第八話
緊張の糸が切れ、その場に座り込む兵士達。じっと男性を見ていた。
馬車が開いた。
「国王様。まだ危険です」
反射的に仲間達は、立ち上がる。プラッカー国王が地面に降り立ち、男性の方へ体を向けた。
「国王様」
そこへ、馬車から一人の若い男性が降りてきた。すぐに国王の横に並ぶ。
「まだ馬車にいた方が」
「いや、あの男がロングソードをしまった。ここは安全だ」
若い貴族は少し躊躇を見せたが、その男性に近寄った。
「魔物からプラッカー国王を助けて頂き、礼を言おう。名を教えてくれ」
男性は、何事もなかったかのように、その場から去ろうとした。駆け寄ってきたオルスは、その行動に驚かされた。
「私の名前はウラシュ。プラッカー王国の軍事最高指揮官だ」
男性の動きが一瞬止まったが、また歩き出した。
「あなたの名前を教えてくれ。どこに住んでいる。あとで、正式に謝礼を与える。おい、聞いているのか。無礼だぞ!」
ウラシュは近寄り、男性の肩を掴もうとした。だが、男性はくるりと反転し、ウラシュの手を掴んだ。そのまま軽くひねりあげる。同時に、片足を蹴った。ウラシュのは腕をひねり上げたまま、尻餅をつく。
「おい!」
オルスは駆け出し、ひねり上げている男性の腕を掴もうとした。だが、反対の手で逆に捕まれた。咄嗟に、オルスも手で掴もうとした。
男性の足が、オルスの足の甲に乗った。身動きが取れない。オルスは、拳を固く握りしめ、鳩尾めがけて殴ろうとした。その瞬間、前蹴りで吹き飛ばされた。
「クソ!」
すぐに立ち上がり、殴りかかろうとした。目の前に、剣先があった。オルスの体は固まった。
「やめろ。お前たちが勝てる相手ではない。お前の気持ちはわかった。もう去ってよい」
男性はロングソードを鞘にしまい、国王やオルス達に背を向け、去って行く。
「あいつには手を出すな」
「誰なのですか?」
国王はしばし、男性の背中を見つめながら、
「勇者だ。十五年前、もう一人の仲間、賢者と一緒に魔王と戦った男。さあ、帰るぞ」
その言葉に、周りの兵士達はすぐに行動を取った。仲間の遺体を端に移動する者。バードで城に報告をする者。魔法を使い、怪我の治療をする者。
「おい、オルス」
テッドの呼ぶ声に、ハッと我に返った。
「仲間の遺体を、一緒に運ぶぞ」
「ああ」
そうは言ったものの、勇者の去っていく姿を見てしまう。
「強いな」
オルスの口から、自然とこぼれ出た。少し見上げる。山間の中に、ぽつんと一軒の小屋が見えた。オルスはその小屋を、じっと見ていた。
勇者が登場しました。ですが、この態度。理由は次回以降でわかります。
もったいぶりますよ。
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