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冒険者試験② 不合格

長くなったので、前回のと分割。

まだ読んでない方は一つ前の話からお読みください。

 訓練場はてっきり屋外かと思ったが、しっかり屋内だった。どうもノヴァです。

 天井高ぇ~。広さもホムラ村くらいの小さな村なら、すっぽりハマっちゃいそうなくらい広い。


 ……ん?この広さ、建物の大きさに合ってなくないか?魔道具かなんかで、中の空間だけ広くしてるんだろうか。


 所々で訓練に励んでいる冒険者たちがいる中、たくさんの人が集まってる場所があった。

 そこから少し離れたところにワッカさんとバンさん、他にも冒険者が何人も集まっている。


「真ん中に人が集まってる。もしかしてアレ、全員が冒険者志望者かな?」


「強さ的にそうでしょうね。それに匂いの中に、この間会ったエルフの人の気配がある」


「マジで!?」


 俺はすぐさま駆け寄って行き、あのエルフのお姉さんを探す。

 するとすぐに緑色を基調とした民族衣装を着た、耳が長く尖っているお姉さんを発見。

 長槍と大盾もあって、凄いわかりやすい。


「エルフのお姉さーん!」


 俺がそう呼びながら駆けていくと、周りの冒険者が一斉にこちらを見て来るが、気にせずエルフのお姉さんの元へ駆け寄っていく。


「一週間とちょっと振りです!」


「お前か。ハーフエルフモドキ」


「名前言ってないからって、それで定着させようとしてません?」


「ふんっ。別にそんなつもりはないがな。嫌なら名前を教えろ」


「ノヴァです。そんで今こっちに向かって来てるのが、蠍の蟲人のサソりん」


 軽く自己紹介を済ませて、サソりんが来るのを待つ。

 サソりんが来たところで、改めてエルフのお姉さんに話しかけた。


「お互い無事に到着出来て良かったですねぇ」


「そうだな。無事でホッとした」


「全然そんな風に思ってるようには見えないのだけれど」


「感情が表に出にくいだけだ」


「へぇ~。あ!お姉さんのお名前は?この間別れ際に聞こうと思ったけど、バンさんが怒らせちゃって聞けなかったし」


 俺がそう言うと、嫌なことを思い出したとでも言いたげな顔をしながら、お姉さんは簡単に自己紹介した。


「ラウラだ。これから同期になるのであれば、サソりん同様に敬語はいらん」


「ラウラか~。カッコ良くて、素敵な名前だな!なぁ、サソりん」


「……私は?」


「へ?」


 ラウラの名前について同意を求めると、サソりんが急に尻尾で自分を指しながらそんなことを言う。


「私の名前は?」


「えっと……可愛いと思うよ」


「他は?」


「えー…。う~む。蠍の特徴とその危険性をわかりやすく表した、いい名前だと思うぞ?」


「―――ふふんっ」


 いや急にどうしたんだよ。

 あれか?俺がラウラの名前を褒めたから、自分もなんか承認欲求が湧いちゃったんか?

 褒められるの好きだもんなぁ。サソりん。


「ふんっ。面白い奴らだ」


「そうか?まぁ俺も色々な意味で面白い奴だと自負を―――ッ!?」


 スキル無しも含めて、自分は面白い奴だと自虐をしようとしたら、真後ろに何か気配を感じて振り返る。

 そこには腰の曲がったヨボヨボのお婆さんが一人、佇んでいた。


 ……いつの間に後ろにいたっ?急に現れたように感じたぞ。


「ノヴァ?どうし……きゃあ!い、いつの間に!?」


「……この老婆。さっきまではいなかったはずだが?」


 どうやらサソりんとラウラも気付いていなかったらしく、お婆さんの姿に驚く反応を見せた。

 サソりんの気配に敏感な感覚毛ですら気付けなかったのか?何者だこのお婆さん…。殆ど気配が無いせいでどれくらいの強さなのかもわからない、なんとも不気味な人だ。


 俺たちの反応を見たお婆さんは、優しそうな笑顔で話しかけてきた。


「すまんね~。驚かせてしまって。あたしゃこの試験の審判を務める、マロンと言うもんじゃよ」


「あ。はい。よろしくお願いします!」


 うんうん。と、俺の返事を聞いて満足気に頷くマロンお婆さん。

 その後は俺たち冒険者志望者らの前に立って、ただただ優しそうな笑みを浮かべて冒険者志望者たちの顔を見ていた。


「ノヴァ。もしかしてもう……」


「ああ。そう思った方が良いかもな。ラウラはどう思う?」


「恐らく同意見だ……試験はもう、始まっている」


 ラウラの透き通った声がよく通り、周りの冒険者志望者たちに緊張が走る。

 さすがにマロンお婆さんに気付かなかっただけで、不合格になるということは無いだろうが……殆どが出鼻を挫かれたような感じだろうな。これ…。


 俺は入り口の方を見ながら、そう思った。


「マジで心臓に悪かったなぁ。さっきのは」


「全くだ。別に油断していた訳ではないが……もう少し穏やかな気持ちで挑ませてもらいたいものだ」


「本当本当。今こっちに向かって来てる三人くらいわかりやすければ、心の準備も出来るのにな」


「なに?」


「……本当だ。ある程度気配を抑えてるみたいだけど……今まで会った人たちの中で、一番強そうな人たちの気配を感じる」


 ラウラと会話をしていると、サソりんも気付いたらしく、訓練場の入り口を見る。


「二人は索敵能力が長けているのだな。……なるほど。なんとなくだが、私にもわかってきたぞ」


 ラウラが俺たちに感嘆の声を上げてすぐに訓練場に入って来たのは、なんと三人の女性だった。

 冒険者の強い人って、皆女性なん?渋いイケおじとかいないんすか?


「お、おい。あれって!?」


「ああ。Aランク冒険者の“銀獅子の乙女”のグロリアさんとレオンさん、それにその後ろにいるのは“天女”のヨナさんだ!なんであの人たちが、こんなところに?」


 三人を見た冒険者志望者たちが、ザワザワと騒ぎ立てる。

 あれが……Aランク冒険者!通りでやたら強い気配を感じる訳だ。


 先頭を歩いているのは、頭に大きくて立派な角が二本生えている、身長が2メートルを優に越えている女性。

 全身を鎧で包んでいて、俺五人分の筋肉を集めても敵わなそうな体格をしている。


 その隣を歩いているのは、俺よりも背が小さい軽装の獣人の女性。獰猛そうな笑顔を浮かべていらっしゃる…。

 角が生えた女性とは正反対で、全体的に細い体格をしているが、負けず劣らずの力強い気配を感じる。


 最後にその二人の後ろを付いて行く形で、美しい所作で歩く笑顔が素敵な女性。この人は俺と同じ普通の人間っぽい。

 一見優しそうな印象を受けるが、腹の底で何を考えてるのか全くわからない不気味さを感じる。

 ……目を離したら首持ってかれそう…。


 そんな俺の考えが通じた訳ではないだろうが、人間の女性……天女のヨナさんだったか?

 その人が俺を見て、さっき挨拶したエロいお姉さんと同じような、面白いおもちゃを見つけたかのような目をした。

 う~ん。腹黒そうなお姉さんは、好みじゃないんだよなぁ…。(凄く失礼な勝手な感想)


 しかし……こうして見ただけでも伝わってくる、この圧倒的な強者感。くぅー!戦ってみてー!


「ノヴァ。目がギラついてる」


「あんな化け物とでも呼びたくなるような連中を見て、よくそんなテンションでいられるな…」


 サソりんとラウラに俺の悪い癖を指摘されるが、そんなのは気にしない気にしない。

 ……あれ?三人が俺たちの前で止まった?


 未だにザワついている冒険者志望者たちを、角の生えた女性が一喝して黙らせた。


「静まれッ!―――私は、Aランク冒険者のグロリア。銀獅子の乙女のリーダーだ。今回の冒険者試験の試験官を務める。こっちは相棒の……」


「レオンだっ!テメェら雑魚を指導してやる為に、わざわざ来てやったんだ。感謝しやがれ!」


「ありがとうございますッ!」


 感謝しやがれと言うので、素直に感謝する俺。

 聞いてた話と違うがそれってつまり、より強い人と戦えるってことだろ?願ったり叶ったりだ!


 俺の返事を聞いた周りの人たち全員が、俺を奇怪な物でも見るかのような目で見てくる。

 ただ普通に返事しただけなのに、解せぬ…。

 ヨナさんとか後ろを向いてプルプルと震えているし。いっそ笑えよ!


「恥ずかしい奴だ」


「ノヴァはそういう人。ここまでとは思わなかったけど」


「二人とも酷くない?」


「へぇー!威勢のいい奴もいたもんだなぁ。お前、名前は?」


「ノヴァです!」


 レオンさんに名前を聞かれ、元気よく挨拶する。

 すると、三人のAランク冒険者の雰囲気が一変した。というか、俺を見る目が変わった?


 グロリアさんとレオンさんから、軽蔑の視線を。

 さっきまでプルプルと笑いを堪えていたヨナさんは、興味深そうな目を向けてきた。


「えっと……なんか変なこと言ったかな?」


 思わずサソりんに自分が粗相をしてしまったか確認をする。

 だけど首を横に振って、それを否定してくれた。


 だがその後、訓練場にレオンさんの笑い声が響き渡った。


「アーハハハハハッ!そうかそうか!お前がノヴァかぁ!なるほど、確かにこいつは……ぷっ!アーハハハハハッ!ダメだ、笑いが止まらねぇぜ!」


 なんだ?何がそんなに面白いんだ?

 なんか嫌な感じの笑いだな…。


「……はぁー。レオン、静かにしろ。話を進めづらい」


「悪い悪い。おいグロリア。まずは今回の試験内容を伝えろよ」


「……わかった」


 まだヨナさんの自己紹介が終わっていないのに、グロリアさんが試験内容が書かれてるであろう資料を手に、試験内容を俺たち冒険者志望者に伝える。


「試験の内容は至って単純。私たちの内一人と一対一で戦い、実力を示せ。自分たちが培ってきた経験を、存分に発揮しろ。尚、今回の試験からFランクより下のランク、Gランクが設けられることになった。これはまた後でギルドから詳しい説明が入るが、要は訓練生のようなものだ。最近は魔物の数も増していて人手不足だからな。だからと言って志望者全員を冒険者にしては余計な犠牲を生むだけだ。そこで、試験の不合格者は皆Gランク冒険者として登録させ、ギルド側がその者を十分に戦えるようになるまで鍛え上げることにしたのだ」


 なるほど。冒険者試験は半年に一回の頻度でしか行われないからな。

 ここで不合格になってしまえば、次の試験までまた半年待たなきゃいけなくなる。


 半年に一回という長い期間のせいで人手不足となった冒険者の穴を埋める為に、このような制度が出来たんだな。

 まぁ俺とサソりん、それにラウラはその心配はしなくて良いだろうけど。


 グロリアさんの説明が終わると、今度はレオンさんが口を開いた。


「で、だ。私たちAランク冒険者が試験官を務めることになったのは、より正確に、より有望な者とそうでない者を仕分けする為だ。だろ?グロリア」


「……聞こえが悪いようですまないが、そういうことだ。当たり前だが、私たちAランク冒険者はCランク冒険者よりも人の実力を推し量ることが出来る。ただ一目見ただけでも、な」


 おー!流石はAランク冒険者。やっぱ見ただけで人の強さがわかるんだなぁ。

 ……後ろに控えるようにして立ってるヨナさんが、グロリアさんの発言に対してプルプルと笑いを堪えているのが気になるけど。


「そういう訳で……」


 グロリアさんはそう一言行って、歩き出す。

 その行動に疑問符を浮かべていると、彼女は俺の前で立ち止まり、信じられないことを言ってのけた。


「冒険者志望者、ノヴァ―――――お前は、不合格だ」


「……はっ?」


 自分のことを、見る目があると言っていた本人から、いきなりそんなことを言われてしまった。

補足説明

剣術や魔法は、基本的にはスキルという形で現れます。

スキルは保有者を補助し、またその人の強さを表す指標でもあります。熟練の冒険者などは、見ただけである程度の実力(スキル含む)を見抜くことが出来ます。


なので見ただけで人の実力を見抜く、というグロリアの発言は過言ではありません。

ただしそれは、剣術スキルなどの補助によって強化された人物に限定されます。

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