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強くなる為に⑦ サブクエストの結果報告

「そういえばノヴァ。さっきの凄いキックは新技なの?ワーウルフの時は使ってなかったし」


 森から出てやっとこさ昼飯のサンドイッチを食べていると、サソりんがコボルトの腹を陥没させた蹴りのことを聞いてきた。

 口の中にあるものを飲み込み、そのことを説明した。


「ごくんっ。技かどうかって聞かれると、技じゃないって答えざるを得ないな。《首斬り舞》みたいに技を習得したって感じはなかったし」


 俺の場合は謎の声から報告が入るが、普通の人が技を習得したらなんとなく技名が思い浮かぶらしい。

 あまり勇者であることを知られたくない俺は、なんとなくそんな感じがした、ということにして説明する。


「へぇ。私が受けたら即死しそうな、あれがね~」


 複眼でわかりづらいが、彼女からジト目で見られてる気がする…。

 仕方ないじゃん。謎の声の奴が技として認めてくれなかったんだからさ。


「《瞬歩》を脚だけに集中させて放った蹴りだったけど、やっぱ刀を使わないと技として認識されないのかもな」


「……あまり聞いてはいけないことかと思って聞かなかったけど、やっぱりその《瞬歩》とか《復讐の賛歌》っていうスキルは、ノヴァが自分で編み出した物じゃないのよね?ノヴァは確かに強いけど、レベルが10を越えたばかりの個人が持っているのは、そのスキルはあまりにも強力過ぎる」


「ん?あ~……変に隠しても仕方ないから、さっきはちらっとだけ小夜左文字のこと話したけど、まぁそんな感じ」


 サソりんなら別に変に口外することもないだろうから、俺はそのまま菊一文字則宗と小夜左文字のことも説明することにした。


 ただ言葉にするには俺の語彙力ではなかなか難しく、なんとかそれっぽい言葉を選びながら喋っていたら、粗方の説明を終える頃にはサンドイッチを食べ終えていた。

 俺が使うスキルが、どちらも菊一文字と小夜左文字の物?宿っている?まぁそんな感じで、スキル自体は刀から貸してもらってるようなものってことで説明した。


「う~ん。説明を聞いてもイマイチ理解が出来ないわ…。持ち主を認める剣ってだけでも十分稀有なのに、その上スキルを持ってるなんて…。私たちと同じで、生きてるみたい」


 サソりんが思ってる疑問には、俺も完全に同意だ。

 考えてもわからないことを考えても仕方ない(面倒とも言う)。だから特に気にせず使ってきた。

 《復讐の賛歌》は気にせずにはいられないけど。


「一度どこかの学者に調べてもらったら?その二つの剣が一体なんなのかわかるかも」


「え!?いや~、それはそれで色々と拘束されそうだから……まぁ老いて冒険者を引退してからでもいいかな。そういうのは」


「そう?私だったらそんなどういうものかわからない、不気味な剣は進んで持ちたくないわね。持てないけど」


 眉をひそめて、シャキンシャキンとハサミを鳴らしながら言うサソりん。笑えばいいのか?それ…。


「だけどあれだけ高威力なんだから、技として使っていっても良いんじゃない?」


 話は戻って、あの蹴りについてサソりんがそう言う。

 もちろん俺はそのつもりだ。だがそれでも《瞬歩》を一回分使ってしまうから、変に多用することは出来ない。

 まぁ隙さえあれば、強敵相手に二回連続で叩き込むのはありか…。たぶんまともに立っていられないだろ。


「だったらちゃんとした技名が欲しいな」


「技名ねぇ…」


「まぁそれは帰ってからでも出来る。今はコボルト狩りに集中しようぜ?」


「そうね。あとで一緒に考えてあげる」


「そいつはありがたい。俺じゃ《内蔵破壊キック》って名前しか思い浮かばないからな!」


「ふふっ。それはそれで味があって良いわね」


 そんなことを話しながら、俺とサソりんはコボルト狩りに戻った。


――――――――――――――――――――――――


 どうも。今更ですが、ノヴァです。残りのスタミナが50を切ってます。ここ重要。憶えといて。

 俺とサソりんは無事にコボルト狩りから戻り、門の前で待っていたコウメイさんにちょっと高級そうなお店まで招待された。

 しかも個室。まるでこれから秘密の対談をする気分だぜ。


 実際はそんなことはなく、ただの商品取引なんだが。

 コウメイさんの隣には、なんかサビっぽい銅色の首輪をした黒い猫耳の少女が座っている。

 可愛い!獣人なんて初めて見たぜ!


「それではご飯の前に、まずは依頼の話を済ませましょうか」


 サソりん曰く、怪しさを感じざるを得ない爽やかな笑顔で言うコウメイさん。


「そうですね。あ!ちなみに飯は奢りですか?俺たちの分は俺たちに支払った金で~、なんてことはないですよね?」


「もちろんです。食事代も私持ちですので、どうぞ好きなだけ召し上がりください」


 やったー!他人の金で食う飯だー!

 ワッカさんの時も奢りだったけど、あれは食わされ過ぎたせいであまり幸せな食事とは言えなかった。

 しかし今回はそんなことはないだろう。くぅー!十分な満足の量で腹一杯食えるって最高だぜっ!


「それじゃあまずは、私たちの成果からお見せするわ。ノヴァ、お願い」


 サソりんに言われて、アイテムポーチから『ガラガラガラガラッ!』とコボルトの爪と牙を机の上に大量に放り出した。

 あまりの量に机には収まりきらず、氾濫するように床に落ちていくほどだ。


「おやおや。凄い量の爪と牙ですね~。これだけでも十分、追加報酬を出してもいいですね」


「ふふんっ。ノヴァが頑張ってくれたおかげ」


 ……まぁ、あまり自分の頑張りを自慢したくないが、今回ばかりは「俺よく頑張った…」と言いたくなったよ…。

 自業自得感は否めないけど。


「そして毛皮の方ですが……もしかして、一枚もドロップしなかったのですか?」


「いやいや、そんなことないですよ。はいこれ!毛皮です!」


 アイテムポーチに手を突っ込んで、毛皮を一枚一枚出していく。

 まずは、指定の五枚だ…。あ。慎重に置いたけど、やっぱり爪と牙が氾濫した…。


「おー!きっちり五枚ですかぁ…。しかもどれも状態がとても良いですね。うん!これなら金貨30枚は出してもいいですね!いや~、まさかこれほどの成果を持ち帰るとは思ってませんでした……パッと見ただけでも、爪と牙だけで計600、いや700ですかね?とにかく私の予想を遥かに上回る結果です」


 コウメイさん、凄く喜んでいる様子だ。しかし隣の猫耳少女は顔色一つ変えないな。ずっと無表情だ。

 彼女にとっては、そこまで驚くことじゃないのかな?それとも感情の起伏が薄いだけ?


「ということは、これだけ(・・・・)でも金貨30枚は貰えるのね」


「もちろんです。詳細は言えませんが、とにかく大量のコボルトの素材が必要だったので、それだけの価値はあるんですよ」


「へぇ~。これだけ(・・・・)で、ねぇ~」


 サソりんがこれだけという部分を強調しながらニヤリと笑う。

 俺も内心笑ってる。じゃあこれ以上の成果を見せたら、一体どれだけの報酬が貰えるのか、と。


「それじゃあノヴァ。アレを」


 キンキン、と手を叩くようにしてハサミで合図するサソりん。

 まるで「おい。アレを…」と金を持って来させる敏腕承認だ。一度やってみたかったらしい。可愛い。


「コウメイさん。じゃあこれだと、どれくらいの報酬が貰えるんでしょうか?」


 そう言って俺は、もう爪と牙の氾濫なんて気にせず、どっさりとアイテムポーチから大量の毛皮を出した。


「こ、これは……」


「……………」


 それを見たコウメイさんは目を見開き、猫耳少女も思わず驚愕の色で顔を染めた。

 その数……最初のと合わせてなんと…!


「こちら、コボルトの毛皮15枚ちょうど。どうしてこんなに毛皮が手に入ったか、わかるかしら?」


「いえ、想像力の乏しい私では、どうも……」


 コウメイさんから笑顔が消えて、純粋に困惑した様子を見せている。

 サソりんじゃないけど、彼の笑顔はどこか胡散臭さがあったのは否めない。

 それが今では素で驚いているよ。ちょっと良い物が見れた気分。


「Fランクとはいえ、レアドロップを15枚も手に入れて来たんです。報酬、期待しちゃいますよ?」


「と、当然そのつもりですが……一体どれほどのコボルトを倒したのですか?爪と牙がアイテムポーチに入りきらなくなっただけで、ここにある分以上のコボルトを狩って来たとしか思えない毛皮の量ですよ?」


 レアドロップは魔物を100匹狩ってもなかなか落ちない貴重品だ。確かにそう思うのもわかる。

 単純計算で1500匹は狩ってる計算か?まぁ流石にそんなには狩ってないけども。


「運が良かっただけですよ。たぶん狩った数は400~500匹くらい。でも100匹でも落ちないっていうのは、あくまで運が悪ければの話です。じゃあ毛皮が15枚手に入るのは、割と妥当だと思いませんか?」


 まぁ運もそうだが、また100を越えるコボルトたちに襲われたんだよな。

 しかもさぁ帰るか~って時に…。おかげでサソりんはスタミナが無くなるわ、俺も久々に喘息なんじゃないかってくらいヒューヒュー息が切れるわ……夕方になる前に帰るべきだったと反省しております…。


 そのおかげで15枚中の半分は回収出来た訳だが、二度と遅くまで狩りはしないぞ。


「それにしたって運が良いような気がしますが……いえ、すみません。つい取り乱してしまいました。申し訳ありませんが、報酬は明日お二人が宿泊している宿に届けるという形でもよろしいでしょうか?毛皮もそうですが、爪と牙の数を数えて、状態も見ないといけないので」


「りょうか~い♪」


 コウメイさんは頭を抱えて、「今夜は残業ですね」と呟いた。

 そんな中、猫耳少女はせっせとコボルトの素材を集めて、小ぶりの袋の中に入れていた。

 あれもアイテムポーチと同じ魔道具のようだ。


「俺も手伝うよ」


「いえ。お気遣いなく。これが私の仕事ですので」


「元々は俺が散らかしたんだから、そんな気にしないでいいよ」


「私も手伝うわ。コウメイさんの胡散臭い笑顔が崩せて、満足したし」


 サソりんと一緒に、猫耳少女の手伝いをする。

 すると彼女は、信じられないような目で俺とサソりんを見てくる。


「……お二人は変わってますね。特に、貴方様は」


「ん?う~ん。まぁ故郷の村じゃ変わり者なんて言われたりもしたが……やっぱ俺ってわかりやすいのかな?サソりん」


「さぁ?まぁその子(・・・)に優しく接してるところは、変わってると思うわ」


 んんん?この子に優しく接してることが変わってる?

 いや待て待て。優しい優しくない以前に、自分で散らかした物を片付けるのは当然では?

 はて……一体どういうことなのだ?


「はははっ。どうやらノヴァさんは、少々世間知らずのきらいがあるようですね。そういえば、こちらも報酬としてお渡ししたいと思ってたんです。どうぞ、お受け取りください」




【サブクエスト報酬2:コウメイ商店の会員証を前払い入手】




 コウメイさんから一枚のカードを受け取ると、そんな報告が入った。

 いや前払いって、別にそんなことはないと思うけど…。まぁまだ正式には達成してないから、そういうことになってるだけか。


「もし冒険者をやる上で人手が欲しくなりましたら、それを領都で経営している私の店の者にお見せください。きっと役に立ちますので」


「ん?んん?ん~~~?まぁ、わかりました?」


 コウメイさんの言葉の意味がよくわからなかったが、まぁ冒険者専用のお手伝いさんが欲しくなったら来てくれってことだろうと解釈して、頷いておいた。

ここまでの話が面白いと思った方はブクマ登録と高評価、いいねと感想をよろしくお願いいたします。

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