冒険者試験⑤ スキル発動
やっと書く時間が出来ました。
それに技名が付いたのは、サソりんと一緒にコボルトレベリングを行っている時。
初めはサソりんからの提案だった。
「《アンチバランス》?」
「ええ。貴方の空中でのバランス力、身のこなし方は正直言って異常だと思うの。だって、空中にいながら地に足を付けた状態と変わらない斬撃や蹴りを放つなんて、普通は出来ないもの。だったらその異常なバランス力に名前を付けてあげた方が、カッコいいじゃない」
「カッコいいって、もしかしてそれだけの理由で名付けたの?」
「もちろんそれだけじゃないわ。相手に『自分はこんなスキル、技があるぞ』ってブラフを張って、警戒させる意味もあるわ。魔物相手はともかく、対人戦では有用なはずよ」
「言ってることは理解できる……つっても、ただバランス力が凄まじいだけとも取れるけどな…。ちなみに《アンチバランス》と名付けた、その心は?」
サソりんは、謎にドヤ顔をしながら答えた。
「アンチっていうのは対抗って意味があるの。だから『上手くバランスが取れない状況に対抗する』って意味を込めて、この名前にしたわ。これはノヴァが身体能力に物を言わせてるだけかもしれないけれど、その行為に明確な意味を持たせて一種のスキルとして扱うのは、決して意味はなくないはず。私はそう思うわ」
「……………俺にはよくわかんないけど、うん。じゃあとりあえず、俺にしか出来ない有り得ない動きをする時は、その名前を使わせてもらおうかね」
「ええ。きっと気に入ると思うわ」
――――――――――――――――――――――――
俺の踵落としがヒットし、確かな手応えを感じた。
しかしそれと同時に、こうも感じた。
―――かったいっ!?
まるで岩を蹴ったみたいだ。こんなの……
「良い蹴りだ。同レベルの人間なら倒れてることだろう。だが、さっきも言ったように実力差があり過ぎる。お前の攻撃は、効かぬ!」
そう言ったグロリアに弾き飛ばされて、空中に投げ出された。
グロリアは俺が着地することをみすみす許すことなどせず、空中にいる俺を追って大剣を振り下ろして来る。
だが、これならギリギリ届く!
「《アンチバランス》!」
俺は腕と足を使ってぐるんと身体を回転させて、グロリアの胴体を蹴りつける。
回転したことによって出来た力も合わさって、横に回避することに成功した。
大剣が真横を通り過ぎてすぐに俺はもう一度得意の《アンチバランス》で身体を回転させて、振り下ろしたことにより前傾姿勢になったグロリアの肩を蹴ってジャンプし、彼女の上を取った。
そして俺は、菊一文字を納刀してスキルを発動した。
「《居合・首斬り舞》!」
発動者の俺でも、目にも止まらない程の斬撃を放つ。
俺がスキルを持っていないと思っているグロリアだが、流石に無視するようなことはせずに大剣で菊一文字を防いだ。
空中にいては、流石のAランク冒険者も踏ん張るなんてことなど出来るはずもなく、グロリアはそのまま地面に叩き付けられた。
だがそれだけで終わらせるようなことはしない。
俺がいる位置は5メートルもないが、それでも十分な威力は見込める!
「続けて、《天断》!」
高速で俺自身が降り注ぐようにして、グロリアに菊一文字を振り下ろす。
だがグロリアは、自分が地面に叩き付けられたという事実に困惑しながらも、俺の《天断》を仰向けに倒れた状態から大剣を振って、俺を弾き飛ばした。
「くそっ!最大威力じゃないとはいえ、軽々弾くかよ。ちょっと凹むぞ。菊一文字が」
噓です。俺も凹んでます。
だけどスキル自体は俺のではなく、あくまでも菊一文字という刀によって受けた恩恵だ。
にわかには信じ難いが、刀剣には意思が宿ってる説が俺の中では出てるから、きっと菊一文字も凹んでるに違いない。
「それに……」
チラリと小夜左文字を見る。
さっきからこの刀から謎のプレッシャーを感じるのは、たぶん気のせいじゃない。
なぜか、ホント~~~になぜか!『強敵相手には使ってくれるんでしょ?ねぇねぇ使ってくれるんでしょ?』とでも言われてる気がしてならないっ!怖い!
「……どういうことだ…」
その言ったのはグロリアではなく、レオンだった。
そちらを見ると、信じられない物でも見るかのように、俺を見つめていた。
その隣では、ヨナさんも困惑した表情を浮かべている。
ついでに周りの冒険者や志望者たちを見ると、さっきの戦闘の一幕を見て、ただただ驚いた顔をしていた。
「おい、どういうことだよ……どういうことだよッ!さっきのは!」
思わず、といった感じで混乱を露にするレオン。
「レオンさん、落ち着いてください。お気持ちはわかりますが、きっと鑑定水晶が壊れていたのかもしれません」
「じゃあ蟲人の娘の鑑定時は上手くいったって話はどうなる!壊れてたんなら、そっちのステータス表記も壊れてるはずだろ!」
「う~ん。あ!じゃあきっと、《隠蔽》のスキルで……」
「規約違反になるし、そもそも鑑定水晶は誤魔化せねぇよ!?」
「う~ん……となると、ユニークスキルでしょうか?」
「……そんな恵まれたもんを持ってるようなステータスしてると思うか?あっても《韋駄天》とかだろ。お前生きてるし、それはねぇだろうけどよ」
「え~。でしたら他に彼があんなスキルを使える理由が思い浮かびませんよぉ…。《アンチバランス》とか《天断》とか聞いたことないスキルを言ってましたしぃ…」
二人のAランク冒険者の話に対して、周りの人たちはその会話の意味がわからず、首を傾げる。
なんか小説のキャラの考察してるみたいで、俺としてはただただ面白い会話だ。
「……二人とも、口を慎め。私が言えた義理ではないが、あまり周りに個人のステータス情報を開示するような会話は止せ」
「本当に『おま言う?』案件ですね。俺のステータスを盗み見といて」
「それについて然るべき罰と謝罪をする。いくら謝っても許してもらえないことをした非は自覚している……だが、今はお前の試験が先だ。まだ手札を残しているのなら、それを全力でぶつけて来い」
大剣を俺に向けながらそういうグロリア。
少なくとも彼女は俺のことを認めてくれたらしい。……鋭い目付きは変わらないが、どことなく申し訳なさが漂う雰囲気を感じる。
「言われなくてもやりますよ。……正直あまり使いたくないんですけどね」
言いながら俺は菊一文字を納刀し、小夜左文字を抜く。
そして……
「お望み通り使ってやるよ。その代わり、ちゃんとダメージ与えてくれよ!」
小夜左文字にそう願い、これから起こる代償に息を大きく吸って覚悟を決めた。
「《復讐の賛歌》ッ!」
直後、グロリアに対する数々の怨嗟の声が、頭の中に響いた。
 




