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冒険者試験④ ノヴァの志

戦ってる時は相手の名前にさん付けは無しにします。

※冒険者試験⑤から④に修正しました

「おいグロリア!ソイツのせいで時間押してるんだ。早めに終わらせろよ?」


「わかっている。十秒もしない内に終わる」


 俺とグロリア、互いに剣を構える。

 二メートルは越えてるグロリアの身長よりやや低めの銀色の大剣。当然間合いは広いし、片手で軽々と扱っている様から考えて、パワーだけでなくスピードもあるだろう。

 あの重そうな全身鎧だって物ともしない軽々とした足運びからも、それが伺い知れる。


 問題は、そのスピードがどの程度なのか。

 レベル差はえげつないだろうけど、かと言って全力で来るようでは試験の意味がなくなってしまう。だからある程度は手加減してくれるだろうから、なんとか反応出来る速度で相手してくれるはず。

 ワッカさんの挑発による怒りで、割とガチめに来るかもしれないけど。


「……貴様。それで構えてるつもりか?ほとんど棒立ちではないか」


「これが俺の流派みたいなもんなんで。気にしないでください」


 俺の構えは足を軽く開いて、少し前後に出してる程度。

 今は菊一文字だけを抜いて、やや腕を脱力させてる状態だから、菊一文字がだらんと垂れ下がっているようにも見えるだろう。


 しかしこれでいいのだ。これが俺の構え……相手にこっちの動きをなるべく悟らせない為の、俺流の剣術だ。


「それでは両者、準備は良いな?」


「いつでもどうぞ」


「構わない」


 審判のお婆さんがハキハキとした喋りと顔付きで、上げた腕を勢い良く振り下ろした。


「では……始めッ!」


 瞬間、目の前にグロリアが現れ、大剣が振り下ろされた。


 ―――ドガァーーーンッ!


「ッ!? ……なんだと…?」


 グロリアの大剣によって訓練場の地面は抉れ、その衝撃で俺は横方向へと吹っ飛んでいた。


「よっと!」


 空中で態勢を立て直して、ズザーッと着地する。

 ……うん!動きが全く見えなかった。危ねぇ!(笑顔)


「へぇ。避けたか。伊達にレベル上げはしてなかったって訳か…」


 レオンが俺の動きに感心する。グロリアのデカい図体で見えなかったのか、彼女には俺がただ避けた様に見えたようだ。


 未だに俺を馬鹿にしてる視線を向けてるレオンとは対照的に、グロリアの見る目だけは変わっていた。


「偶然か?それとも……」


「手加減してくれていても、流石に腕が痛くなりますね~。今ので十分の一は体力を持ってかれた気がしますわ」


 痺れる腕をもみもみしながら言う。

 これはそう何度も受け流せない(・・・・・・)な…。反射神経だけじゃなく、グロリアの動きをある程度予測しないと。


「やはり今のは狙ってやったのか…。僅かとはいえ、私の剣を受け流すとは」


 ブツブツと独り言を言うグロリア。

 振り下ろした大剣に合わせて、俺が上手く受け流したことに相当驚いている様子だ。


「今ので俺がそれなりに出来るっていうのはわかったと思います。Gランク認定は取り消してくれますね?」


「……………」


「たまたま避けれただけで、随分良い気になってんなぁ。おいグロリア!ちんたらしてねぇでさっさと終わらせろ!」


「黙っていろレオン。それでは試験の意味がない」


「はぁ!?テメェが十秒もしない内に終わるって言ったんだろうが!」


「事情が変わった。大人しく見ていろ」


 レオンって本当にAランク冒険者なのかな?相方であるグロリアの雰囲気が明らかに変わってるぞ。

 さっきまでは俺を弱者だと思って舐めていた雰囲気が、綺麗さっぱり消え去っている。

 ここからは真面目に試験をしてくれるという表れだろう。


 グロリアはさっきと同じように、突然の様に俺の目の前に現れる。

 そして今度は大剣を横薙ぎ振ってきた。


 即座に伏せてそれを回避する。

 すぐさま菊一文字で切り上げるが、グロリアは後ろに飛んで躱した。

 だけどそれをただ見逃すようなことはせず、一気にグロリアの懐に飛び込んでいく。


 するとグロリアはやや不安定な態勢にも関わらず、大剣を振り下ろして来た。


「ふーんッ!」


 それを読んでいた俺は、振り下ろされるグロリアの腕に向かって全力で足を振り上げてぶつける!


「「「は?」」」


 それを見ていた冒険者志望者と先輩冒険者たちから、間抜けな声が漏れた。


「こいつっ!?」


 もちろんそれだけでグロリアの剣が止まることはない。

 だが、今の衝突で威力は大分落ちるはずっ!このまま横に受け流して―――


 ―――ドォーンッ!


 とか楽観視した俺が馬鹿でした見事に吹っ飛ばされましたー!ちくしょうめ!


「くそっ!弱めてこの威力かよ!バケモンが!」


 思わず悪態も吐きたくなるってもんですよこの野郎…。


「アイツ今、何をした?」

「蹴った?グロリアさんの腕を蹴ったぞ…」

「蹴って剣の軌道を逸らしたってこと?」

「なんだよそれ!?下手したらあの剣で足真っ二つだぞ!」

「それだけで済めば良いがな…」


 おーおー。周りが騒がしいですね~。

 これで俺がそこそこ強いことは証明されたようなもんでしょう。俺みたいな戦い方する奴、他にいないだろうし。


 ま、まだまだこっからですけど。

 俺まだスキル使ってないし。


「それにしても流石はAランク冒険者。目は腐っててもそう簡単には勝たせてくれねぇか…」


「……んだと…」


 俺の発言が気に食わなかったのか、レオンからまたしても怒りの声が漏れた。

 今回は思わずといった感じなのか、それ以上の言葉は無かったが。


「お前。私に勝つつもりなのか?」


「え?なんか可笑しなこと言いました?俺」


「私とお前とでは、実力差があり過ぎる。お前が弱者などではなく、私の目が悪かった事は詫びよう。しかし……だからと言って、お前が勝てる可能性など万に一つもないだろう」


 俺はグロリアの言うことがイマイチ理解出来なかった。

 確かに彼女の言う通り、俺が勝てる可能性なんて無いだろう。俺自身だって、勝てるだなんて思っちゃいない。


 でも……これは単なる言葉遊びになってしまうかもしれないが、それでも―――


「だからって、勝ちに行かない理由にはならない」


「っ!」


「相手が自分より強い魔物だからって、潔く諦めますか?生きるために抗いますよね。ソイツがどんだけ強くて、死を覚悟しても……俺は決して諦めません。ソイツを倒して自分の経験値にしてやる、そういう気概で戦って来ました」


 ブラックゴブリンしかり、ワーウルフしかり……もう二度もそういう経験をしている。

 戦うのは好きだが、正直あんな経験はもうしたくない。だけど先の二件のことからわかるように、いつ目の前に死が迫ってくるかわからない。


「冒険者は常に死と隣り合わせ。その死線を乗り越えて、冒険者は強くなっていく……今回も同じです。貴女を倒して俺の糧とする。そういうつもりで、俺はさっきから戦ってるんです」


 グロリアを自分の糧にする。

 その言葉はつまり、『貴女を殺すつもりでいる』という宣言。

 経験値というのは、俺のサブクエストの件を除けば、命を奪うことで手に入るもの。例え相手が人であっても。


 俺の言葉を聞いた周りの反応は、完全に頭可笑しい奴を見る目ばかりだった。

 一部は笑ったり怒りの表情に染まったりしているが。サソりんとかヨナさんとかレオンとか。


 そして一種の殺人予告をされたグロリアはというと……


「……ふ、ふっふふふふふ…」


 不敵に笑っていた。


「そうだな。お前の言う通りだ。冒険者はどんな時であろうと、そういう『生きる』という気持ちを忘れてはならない。相手がどんなに強大な魔物であろうと、ダンジョンで孤立しようとも……必ず生きて帰る。そういう気持ちを強く持たねば、いざ絶望的な状況に陥った時に足が動かなくなる」


 そう言ってグロリアは、改めて剣を構えた。


「お前がそのつもりならば……私もそのつもりで行くぞ!」


 その言葉と同時に、グロリアの姿が消えた。

 正確にはグロリアが速過ぎて消えたように見えただけ。だが、気配は追えている!


 俺は横に飛んで、後ろから振り下ろされた剣を避ける。

 当然また地面を抉る程の威力によって吹き飛ばされそうになるが、グロリアの腕を掴むことでそれを回避する。


「《アンチバランス》!」


 そしてそのままグロリアの腕を軸にして、ぐるんっと上回転して顔面に向かってかかと落としを食らわせた。

 サソりんと一緒に考えた、スキル認定されていない、俺オリジナルの技を使って。

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