冒険者試験①
遅くなってすみません。
仕事の疲れが溜まっていて、投稿が遅れました。
この後すぐに、もう一個投稿します。
夢を見た。そこは真っ白な景色が広がっていて、何もない空間のようだった。
その景色には朧気だが見覚えがあった。ワーウルフとの戦いで見えた走馬灯のような、自分が居合をしている姿を見た場所と似ている。
なんでそんな夢を見ているのかわからず、とりあえず身体を動かそうと試みるが……何かに押さえつけらえてる訳でもないのに、指先一つ動かないでいる。
そのことに困惑していると、突如目の前に人が二人現れた。
本当に急に目の前に現れたので、思わず驚きの声を上げそうになるが、これも叶わない。どうやらここでは、俺は何も出来ないようだ。
現れた人物を観察してみると、二人とも鞘に納まっている刀をその手に持っていた。
片方はワーウルフ戦の時にも見た、居合をしていた俺。だがよくよく見てみると、俺よりも少しばかり背が高く、肌が青白い爽やかな青年のような俺だ。
髪なども含めて俺と容姿がそっくりだが、雰囲気とかは全くの別人だというのがわかった。
もう一人は子どもの姿で、こっちも幼少期の俺にそっくりだ。
ただ目付きが悪く、俺を睨み殺すかの如く強い視線を浴びせて来ている、可愛げのない子どもって感じだ。
なぜ俺にそっくりな二人の人物と対面しているんだ?
そんな疑問を他所に、青白い肌の爽やかな青年から、その手に持った刀を差し出された。
そこで漸く、俺の意思とは関係なくだが、俺の腕が動いて刀を受け取った。
一目見てわかってはいたが、この刀は菊一文字則宗だ。ブラックゴブリン戦の時に手に入れた、業物と言って差し支えない剣。
これのおかげで、俺は生きていられると言っても過言じゃない。
もう一人の目付きの悪い子どもは、押し付けるようにして小さな刀、小夜左文字を渡して来た。
その後はすぐにぷいっと機嫌悪そうにあっぺん向いた。
……なぜ夢の中で俺そっくりな子どもに嫌われてるんだろう…。
そんな子どもの様子に苦笑しながら、青年が俺の左胸に軽く握った拳をトンっと当てて来る。
しかし彼は首を傾げた。そしてすぐに何かを思い出し、今度は逆の、右胸に拳をトンっと当てて来た。
満足そうに頷いた彼は、隣の子どもと小夜左文字を交互に指差しながら、儚げに笑った。
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「……夢、でいいのか?やけにリアルな夢だったな」
俺似の青年の儚げな笑顔を最後に目が覚めて、先ほど見た謎の夢に困惑しつつ、壁に立て掛けてある菊一文字を見る。
だがそこには、戦闘以外では送還してしまっておいてるはずの小夜左文字まで隣り合うように立て掛けてあった…。
怖いなおい…。ただでさえ曰く付きでやばそうな小夜左文字が、勝手に召喚されてるとか。
でも普通に一本の剣としては優秀なんだよな。小振りだから振りやすく、すぐに敵の攻撃に対処出来る良いサブウェポンだ。
スキルはマジで使い勝手が悪いけど、強敵相手には有効だろうし、時が来れば代償なんて考えずに使って行こうと思う。
だから鞘に納まらず、抜身の状態で勝手に出て来ないでくれませんかね!?凄く怖いです!
やっぱこの刀剣たちって、少なからず意思が宿ってるよな…。じゃなきゃ説明文に『早く復讐したそうだ』なんて無いだろう。
古代の遺産、アーティファクトの類だろうか?まぁ考えてもわかんないし、さっさと食堂に行こう。たぶん早起きサソりんが待ってる。
小夜左文字の鞘を召喚して納めた後、なんか送還したらいけない気がしたので、左と右の両腰に菊一文字と小夜左文字を差す。
う~ん。やっぱ気に食わない。別に剣を二本所持しているなら、こういう差し方で問題ないはずなんだが……うん。気に食わない。
「……ん?」
このもどかしさをどうすればいいか悩みながら菊一文字と小夜左文字を見比べて、なんとなしに小夜左文字を左腰の菊一文字と一緒に差してみた。
するとどうだろうか。先ほどのもどかしさが噓のようにしっくり来るではないか。
「なんか……なんか良い!」
完全なフィーリングで決めた刀の差し方が気に入り、俺はそのまま部屋を出た。
――――――――――――――――――――――――
先に起きていたサソりんと一緒に朝食(俺だけ)を済ませて宿を出る。
今日は待ちに待った冒険者試験!今朝は縁起が良いのか悪いのかよくわからない夢を見て、勝手に召喚されてた小夜左文字に恐怖することになったが、とりあえずそれは一旦忘れようと思う…。
「街中なのに珍しく小夜左文字も出してるのね?」
「なんとなく、そうしなくちゃいけない気がしてな」
「ふーん。そういえば今更だけど、ノヴァって本当に器用よね?小夜左文字が手に入るまでは、今まで菊一文字一本で戦って来たんでしょ。なのにすぐに二刀流を使いこなすし」
「ああ。俺は元々左利きだからな。なんか神様がどうとか、意味わからん教えで母さんに矯正させられてな。でもおかげで、こうして問題なく二本同時に刀を扱える」
小夜左文字じゃなく、菊一文字と同じサイズの刀だったらまともに振れるかわからないが。
「なんかノヴァって、経験したことの殆どを自分の糧にしてそうね」
「糧に出来そうな物は積極的にしているぞ。曲芸を習得したおかげで、アクロバティックでトリッキーな戦闘スタイルが出来るようになったし」
「それに加えてスキルを保有する剣か…。ノヴァって通常スキルも多種多様そうだし、冒険者は正に天職よね」
「……………そうだな…」
「?」
これだけ一緒にいるが、サソりんには俺が通常スキルを一つも持っていないことは話していない。
別に俺から教えなくても、もう既にサソりんは俺の手札を全て知っている状態だけど、わざわざ通常スキルは持っていないことを伝えることはしない。というか出来ない、かな…。
自分で言うのもどうかと思うが、俺はスキルがなくても戦えるよう、誰よりも努力してきた。
だがそれだけの努力をしてきても、やはりスキルを何一つ習得出来ないというのは明らかに異常だ。
アイクは今でこそ面倒見のある良い奴だが、前はスキルを習得出来ない俺を村の悪ガキどもと一緒によくバカにして来たもんだ。
まぁ。しっかり俺自身の実力で黙らせることが出来たので、今じゃ良い思い出だ。
そういう苦い経験があるから、スキルを持ってないだなんて軽々しく言えない。
サソりんのことは信頼しているから、いつかちゃんと話したいとは思っている。
「ノヴァ。どうしたの?急に元気を無くして」
「なんでもない。それよりもサソりん!見えて来たぞ、冒険者ギルド!」
盾のような形をした板に、二本の剣をクロスさせた看板が特徴的な建物。
あれが冒険者ギルドだ。昨日サソりんと一緒に一度見に来たが、周りの建物に比べて特別立派で大きく、ワクワクを引き立たせられる。
「早く行こうぜ!(子どものような純粋な目)」
「(可愛いわね)ええ。今行くわ」
思わず駆け足になって冒険者ギルドの扉を開ける。
するとすぐに目に付いたのは、やはり俺の性分からか、強そうな先輩冒険者たちの姿だった。
筋骨隆々の男性からローブを着た魔法使いっぽい女性、さらには獣人などの亜人といった多種多様な人たち。
「皆強そうだな~。俺らと同じ冒険者志望者はあんまりいないのかな?」
数秒遅れて入って来たサソりんにそう聞くと、軽く周りを観察した彼女はすぐに頷いた。
「私たちより弱かったり、同等の強さをした人はあまりいないわね。たぶん殆どがベテラン冒険者」
「はえ~」
昨日は外観だけで、中は楽しみに取って置いて見てなかったからな。
そのかいあってか、よりワクワクが増した気がした。
「楽しみだなぁ、冒険者試験。父さんの話じゃ、Cランク冒険者が試験官らしくて、実際に戦って実力を測るらしいぞ」
「ノヴァにとってはただのご褒美ね」
「イグザクトリー!」
そんな会話をしながら、受付へと向かう。
ふとデッカイ掲示板が目に入り、個人的に凄くビックリしたのだが……それは一旦後回しにしよう。
今は冒険者試験に集中だ。
やっぱり性分なのか、何人もいる受付嬢の中でも強そうでおまけに可愛いお姉さんの所に来てしまった(丸)
こういう強い人が受付嬢にいると、いざ面倒な冒険者を相手する時に楽なんだろうな。
「すみませんお姉さん!冒険者試験を受けに来ました!」
「はい。かしこまりました。書類と鑑定水晶をお持ちしますので、少々お待ちください」
そう言って受付嬢さんは一旦下がっていった。
「ねぇ。もしかしなくても貴方……」
「うん。強そうな受付嬢さんを選んだ」
「もはや病気ね…」
「野郎どもぉ!今日は私の奢りよ~!存分に食って、存分に飲みなさ~い!」
「「「いえーーーーぃ!」」」
サソりんに呆れられてると、いきなりそんな声が鳴り響く。
見てみると、どうやら冒険者ギルドは酒場が敷設されてるみたいで、そこで飲めや歌えやのどんちゃん騒ぎが起こっていた。
窓無しの柵で区切られてるから、中の様子が丸わかりだ。
……………音痴やな~…。でも盛り上がってるから良いのか。
「こんな真っ昼間からお酒……冒険者って本当に自由なのね」
「そうだな。特にあの奢りだーって言ったエロい魔女服のお姉さんは、凄い自由そう」
「……変態」
「ありがとうございます」
「……………」
三角帽子に短めのローブを着た、大胆に胸を露出している巨乳なお姉さんを見て、正直な感想が漏れる。アレ、裸よりエロくね?
……そういえば、受付嬢さん遅いなぁ。ただ待ってるのも暇だし、挨拶してこよ。
「ノヴァ?どうしたの」
「ちょっとあの人に挨拶でもと」
「……………」
サソりんに変態を見る目で見られながら、エロい魔女服のお姉さんの元へ向かう。
ちょうど柵の近くにいる為、中に入らなくても会話出来そうだ。
「柵越しにすみません。今大丈夫ですか?」
「ん?あら坊や。お姉さんに何か用かしら」
こちらに振り返っただけで大きく揺れる巨乳に思わず目を奪われたが、すぐに視線を彼女の目に戻し、挨拶する。
「冒険者試験を受けに来ました、ノヴァです!お楽しみ中申し訳ないと思ったのですが、やはり挨拶だけでもと思い、お声を掛けさせて頂きました!」
「あらそうなの?試験頑張ってね!……それにしても、なんで私にだけ挨拶?」
「いやー、流石に全員に挨拶してる時間は無いので、一番強そうな人だけでもと思いましてぇ」
俺がお姉さんに話しかけた理由を話すと、さっきまで酒で高揚していた顔が一瞬で白い肌に戻って、雰囲気が一変した。
お姉さんは「へぇー…」と面白いおもちゃでも見つけたかのような目をして、扇情的な笑顔を浮かべた。
……う~ん。やっぱり色気が凄いな、この人。
「坊や。一見すると凄く弱そうに見えるけど……私と同じスキルでも使ってるの?それも高レベルの」
「人のスキルを詮索するのはマナー違反では?」
「……ふふふふふっ。いいわね君。お姉さん気に入っちゃった♪試験の後は暇?私、今夜はとても暇なんだけど」
自身の胸を強調させながら、そんなお誘いをしてくるお姉さん。
非常に魅力的なお誘いに、思わず飛び込みたくなるが……
「いいんすか!?いやいやいやいやっ!」
飛び込みはせんでも、片足は突っ込んでしまった。
「非常に、本当~~~に魅力的な提案ですが、俺には村に残して来た幼馴染が…」
ここはエリスをだしにさせてもらおう。
エリスはよく勘違いさせるような言動が多かったが、あの時の告白?はたぶん本音だ。
エリスが純潔を守ると言うのであれば、俺も守ろう。
「あら残念。お姉さん振られちゃった。誘いを断られるなんて、何気に初めてかも。でももう君みたいな坊やの口になっちゃったのよね~。他に可愛い冒険者志望者はいるかしら?」
「さぁ。俺も来たばっかなんで……あ。受付嬢のお姉さんが戻って来た。それじゃあ今日はこれで失礼しますね。機会があれば、一緒に依頼を受けましょう」
「ええ。いいわよ。―――坊やが私と同じ所まで来たらね…」
エロいお姉さんとの挨拶を済ませて、受付に戻る。
サソりんには相変わらず冷めた視線を向けられてるが、気にしない気にしない。
「お待たせしてすみません。こちらにお名前と年齢と出身地、得意武器をお書きください。その後はこちらの鑑定水晶で、ステータスを開示していただきます」
「はーい」
「わかりました」
鑑定水晶か……冒険者ギルドは冒険者の実力を把握しておかないと、依頼の斡旋などがしにくいから、スキルを含めたステータスを見られるのは仕方ない。
ただなぁ。俺はスキルが無いからな。嫌な目で見られる予感しかしない。
鑑定水晶に【真の勇者の器】とか表示されないで済むのはありがたいけど。
「書きました」
「はい。それではこちらの水晶に魔力を流してください」
言われた通りに魔力を水晶に込める。
すると受付嬢さんの目は、「お。この子当たりだな」とでも言いたげな目になったのだが、直後有り得ない物でも見るかのような目に切り替わった。
レベルを見て有望な奴が入って来たと思ったら、レベルに反してスキルが一つも無いことに驚愕してるのが、もう手に取るようにわかってしまう…。
「次。私良いですか?」
「あ。は、はい。どうぞ」
次にサソりんが水晶に手、というかハサミを置いて魔力を流す。
俺と一緒に来た人だからか、お姉さんは不安そうな顔をしていたが……サソりんにステータスを見て、ホッと息を吐き出した。
おいお姉さん。少しはポーカーフェイスをしろよ。さっきから傷付きまくってますよ俺!
「お待たせしました。えっと……では、お二人から右手側の通路から真っ直ぐ進んだ所にある訓練場で、しばらくお待ちください」
「うぃっす」
「わかりました」
受付嬢さんに案内された方へ向かってると、サソりんが先ほどの受付嬢さんの反応について声を上げる。
「やっぱりノヴァは凄いのね。変態だけど」
「凄いって、何が?」
変態という言葉は無視する。
「あの受付嬢の人。ノヴァのステータスを見てビビッてたじゃない。きっととんでもないスキル数に驚いたんでしょうね」
「ははは……だったら良かったんだがな…」
「え?」
「なんでもない」
適当に誤魔化して、訓練場へと向かう。
しばらく歩くと、訓練場の入り口の前に見知った人物がいた。
「あ!ワッカさんにバンさん!二日ぶりです!」
「よぉノヴァ!」
そこにいたのは、一緒に領都まで旅をした先輩冒険者の二人。ワッカさんとバンさんだった。
「約束通り、応援しに来たよ。冒険者試験、頑張ってね!」
「まぁノヴァとサソりんなら、もしかしたらCランク冒険者に勝っちまうかもしれねぇけどな。それくらい二人は強いし」
「ありがとうございます!俺たち、絶対合格します!」
「応援、よろしくお願いします」
「おう!任せとけ」
そう言って、二人は先に訓練場の中へと入っていった。
「……おし!あの二人に応援されたとあっちゃ、何がなんでも合格しないとな!」
「そうね。気合いを入れて行きましょうか」
俺とサソりんは訓練場に入る前に、今一度気合を入れ直した。
 




