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寝具

「なぁエミリー君?俺は『新しいベッドが欲しい』って言ったんだよ?覚えてる?」

「はい……」


 おや?声が小さいぞエミリー君?いつものテンションできなさい?お母さん怒らないから?


「イメージアップの為に俺はわざわざ名指しでノドンに外注を頼んでオーダーメイドのベッドを作ってくれるよう頼んだわけだよ?」

「はい…」


 なんだ?さっきよりも声が小さいぞ?


「俺はしっかりと要望を書いた紙を君に渡して、それを君はちゃんと受け取った訳だね?」

「はぃ…」


 もう尻尾の方も聞こえなくなった。重症だな。


「それが何で………………拘束具付きの半裸の女性になってるのかなぁあああああ!!!!!!?????しかもトリプル!!!なに!?新手のいじめ!?」

「……………………分かんないっす」


 わっかんないじゃねぇよ!何だってだよこんちきしょー!俺別に女性に飢えてる訳じゃないからな!何暖かい声援送ってくれてんの!?要らねーよこんな応援!


「しっかし軒並み美人で揃ってますね?そうそうこのレベルはいませんよ」

「確かに、歌劇の主演女優でもこのクラスは早々お目に掛かれないね。彼女たちも綺麗ではあるけど、多少は化粧で盛ってるからね?あ、君たち落ち着いて。僕たちは別段危害を加えるつもりはないから。ちょっとミジェロ君、その槍仕舞って」

「だからミジェ……あ、合ってるわ。ったく、獣人族と龍人族がいるってのにこっちが槍を仕舞うとか聞いた事ねーぞ」


 なーに呑気にくっちゃべってんだよミケ君?というかアルファ君キミ口説こうとしてない?そういうとこが女誑しって言われんだよこの人誑しが。って、んな事はどうでもよくて。


「あーもー……ったくどうすんだよこれ?お前責任とれよエミリー?」

「え!?こっちの責任!?」

「あったり前だろうが!返品……って訳では無いけど!俺が望んでたものとは違う内容だぞ!そりゃお前が責任もって事を対処しろよ!!」

「いや!なんでこうなったのかはこっちも知らねーよ!」

「ほんとかー?一応言っとくが嫌がらせで奴隷送ってきたんなら俺は今後お前の評価を最底辺に持ってきて一生其処から上げるつもりはないぞ?」

「まじだって!ちゃんとお前の書いた書類をベッドメーカーの奴に渡したんだっての!」


「…………ん?ベッドメーカーに渡した?」


 お?どうしたミケ君?なんか思い当たる節でも?


「おい?自称弟子。お前今王子のオーダー書いた紙かなんか持ってるか?」

「え?持ってますけど?」


 そう言ってエミリー君は紙を取り出した。どうやら俺のオーダーを書き記した紙みたいだな。一応俺も確認をば。


「ほらみろ。俺は変なこと書いてねーだろ?お前が悪くね?これ?」

「だから!」

「…………どっちもどっちって感じですね」

「んあ?なんだよミケ君?」

「ミジェロです。いいですか王子。世の中には隠語って言葉があるんですよ」

「隠語…………まさか」


 なんか嫌な予感。


故郷(ウチ)でもそういうのはよく耳にしましたよ。『ベッドを買い替えたい』とか『羽毛の枕がいい』とか『背の低いベッドにしてくれ』とか後は……『天幕が付いたベッドがいい』とか」

「……一応聞いとくがそれぞれの意味は?」


 なんか聞いても碌な答えが無さそうだけど。そう思ってるとミケ君がサクサク話を進めていく。


「『ベッド』はまんま奴隷の意味で、枕とかの『寝具』は奴隷の種族を指定していたりします。『羽毛の枕』の場合はハーピーですが、『毛皮の掛布団』は獣人族、『木々の香りがするアロマ』とかはエルフを指してる場合があります」

「なんでそういう所は小技が聞いてんだよ……」

「『性』というものは人に行動意欲を与えるものだよ。そこからその欲求を満たす為に人類は工夫を凝らして進化してきたんだ」


 アルファ君、多分それ関係ない。そんな人類学じみた思想はこの案件からは微塵も感じ取れないよ。感じ取れるのはオッサンのねばねばした体液と加齢臭だけだよ。


「いい風に言ってるけど要するにエロ爺どもがプライド保つために苦し紛れの言い訳考えただけだよね?アルファ君なんでもいい方向に持っていこうとするけどこれはさすがに猥談に抑えていいんじゃない?」

「というかあんな下卑た笑いとイカ臭い匂いが美談になったら世の中の出来事全部が美談ですよ。くっだらない」


 わーお荒んでるねぇミケ君?なんか嫌な思い出でもあった?


「つまり結論としてはエミリー君が悪いって事ね?ちゃんと責任とれよ?」

「いやいやいやいやいやいや!!!責任取れませんよ三人も!」

「つーかお前が居てなんでこんな事になったんだよ?普通経過観察なりなんなりするだろ?」

「え、えーっと……」


 ん?何だコイツ?急に目逸らしたな?


「おい、自称弟子、お前なんか隠してるだろ?」

「へ!?い、いえ何も隠してませんけど!?」

「言え」


 有無を言わさない睨みだな。モーリーさん譲りの鋭い眼光だ。


「…………う、うぅ……実は」

「実は?」

「…………オーダー受け取った後全部幹部の人に任せました」

「なるほどなぁ」


 どういうことミケ君?納得してないで教えてよ?


「どうしたのかねミケ君?何だって急に納得したの?俺にも教えろ」

「簡単な事ですよ。おそらく自称弟子の預けた寝具のオーダーを幹部の連中が深読みしたんじゃないですか?元々『ノドン』は奴隷売買が基本の組織でしたし、組織の風習が抜けきってない連中が多かったんじゃないですか?ましてや王族でも上玉の客になり得る客層の王子がオーダーですし、深読みして奴隷売買と勘違いしたとか」

「……あり得る話だね。僕も何回か王族の方に奴隷を勧められたし、あり得る話だよ」

「王族ってめんどくせ」

「王族代表がなんか言ってるよ」


 うるさいよミケ君。しっかし隠語か……どんな世界にもそう言うのってやっぱあるんだな……不正を隠すために生まれるから当然と言えば当然か。


「あ、あの……」

「んお?」

「ひ!す、すいません!!」

「あえ?」


 何だってんだ急に?話しかけてきたと思ったら引っ込みやがって。


「ちょっと王子何泣かせてるんですか?こんなところ見られたらロザリエ様に失望されますよ?」

「え?俺が悪いの?俺ただ受け答えしただけだぞミケ君?」

「ミジェロです。じゃあ王子の受け答えが相当悪かったんじゃないですか?受け答えだけで泣かれるって相当ですよ。ったく、しっかりしてください王子」

「何が何でも俺のせいにしたいって魂胆が見え見えだぞミケ君。後個人的にこの状況は泣かれていようといまいとロザリエさんに見られたら不味い状況に変わりはない」

「多分大丈夫じゃないですか?よくは知りませんけど、王族間じゃ妾くらい普通って聞きましたよ?」

「オレが気にすんだよ」


 分かってねーなミケ君は。ロザリエさんが許せても俺がロザリエさんに『他の女性がいる』と認識されるのが嫌なんだよ。空気読めミケ君。


「…………ねぇ二人とも、ちょっとこの子たちの話聞かない?」

「「あ」」


 忘れてた。










 え、今回これでオチ?


長引きそうなので分割

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