➈法結(ほうむす)と渡尊(わたそん)のなりゆき街道旅
「ハイッ! こんにちは今回の『なりゆき街道旅』は東北の盛岡に来ています。ご案内は私、サワイチの原部でお送りします
そして、今回のゲストは、あの名探偵、法結さんと、助手の渡尊さんで~す」
「あ、どうも、あ日向はダメなんで、ごめんなさい」
「はい、渡尊です、ちなみに助手ではありません」
私はわざと少しむっとして答えた。
「あ、渡尊さん失礼いたしました。そうですね、明智小五郎の小林少年とは違う、ということですね。
さて法結さん、どうです、盛岡の印象は?」
「そうですね、新幹線の発車ベルが、NHKの朝ドラの『どんと晴れ』の主題歌の、小田和正さんの『ダイジョウブ』でしたね」
「お、さすが法結さん、目の付け所が違いますね。渡尊さんはどうですか、盛岡でここだけは見たい、とかは」
「やっぱり、宮沢賢治さんのゆかりの地ですかね」
「はい、いろいろ楽しみなところですね、ではタイトルコ~~ル!!」
「なりゆき! 街道旅!!」
「ハイッ! 最初はやっぱりこれでしょうね。盛岡といえば、わんこそは!」
「これは…… あれですかね、たしか蓋をしないと永遠にお代わりが投げこまれるという、噂の」
「おお法結さん、さすがよくごぞんじですねえ。そうです、限りないお代わり」
「日本は美味しい名物がたくさんあっていいですね、イギリスなんかフィッシュアンドチップスくらいしかないし」
「おおっとう、ここでなんとまさかの法結さんのイギリスディスり発言だああ!」
いや、法結はもともと食べ物にはあまり興味がないだけだ。
「ええと、盛岡の名物と掛けて、バスカヴィル家の犬と解く」
「おお、なんとここで渡尊さんからの謎かけだあ、盛岡の名物と掛けて、バスカヴィル家の犬と解く、その心は?」
「その心は、ワンコ!」
「なんとなんと、日ごろ生真面目かと思われている渡尊さんから、大爆笑とは言い難い微妙なギャグが!」
いや、これ台本で言わされたんだけど……
「はい、それではお二人に食べていただきましょう! 合いの手のリズムに合わせて食べていくんですよ~」
「(^^♪そおっれ! そおっれ! チョイナ! チョイナ!」
「いや、、、これは、、、なかなか、、、楽しいもんだね、、、渡尊くん!」
「そう、、、だな、、、味を、、、楽しむ、、、どころじゃ、、、無いが、、、」
「ちなみに、年の数だけお代わりをすると、幸せになれるそうです」
(二人で)「そんなに食えるかっ!!」
「はいっ! お次はこちらですね、名産の南部鉄器のお店でございます」
「うむ…… これはなかなかに素晴らしいものだね、法結くん」
「そうだな、コカインの精製にでも使えそうだ」
「おおっと! それはONAIRではNGです! NG!」
やかんだけではなく、鍋やフライパン、タコ焼き機までいろいろなものがある。
「ひとつ、事務所に買って行こうか」
「サワイチさん、これ番組の経費で落とせるんだよね?」
「あ、原部ですが。いえいえ、番組ではよくジャンケンなんかして支払う人を決めてたりしますね」
「え、あれ台本じゃなくて本当に本人が払ってんの!?」
「シィーっ!」
法結が、大きな鉄瓶を手に取った。
「随分大きな鉄瓶ですね、これはその、何号? くらいの大きさなんですか?」
「28号くらいですかねえ…… 鉄瓶28号って言うくらいですから」
サワイチさんのギャグも微妙だな……
「はいっ! ここが宮沢賢治ゆかりの地、花巻駅近くの北上川にある『イギリス海岸』です」
「ここが…… イギリス海岸?」
「宮沢賢治が作品の中で『全くもうイギリスあたりの白亜の海岸を歩いてゐるやうな気がするのでした』と記しているそうです。賢治にとってあこがれの地だったんですね、イギリスは」
「あこがれの地か……」
「もっともいまでは北上川の水位が上がってしまって、昔の様な泥岩層を見ることが出来なくなってるそうですが」
「白い崖の海岸…… ザ・フーの映画『さらば青春の光』や萩尾望都さんの漫画『残酷な神が支配する』に出てくる『セブンシスターズ』かな?」
「懐かしいな、あれは素晴らしい風景だったな」
「そう言えば法結さんたちは、どうして吸血鬼なんかになっちゃったんですかねえ?」
「軽いノリでいきなり核心をついた発言を…… たしか『ポーの村』とかいうところの事件を調べていて、エドガーという少年にまんまと騙されたんだったかなあ」
「ああ、これ以上は聞くとヤバそうですね……」
「さて、サワイチさん、この後は…… 宮沢賢治の記念館にでも行くのかな?」
「あ、原部ですけど…… 実は番組の予算の関係で、ここがお終いでして……」
(二人で)「行かないんかいっ!!」
〈 了 〉