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エルフのお姉さん

 グレーウルフ。Eランクモンスター。

 個々の戦闘能力はFランクモンスター程度だが、必ず十数体以上の群れを作って行動するためEランクとされている。100体を越える群れを形成することもある。(100体を越えた場合、その群れはDランクモンスターとして扱う)


 ドシュッ!ドゴッ!バキャ!


 その連携力と狡猾さはFランク冒険者が相手取るのはなかなか厳しい相手な為、Fランク冒険者が最初に越えるべき壁とも言える。

 ※ソロで戦うことはオススメしない。パーティーで行動し、討伐することを推奨。


「―――っと、簡潔にまとめるとこんな感じ。たぶん俺とサソりんなら大したことないと思うぞ」


 耳長の女性の戦闘を見ながら、魔物辞典に書いてあることをサソりんに説明する。


「そう。でもあんなのを見ちゃったら、あまり説得力ないわね。その辞典に書いてあることって」


 身の丈に合わない長槍と盾を持った女性が、盾で殴られてピクピクと痙攣している最後の一体にトドメを刺している光景を目にしながら、サソりんはそう言う。

 まぁEランクなんて所詮、Fランクより少し強いくらいの魔物ですし。Dランクもレベルさえしっかり上げとけば、やられることは少ないって聞いたな。


 問題はCランクからだ。ピンキリだがCランクから急に魔物の強さが増す。ブラックゴブリンしかり、ワーウルフの幼体しかり……たぶん俺たちが戦ったワーウルフはCランクに相当する。


 同じCランクでも強さは段違いだったが…。ピンキリ激しすぎだろ。


「ちっ。この程度の魔物を一撃で倒せないとは……まだまだだな」


 女性はそう言うと、さっさと街道に散らばった素材を拾って、道を開けてくれる。


「待たせたな。私は少し休むから、先に行っていいぞ」


「ほっほっほ。ありがとうの~、魔物を倒してくれて。じゃがワシらもそろそろ休憩するところだったんじゃ。少し離れた場所で休憩していても構わんかのぅ?」


「好きにしろ」


 そう言って女性は、原っぱに座って槍の手入れを始めた。

 わお。胡坐だからスカートっぽい腰布から黒いパンツが丸見え。ありがとうございます!


「ノヴァ。どこ見てるの?」


「パンツ」


「正直に答えるんじゃないわよ変態…」


 ありがとうございます。


「気にするな蟲人の娘。これはスパッツだ。見られても構わん」


 スパッツ?……それってパンツとなんか違うの?結構エロいんですけど。

 隠れてる部分の輪郭がしっかり見えてて。


「ノヴァ。セクハラ」


「はいごめんなさい。もう行きます…」


 というわけで、耳長の女性から離れた所で休憩することにした俺たち。

 サソりん以外が昼飯を堪能していると、ワッカさんが口を開く。


「それにしてあの女。ホノ爺さんに向かってタメ口とか、礼儀が成ってねぇな。目上だぞ」


「ほっほっほ。仕方ないじゃろ。あの子は見た目は若いが、歳はワシより上じゃろうて」


「え!?なんで?」


 ホノ爺の言葉に驚いた俺は、理由を聞いた。

 なんでもあの女性は、エルフという種族らしい。あの長い耳がその証拠だそうだ。父さんから聞いていたのは緑髪ってことだけだったから、知らなかった。

 すんげぇ長寿で、特に長い者だと1000年生きるらしい。長生きなもんだから、一年が一ヶ月程度に感じるとか。


「にしてももうちょっと……こう、あるでしょう?」


「ほっほっほ。ワシは気にしとらんから、大丈夫じゃよ。それに年頃の子は、あれくらいがちょうどいいんじゃ」


「ホノ爺さんより年上なのに、年頃って…」


 あれがエルフか…。俺ってば人間じゃまず見ないエメラルド色の髪だから、実はエルフの子どもなんじゃねって言われたこともあったな。

 でもあの人の髪は白いな。毛先は緑だけど。


 俺と同じ髪をしたエルフって本当にいるのかな?……ちょっと聞いてこよ。


「ノヴァ?どこに行くの」


「あの人に聞きたいことあってさ。大丈夫。いきなり模擬戦申し込んだりしないから」


「心配だわ…」


 サソりんの心配を他所に、俺は槍を手入れ中のエルフのお姉さんに近付いていく。

 俺に気付いた彼女は、ちらっとこちらを見るだけですぐに興味を無くしたようで、すぐに視線を槍に戻した。


 さて。俺と同じ髪をしたエルフはいますかって聞いて終わるのもいいが、もしかしたら先輩冒険者かもしれないし、少しばかり親睦を深めておくか。


「……お姉さんって、凄い強いですよね。もしかして凄腕の冒険者ですか?」


「まだだ。私は数ヶ月前に里を出たばかりだ」


 お姉さんは目を合わせることもなく、そう答える。


「あ。俺と一緒なんだ。あんなに強いから、てっきり凄腕の冒険者か傭兵なのかと思いました」


「だとしたらお前と一緒にいる冒険者が気付くだろう。エルフは人間の街にはあまりいないはずだからな。ましてや槍と盾を振り回すエルフなど、印象に残らないはずがない。……親から聞いてないのか?」


「全然」


 それってつまり、エルフは本来は槍と盾を使わず、別の武器で戦う種族ってこと?


「他のエルフは何を使ってるんですか?」


「弓矢と杖だ。非力なエルフでは、このような重い武器は持てない」


「へぇー!じゃあお姉さんって、特別ってことなんですね!」


 俺がそう言うと、エルフのお姉さんは手入れの手を止めて、ようやく目を合わせてくれた。


「特別?」


「だって他のエルフは非力だから、お姉さんみたいな戦い方は出来ないってことですよね?後衛職が多い中、一人でも前線を張れる人がいるのってかなり強いと思うんですよ。そんな環境だと、俺だったらついつい頼っちゃいそうです」


「……そうか。お前はそう思うか。“ハーフエルフ”の癖に、変わってるな。お前」


 ん?ハーフエルフ…?

 ハーフってことは、意味合い的にエルフと別の種族の人から産まれたエルフってことか?


「俺、純度100%の生粋の人間ですよ?」


「なにっ?だがその髪はエルフ特有の物のはずだ。耳は人間の血が濃いだけだと思ったのだが…」


「本当ですって。親は黄色と青だけど、ちゃんと二人の元で生まれて育ったことは、村の人間全員が知ってます」


 お姉さんはずっと納得のいかない様子だったが、最終的には「そうか…」と言って、今度は盾の手入れに入った。

 意図せず俺が聞きたいことが聞けたが、なんか心の中にモヤモヤが残ったな。


 やっぱこの髪は人間にはないのか…。


「もしかして隔世遺伝?遠い先祖にエルフがいたとか」


「……ないと思うがな。人間との間に子を成したエルフが出たのは、つい最近の話らしいからな」


「ちなみに最近ってどのくらい?」


「300年くらい前だ」


 十分昔じゃねぇか!?隔世遺伝もあり得るだろ!


「言っておくが、エルフの300年は人間に換算すると30年だ。成人が150歳」


「じゃあ最近だわ」


 150歳で成人となると、俺の爺ちゃんないし婆ちゃんは最低でも165歳か…。両親は駆け落ちみたいなもんだったから、会ったことないけど。

 でも確か普通の人だったって教えてもらったことあるし、エルフだった可能性は低いな。


 もしドンピシャで最初にハーフエルフを作った人が曾祖父母だったとしても、そのことを教えてくれないのはおかしいし、父さんが村の男衆に「俺の子じゃないって言うのかー!?」って怒る意味もない。


「……まぁ。お前がハーフエルフかどうかなんて、どうもいいことか。ただの突然変異みたいなものだろう。エルフにも稀に人間みたいな青髪が産まれることがあるからな」


 そう言ってお姉さんは立ち上がり、俺に向き直った。


「私はもう行く。お前たちも領都に行くのだろう?気を付けろよ」


「うん。機会があったら、一緒に依頼やりましょうねー」


「ふんっ。そんな機会があればな」


 鼻で笑って、無愛想に立ち去ろうとするお姉さん。

 ……あ。そうだ。最後に名前くらい聞いておこ。


 そう思って声を掛けようとしたが、先にバンさんが彼女を呼び止めた。


「すみません。僕からもちょっといいですか?」


「なんだ?」


「ホノ爺さん……僕たちの依頼人のお爺さんが、良かったら馬車に乗ってかないかって。さっきみたいに襲われたら大変ですし」


「必要ない。私一人で十分だ」


 バンさん、というかホノ爺からの提案を一蹴するお姉さん。なんか俺と話していた時より声が冷たい気がする。


「ですが、女性が一人で歩くのは危険でしょう?ましてや領都までの道のりは長いんですし……」


「“女性が”……だと?」


 バンさんが恐らく余計なお世話な説得をしようとすると、お姉さんの雰囲気が変わった。

 具体的にどう変わったかと言うと―――


「ええ。それに貴女のような女性が野宿するのは……」


「私を…」


「はい?どうしました?」


「私をっ……女だからと、馬鹿にするなーッ!」


 殺気を纏っていた。

 お姉さんはバンさんの首元に槍を突き付けて、怒号を放った。


「うわぁっ!?な、なんですかいきなり!僕なにか気に障るようなこと言いました!?」


「貴様のそれは親切心のつもりなんだろうが、私にとってそれは侮辱に他ならないッ!私は女だが、一人の戦士だ!?女だからと、そのような優しさを私に突き付けるな!」


 さっきまでただただ無愛想だった彼女の表情は、異常なまでに怒りに染まっていた。

 ……もしかして、女だからって理由で仲間から省かれたりとかした?


「二度と戦士(わたし)を侮辱するようなことを言うな。次は槍を止められる自信はない。……全く。せっかくの良い気分が台無しだ」


 そう言って槍を引き、足早に立ち去っていく。

 ……名前、聞きそびれちゃったな~。

 女だから。なんてことは思ってなかったけど、次会った時はさっきの地雷を踏まないように気を付けよう。


 バンさんが膝を付いて息を吐く姿を見ながら、俺は一応心にそう誓っておいた。

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