サブクエスト③ ゴブリンとの戦い ※修正版
修正版です。
ガイヤールに頼まれ、裏山で薪の代わりに使えそうな枝を集めているノヴァ。
裏山には最弱のFランクモンスターのスライムや、その一つ上のEランクのゴブリンくらいしかいない。
Fランクは子どもでも倒せるくらい弱い魔物で、Eランクになると戦闘経験のない大人がなんとか倒せる程度の魔物だ。
しかし基本的に魔物というのは群れで行動している為、そうそう一般人が魔物狩りに行ったりはしない。
ノヴァも最初はガイヤールと一緒にレベル上げから始めて、今では一人で裏山でレベル上げなどを行っている。
「前にステータスを教会で確認した時から三ヶ月か……もうそろそろレベルアップしそうなんだけどなぁ」
この世界では、ステータスを冒険者ギルドや教会にある水晶のような魔道具で確認できる。
ノヴァの現在のステータスは以下の通りである。
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ノヴァ
Lv.8
年齢:15歳
職業:なし
称号:不遇の少年
体力:89/89(アリスからのダメージはポーションで回復済み)
魔力:128/128
スタミナ:307/311
物理攻撃力:81+15(スチールソード)
物理防御力:60+25(プレートアーマーなどの防具類)
魔法攻撃力:38
魔法防御力:47
素早さ:62
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魔力を消費して使う攻撃系のスキルさえも当然のように使えないノヴァだが、なぜか魔力がそれなりに高かった。
スキルだけでなく、魔道具の使用にも魔力を必要とするのだが、精々がステータス確認用の水晶に魔力を通せる程度。
ガイヤールが冒険者時代に手に入れた火付けの魔道具に魔力を通してもそれが反応することが無かった為、実質使い道が無い状態だ。
つくづくノヴァに優しくない世の中である。
ノヴァの一番高いステータスはスタミナだ。ここまでの道のりで少し減っている。
ステータスはレベルだけでなく普段の生活や年齢からも反映されるのだが、それが顕著に出るのがスタミナだ。
ノヴァは普段からよく身体を動かしている為、スタミナに関しては元Bランク冒険者のガイヤールよりも高くなった。
おかげで一対四などの対面でも、疲れにくくなっていた。
ちなみに村から出た者も含めて、ノヴァと試合を行っていた面々もノヴァ程ではないが、ステータスよりスタミナが一番高かったりする。
スタミナ以外のステータスを上げるにはレベル上げが一番効率が良いのだが、やはりレベルアップに必要な経験値量がどんどん増えていくため、かなりの時間を有するようになっていた。
レベル5辺りから余計に多くなっており、ノヴァが7から8に上がるのにおよそ二ヶ月半もかかった。
「やっぱりスライムとゴブリンじゃ効率が悪いな…。早く領都に行って冒険者になりたいぜ」
成人したノヴァは、近いうちにホムラ村から出る予定であった。
出るときは二、三週間に一度領都から来る行商人に連れていってもらうつもりだ。領都や王都などの都会で一旗上げようと思って村を出た者は、皆その行商人に連れていってもらっている。
その行商人が来るのが明後日なのだ。
「それまでにレベルをもう一つ上げときたいな」
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枝集めがてら、レベル上げもしようと思っていたノヴァなのだが、一向に魔物とエンカウントする気配がなかった。
裏山に入ってから二時間。いつもならゴブリンを最低5匹は狩っている。
裏山の中腹辺りまで来て、魔物と出会わなかったこともあって枝も籠の三分の二くらいまで集まった。この調子であれば、遅くてもあと一時間半程度で籠も一杯になるだろう。
「魔物と全く会わない…。もしかして、裏山の魔物は全部根絶やしにしちゃったか?いやでも、あいつらは繫殖力が高いし」
だがノヴァにとってメインはレベル上げである。
ほぼ毎日のように狩っていたからついに狩り尽くしてしまったのではと思ったが、すぐに思い直す。
スライムは分裂。ゴブリンは一度に産まれる量と成長の早さから、絶滅する可能性がほぼゼロの魔物と言われている。そう簡単に狩り尽くせるとは思えない。
ただ、この裏山に関しては例外で魔物の数は世界全体で見ると極端に少ない。だから基本的に、一時間で最低5匹程度のゴブリンしか狩れなかったりする。
冒険者を雇って狩り尽くそうと思えば狩り尽くせそうではあるのだが、一応ノヴァのようにレベル上げをしたい者の為に、そのようなことはしないでいる。
元冒険者のガイヤールもいるので、レベル上げも安全に行えるからというのもある。
「しっかし、気付いたら山の中腹か…」
最初は山に入った辺りで集めようと思っていたのだが思ったよりも使えそうな枝が少なかった為、奥へ奥へとここまで登って来てしまった。
「……ここまで来たら、もう同じだよな」
ノヴァは山の頂上の方へ目を向けながら、そう呟いた。
昨晩落ちた隕石らしき物体。一応宇宙という物が認知されてはいるが、人類が宇宙まで飛び立ったという記録は無い。
なので隕石という未知の物体は大変貴重な代物で、その手の研究者などに高く売れる。
その金で今以上の装備が揃えられることは間違い無いだろう。
「武器は父さんからアイアンソードを貰える予定だし、やっぱり新しいナックルガードとレッグガードを領都の腕の良い鍛冶師に作ってもらうのが良いかもなぁ」
まだ隕石と決まった訳ではないが、ノヴァは新しい装備のことを思いながら山の頂上へと足を向けた。
もちろん道中の枝を集めることも忘れない。
そうしてしばらく山道を進んでいると、近くの草むらがガサガサッと揺れて、一匹の魔物がノヴァ目掛けて飛びかかってきた。
「ギャッギャーッ!」
その魔物は緑色の皮膚をしており、人間の子どもくらいの背丈をしていた。顔はかなり醜く、人間を餌としか見ていない目をノヴァに向けていた。
その魔物は、ノヴァも数え切れない程倒してきたゴブリンであった。
ゴブリンは飛びかかった勢いのまま、その手に持っていた棍棒をノヴァに振り下ろしてくる。
それをノヴァは半身で避けて、レッグガードの付いた膝でゴブリンの腹を蹴り上げた。
「ゴファ…!?」
「やっと出て来たか。待ちくたびれたぜ、経験値ッ!」
剣を抜くことも惜しんだノヴァはトドメに左手のナックルガードでゴブリンの頭を思い切り殴って、地面に叩き付けた。
ゴブリンはその一撃で体力は0になり、光の粒子となって消えた。ゴブリンがいた場所は、爪と棍棒だけが残った。
魔物は倒すと、遺体は残らずにドロップアイテムを残して今のように消えて無くなる。
ゴブリンが消えると同時に、またあの謎の声が頭の中に響いた。
【ゴブリンから2の経験値を取得。次のレベルアップまで78】
そのような声が聞こえた。
「あー…。本当になんなんだこれ……マジで気味が悪いな。……だけど、この取得経験値の量と最後のレベルアップまでの数字は……」
相変わらず頭の中に響く声に寒気が走る思いだが、この経験値の情報はノヴァにとってありがたかった。
まさか自分が手に入れた経験値とレベルアップまでに必要な経験値量を教えてくれるとは思わなかった。
気味が悪いことには変わりないが、次のレベルアップまでに必要な経験値がわかるのはありがたい。
「この頭に響いて来る感じの声は気味が悪いけど、それを除けば今のところ俺に不都合なことは無い、と。ん?もしかして……」
ノヴァは次のレベルアップまでに必要な経験値が見たいと願う。すると……
【次のレベルアップまで78】
思った通りの声が聞こえたノヴァはここまでわかった謎の声について分析する。
今日になって突然聞こえるようになった謎の声は、恐らくだが一定の条件下で聞こえる。
・オレンジ色の『sub』と書かれた矢印が頭上にある人物の依頼内容を聞くこと。(対象がガイヤールだけなので、村に同じような人がいないか探して検証してみることにする)
・依頼内容はいつでも確認でき、依頼の進行度も確認出来る。
・魔物を倒すと、手に入れた経験値量とレベルアップまでに必要な経験値が報告される。次のレベルアップまでに必要な経験値量はいつでも確認出来る。
・そしてこの声はノヴァにしか聞こえない。
ここまでしかわかっていないが、ノヴァにとって利点しか今のところはない。
依頼内容に関しても、少々苦労しているがかなり美味しいものだ。
なにせこのサブクエストを終えれば、アイアンソードと経験値が50も貰える。
アイアンソードもそうだが、どういう原理かわからないが枝を集めるだけでゴブリン25匹分の経験値が貰えると謎の声は言うのだ。
「村に戻ったら、サブクエストとかいうのを探してみるか!」
サブクエストのメリットを見出したノヴァがそう言うと、後ろから気配を感じてその場でしゃがんだ。
「グギャッ!?」
同時に頭上で、ゴブリンがノヴァの頭があった場所で棍棒を空振りさせていた。
ノヴァは不意打ちを避けらたことに驚いているゴブリンの身体を両手で掴んで、思い切りその頭を地面に叩き付けた。
「ギャ……ギャ…」
「こいつ、さっきのゴブリンの仲間か?」
ゴブリンが一匹しかいないなんて珍しいなぁとは思った、などと考えていると周りの草むらが次々とガサガサと音を発て始める。
ノヴァはゴブリンの首を踏み付けて、すぐさま剣を構えた。
ゴブリンは光の粒子となって消えた。
【ゴブリンから2の経験値を取得。次のレベルアップまで76】
声は無視して警戒するノヴァの周りに、次々とゴブリンが姿を現した。
その数は、30は優に越えていた。
「おいおい…。どっからこんなに湧いて出た?」
ノヴァは完全にゴブリンの群れに囲まれてしまっていた。
退路はどこにもない。こうして敵に囲まれてしまった場合の手段はだいたい三つに絞られる。
一点突破を仕掛けて逃げ道を確保するか、全方位の敵を相手取って逃げ道が出来るまで粘るか、全員纏めて倒すかである。
しかしノヴァ一人で一点突破しようとしても、すぐに別方向から攻撃されて邪魔が入ってしまう。
ならばノヴァが取れる手段は実質二つ。この場合は逃げ道が出来るまで粘り続けることが最適解である。ノヴァのトリッキーな戦闘スタイルとスタミナであればそれが可能だ。
「は、はは……なんだこれ…。手に入る経験値が50や60は軽く越えるぜ、これ…」
しかしノヴァは逃げる気など、毛頭無かった。
ノヴァはこの大量のゴブリンをただの経験値としか見ていなかったのだ。
そして何より、これから始まる戦いにワクワクしていた。
「しゃあ!行くぜ経験値共。全員纏めて、俺の糧にしてやる!」
ノヴァは籠を置いて叫ぶようにして言うと、目の前へと駆け出した。
正面へと突っ込んだノヴァは、目の前の一匹に剣を振るう。
「ギャーッ!?」
しかし深く斬り付けることはしない。一撃で仕留めようとすれば、その分隙が生じてしまうからだ。
横から飛びかかって来るゴブリンは斬り上げて、また別の方向から襲い掛かって来るゴブリンも順調に対処する。
今度はゴブリンが三匹同時に襲い掛かって来る。
ノヴァは横に飛んで避けると同時にその内の一匹を斬り、さらに横から来るゴブリンは肘鉄をくらわせた。
後ろからの攻撃には後ろ蹴りで対処。その体勢のまま地面と並行になるようにして回転しながら左右から襲い掛かって来たゴブリンを同時に斬り付けた。
着地すると同時に、今度は全方位からゴブリンが襲い掛かってきた。
しかしノヴァは慌てることなく、ブレイクダンスの要領で素早く回転しながら逆立ちをして大きく開いた足で、回転した勢いのまま全員纏めて蹴り飛ばした。
以前村に世界中を旅する大道芸人が行商人と共にやってきて、その時披露したダンスから着床を得た技である。
(使うのはこれが初めてだったけど、こういうネタ技を編み出しておいて良かった~)
どんなものでも、戦いに使えそうな物は使う。それがノヴァである。
ダンスのおかげで体幹も鍛えられ、村での試合でやった倒れかけている体勢からの鋭い突きや、突きの勢いを利用して身体を回転させて蹴るなどといった、並外れた身体能力を発揮することも可能となった。
斬り、殴り、片手だけの側転で避けたと同時に斬り、避けた先にいたゴブリンには踵落としをくらわせる。
持ち前のトリッキーさで応戦していき、隙があれば倒し切る。
そうしてゴブリンの数も徐々に減らしていき、包囲網を突破して再び囲まれる状況を作らせないように一旦距離を置くこともしながら戦っていると……気付けば山の頂上にいた。
「はぁ……はぁ……はぁ…。け、結構な距離を、走ったんだな…」
山の頂上の木々は薙ぎ倒されて荒れた状態あり、足場の悪い開けた空間となっていた。
その中心にはクレーターが出来ていた。恐らくあれが、昨晩の隕石が落ちた場所だろう
「「「グギャーッ!」」」
後方からゴブリンの声が聞こえる。まだそれなりに距離はあるようだ。
スタミナが高いノヴァも激しい動きをしまくれば疲れてしまい、一度スタミナを回復する為にゴブリンを撒いたところである。
ノヴァは右胸に手をやりながら、瞑想する。
「……楽しい…」
心臓がドクンドクンと高鳴っている。その音を聞いて、自分がこの戦いに高揚し、楽しんでいることに気付く。
(小さい頃に初めて試合をした時から感じていた高揚感は、きっとこれだったんだな)
命を賭けた、本当の戦い。自分は戦うのが好きなんだと、ノヴァはそう自覚した。
村の人たちは、ノヴァが戦うことが好きなんだということにとっくに気付いてはいたが…。
【ゴブリンから2の経験値を取得。次のレベルアップまで50】
瀕死の状態であった一匹が息絶えたようだ。ノヴァはそれを確認し、再び剣を構えた。
次のレベルアップまで、ゴブリン25匹分だ。
「さぁ、あとはサブクエストを終わらせるだけでレベルアップだが、稼げるだけ稼がせ……ッ!?」
しかしノヴァが言い切る前に、黒い物体が目の前まで迫ってきて、その手に持っている棍棒を横なぎに振ってきた。
咄嗟に剣で受け止めるが……
バキンッ!
ノヴァの剣は折れてしまい、腹にまともに攻撃を受けてクレーター近くまで殴り飛ばされてしまった。
「ごふっ……ごほっ!ごほっ!」
口から血を吐き出すほどの強力な一撃。これは明らかにただのゴブリンが放った物ではない。
自分を殴り飛ばした者を見る。
そいつは、黒い皮膚をしていて黒い棍棒を持ったゴブリンであった。
“右胸に手をやりながら”というのは誤字ではないです。
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