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到着

 ぱっかぱっかと馬が引く馬車に揺られること一週間。


 道中は穏やかな気候に恵まれ、綺麗な草原を風景に旅を楽しんでいた。

 時々ゴブリンやグレーウルフなどの魔物に襲われはしたが、それはワッカさんとバンさんが楽々倒してくれたので常に快適だった。


「くー……くー…」


 まぁ快適な旅過ぎて、現在は昼寝中の私ノヴァです。魔物の気配には相変わらず敏感ですが。


「ノヴァ。起きて。領都が見えて来たわよ」


「んあっ?」


 そんな俺を起こしてくれるサソりん。

 硬いハサミで揺らされて起こされる経験した人間は、俺だけかもしれないな。


「おはよう。良い夢は見れた?」


「あのエルフのお姉さんの夢を見た気がする。内容は忘れたけど」


「……変態」


「なんで!?」


 サソりんからいきなり罵倒されて困惑。

 あれか?あの人のスパッツをガン見したからか。もう一週間も前なんだから許しておくれよ。

 同じ女性として許せないかもしれないけどさ、男は目の前にスケベがあったら見ちゃうんだって。


 サソりんからの軽蔑の視線から逃れるように、馬車から顔を出して前方を見る。


「おー!あれが領都か!デッケェな~…」


 ランデムよりも高い、魔物の侵入を防ぐ為の壁。そんな壁越しでも見えるドデカい建物の数々。

 あれが都会って奴かぁ。強い人もいっぱいいるんだろうな。


 そしてその分、お高い店や宿もあったりするんだろう。いつかそこの常連になれるくらい稼ぎたいもんだ。


――――――――――――――――――――――――


 領都。フェルノ・ディジール。

 領都を作り、国に多大な利益を齎した偉大な人物から取って付けられたこの街は、他国から輸入した食べ物や名産品を各地へ送り届ける為の中継地点となっている。

 もちろん領都フェルノでもそれらの商品は取り扱っている。休みの日とか作って、そこら辺の店をぶらつくのもいいかもしれない。


「それにしても人が多いな~。ランデムでも結構な人で溢れかえってたのに、ここはそれ以上だ」


「そうね。私からしたら、人が作ったこの建物は未だに新鮮な気分にさせられるわ。蟲人は木や岩、洞窟を住処にするから」


「正に自然と暮らす生活か。それもそれで良さそうだな」


 慣れるまでに時間が掛かるだろうけど。


 馬車は進み、やがてホノ爺の店に辿り着く。

 雑貨屋ホノと言う店だ。シンプルでわかりやすい。


「二人とも、護衛ありがとうの~。これで美味い飯でも食ってくれ」


 そう言ってホノ爺は、二人に一枚の紙と金が入った袋を渡す。

 紙は無事に依頼が達成したという証だろう。護衛の依頼はあれを冒険者協会に提出すれば、報酬が手に入る仕組みだと父さんから教えてもらった。

 金が入った袋は、たぶん追加報酬だ。満足のいく結果、またはそれ以上だったと依頼者が判断すれば、こういうボーナスも貰えたりするらしい。


 この間のコウメイさんの依頼みたいにな。


「ひぃ、ふぅ、みぃ……ありがとうございます。では……」


 ワッカさんは金を数えてからホノ爺に頭を下げると、俺とサソりんを見る。

 そして金が入った袋を、こちらに差し出しながら続けた。


「これはお前らが受け取れ」


「「……へっ?」」


「ど、どうして私たちに?それは貴方たちの報酬じゃ…」


 二人して少々間の抜けた声が出たが、すぐにサソりんが理由を聞いた。


「バンと決めてたんだ。今回の依頼の報酬、お前らと分けようってな」


「そんな……冒険者でもない俺たちがそれを貰う資格は、まだ無いと思いますけど」


「あははははっ!そんなの関係ないよ。君たちは少なくとも、僕よりも立派にホノ爺さんの護衛をしたと思うよ」


 俺の言葉をバンさんがそう否定する。


「ワーウルフを相手に臆することなく立ち向かったノヴァ君たちが、冒険者じゃないから報酬がないなんて、そんなの馬鹿げてるでしょ?僕なんて道中の雑魚モンスターしか狩ってないし」


「それにノヴァのあの超凄いスキルとサソりんの毒が無かったら、俺たちの命は確実に無かったろうしな…。正直二人はもう立派な冒険者だと思うぜ?俺はよ」


「でもあれは……」


「私たちが原因で起こったことですし……」


 二人の言葉を聞いて、互いに見合う俺たち。

 確かにワーウルフ相手に戦いはしたが、あれは元々俺たちがコボルト倒したから招いたようなもんだし、それで報酬を貰うっていうのはお門違いな気がしてならないんだが…。

 それについても説明はしていた。


 だがワッカさんは、ニカッと笑って俺に袋を押し付けてきた。


「そんなもん気にすんなって!前向きに考えろ、前向きに。あそこで俺たちがワーウルフを倒さなかったら、大きな被害が出ていたのはほぼ確実だったんだ。だから俺たちは、その被害を食い止めた英雄なんだって思え!勿体無いぞ、英雄!」


「英雄…」


 ワッカさんに英雄呼ばれされて、なんだか心が暖かくなる感覚を覚えた。


「……貰っちゃいましょ、ノヴァ。たぶん何度断っても渡そうとしてくるわ」


「そうだな。ワッカさんはそういう人だもんな…」


 短い付き合いだったが、彼が強引な性格をしていることはよくわかった。

 そこはちょっとネックな部分だろうが、後輩思いの良い先輩だ。


 ただ一緒に飯を食いに行く際は、今度は適度な量で納めて欲しいかなって…。腹が破裂する。


「それじゃあ、有難く受け取らせていただきます。あ!でも本来の護衛の報酬はそちらだけで貰ってくださいね?流石に気が引けます」


「ああ。そうするよ。ぶっちゃけボーナスの方が金額は上だしな。あーっはっはっは!」


「えっ!?じゃあそっち貰うからこっち受け取ってくださいよ!」


「ダメでーす。もう決まったことでーす。それはお前らの物でーす」


 ムカっ。


「サソりん毒針!」


「おk」


「ぎゃーーー!?やめろバカ!ワーウルフにも効く毒を軽々しく注入しようとすんな!」


「待て待てー(棒)」


「棒読みで追っかけてくる方が怖ぇ!?」


 逃げるワッカさんを追うサソりん。

 まぁガチで刺すことはないだろう。さて、これは何に使うべきか…。


 数えてみたら金貨10枚入ってた。サソりんと折半しても5枚か……まだ冒険者でもないのに、最近凄い稼いでる気がする。

 コウメイさんの報酬も貯金に留めてるんだよな。トランプみたいな娯楽グッズでも買うか?


「いつか何かしらの形でお返ししますからね?」


「あははは。うん、期待してるよ。明後日の冒険者試験は、ワッカと一緒に応援しに行くよ。まぁ二人なら余裕で受かると思うけどね」


 そうか。もう試験は明後日か。

 ワーウルフの件もあって、結構ギリギリだったんだな。


 だけど、自惚れる訳ではないが俺とサソりんのレベルなら合格はほぼ確実だろう。

 ブラックゴブリンとワーウルフを倒してるんだ。最早実績だけで冒険者になれると思って良いだろう。

 ガチで試験が免除される訳ないだろうし、明日はよく休んで試験に備えるけど。


 サソりんに捕まって、首筋に針を突き付けられているワッカさんを見ながら、そんなことを考えた。

 ……………あらっ?もしかして助けた方が良いかな?あれ。


――――――――――――――――――――――――


「―――――お前は、不合格だ」


「……はっ?」


 しかし冒険者試験当日。ワッカさんとバンさんも見守ってくれてるなか、俺は試験官の冒険者にいきなり不合格を言い渡された。

次回はラストのシーンから少し時間が遡ったところからスタートします。

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