捻っても、困った事に今は何も思い出せない。

「急くのは失態を招く」

 記憶も帰るための手がかりも何一つ無い状態で闇雲に探すより、期を見て探す方が性に合っている。己の性格は種族の特徴を多く反映しているため、焦るのも慌てるのも嫌いだ。この命が持っている時間は人よりも遥かに長大である。一時の密度が濃いのは疲れてしまう。

「どうか主、お気を病まずにのんびり待っていてください。私は必ずや、貴方の元へと戻ります故」

『なぁドラゴーン話し相手になってくれよぉ〜、そっちにいるのは分かってんだ、なぁってばぁー』

「…お前またそんな大声で呼んでると夜空ちゃんに怒られるぞー」

『あ、そうだ、オレにも名前があるんだぜ!王子って言うんだ!どうだ!カッコいいだろ!ドラゴン、アンタの名前も教えてくれよ!』

 部屋に入り、水槽の中でとぐろを巻く黄色いヘビの前にしゃがみ込む。



「ガーランドだ。よろしくな、王子」




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