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サブクエスト④ ノヴァの夢

 ノヴァは折れて使い物にならなくなったスチールソードを捨てて立ち上がり、黒いゴブリンを観察する。


(黒い皮膚と黒い棍棒以外は、普通のゴブリンより少し背が高い程度で他はあまり変わらない。だけど、さっき俺に近付いた時の素早さとあの一撃は、明らかに普通のゴブリンとは違う…。さっきのゴブリンどものことと急にこいつが現れたことを考えるに、恐らくあの大量のゴブリンはこいつの手下だ。あいつらに襲わせて、俺がある程度疲弊して隙ができるのを待ってやがったんだ。くそっ、まさかこんな奴が裏山にいたなんてな。完全に油断してた……くぅ、腹痛ぇ…。ポーションを……げっ!?全部瓶が割れてダメになってる!?)


 腰の革袋に入れていたポーションが全てダメになってしまっていた。

 さっき殴り飛ばされた時に瓶が割れてしまったようだ。


「ギャーッギャッギャッギャー!―――グギャーッ!」


 馬鹿にするように笑った後、苦しむノヴァに容赦なく黒いゴブリンは一気に迫った。


(速い――だが!)


 黒いゴブリンの棍棒を左手のナックルガードで防ぐ。やはり普通のゴブリンとはステータスは段違いのようだが、先ほどのように油断をしなければダメージを負っているノヴァでもしっかり対応できるものだ。

 ノヴァは残った武器であるレッグガードで、黒いゴブリンに蹴りを放つ。

 しかし黒いゴブリンはそれを当たる直前に素早く避けて、再びノヴァに棍棒を振り下ろしてくる。


「なにっ!?」


 慌ててナックルガードで受け止めるノヴァ。そこで気付く。

 このゴブリンは、本気で殺しに来ていないということに。


(さっきより速い!?……そういえば、最初の不意打ちの方が明らかに速かったし、重い一撃だった。てことは、こいつは…!)


「ギャッギャー、ギャギャ!」


 黒いゴブリンがナックルガードで攻撃を防ぐノヴァを嘲笑うかのように、棍棒で連打してくる。

 なんとか蹴りで応戦しようとするも、黒いゴブリンは当たる直前で更に嘲笑うかのように避け、また連打してくる。


(間違いない。こいつ、俺で遊んでやがる!?)


 まるで玩具のようにノヴァを弄び、苦しむ様を楽しむ黒いゴブリン。

 そうした一方的な攻防が長続きすることなく……


 バキ――バキキッ!


「っ! まずいな…」


 ナックルガードに徐々に罅が入っていき、このままではノヴァの防御手段は失ってしまう。


「グギャーッ!」


 ナックルガードの罅に気付いた黒いゴブリンは、これまでよりも大振りに棍棒を振るう。

 その一撃でノヴァの防御を完全に崩すようだ。


(一か八か、勝負に出るしかない!)


 ノヴァは黒いゴブリンの重い一撃を受け止めると同時に、右足で全力で蹴りを放った。


 ドゴンッ!


 重苦しい音が二つ重なる。


(入った!)


 確実に良いのが入ったと思ったノヴァ。しかし……


 バキンッ!


「……は?」


 ノヴァのナックルガードと右足のレッグガードが砕け散った。ナックルガードは壊れはしたが、なんとか棍棒による一撃を防いでくれたようだ。

 しかしなぜレッグガードまで、と驚いて見てみると、黒いゴブリンは蹴りを肘鉄で応戦していたようであった。

 どうやら黒いゴブリンがレッグガードを壊す為に大きく威力を分散していた為、ノヴァの左腕はボロボロのナックルガードでもギリ守られたようだ。


 黒いゴブリンは醜い笑顔を浮かべ、そのまま左腕でノヴァの足を抱え込む様にして掴み、ぐるぐるとノヴァをぶん回し始めた。


「うわぁぁぁぁぁぁぁッ!?やめろ!離せーッ!?」


 幾らかぶん回した黒いゴブリンは上空へとノヴァを投げ飛ばした後、投げ飛ばした方向へと素早く回り込み、棍棒をバットのように構えた。


(まずいッ!?これは本当にまずいってッ!)


 ノヴァは持ち前の身体能力を活かして身体を丸め、左足を突き出してレッグガードで受け止める。


 ドガァンッ!


 ノヴァは錐もみ状態でぶっ飛ばされ、クレーターの中に落ちていった。


「くぅ、これは……本格的にまずいな…」


 なんとか立ち上がるも、左足はさっきの一撃で痺れており足元が覚束ない状態であった。

 脳も揺れてしまったのか、ぶん回された影響もあって頭がやたらクラクラして、眩暈までしていた。転びそうになって、偶然近くにあった突起物(・・・)に手が着いた。


「は、はは、あっははは……本当、我ながら頭おかしいよなぁ、俺ってば…。死にそうなのにな…」


 ノヴァは自分が死ぬかもしれないというのに―――笑っていた。それはもう、子どものように純粋な満面の笑みで。


「むしろ、ワクワクしてる自分がいる……ごほっ!ごほっ!」


 血反吐を吐き、空を見上げる。いつの間にか夕方に差し掛かるところであった。


(……俺はほぼ100%死ぬだろう…。ああ、死ぬのだろう―――いや、俺は―――死ねない!こんなところで死んでたまるか!)


 ほんの一瞬、死を覚悟したノヴァ。しかし、ある言葉がそれを引き留めた。

 三年前。村に来たとある剣聖が言っていた。


『お前はいずれ、一騎当千の戦士となるだろう。それは酷く険しい道のりだろうが、必ずそれを乗り越え、強くなるだろう。剣聖と呼ばれる儂が保証しよう。お前は―――儂が見てきた者の中で、一番戦いの才能がある者だ』


(ああ、そうだ。ここで死ぬ訳にはいかない―――元々険しい道のりだなんて承知の上だ。俺は、冒険者になって、スキルが使えなくたって戦えるんだって証明してやるんだ!)


 そこまで思い、ノヴァは子どもの頃に抱いた夢を、誰に言うでもなく高々に宣言する。


「俺はッ!スキルが使えなくたって、凄ぇ冒険者になってやるッ!Bランクでも、Aランクでもねぇ!俺は―――――Sランク冒険者になって、『不遇』の名を轟かせてやるんだーッ!」


 ピカーッ!


 ノヴァがそう力強く宣言すると共に、ノヴァが手を着いている突起物が激しく光り輝いた。

 だんだん眩暈も治まり目の焦点が合ってきたノヴァは、その突起物が地面に刺さった剣であることにようやく気付けた。


 ただその剣は、細剣よりは太いが通常の剣よりは細く、やや湾曲した片刃の剣という変わった形をしていた。


(なんだ、これ…?)


「ギャッギャ!?グギャギャーッ!?」


 クレーターの中を覗いてボロボロな状態のノヴァを見て、ニヤニヤと醜い笑みを浮かべていた黒いゴブリンが眩しさのあまり両目を押さえる。

 しかしノヴァは不思議とその光を眩しいとは感じず、ただ惹き込まれるように見つめていた。


(なんか、語り掛けてきてるような……気がする。『私を――抜け』?)


 本当はそのような声は聞こえていない。

 しかし、なぜだかそう言われてるような気がしたノヴァは、変わった形をした剣を両手でゆっくりと引いていく。

 剣はなんの抵抗もなくスーっと抜けていき、完全に地面から抜け切ったと同時に頭の中にあの謎の声が響く。


【神託は下った。汝、【真の勇者の器】を持つに相応しき者なり】

【汝に、ユニークスキル【刀剣召喚】を授ける】

【汝、刀剣【菊一文字則宗】に認められし武士なり。【神託スキル】《瞬歩》を授ける】


 今までとは違う、どこか力強い声がノヴァの頭の中に響いた。

没ネタ:眩しさのあまり目を押さえる黒いゴブリンのセリフ

「グギャー!?グギャーッ!?」(目がー!?目がーッ!?)


【菊一文字則宗】

・長さが二尺四寸二分(73.326センチ)の刀剣。

・道伯という刀鍛冶師自慢の一太刀。

・幕末の志士 新選組一番隊組長「沖田総司」が所持していたとされる刀剣。

・沖田総司がこれを抜いたのはただの一度切りで、相手を斬った時は刃こぼれ一つしなかったという。

・抜いたのがただの一度切りなのは、要は凄いお気に入りだったのであまり使いたくなかったそうな。

・沖田総司の死後、姉の光がどこかの神社に納めたという。東京都の神社ではないかと言われているが、詳細は不明。


補足:沖田総司

・沖田総司は病弱であったが、新選組最強、伝説の剣豪と謳われ、恐れられていた。

・得意の「三段突き」という剣技は、踏み込む足音が一つしか聞き取れない程の早業の使い手だったそうな。

・誰もが目を見張る美男子とも言われていた。(一部ゲームでは美少女にされている)

・24~27歳の間に病死。肺結核、呼吸器疾患などが主な死因として語られている。


刀剣は大好きです。刀剣の詳細や持ち主のことを調べていると、凄く楽しくてつい時間を忘れてしまいます。


時々、姉の刀剣○舞の周回をやらせてもらってます。

ちょろっと齧った程度ですが、今のところは燭台切光忠と岩融が好きですねぇ。


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