強くなる為に③ 怪しい?商人・コウメイ
レベル上げしにやすらぎの森へ向かう為、西門へとやってきた。どうもノヴァです。
サソりんも一緒に行くと言うので、ここで待ち合わせをしている。
ワッカさんも来たがったが、あの人はホノ爺に雇われている身だから渋々断念した。
俺も冒険者になって護衛の依頼を受けたら、こんな自由には動けなくなるんだろうな~。
いっそ冒険者になるのは後回しにして、ある程度レベル上げしてから登録するのもアリかもしれない。
「でもその間の稼ぎに困るか…」
商人に魔物の素材を売るって手もあるが、足元見られる可能性が高い。
冒険者協会ならそういうことも無いらしいし、やっぱ先に登録するのが先かな?
「ノヴァー。こっち」
鶏が先か卵が先かのようなことを考えていると、俺を呼ぶ声が聞こえた。
まぁこの事は領都に着いてから考えるとしよう。今はサソりんと一緒にレベル上げだ。
呼ばれた方へ向かうと、俺は目を見開いた。サソりんが俺を指しながら若い商人らしき人と話しているのだ。
商人と話してるだけなら別段驚くことではない。サソリんが欲しい商品があったりもするだろう。だがその商人からは……『sub』と書かれたオレンジ色の矢印が出ていたのだ。
サブクエストだ。
「おまたせサソりん。そっちの人は?」
「この人はコウメイさんっていうらしいわ。なぜか私がやすらぎの森へ向かうのを一目で見抜いて、いきなり話しかけてきた怪しい人よ」
「どうも。怪しい商人のコウメイです」
「え。そこ認めちゃうの?弁明無し?」
爽やかな笑顔で挨拶してくるコウメイさんという商人。
サソりんは一目でやすらぎの森へ向かうのを見抜いたとか言ったよな?
「サソりんの言ったことって、読んで字のごとく?」
「ええ。ノヴァを待っていたら、話しかけてきてね」
「ふーん。確かに怪しいな。俺だったら刀抜いてるよ」
「あははは…。これはこれは、血の気が多い冒険者に話しかけてしまったようですね」
冒険者?
「貴方、私たちが冒険者に見えるの?」
「え。違うのですか?立ち居振る舞いや身体の運び方が、戦い慣れている人のそれだったので、つい冒険者と決めつけてしまいました。申し訳ございません」
コウメイさんは本当に申し訳なさそうに謝る。
え。てかこの人、会って間もないのに戦い慣れしてるとかわかるの?そんな手練れの戦士みたいなことを一介の商人が出来るのか?
「あははは。すみません。私は昔から人を見る目だけには自信がありまして……ですが今回は的外れだったようですね。重ね重ね、失礼をお詫び申し上げます」
「いやいやいやいや。そんなに謝られても困りますって。それに俺たち、まだ冒険者になってないだけで、割と当たらずとも遠からずって感じでしたから」
このまま頭を下げ続けられるのも面倒なので、俺とサソりんが冒険者志望であることを話す。
するとコウメイさんは、「なるほど。だから間違えたのか…」と納得したように頷く。
「だけど、それで私たちがやすらぎの森へ行くことがわかった理由にはならないわ」
「ああ。それでしたら簡単です。冒険者がここから徒歩で向かおうとする主な場所が、やすらぎの森くらいしかないからですよ。やすらぎの森にしかない薬草などを取りに行ったり、ですね」
「やすらぎの森にしかない薬草?もしかして話しかけてきた理由はそれかしら。それを取って来て欲しい、とか」
サソりんが未だ警戒した様子で話す。
確かに怪しいことには怪しいが、商人は見る目が大事と言うしな。情報と状況から、一人一人の行動や目的を見抜く才能を持つ人はいるんだろう。
流石にコウメイさん程優れてないが、ホノ爺とかが割とそうだったりする。元冒険者ってこともあるだろうけど。
「いえいえ。私の店では“やすらぎ草”の常時取り扱いは行っておりません。デリケートな植物で、保存が難しいですからね。ですが素材収集の依頼をしようと思ったのは本当ですよ」
コウメイさんはポケットから一枚の紙を取り出して、それを俺たちに見せて来る。
紙には“コボルトの爪”と“コボルトの牙”。それに“コボルトの毛皮”と、それらの必要個数などが書かれていた。
「コボルトの爪が50本。牙が30本。毛皮が五枚?……こんなにいっぱい、何に使うんですか?」
使用用途がイマイチ想像できず、コウメイさんに訊ねる。
「はい。魔物の素材は武具の材料になるというのはご存知ですか?コボルトの素材から作られた武具は、新米冒険者には大変重宝するんですよ」
「ああ。なるほど…。それら素材を鍛冶屋に売ったり、作られた武具を売ったりする訳ですか」
「ええ。その通りです。ご理解が早くて助かります」
コウメイさんの話。それと一目でサソりんのことを冒険者だと思った理由はわかった。
彼の商売は日々色々な冒険者と話すことが多く、その経験からサソりんを冒険者だと断定していたんだな。
正確には冒険者志望であった訳だが。
「でも普通、こういうのは冒険者協会を通じて依頼するのが普通じゃない?なんで直接私たちに頼むのよ」
「それはごもっともなご意見です。実はこれは緊急の依頼でございまして……ここにはまだ冒険者協会がないじゃないですか?なので協会がある領都まで行く時間が惜しく、こうして腕に自信がありそうな方に直接依頼しようと」
「なるほど……事情はわかりました。で?ノヴァはどうするの」
「え。俺?」
とりあえず信用することにしたのか、警戒を緩めたサソりんから急に振られた。
「私だけの一存で決める訳にはいかないでしょ?それにこのパーティのリーダーは貴方なんだから、最終的には貴方が決めて欲しい」
「いつの間に俺がリーダーになってたんだよ!」
「私よりノヴァの方が頭の回転が早くて、機転が利くっていうのはワーウルフと戦った時にわかったからね。少なくとも毒とハサミで戦うことしか出来ない私よりは適任よ」
「えー…」
俺は今までソロだったから、臨時とはいえ本格的なパーティでの戦闘はワーウルフが初めてだったんだがな…。
……まぁ冒険者をやる以上はパーティを組むこともあるだろうし、ここらでリーダー力的な物を磨いておくのも悪くないか。
なんかサソりんが面倒くさいからって、俺に押し付けようとしてる感があるけど…。
「ワーウルフ?」
「それで?どうするの、リーダー」
コウメイさんがワーウルフという言葉に引っ掛かったようだが、まだ完全には信用しきってないサソりんは詮索されまいと俺にこの依頼をどうするか聞いてくる。
「そうですね。依頼を受けるにしても、まずは報酬の提示をしてもらわないと。もちろん相応の報酬は用意しているんですよね?」
「ええ。もちろんです。銀貨10枚でどうでしょう?それなりに破格の値段に設定したつもりですが」
銀貨10枚か…。確かにFランクモンスターの素材を買い取るにしては、結構お高めに設定しているな。
だがこの人は商人だ。本来なら出来る限り安く済ませたいはずだ。
俺はもう一度、コボルトの素材が書かれた紙を見る。
……コボルトの毛皮か…。そういえば前に倒したコボルトのドロップアイテムは、爪と牙だけだったな。ワーウルフも爪と牙だけだった。
もしかしてと思い、アイテムポーチから魔物辞典を取り出してコボルトの説明欄を見る。
これには魔物のドロップアイテムについても書かれているのだが……やっぱりそうだ。
「毛皮。レアドロップって書いてるっすね」
「おや?」
「レアドロップって確か、運が悪いと魔物を100匹倒しても一個も落ちない貴重品だって、元冒険者の父から聞いてたんだけどな~。その毛皮を5枚って…」
「おやおや?」
コウメイさんが笑いながらおどけた反応をする。図星だな?こりゃあ。
「もしかして足元見ようとしてました?まだ冒険者じゃないからって」
「おやおやおや。どうやら優秀な冒険者志望者さんだったようですね。一本取られました」
「ふふん。伊達に夢見てないんで」
サソりんのようにドヤ顔を決める。
商人っていうのは基本的にがめつい生き物だ。安く済むなら安く済ませたい。それが商人であり、人というものだろう。
「参りました。それではこれが本来の報酬です。ご確認ください。毛皮に関しましては、手に入ればで構いません」
そう言ってコウメイさんは、契約書のような物を取り出した。
それと同時に、あの謎の声がサブクエストの内容の説明をしだした。
補足説明:通貨について。
この世界の通貨は、
銅貨100枚で銀貨1枚。
銀貨100枚で金貨1枚。
金貨100枚で白金貨1枚です。




