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リコメディント・スカイ  作者: ポテッ党
序章 踏み出した第一歩
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序章 第四話 ワールド・トーナメント・アンダー15 予選 後半戦

 火球が連射される。

 コンクリートの地面に着弾し、粘ついた炎が広がる。それらに足を取られる直前に、アカツキは跳躍。

 そこに声が飛ぶ。


「今だ! 空中なら身動きが取れない! 畳み掛け、ギッ」


 アカツキの礫の投擲によって、指令役の参加者が退場(転移)を余儀なくされる。

 しかしその場に残った他の参加者たちは自らの役目を果たすべく、その身に宿る【ゼノギフト】を猛らせる。

 ある者は手のひらから火球を、ある者は氷柱を、ある者は手に持つ銃型の【ゼノギフト】から酸を。

 多種多様な攻撃が彼を目掛けて中空を駆ける。

 しかし、既にそこに彼は居ない。手に持った鉤縄で、既に建物の中に逃げ込んでいるからだ。


「ふぅ。森林一辺倒じゃなくてよかったぜ。ていうかこの建物って、この大会のためにわざわざ建てたんだよな」

 

 【ゼノギフト】とは戦闘のための能力ではない。治療はもちろん、生産などの多種多様な分野に長けた【ゼノギフト】が今日も人類の身に発現しているだろう。

 むしろそういった非戦闘系の【ゼノギフト】があったこそ、第三次世界大戦後の荒廃を生き延びることができたとすら言える。


 そういった【ゼノギフト】によって建築されたであろう建物内部に逃げ込んだアカツキは、プレートを見て時間を確認する。


「それにしても残り一時間か。んで現在のポイントが572。このまま逃げ切れば間違いなく本選に出場できる」


 あらかじめ一人一ポイント与えられており、他の参加者を倒すことによってそのポイントを手にすることができる。

 彼の獲得したポイントは参加者千人の保有している合計千ポイントの半分。つまり本選に出場の確定チケットである。

 アカツキ以外にも他の参加者を狩った者がいる以上、一概には言えないが、それでもこのⅮブロックの半数近くを既に撃破している。

 それでも敵の襲撃が途切れることはない。

 彼のいる廊下のガラスが割れ、獣めいた少女が飛び込んでくる。


「悪く思うなよ。アンタを倒さなきゃ、本選への道は開けないんだ」

「悪いなんて思わないさ。数を組むのも立派な戦術だろう」


 人型でありながら、眼前の少女は四肢を打ちっ放しのコンクリートに突き立てた。

 直後に二手二足は四足へと変貌し、その手足の筋骨は膨張する。


(来る)


 砲弾のような跳躍。

 恐らく少女は【内界改変(インナーチェンジ)】の中ではポピュラーな部類の【獣化型】である。問題はどんな生物へと身体構造を改変しているか。

 

(虎だな。等級は【変異能力者(ステージ3)】。『内気法』ありでも、一発喰らえば即退場)


 顔目掛けて振るわれるその拳を鋭利な爪が彩り、拳打を爪撃へと昇華させる。

 当たれば顔の厚みを半分は持っていけるソレをアカツキは仰け反って(スウェーバッグ)で回避。

 重心が後ろにずれたことによる停滞を狙った追撃の拳を、仰け反った姿勢のまま全力で膝を折り曲げてさらに下へと潜り、上体の上を空振らせる。


「なっ!」


 『内気法』の猛り(ギア)を一段上へ。両手を床に着き、全身のバネを両足から出力。狙い過たず虎の少女の顎に突き刺さる。

 

「がっ!」


 脳が揺れ、意識は消え、少女は敗退する。しかしそこへと追撃がやってくる。


「いたぞ! 逃がすな!」「囲め、囲め!」「畳み掛けろ!」

「悪いが逃げさせてもらうぞ」


 彼の手から零れ落ちたのは、スタングレネード。

 閃光と轟音によって、相手の知覚を封じるモノである。

 その場にいた子供たちがその衝撃から視界と聴覚を取り戻すころには、既にアカツキの姿は消え去っていた。


「クッソ! 何処に行きやがった――」


 悲鳴が聞こえた。

 そう遠くはない。

 この建物にいる全ての参加者は、アカツキを倒すまでの共同戦線が張られている。

 ならばその悲鳴の出どころは――。


「まさか、あの野郎、遮蔽物の多いここに誘い込んだのか!?」

「感知系は!?」

「全員アイツにやられました!」

「クッソ! 俺たちは奴にはめられたってことか!」

「何言ってんだ! こんなに数がいるんだぞ! 全員でかかればどうとでもなるはずだ!!」

「そうだ! その通りだ! 行くぞ! 何としてでもあの平民野郎をぶっ飛ばしてやれ!!」


 そう言って、気勢を上げる彼ら。その結末は――。



 □


 

『ソウヤ・アカツキ 615ポイント獲得。暫定一位。残り時間三十分』

「ふう。即席のチームアップで助かったぜ」


 ただ一人、森林に佇む少年によって示されていた。

 ここまで彼を狙い続けてきたのは全て集団だ。単に平民だから気に食わないという理由で徒党を組んでいた者もいれば、かつての大会で不戦敗ではあれど、準優勝したという事実に警戒を払ったという者もいた。

 しかしその誰もかれもが、彼を上回ることはなかった。


 理由はいくつかあれど、最大にして決して無視しえない物がある。

 どれだけ多くの人間がアカツキを攻めようとも、彼のポイントをもらい受けることができるのは結局一人だけということだ。

 どれだけの数を揃えて彼を取り囲もうとも、結局のところ彼から本選への切符(500ポイント以上)を勝ち取ることができるのはたった一人。

 アカツキが打倒された時点で、今度はその高得点を狙って争奪戦が始まる。


 彼らはアカツキを倒したいという利害を一致することができても、このバトルロイヤルに生き残るという目的を揃えることはできないのだ。

 アカツキは、その隙を突いた。

 ポイントを獲得しようと功を焦ったの者を一対一に誘き出して撃破し、逆に相手の攻撃に身を晒したように見せかけることで、ポイント移譲が行われたと見せかけて同士討ちを誘発させる。

 どれだけ数がいたとしても、これでは多ければ多いほど足かせになっていくだけだ。


 大小二十を超えるグループをそうした隙を突き、隠密からの不意打ちを駆使し、時には他のグループと鉢合わせて漁夫の利を狙い、時には真っ向から打ち破ることによって、彼は大会参加者の六割を撃破することに成功していた。

 後はもう、逃げるだけだ。過半数以上のポイントを取ったということは、本選への出場が確定したということに他ならない。

 『内気法』による機動力と隠密技術を駆使すれば、残り三十分を逃げ切ることなど容易いだろう。


「よお、ソウヤ・アカツキ」

「何だ、一人で来たのか」


 しかし彼はそうしなかった。

 なぜなら自分以外にも、|光の柱を立ち昇らせた《百ポイント以上を獲得した》者がこちらに向かっているからだ。

 光の柱は十分おきに十秒間だけ立ち昇る。

 その十秒間の間に、彼は明確にアカツキの居場所目掛けて駆けていた。

 それはこのバトルロイヤルが始まる前に、彼に真っ向から喧嘩を売った者。


「別に他の連中みたいに徒党を組んでくれても構わなかったんだけど」

一対一(サシ)でやらねぇと、お前に勝ったことにならねぇだろうが」

「ここじゃあ、その一対一も難しいんじゃないか? 漁夫の利を狙うような奴もいるだろうからさ」


 この言葉に意味はない。

 精々相手に他の参加者への警戒を促すことで意識のリソースを割かせる程度の狙いだ。

 しかし、その言葉の返事に、少年は大会参加者を示す腕輪型デバイスのホログラムで答えた。そこに表示されるのはこれまでの獲得ポイント数だ。

 その数値は――。


「385、か」

「安心しろ。他の相手なんじゃもうどこにもいねぇからよ」

「良いね。俺も全身全霊で受けて立とうじゃないか」


 ――既に二人の少年以外の何者も、この最終決戦に関与できないことを示していた。



 □



 ソウヤ・アカツキの『内気法』は、第三次世界大戦下の特異技術を端緒にした身体活性法である。

 第三次世界大戦において、それまでの国家間のイデオロギーの対立による戦争ではなく、異能力者と非能力者の生存競争の様相を呈していた。

 その当時においては圧倒的に少数派(マイノリティ)であった【異能力者】が差別に対抗する形で、彼らへの理不尽を強いた者たちへのテロを決行。

 それによってさらに世界各国の【異能力者】への憎悪感情が激化し、それに【異能力者】が反発し、それぞれの憎悪のスパイラルがエスカレートしていった結果、世界大戦の領域にまで到達してしまった。


 【異能力者】は強い。最も等級の低い【小異能力者(ステージ1)】であったとしても、拳銃並みの殺傷能力を有している(戦闘向きのモノに限るが)。

 更に等級が上がれば、核弾頭並みの破壊力と戦略的価値を有した【ゼノギフト】も存在していた。そういった理不尽な能力を誰もが持っているからこそ、人口比1:99という絶望的なまでの戦力差で拮抗できたと言える。


 しかし当時の非能力者たちも手をこまねいていたわけではない。

 新兵器の開発。敵の【異能力者】を解剖することによる【ゼノギフト】の機械的再現――これによってさらに【異能力者】との抗争が激化した。が、今日における【拡張機装】の源流でもある――などの特異技術が開発された。

 この潮流は、何も兵器に限った事ではない。

 【ゼノギフト】を人体の可能性と考えた者たちの中には、自らの肉体から全く別の力と格闘術を取り出した者もいる。

 アカツキはその過去の遺物を、自らの手で体系化し、その身で修めた。

 しかし――。


「糞が、ちょこまかと!」

「当たれば即敗北なんでね。悪いが存分にちょこまかとさせてもらうぜ!」


 敵である少年は全力で息を吸った。

 肺はありうるべかざるほどに膨張し、直後にその息吹がアカツキ目掛けて放たれる。

 それら暴風の全ては竜を形どり、寸前まで彼がいた場所を木々ごと噛み砕いていく。

 後に残るのは切り株とすら呼べない、荒れ果てた大地だけだ。


(範囲は俺を飲み込めるレベル。射程もそれなり以上! 更に弾速もかなりのモノ! 本当に【変異能力者(ステージ3)】以下か!? どう考えても等級詐欺だろう!)


 既にバトルフィールドの一割近くは、目の前の少年の竜形の息吹によって更地へと変貌している。

 呼吸を【条件】として放たれているがゆえに、一拍以上のインターバルが存在し、だからこそアカツキは逃れることができていた。

 

 ――しかし、『内気法』とは決してノーリスクの『身体強化』技術ではない。

 内に宿る生命力を偏在させ、加速させ、そうすることによって肉体機能を強化する技術であることには、変わりない。が、だからこそ、アカツキは消耗を強いられている。

 通常よりも速く、そして大きく生命力というエネルギーを流された筋繊維は当然それに見合った負荷がかかる。

 もしバランスを間違えて生命力の流量の調整を見誤ったら、強化されすぎた身体能力によって四肢が破断してしまうかもしれない。


 それ以前に、生命力を消耗しすぎれば、ろくに身動きが取れない瞬間もやってくる。

 これまでの連戦によって、その限界が遠くないことを彼は正しく認識していた。


(このレベルの『内気法』は、持って三分。ここからほんの少しでもギアを下げれば、相手の攻撃は避けられない)


 このバトルロイヤルは、どれだけ高いポイントを手にしていたとしても、制限時間まで生きのこらなければ意味はない。

 アカツキは単に戦術的合理性にのみ目を向けるのならば、逃げるべきだったのだ。自分と同様に、しかし自分よりももっと強引に、『数の利』を上回った『個の高み』から。

 アカツキの隠密技術であれば、【竜の息吹】の射程に入ることすらなく、ひたすら逃げ回るということもできただろう。

 しかしそうはしなかった。

 その理由は驚くほどシンプルなモノだ。


「どうした、【ゼノギフト】を失った程度で、手も足も出ないってか!?」

「そっちこそ、無能力者相手にかすりもしていないじゃないか!」


 戦場は荒らされ果てた森から、アカツキが先ほどまでいた建物へ。

 鉤縄で窓から侵入したアカツキとは対照的に、少年は建物の敷地外にてとどまった。

 そして大きく息を吐いて、大きく、長く、息を吸った。


「これがお前に負けてからの三年間、死に物狂いで鍛えた、俺の【奥技】だ!! 【人の吐息を竜の息吹へ(ドラゴニック・ブレス)】!!」


 放たれた竜は、横倒しの竜巻の如く。

 渦巻き、食い尽くし、暴風は極限の高みへ。

 竜形の息吹を放つ彼の【外界作用】は、眼前の建物の過半を削り取った。地形すら変えかねない暴威であり、あとほんの少しでも成長していれば、大会への参加者からは外れていただろう。

 即ち、このワールド・トーナメントにおいて、最強クラスの一撃であった。

 舞う砂塵を気にせず、少年は力尽きたかのように荒い呼吸を繰り返す。


「はぁ、はぁ」


 限界だった。

 肺活量に比例して、その威力と範囲を向上させられる彼の【ゼノギフト】は、魔力の消費以上に、身体的疲労という限界があった。

 通常の人間は、何百回と全力と呼吸することはできない。

 一日も欠かすことなく肺活量を鍛え上げた少年とて、二百かそこらが限界値。

 だからこそ、収まった砂塵から歩み出てきた彼を見て、少年は全力で大地に拳を叩きつけた。


「糞がッ! なんでだ! 俺はお前なんかに二度も負けなきゃならねぇ!! 俺は貴族なんだぞ! 平民なんざに負けるわけにはいかねぇんだ!! しかも【ゼノギフト】なしでこの大会に参加するような!! 舐め腐った野郎に!!」


 涙すら流しながら、少年はがなり立てる。

 それに対して、彼が投げかけた言葉はシンプルだ。


「ハリオ・ヤツキだったな。お前の名前は」

「な、何で俺の名前を…………」


 この予選において、参加者の名前が明確に明らかになることはない。

 そして、彼もアカツキに名乗ってはいない。


「知っているさ。三年前に戦ったやつの中でも、お前は飛び切り強かったからな。俺で予選とぶち当たらなければ、間違いなく本選に進んでいただろう」

「そ、そうだ! お前さえいなければ、俺は、俺は…………!」


 嫉妬と羨望を涙と共に溢れさせる少年を、アカツキは一言で切って捨てた。


「甘いぜ。俺一人に勝てたところで、お前はこの大会を勝ち抜けない」

「俺の何を知っているって「お前の【ゼノギフト】のインターバルは平均五秒。呼吸量によって上下して上限は二十秒、下限は一秒。しかし必ず【竜】を打ち出すには直前に息を吸わなければならない。打ち出された竜の持続時間もこれまた吐息の量に比例して、最大二十秒、最短二秒。そして息吹の竜は大小を問わず、ある程度の追尾能力を備えている。といっても対象に向かって軌道修正をするだけで障害物を避けたりはしない」

「な、何を」

「どの数値も、三年前から大幅に向上している。相当な修練の賜物だ。【ゼノギフト】単体でいうならば同年代でも指折りだろう。前回大会優勝者のエイトルド・バルファロンだって、無策で喰らい続ければ敗北は必至だ」

「何でお前は、そこまで知って……」

「研究したからさ、対戦相手のことはほとんど、な」


 アカツキは静かに語る。

 

「俺は弱い。『内気法』の強化度合は精々【小異能力者(ステージ1)】程度。これ単体で勝ち上がるのはほぼ不可能だ。だからそれ以外の勝ち筋を探し求めた。【ゼノギフト】に依らない、純粋な戦闘技術はもちろん、相手の情報もな。さっきお前は、俺に舐め腐っているっていただろう? 舐めてるのはお前だ。俺は、この大会に出ている人間を、一度も過小評価したことはない。お前と違って」

「…………」

「それで、どうする。この予選で俺のデータは集まっただろう? 本選でリベンジするか?」


 予選から本選に行けるのは二名までだ。

 保有ポイントを抜きにしても、既に他の参加者がいないこのⅮブロックでは彼らの出場は確定だ。しかしハリオは首を横に振った。


「いい。もっと根本的に鍛え直す」

「そうか。じゃあ、次の機会を心底楽しみに待ってるぜ」


 そうしてハリオはアカツキの拳を受け入れ、退場(てんい)する。



 □



 彼が降り立ったのは、敗退者専用のスペースだった。

 傷や疲労感は癒えている。あの【結界】内部での致命傷を無効化すると同時に、そこから出た者の傷を全て癒すのだ。

 だから自分の内側にわだかまる疲労感は、全て精神的なモノだ。

 そして、同じ心の裡にあるどこか晴れやかな気持ちも。

 

 完敗だった。

 自分以上の集団を相手にして、尚も勝ち抜き、その消耗を抱えながらも、真っ向から勝負を行って、自分に勝った。 

 【ゼノギフト】あるなしなんかじゃない。もっと根本的なところで負けた。

 それを認識できる程度には、彼には才能があった。

 そう認識できる程度には、彼は努力してきた。

 何より強さに真摯だった。


「次は、ぜってー勝つ…………!!」


 涙をぬぐって彼は立ち上がり、歩き出す。

 自らの宿敵の姿を目に焼き付け、次なる勝利の糧とするために。


 

 ソウヤ・アカツキ、本選出場決定。

次話を二十一時に掲載いたします。

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