第三章 第一話 『災』典の幕開け
飛び交う怒号、響き渡る悲鳴、どこからともなく聞こえる瓦礫の崩落音。
ビットー王国の心臓部、王都バルレシアはその中心にそびえ立つ王城が半壊したことによって、突如として混迷に包まれた。
その中で冷静さを保ちながらも、強い焦燥を覚える者たちがいた。
アカツキと『疾風の剣』、そして《勇者》と《至天職》の少女の一行だ。
「くっそ、街中から悲鳴が聞こえるぞ!」
「パニック状態、落ち着かせなくちゃ……!」
「早く助けに行かないと……!」
「人が多すぎて、敵の姿が見えない……!」
響き渡る悲劇の残滓に怒りを覚えながらも、救助と排除のために武器に手をかけるドイル、レリア、リーナ、クリス。
しかし逃げ惑う王国民に視界を遮られて、状況把握は困難だった。
『アリッサの人倒し』――地球での将棋倒しと同様の意味の言葉、類似の悲劇に由来している――が起こるほどではないが、ちらほらぶつかり、転び、踏まれている人々の様子も確認できた。
「やばいね、鳥たちと視覚共有してみたけど、王都全域がこんな感じだよ。しかも王城付近では戦闘が起きているみたいだ」
「都市一つを覆うほどの結界、恐らく【構築型】でしょう。魔力切れによる自然解除は視野に入れない方が良さそうですね。規模と今現在の体調からして、結界内部に干渉するタイプではなく、出入りなどの接触に関してのみ効力を発揮するタイプなのでしょう」
「この規模、恐らく『神権教団』の大半がこの王都に集結していると見ていいわね。各員!」
その顔に焦燥を浮かべながらも冷静な分析と観察を行ったテッター、ロン、アカリ。
アカリの呼びかけによって、全員が一気に意識を集中させる。
「既に敵組織からの攻撃は始まっているわ! 我々単独では解決は不可能、現地の戦力と共同戦線を図り、人命救助、敵組織撃滅を開始する! まずはテッター、ロン、冒険者ギルドに向かって、情報提供および、救助のためのチームアップを行ってちょうだい。顔なじみに言えばすぐに通るはずよ。王都の捜査官にはこっちから連絡しておくわ」
「「了解!」」
背筋をピシリと伸ばして、返事をする二人。
潜入捜査官として二年以上この王国を拠点にしてきた彼らには、その手腕と年月相応しい人脈を手にしていた。
それを活用すれば、スムーズな情報共有が行われるだろう。
「次いでクリス。 《至天職》として王族と王城内の人員と渡りをつけてちょうだい。頼めるかしら」
「任せて。あの人たちのことだから既に避難民の受け入れを開始していると思うけれど、それでも相手が《探究者》っていうことは知らないだろうから、そこも含めてきちんと伝えるよ」
「ありがとう。私とリーナは聖騎士団に行くわ。今回の事件、『聖人教会』の《治癒術師》は王国民の生命線よ。彼らの適切な動きが死者数に直結するわ」
「はい!」
「最後にレリア、ドイル、アカツキ! 王都内各所を巡って、人命救助と調査をお願い。これだけの規模とリソースを投入してきた以上、今までの『浄化』とは異なる目的がある可能性が高いわ。アカツキの《部分憑依》を用いて、相互の連絡を取れるかしら」
『了解!』
明確な指示を与えられたことで、この場にいる皆の瞳が炎を宿す。
横暴の限りを尽くす敵に決して退くことはなく、その脅威にさらされる人々を守り助けるという、強い意志が熱量すら伴って、彼らに共有された。
「最後に、敵の【災異能力者】を発見した際は必ず観察に徹すること。『教団』最高幹部の【ゼノギフト】は概要程度しか明らかになっていないわ。その詳細を暴かずして勝つことは――」
「俺らに勝つだと? 随分温いこと言ってんな」
声色に煮えたぎるかのような敵意と殺意、そしてそれ以上の侮蔑があった。
その声を発した男は、街門の上に立っていた。
いつ現れたかは分からない。少なくとも全員の警戒を嘲笑うかのように、その男の存在を知覚することができたのは、声を発した後だった。
「まさか……、お前はッ!」
「『瞬影』!」
「お前らみたいな背教者共にも、俺の異名は伝わっているみたいだな」
かつてアカツキの心の臓を貫いた、超速の男がそこに立っていた。




