親父
「おいーっす親父。久しぶり、調子どう?」
「……………………おお、我が息子よ。生きておったか」
「死にかけが言うセリフじゃねぇな」
相変わらずだだっ広いベットだな。もう指一本動かせない癖に気取って大きいベット買っちゃってまー。こういうの確かキングサイズって言うんだっけ?前世だと見た事ねーから分かんねーんだよな。天幕もいつ触ってもサラサラでなんかキラキラしたビーズみたいなの入ってるし、絶対シルク的な高いやつだよ。
けど他の貴族と違ってセンスはいいな。あんまりガチャガチャ装飾がされてない感じが日本的というかなんというか。流石俺の親父。
どっかにメーカー書いてないかな?高級志向だから店のマークくらいあるだろ?
「我が息子よ。もう我の命は残り少ない」
「聞いた聞いた。それもう何回目だよ?そう言って俺が帰ってきた時に何回同じ姿勢で出迎えてる訳?そろそろ立ち上がって俺の頭撫でる位は出来るんじゃないの?」
「……すまんなぁ、息子よ。それに向かおうとする努力すら、起こすことが出来ん」
…………ガチだな。
「……で、どったの親父」
「すまんなぁ。すまん。本当に……すまん」
「いいからいいからそういうの。早く話し進めろって。こういう時間があるからアニメキャラの死ぬシーンって肝心な事言いそびれたりするんだよ。それに読者も親父の事そこまで興味ないから。興味あるの俺だけだし」
「……息子よ。お前は代々伝わる我が国の伝説を知っているか?」
「伝説?」
それはあれですか?前世における日本神話とかアダムとイブ的なヤツですか?まぁ建国に神話はセットだしな。
「知ってる知ってる。ガキの頃歌劇で見たの覚えるし、今も大体の内容ザッと言えるかも……ああいう神話のカッコよさは異世界共通だねー!いやー面白い」
「……では、生命の章は覚えているか?」
生命の章……結構序盤の奴だったよな?あの辺りからこの世界の神話って本格的に始まるし、結構覚えてるけど。感覚的に言うとイザナギ様、イザナミ様が出てきた位の感動があったよね。何で知ってんのかって?某スマホゲームに出てくんだろうが。
「あれでしょ?二柱の神が己の肉を使って種族を作り始めて、最初はスムーズに一ペア作る事が出来たけど段々片方の神様の創るペースが遅くなってって片方の神様が作る種族の方が多くなっちゃいましたーってヤツ?それで最終的に余った分の種族の結果がラミアとかマーメイドとかハーピィとかの女種族で、急いで作った結果ボロボロの形で出来上がったのがゴブリンとかオーガとかの男種族であるって話だろ?……結構覚えてたな」
碌な知識がねー。神話学なんて滅多な事で役に立たねーぞ。使えんのは身内同士のクイズ大会かTRPGくらいだよ!!それでは1D100でダイスロール。
「ホッホッホッホッホッホ……ヴェッホヴェッホ!!ヴェッホ!」
「おいおい死にかけが咳き込むなって!シャレになんねーから!!!」
おおおおい!なんでここで咳き込む!あーもう!ベッドが広いから手が届かねー!!
「ウェッフ……いや、すまんすまん。それでだ、我が息子よ。その章には王族にのみ聞くことを許された一説がある事を知っているか?」
「?????」
「知らんだろうなぁ……当然だ。良いか、我が息子よ。その続きとはこうだ」
なんかおっぱじめたな。でも普通に気になんだよな内容。
「『その神々がやがて神血を注ぎ、命を宿させたその時、神は気付いた。作った人形の数が合わない事を。そして残った一つは二柱の神にも分からない異質の人形。しかし神は異端である者を混ぜることも、また世界を構成させる一つであると考え、その人形にも血を捧げた。二柱の血を平等に』……これが意味することは分かるか?我が息子よ」
「……………………とりあえず神って意外とアバウト?」
「全能の力を持てば自ずと人は肥大化する。それは所詮人の創造物である神もまた同じなのだろうな」
「わーお、国王が言っちゃいけない事言ってる」
「ホッホッホッホッホ」
いや、笑ってごまかせることなのか?俺もよくやるけど。
「……ふぅ、つまりこの世界には神が想定していないもう一つの種族が存在し得るという事だ」
「想定していない……」
……なまじこういう世界観の『神様』って現代でも普通にピンピンしてるから触れづらいんだけど。
「うむ、更にはその種族は最も神からの寵愛を受けたと言っても過言ではない。そう思わんか?」
うーん文面的にそうなのかな?こういう『この文章から推測できる作者の主張を述べよ』みたいなやり取り苦手なんだよなー。
「まぁ上級種族にはなるんじゃないすか?龍族とか鬼族とか、後はえーっと、あ!幻獣族もそのグループか?」
「……違うのだ。我が息子よ」
「んえあ?」
「……その神の想定していない種族。否、種族とも言えぬな。一族と言っていい」
……なんかヤな予感すんだけど?
「我々だ。我が息子よ」
「……」
「我々こそが神の思惑を外れし一族、その末裔に他ならぬ。ではなぜそれが世に知られていないのか……」
「……迫害受けるから」
「…………さすが我が息子だ。その通り。我々の先祖は迫害を恐れ、この事実を隠すべく奔走し、ようやくこの時代まで生きながらえてきた……息子よ。何故今この話をしたか分かるか?」
「さぁ」
何となく予想はついてるけど。
「この話を受け継ぐという事は、国王継承の権利を絶対のものとするという一族の伝統だ。我が息子よ。最後を迄苦労を掛けるぞ」
「…………だから俺国王には向いてねぇって」
「いや、お前はこの時代にはない考えを持っている。それは今、わが国では確実に必要な事だ。お前が、この国を変えるのだ……任せたぞ。息子よ」
「おい親父、おい……って、寝てら。吞気なもんだな」
俺はそう言って寝室から出た。なんか世界観的に良く分かんない重要設定出てきた気がするけど、悪役令嬢でいるか?この内容?
「あ、王子?終わりました?」
「おーミケ君、お待たせ。いやーまた小言何個か言われて終わりだよ。相変わらず死にそうなのに元気な親父だったよ」
「ミジェロです。そうでしたか、わざわざ学園から呼び出されたと聞いたから遂に絶縁かと思いましたけど」
「そうなったらいよいよだな。ロザリエさんに会えないとか辛すぎ」
「この後どうしますか?予定なかったですよね?」
うーん、どうしようか。アルファ君とまた改良案練るってのもいいんだが、アイツここ最近寝てないらしいからなー、お邪魔しない方がいいかも。あ、そうだ。
「ちょっとエミリー君のとこ行こうか」
「え?なんか予定ありました?」
「………………ちょっといいベッド欲しくなってきた」
高級ベッドって一回味わってみたかったんだよね。
うょじいれ