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リコメディント・スカイ  作者: ポテッ党
第三章 王都での災典
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第三章 第二十一話 【加減自在の足度計】

 回転鋸が唸りを上げる。 

 地面に食い込んだソレは持ち手を高速かつ不規則な機動へと誘い、敵である『瞬影』へと駆動させる。身の丈を超える回転鋸を握った子供の眼はひどく虚ろだ。

 それを知っている『瞬影』は、加減をしなかった。

 悪態と共に瓦礫の一つを蹴り上げる。


「糞が……!」


 爆散だ。脳漿と共に飛び散った子供の血も、即座に青い粒子へと返じて、『イグノーテラ』から退場する。しかし子供たちの数も攻撃もそれだけにとどまらない。

 ガラスを人型にくりぬいたかのような、人の形をした力場が『瞬影』に手を向け、その直後に不可視の【障壁】は彼を取り囲む。

 【サイキッカー】と呼ばれる【現界自律】によるものだ。

 念動力の行使を【自律】した人型に任せたその力は、近中遠と隙が無い。

 何より本体すらも力場の集合体に過ぎないために、大抵の攻撃は効果が薄い。仕留めるならば本体を狙うべきだ。


「舐めやがって……!」


 手足を振るってその【障壁】を打ち砕く。しかし次に彼の取った行動はその【サイキッカー】を探すということではなく、放たれた雷撃を躱すということだった。

 もっと正確に言えば、瓦礫の中に混ざっていた鉄筋を蹴り上げ、そちらに電流を流させたのだ。

 彼の『ユニーク・アワード』によって得た『耐性』によってこの程度の雷撃には一切のダメージを受けることはないが、今の【雷撃】の本質は麻痺にあるということを、彼はよく知っている。


「バラハの奴まで……!」


 このクレーターはアカツキが用意した決戦の地、その要であった。

 地下水道やそこへ向かう通路の要所要所を子供たちの【ゼノギフト】で強化し、そこの手駒とした子供たちを潜ませる。

 そのまま粉塵爆発で吹き飛ばして、子供たちを含んだ瓦礫で満ちた大穴を作り出す。

 後は爆風から逃れた『瞬影』を、どうにかしてここまで誘き出せば最終ラウンドの準備は整う。

 アカツキのいくつかのブラフと、クレーターから引き離そうという動き自体が『瞬影』ロンドの動きを決定づけた。


(誘い込まれたか? いや、これだけの数を動かせるなら奴自身もかなり近い……!)


 『瞬影』ロンドの推測は正しい。

 アカツキが《魔術師》《守護霊》《生霊術師》をカンストさせたことで空いた三つの枠は、《雷剣士》《付与魔術師》そして《傀儡師》の三種。

 《雷剣士》は単純に自身の白兵戦闘能力を引き上げるための物だが、後者二つは《部分憑依》によって手駒にすること自体と、手駒にした者たちを強化することに重点を置いた。

 

 そうすることによって《部分憑依》によって操れる数も精度も格段に増した。

 だが射程だけは依然そのままであり、距離が離れれば離れるほどに精度が落ちるのも据え置きだ。

 アカツキは既にロンドの射程に入っている。

 しかしそれはつまり――。


 幾つもの【ゼノギフト】そのものや、その恩恵を受けた攻撃が殺到し、『瞬影』を打ち据えんとする。その何割かは彼の軌道そのものを妨害し、機動力を削ぐための牽制でもあった。

 『瞬影』は駆ける。

 クレーター内の地面は起伏に富んでいるというレベルではない。

 家、あるいは地下水道の瓦礫によって大地が大時化の海原の如く凹凸がぶちまけられている。

 並みの人間なら瓦礫を避けて歩くこともままならず。並みの高機動職ならば、足を踏み外しかねない。

 

「舐めるんじゃねぇ!!」

 

 しかし彼は『速度の申し子』。

 自称ではない。『アワード』において確かに認定され、事実思うままに超速を発露させる。

 角材を踏みしめ、石壁を踏み越え、隆起した石畳を踏み込む。

 向かう先は《観測者》によって捉えた、不自然なエネルギーの揺らぎ。

 鎧姿のアカツキが既に隠密能力を有しているということは分かっている。しかしそれは彼の眼を完全に欺くほど完璧なモノではない。


 《観測者》は複数の方式の中から三種類の方式を選択して、視界へと反映させる。

 どれだけの方式を選択できるかは、当人がそれまでどれだけの数の《探知》系スキルを取ってきたかに左右されるが、現状ロンドが使ってるのは、熱、魔力、生命力の三種類。

 そしてそのうち一つを、音に切り替えただけで、アカツキの居場所は明らかになる。


 ――アカツキの射程の中に入ったということでもある。

 

 再びの『ズレ』。

 しかしロンドは止まらない。拳は既に振りかぶる動作を終え、射出の半ばにある。

 故にアカツキは子供を使う(てふだをきる)

 決して拳が止まることのない速度に乗った瞬間に展開されたのは【黒紫の鏡】。

 盾であり、鏡でもあるソレは、当然の如く相手の攻撃を反射する。

 これ以上ないタイミングでのカウンター。決して避けようのない反撃。ようやく攻撃を当てられるチャンスが回ってきたと考えたアカツキの思考は。


 空に縫い留めたかのように、ビタリと停止した超速の拳に遮られる。


「は」

「間抜けがァ!」


 その罵倒の通りになった。

 

 アカツキの胸部を中心に展開された【黒紫の鏡】。当然足元はがら空きだ。『瞬影』は即座に地面に爪先を突き立て、足元の礫を丸ごと散弾に変える。

 対処は遅れ、その遅れは攻撃の命中を意味する。

 アカツキは跳ねた。無数の瓦礫に打ち据えられないはずの肺から、過去を思い返すかのように空気を絞るような声が漏れる。


「かはっ」

 

 アカツキの鎧姿の下半身はよじれていた。

 石礫に幾度となく殴打されたがゆえに、鉄の脚部はへこみねじれている。

 それでも彼は自身の[アイテムボックス]から代えの足を取り出して、付け替えるだけの猶予はあった。

 

 何せクレーター内に潜ませた手駒(こども)たちの全てを『瞬影』は殲滅しているのだから。

 幾度となく瓦礫が舞い、子供たちの残骸が舞い、そして超速の男はようやく立ちあがったアカツキの目の前の、へし折れた石柱に君臨する。


「よお。ようやく一対一(サシ)でやれそうだな」

「もう少し子供たちの遊び相手をしてくれても構わなかったんだがな」

「抜かせェ!!」


 二人は加速する。


 『瞬影』は言うまでもなく。そしてアカツキもまた今までとは一線を画す領域へとその身を置く。発動する術式は《エレクトロ・アクセラレイション》。上級術式である。当然今の彼がソレを行使することを《ステイタス・システム》は許可していない。しかし禁じているわけではない。『学院』で蓄えたその知識は自らの体に渦巻くエネルギーを《魔力操作》によって変貌、そしてマニュアル(・・・・・)での発動を可能とした。


 一人は残像を残し、もう一人は残像すら残さず、加速する。


 視界の端が常に色のついた無数の線の重なりになるほどの超高速域。アカツキも音速には二歩足りない速度域でありながら、超音速の『瞬影』の動きに追いつくことができる。故に彼の行動をはっきりと視界にとらえることができた。拳を刹那に彩る闘技の輝き。その光量からして恐らく《初級》。しかし等級などどれほどの意味があろうか。『瞬影』の超速の恩恵を受ければ、ただの拳であろうが並みの砲弾など足元にも及ばぬ攻撃となる。


 発動したのは《ブロウ・パンチ》。衝撃波を放つ初級闘技。

 アカツキが行使したのは《エア・ボール》の壁。そして《スパーク・ブロー》。雷撃を帯びた中級闘技。


 アカツキがかつてと同じく青の雷光を拳に纏わせる。《風球》が複雑に爆ぜたのは超速の《衝撃波》の中に道を切り開くため。これまでにない正面突破の動き。驚きの表情を浮かべるロンドは、その直後に口の端を歪めた。迎え撃つ。その意思を拳に漲らせる。何もいらない。『ズレ』が来ようとねじ伏せる。お互いの拳と殺意が交錯する。


 風が吹いた。超高速の二人がその高速機動を終えたからだ。

 そしてその結果は。

 

「がっぁ……」


 アカツキが膝をつくことで示された。

 腕が殴り千切られ、脇腹は余波でへこんでいる。彼の痛覚は未だに生きている。

 脳髄を叩くこの痛みは血肉があった頃と何ら変わりない。

 アカツキはもはや、この体では動くことすらままならない。


「ようやくケリがついたな。くそったれ」

「それはどうかな? 俺の【手の平は踊り場へと変ず】を使えば――」

「不可能だな。テメェの魔力は既にすっからかん。その上あれは【ゼノギフト】でもなんでもねぇ。ただの《()()()()》だ」

「……気づかれていたか」


 ロンドの推測は正鵠を射ている。

 アカツキがたびたび行使していた『ズレ』の正体は、【ゼノギフト】でも何でもない。ただの《付与魔術》に過ぎない。

 そしてソレは、『ユニーク・アワード』で防ぎきれるデバフなどではなく――。


「テメェは俺にバフをかけてたんだ。速度強化のバフを。ほんの一瞬。あるいはほんの一部位だけ。そうすることで俺の動きを俺のイメージからずらしていた」

「そこまで気づかれてちゃ、言い返すこともできんな」


 本来バフという物は、相手への支援として贈られる。

 当然だ。相手の身体能力を、あるいはそれ以外を引き上げることは敵に利する行為に他ならない。

 しかし何事にも例外はある。というかバフに関してはそれがありふれている。

 考えても見て欲しい。急激に自分の身体能力が一・五倍に上がったとして、普段通りの動きができるだろうか?


 答えは、慣れればできる。

 少なくとも『イグノーテラ』の《ステイタス・システム》がもたらした活力を全身にみなぎらせることによる《戦闘状態》ならば、その程度の適応を可能とする。

 気心の知れた仲間と、何度も支援を送り合うことがあるのならば、《付与魔術》を掛けられた状態でも全力を出せる。


「普通は味方から戦闘能力の向上のために送られるのが《付与魔術》、そのバフだ。だがお前はソレを逆用した。時間を一瞬、全身ではなく一つの部位に。俺なら足、いやバランスを取るための手に掛けたということもあり得る。体の一部位だけそうなるんだ。誰だってバランスを崩す」


 先ほどの質問を、条件だけを変えて繰り返そう。

 急激に、それこそ一秒未満の間に、自分の右腕の身体能力だけ十倍に上がり、なおかつそれが一秒未満で解けたとする。その刹那の間に普段通りの動きが維持できるか?

 答えはシンプル。できるわけがない。

 まして。超音速の領域にいる人間にとっては、その刹那は致命的な『ズレ』となる。

 だからアカツキはこれを《技》と呼べる領域にまで押し上げた。


 己の心臓を取った、超音速の敵手を討つために。


「どういう理屈かは知ら――、いや、そういえば《魔力操作》なんていう技術があったなァ。アレを使えば色々と弄れるそうだな。発動時間を極小にする代わりに効力を数倍にするだとか。後は全身に作用するのがデフォルトのモノを、一部位に集中させるだとか。なんであれバフっていうのが一番の要だ。お前の手品の」

「デバフなら、当人のMGI、あるいは装備品、あるいは『アワード』で防ぎきれるかもしれないが、バフならそうもいかない。抵抗自体はどんな子供にだってできるが、バフの存在と種類を明確に認識し、その上で抵抗の意思を示さなければならない。超音速環境では至難」


 アカツキは立ち上がる。

 鋼の膝をついて、ねじ曲がった片足を大地に突き立て立ち上がる。


「これさえあれば、アンタにも負けねぇと思ったんだがな……。それにしてもいいのか、こんなおしゃべりに興じていて」

「問題ねぇよ。それよか答え合わせがしときたかったんだ。テメェと次やる時のためにな」

「なら俺も答え合わせをさせてもらおうか」

「良いぜ。聞いてやるよ。遺言代わりにな」

「アンタの能力の本質、それは」


 ――速度の貯蔵だ。



 ■


 アカツキが述べた考察は全て正しかった。


 ロンド・ウェリオットの能力名を【加減自在の足度計スピード・メーター・メーカー】。

 自らの足で稼いだ速度を貯蔵。任意のタイミングで放出する【境界掌握(ボーダードミネイト)】系列の能力である。


 一つ例を上げよう。

 彼が時速六十キロで走れるだけの力で地面を蹴っていたとする。

 そこで【貯蔵】を選択すれば、彼は時速三十キロとなる。

 そして残りの半分の三十キロは【貯蔵】される。

 十分間走り続けて、十分間速度を【貯蔵】し続ければ、十分間、時速三十キロで加速することができる。


 ではここで【放出】を宣言すれば、どうなるか。

 答えはシンプル。今現在、時速六十キロの速度に放出した任意の速度が加算されることとなる。

 【貯蔵】さえできれいれば、時速三百キロだろうが、時速千二百キロだろうが、肉体が耐えきれるのならばどこまでも加速できる。


 ここで更なる【技】を提示しよう。

 彼は速度の【圧縮】を可能とする。

 最大圧縮率は六十分の一。一時間分、時速三十キロで動くだけの【貯蔵】を行い、それを六十分の一に圧縮したのならば。

 彼は一分間だけ、時速千八百キロで動くことが許される。


 当然、この決戦に備えて彼は可能な限りの【貯蔵】をしてきた。

 自らの足で速度を稼ぐことが条件である以上、耐久に長けた職に特化することはできなかった。

 それでも彼単体での最大足度はマッハ2に及ぶ。



 ■



「けどお前がその最大足度を出すことなかった。俺の『ズレ』を警戒して」

「だが『次』はそんな『ズレ』に振り回されるようなヘマなんてしねぇ。確実に叩き潰してやるよ」

「次? 俺がお前と次やる機会なんて――」

「バァカ」


 『瞬影』ロンドは笑った。

 陰惨に。

 そして一足飛びに、クレーターの縁に着地する。


「テメェにはこの穴ぼこの中でこの国が落ちるのを眺めるんだよ。何にもできねぇまま、な。そうすりゃ俺も、ガキどもの気も晴れるってもんだぜ」

「はっ。腐り切った性根だな。それに油断しきっている」

「テメェに何ができるって言うんだ? 魔力はからっけつ。その体も動かねぇ。ここまでやって本体が出てきてねぇんだ。その分身を作るにも相応の【コスト】が必要なんだろう。もしくは即座に駆け付けることができねぇぐらい遠くに。そんなお前をわざわざ――」


 アカツキは指を差した。

 王城に向けて。

 その場で戦う二人の少女を差しているのか? いいや違う。

 彼の指は、その少し下を、あたかも王城の地下に何かあるかのように指差している。


「――は」


 『瞬影』の眼が殺意でぎらついた。

 この男は殺さなければならない。今ここで。

 完全に隠匿しており、『教団員』の間でも、幹部以上は知り得ない【結界の要】と、我らが導き主の居場所を、このとこは言外に示しているのだから。


「テメェ――」


 アカツキへの疾駆を開始する。

 その寸前で。


『ロンドさん!! ルイ様がっ……!!」


 悲鳴のような念話が、彼女の結末を物語る。

 そして彼の脳裏に、最大の空白が生じた。

 決して斃れることなどありはしないはずの自らの相棒が。

 己よりも遥かに堅牢であるはずの相棒が。

 負けた? 


 そんなのはあり得ない。


「ここだ――」


 アカツキは最後の手札を切る。

 立ち昇るのは膨大な魔力。寸前までの枯渇が幻覚に思えるほどの莫大な量。

 そして彼は鎧を脱ぎ捨てた。

 半透明の体を陽の光に晒し、だからこそその素顔に、金属質ではないその声に。

 自らの手で心の臓を穿ったはずの少年が、目の前に立っていることに。


「なぜ、お前が」


 『瞬影』は知らない。

 アカツキの《部分憑依》による他者操作の射程よりも。

 その副次的効果である《念話》や《魔力供給》の射程の方がはるかに広いということを。


 超速の男は知らない。

 アカツキは《ステイタス・システム》に登録され、地球にまでその術式組成が明らかになっている《魔術》の九割を、魔力さえあればマニュアル発動できることを。


 彼は知らない。

 彼らが放った《人口迷宮》と『邪神の胸骨』によるユニークスを討伐したのは、彼であることと。

 その『ユニーク・アワード』に彼が完全適合しているということを。


 ロンド・ウェリオットは知る由もない。

 アカツキは、あったはずの手札を目の前で捨ててこそ、最大のブラフになる、と考えていることも。

 スラム街の避難民全てに《部分憑依》が事前に掛けられていたことを、彼が知っていることも。

 そして数千の避難民から、不自然でない程度の魔力を徴収することによって、継戦能力を底上げしていたことも。

 命に支障がない範囲で魔力を徴収したとしても、あと数度は大魔術は放てるということも。

 

 そして、何より。

 目の前の敵が、己が殺したはずの敵である、アカツキ・ソウヤであることも。


「《ゼロ・オキシゲン》」


 真空へとクレーター内部は変貌する。

 彼は反応できなかった。


 大魔術を発動できる手札(こども)は既にいないと分かっていたがゆえに。

 決して負けるはずのない相棒が負けてしまったがゆえに。

 自らが地球で殺したはずの少年が、異世界で蘇ったがゆえに。

 三度の衝撃が、『瞬影』の脳裏を空白に染めた。

 

 アカツキは知っている。

 彼自身が戦闘で、何よりドイルとレリアのタッグが暴き出し、《部分憑依》を通じて伝えられたその弱点。

 ロンド・ウェリオットの超速は、自らの足で初速を稼がない限り、発動できない。


 時速〇・五キロに時速千キロを加算することはできても、時速〇キロには何も加算することはできない。

 当然ロンド自身もその弱点を把握しており、だからこそ彼の履く[ブーツ]には力場による足場を生成する能力が備わっている。

 

 しかしそれも完全な不意打ちで真空を展開されては発動までワンテンポ空く。

 超速の男の足は空を切る。

 幾つもの想定外によって、その男から超速は剥がれ落ちた。



 アカツキはそれ見逃さない。

 発動するは、彼の『ユニーク・アワード』

 その名を『貪獣の顎門』。

 最高レベルの相性によって、他者の命を貪欲に貪る漆黒の力が、ドーム状に広がって――。

 

「っが!」

「ここで――」


 ――いきはしない。

 瓦礫の山から引き抜かれた一振りの刀へとその力は注ぎ込まれる。

 高速機動の妨げとなるがゆえに、そして最後まで伏せておくために、彼はその刀をそこへ潜ませておいた。

 何よりこれだけが唯一、【災異能力者】に届きうる手札であるがゆえに。


「――消えろ!!」


 漆黒のドームよりもなお、色濃い漆黒が刀身から迸った。

 吸命の牙が、超速の男の命を貪り、喰らう。


「ぁああああぁぁぁ…………」


 中空にて、もはや逃れる術無し。

 超速の男は血を失い干からびて、

 皮を失い肉を出し。

 肉を失い骨を晒し。

 最後は塵も残りはせず。

 それが、『瞬影』ロンドと、ソウヤ・アカツキの決着だった。


 そして。

 そんな彼の耳朶を、荘厳な破砕音が打つ。


「【結界】を、壊したか」



 □



 そして。

 アカツキはクレーター最深部。

 何人の視界にも映らぬ場所で、一人座り込んでいた。

 二十レベル以上を消費してしまったがゆえに、指一つ動かすこともままならぬほどの倦怠感が体を取り巻いているのだ。

 そのに現れたのは、黒フードを目深に被った、一人の男。

 

「よう。何とか勝てたみたいだな」

「………………」

「そんな顔で見るなよ。傷つくじゃないか」

「…………答え合わせをしようか」

「そうだな。そっちの方がいいだろう。俺は何か。その答えはすでに分かってんだろう? だからあの合図を正確に受け取れた。そしてお前は《憑依体》の内もう一体を王城の地下に寄越した。この様子じゃ、倉庫に用意しておいた爆弾も上手く使ったみたいだな」


 アカツキは答えない。

 彼の眼には敵意はない。

 しかしそれでも確かな怒りが浮かんでいる。


「ま、諸々の解説は答え合わせが終わってからだ。それじゃあ、聞こうか。俺は何者か」

「お前は」


 アカツキは一度言葉を区切った。

 今までこの世界に降り立ってから感じた全ての違和感を説明づけ、この騒乱をこうも旨く解決に導いた。

 その核心を。












「お前は、俺だ」


 何人も予想しえなかった。

 その現実を。

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