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リコメディント・スカイ  作者: ポテッ党
第一章 勇者との邂逅
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第一章 第五話 潤んだ瞳

「クゥーン……」

「参ったな、そんな目で見つめないでくれよ」


 困り顔の衛兵を全力で見つめる狼。

 潤んだ瞳と、垂れ下がった尻尾、折れた耳で全力で悲壮感を醸し出す。


「ごめんなさい、昨日のあれで私から離れようとしなくなってしまいまして……」

「ああ。その節は本当に申し訳ないことを。せっかく我々を助けていただいたというのに、うちの子らがあんな仕打ちをこの子にしちまいまして……」

「クゥゥゥーーーーン……」


 なっさけない鳴き声を出しながら、変わらず見つめ続ける。


「絶対他の方のご迷惑にはなりませんから。お願いします!」

「…………わっかりました! 勇者様の御頼みとあらば、聖者様方もお許しいただけるでしょう! うちの子も随分この子に迷惑をかけたみたいですからね」

「ありがとうございます!」

「ガウ」


 ぺこりと頭を下げる一人と一匹に苦笑いしながら両開きのドアを開ける衛兵。


「行きましょ、アカツキさん」

「ワフ」


 リーナの声に連れたって扉を開けると、粛然とした雰囲気が彼らを取り囲む。

 礼拝堂のように横長で木製の椅子がずらりと並び、そこに座る幾人かの人々は一心に祈りをささげているように見える。

 だが実際には自らに授けられる力であり、生活基盤ともなる《ジョブ》を吟味しているのだ。


「(あの席にしましょう)」


 声を落として咳を指差す少女に倣い、椅子に飛び乗ってお座りの姿勢を取る狼。

 後は目を閉じれば、ジョブを選択する場所へと行ける。

 場所と言っても《転移》が行われるわけではなく、意識だけをその空間に飛ばすのである。


(果たして今の俺は、ジョブに就けるかな? お、行けた)


 真っ白な空間に彼の意識はあった。

 見上げても、見下ろしても、見回しても、ただひたすらに白。

 奥行も天井もそれどころか床に立っているのかも曖昧で、しかし確かな空間に彼は居た。

 ちなみに、しっかり人間の姿である。

 そしてそこに在るのは彼だけではない。

 

「これがジョブ・ウィンドウか」


 半透明の板が何にも支えられることなく浮遊している。

 そこに手を触れると、どこかで聞いたような声がアナウンスを開始した。


『あなたの現在のジョブ枠は3。選択可能なジョブは12です』

「俺の声だな。……よかった、狼の鳴き声とかにならなくて」


 そんなこんなでお目当てのジョブを探すべく、指でスクロールする。

 一万年前から存在しているという古代遺物だというのに、やたら現代的な操作をしながらざっと見渡して、ため息をつく。


「はあ。近接職は皆無か。まあ今の俺に手はないからなぁ。いや、もう少しコブリンとかで『実績』を積んだらいけたか?」


 ジョブに就くにあたって、必要なモノは二つ。

 『実績』と『適性』である。

 『実績』とはジョブに関わる経験を積むことだ。例えば《剣士》に就きたいのならば、素振りをしたり、実際にモンスターを対応した武器で倒したり。《魔術師》に就きたいのならば、魔力を練ったり放ったり。

 そんな感じで予め経験を積むことで、このウィンドウに表示され就くことが可能となる。

 より上位の《ジョブ》となれば、さらに困難かつ難解な『実績』――ドラゴンを狩る――などが要求されるが、今の彼はにさして関係はないだろう。


 二つ目の『適性』はそのまま才能である。

 これが十分にあれば『実績』が皆無でもここに表示され、逆にこれがないと人の何倍もの『実績』を積む必要性が出てくる。

 極端な者の中には、常人の限界点である《最上級職》をも超える力を授けるジョブの頂点。《至天職》に、種族レベル1、つまり生まれたての段階で就く者だって存在する。


「俺にそんな極端な才能はなかったみたい……、ん? 何だこれは」


 俺の目に留まったのは《生霊術師(ライフ・マンサー)》。

 何とびっくり中級職である。

 他にも《雷光術師》という、雷属性魔術特化の中級職が存在していたが、それは【ゼノギフト】の名残なので、さしたる違和感はない。

 このように《ゼノギフト》の種類――風を扱うモノならば、風系統の《ジョブ》など――に応じてジョブ適性が拡張されることもある。


 しかし《生霊術師》は違う。

 彼の記憶にもその名はなく、そのジョブの力は摩訶不思議だった。


「ふむふむ。《憑依》の習得を人間にも可能とし、なおかつソレをより高次の《スキル》に昇華。そのうえ生命力を能動的に扱うことで、アンデッドの俺でも治癒魔術めいた技を行使可能と。一つはこれで決まりだな」


 当然初級職よりも、中級職の方が能力値への補正やスキル習得への補正が格段にいい。

 何よりも治癒魔術が行使可能。これで《憑依》中に大ダメージを受けて離脱できなかった時でも文字通りのリカバリーが効く。

 『内気法』による治療はやたら時間がかかるし、集中力も必要だから戦闘中には使えないということを考えれば、このジョブは自らの生命線となり得るだろう。

 そう考えた少年は迷いなくそのウィンドウをタップ。 


「あとは……、《雷光術師》はなしだな。雷属性に特化しているよりも、全属性をある程度扱える《魔術師》の方が応用が利きそうだし。今回は《魔術師》とこれにしとくか」


 手早くジョブをタップして付属の解説を読み終えた少年は、迷わず就職。

 白い世界を離脱するのだった。



 □



『生霊術師』中級

生命力と霊体の操作に特化したジョブ。

このジョブを用いることで生者でも幽体離脱などが可能となる。

HP MP MGIに補正。


『魔術師』初級

基礎的な魔術を行使可能となるジョブ。

大半の属性、大半の術式を網羅しているが、それを行使できるかは当人の努力と『適性』次第。

MP MGIに補正。


『守護霊』初級

《憑依》している際に、対象の能力値に補正を掛けるスキルを習得可能となる。

《憑依》行使可能な者にのみ就職可能。

MP MGIに補正。



 □



『《憑依:範囲化》《部分憑依:念話・魔力交換》を獲得しました』


 目を開けて隣を見れば、変わらず目を閉じたままのリーナがいた。

 まだ選んでいるのだろうと考えた少年は、自らが得た能力に対する考察を深めていく。

 

 『学院』では一通りの《ジョブ》《スキル》《アビリティ》に関しての情報がまとめられておる、そこに記されている物はすべて少年の頭の中に入っている。

 無論それは『イグノーテラ』に存在する全ての《ジョブ》を網羅しているわけではない。

 彼が先ほど就職した《生霊術師》もその一つだ。


(それにしてもどうしていきなり中級職に? 十中八九、死霊になった影響だと思うけど……、これ生者専用の《ジョブ》だよな? 幽体離脱ってことは肉体がしっかりあるってことだし)


 死者専用のジョブがあるのかと聞かれれば、実はあるのだ。

 それが先ほど彼のついた《守護霊》である。

 厳密には《憑依》が可能な者にのみ開放されるジョブだが、実質的に死者専用となっている。

 ちなみにこの職業に就いているのは『魔術連合』の高位魔術師たちと噂されている。

 

 この世界の《ジョブ》は非常に多種多様だ。

 獣人族、森人族などの種族限定ジョブはほんの序の口。

 先ほどのような死者専用の者もあれば、この世界における屈指の生命体と名高いドラゴン専用ジョブまである。

 極め付きに、就くことで種族が変わるジョブまで存在するのだ。


 そんなハローワークもびっくりの間口の広さを誇る『モノリス』が、死者である自分に、恐らく生者用の物と思わしきジョブを与えるのだろうか?

 そんな疑問を脳内に浮かべていると、少女がぱっちりと目を開ける。

 

「あ、お待たせしました。行きましょっか」

「ガウ」


 そう言って勢いよく立ち上がる少女にどことなく不自然さを覚えた。

 何かを振り払うように大げさに、けれど音は立てない程度に歩き出す少女の背中は、どことなく物悲しさが漂っている。

 

(とりあえずこれらの不自然さは、頭の片隅に留めておくか)


 テクテクと彼女の後をついて、冒険者たちとの待ち合わせ場所に向かう。


「お、勇者様がお着きになったぞ」

「お待たせしまいましたか?」

「いえ、待ち合わせまであと十分近くあります」

「ごめんなさいね。勇者様にこんなことをたのんでしまって」

「いえいえ! リーナで大丈夫です。冒険者としては皆様の後輩なので……」

「よろしく頼む、リーナ!」


 口々に言葉を交わす『疾風の剣』の面々。

 C級ともなれば、冒険者としては上位の強さであり、実質的な主力となる。

 さすがに精鋭のB級、英雄のA級、天災のS級には及ばずとも、十二分に実力者である。


「行商人が消息を絶っているのは、西のゼシリアとつながっている街道の近くにある平原よ。かなり強いモンスターの縄張りだから冒険者もあまり近寄らないんだけど、その縄張りの主も基本的にそこから出てこないから、相互不干渉がこの国で決められているの。近くのコブリンの集落も、定期的にそのモンスターが襲撃していくれることでほとんど人間への被害がないし」

「たぶんあの《探究者》共が『オオトカゲ』に余計なちょっかいをかけたんだろうね。そんで自分らは死んでとんずらだ。やってられないよ」

「憶測で人を非難してはいけませんよ、テッター」


 そう言って従魔師らしき少年をたしなめる神官にも、それほど強い非難の色はない。

 

(ビットー王国は反《探究者》が主流か……)


 百年前に突如現れた、規格外の力を行使する彼らがこの世界にもたらしたのは恩恵ばかりではない。

 『神権派』のように『イグノーテラ』の人々を害すること自体が目的の者は少ないが、自身の利益のためにこの世界で暗躍する犯罪者も存在している。


 そうでなくともこの世界では不死身であるからか、この世界に住まう人々を見下し、平然と侮蔑の言葉を吐く者もいる。

 逆に不死身であり、《ゼノギフト》という特異能力を行使することへの妬みや恐れを持つ人々も『イグノーテラ』の中にはいる。

 ここ十年は地球全体を統治している統括政府の敷いた法と、《探究者》達によって構成され、ここ十年で五大勢力に数えられるほどになった『保安機構』によって、ある程度は秩序が保たれている。

 だが、この国の人々のように、《探究者》達全体を疎んでいる者たちも少なくない。


「そんなことより、本当にいいのか? 一人でそんな危険地帯に飛び込んでいくなんて」

「大丈夫です! 偵察するだけですし、このひ、この子の鼻と耳があれば、大抵のモンスターはやり過ごすことができますから!」

「ガウ」 

「そうか……。よし、よろしく頼む、リーナ!」

「これだけの大量発生、原因の特定はなるべく早い方が良さそうだからね。僕たちの仕事を押し付けてごめんね、勇者様」

「もし何かあれば、昨日同期させておいた冒険者のプレートを通じてこちらと連絡を取ってください。すぐに他の村に配属された者達と一緒に駆け付けます」

「ありがとうございます! それじゃあ、行ってきます!」


 狼姿の少年と少女は駆け出していく。

 彼は自分の夢のために。

 彼女は何かから逃げるように。


《ジョブ》


主な効能は、能力値向上及びその方向性の限定、《スキル》習得難易度の緩和、《アビリティ》発現確率の向上。

《ジョブ》についていない状態でも種族レベルを向上させることは可能だが、無職の状態でモンスターを抹殺するのは現実的とは言い難く、取得できる経験値も《ジョブ》に就いている際と比べれば雲泥の差がある。

なので基本的にどんなテラリアンも、一つは《ジョブ》を保有している。



《ジョブ》の等級


初級から始まり、中級、上級、最上級、至天職となっている。

基本的に前提となる初級職を取得し、その職業レベルを上限である五十まで上げることによって、その上の等級のジョブに就くことができる。


例 初級《剣士》→中級《熟練剣士》→上級《剣豪》


前提ジョブが複数存在する《ジョブ》も存在する。


例 初級《剣士》&《魔術師》→中級《魔法剣士》



職業レベル


基本的にジョブレベルの上限は等級を問わず五十。例外は《勇者》と《至天職》のみ。この二つに上限は存在しない。

上位の等級になるほど上げづらくなる。

そして上限まで上げきなければ、そのジョブ枠を切り替えることはできない。



《ジョブ》枠


《ジョブ》に付くための霊的接続端子。

この枠は種族レベルの向上によって増える。

レベル三百までは百刻み、それ以降は百五十毎に一つずつ増えていく。


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