強くなる為に② そういえば俺、勇者だったわ…
「おはようございます。今日も生が出ますね」
俺とワッカさんが特訓の休憩をしていると、サソりんが庭にまでやってきた。
「おはようサソりん。今日は随分とお寝坊さんだな」
「ええ。ちょっと今朝から身体が怠くてね。起きるに起きれなかったのよ」
この三日間、サソりんも俺とワッカさんの特訓に混ざっていた。
といっても観察がほとんどで、模擬戦は二、三回やる程度だが。
にしても朝から怠いって、ホムラ村の女の子たちもそんなことあったな。その時はエリスの下ネタが度を増した気がする。
……薄々気付いていたけど、もしかして女の子が怠い日って…。
「おいおい大丈夫かよ?部屋で休んどいた方がいいんじゃないのか」
俺はなんとなく察しが付いてたけど、ワッカさんは鈍感なのか気付いていない様子だ。
「はい。今はもうそこまで……それよりノヴァ」
やはりデリケートな部分なのか、話を無理矢理ぶった切って俺に話を振って来る。
「さっきホノ爺さんが他の商人たちと話してるのを見たのだけど、どうやらやすらぎの森の安全が確認されたみたいよ」
「マジで!?てことはそれって……」
今の俺は恐らく、子どものようにキラキラした目をしていることだろう。なぜなら―――
「ええ。ご希望のレベル上げ、行けると思うわよ」
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サソりんから話を聞いた俺は、さっそくとサウスのおっちゃんの所へ向かった。
目的のは防具の受け取りだ。実はワーウルフ戦の後、念の為防具を点検に出したのだ。
先に済ませなきゃいけない仕事があるってことだったから、三日後に取りに来いと言われたから今日がその日だ。まさにベストタイミングだぜ。
「おーっす。サウスのおっちゃん、俺の防具の点検は済んでるか?」
「ん?おう坊主。昨日終わったところだ。にしてもいきなりワーウルフと戦う羽目になるなんざ、本当にツイてないよなお前…」
おっちゃんは店の奥へ防具を取りに行きながら、三日前にも聞いたことを言う。
「あはは……でも得るものはあったから、悪いことばかりじゃないさ」
「そうかい。んで、今日は偉くご機嫌だが、何か良いことでもあったのか?」
「ああ。実は―――」
俺はやすらぎの森の安全が確認出来た為、レベル上げしに行くことを伝えた。
もっと強くなって、いつかワーウルフの成体にも一人で勝てるようになる為に、強くなれる内になっておきたいからな。
「なるほどな。確かにやすらぎの森はもう安全という話は聞いた。だがワーウルフが発生した影響か、コボルトの数が増えてるって話だ。十分気を付けた方がいいぞ」
「ああ。それは旅仲間からも聞いたよ。今日は俺一人じゃなくて、その人と一緒に行くからある程度は大丈夫だと思う」
サソりんのことだ。彼女もワーウルフ戦を経て、強くなりたいという想いが強くなった。だから一緒にレベル上げしに行こうという話になったのだ。
後で西門の前で合流することになっている。
「ていうか寧ろ、数が多い方がありがたいね。それだけレベルが上がるようになる訳だし」
「はっはっは!頼もしいこと言うじゃねぇか。流石はSランク冒険者になろうって男は違ぇな」
「からかうなよ。俺は真剣にSランク冒険者になろうとしてるんだからよ」
その為の一番手っ取り早い方法は、やはりレベル上げだ。
今の俺はレベル11。このレベルだと、恐らくまだEランク冒険者レベルだ。
Sランク冒険者のレベルはわからないけど、その下のAランク冒険者は最低でもレベル50は必要だと父さんから聞いている。
だがそれは、スキルやステータスに恵まれた者の話。実際俺がAランクになるってなったら、60……いや70以上は必要かもしれない。
通常スキルが一個もないんだから、そのくらいは覚悟した方が良いだろう。
「ははは!そうだったな。まぁそうじゃなきゃ、防具代は払えんわな。……そういえば坊主。何かに使えないかと思って仕入れた魔道具があるんだけどよ。自分でも試したんだが、正常に稼働するかお前にも試して欲しいんだ」
「え?いいけど……俺は魔道具にすら嫌われていて、鑑定水晶くらいしか使えないぞ?」
「わっはっはっは!なんとも可哀想なこった。だが安心しろ。仕入れた魔道具っつうのは、その鑑定水晶だ」
おっちゃんは笑いながら、俺の防具であるプレートアーマー。そしてアダマンタイトのガントレットとレッグガードと一緒に、鑑定水晶を持って来た。
「え!?なんでおっちゃんが、教会の魔道具を!?」
鑑定水晶は煌びやかな装飾が施されており、一見するとただのデコられた水晶なのだが、その装飾もステータスを調べる為に必要な要素なのだ。
「別に教会だけの魔道具って訳じゃない。白金貨100枚はするが、かなり頑張れば一般人だって買える代物だ。その辺の知識も冒険者には必要だぞ?」
そうなのか…。人のステータスを映し出す魔道具……つまり個人情報を映し出すことが出来る魔道具だから、てっきり一般には普及されない物だと思っていた。
凄いお高いけど…。白金貨100枚とか、簡単に稼げるようにならないとダメなんだろうな~…。
「ほれ。これくらいなら使えるんだろ?あ。防具を装備してからやってくれよ。正確に測れるか調べたいからな」
「あ、ああ…。じゃあ、失礼して……」
言われた通り、点検終わりの防具を装備してから水晶に手をかざして魔力を込める。必要な魔力は5だが、まぁ160もある俺だとあって無いようなものだな。
ノヴァ
Lv.11
年齢:15歳
職業:なし
称号:ジャイアントキリング
体力:116/116
魔力:155/160
スタミナ:330/333
物理攻撃力:101+70
物理防御力:74+50
魔法攻撃力:50
魔法防御力:62+15
素早さ:81
装備:
【菊一文字則宗】
・攻撃力+50 ・攻撃速度+20%
・【神託スキル】《瞬歩》
【プレートアーマー】
・防御力+10
【アダマンタイトのガントレット】
・攻撃力+20 ・防御力+10 ・魔法防御力+5
【アダマンタイトのレッグガード】
・防御力+30 ・魔法防御力+10
水晶に映し出された俺のステータス。その中でも気になったのは、称号の欄だった。
称号は周りからどう見られてるのか、それを表す項目なのだが……ジャイアントキリングってなんだ?
「あれ?【刀剣召喚】とかが映ってないんだけど、故障か?」
「ああ、気にするな。鑑定水晶が映し出すのは通常スキルとその派生系のスキルまでで、ユニークスキルとか特別なスキルは映し出せないんだ。……しっかし、こうして見ると本当に不思議だな?なんで通常スキルが一個も無いんだ?」
「それは俺が聞きたい…」
神様は俺のことが嫌いなのかね?【真の勇者の器】だなんて認めてくれてる癖に。
……………ん?そういえば俺ってば、結構危ないことした?
水晶には映し出されなかったけど、【真の勇者の器】とかいう面倒極まりないもんは自分では確認出来る。
ていうか自分で見れるステータスの称号の欄はジャイアントキリングではなく、【真の勇者の器】ってなってるわ…。
迂闊だった…。俺ってば勇者らしいこと全くしてないから忘れてたけど、俺は勇者なんだった。なぜか知らんけど。
もし鑑定水晶が特別なスキルや称号を映し出せる性能してたら、完全にアウトだったぞ?いかんいかん、これからは必要な時以外は水晶に触れないようにしよ。
高性能の鑑定水晶とかあったら嫌だもん…。それで国のお偉いさんに呼ばれて、魔王退治に行けとか命令されたくない。
魔王と戦うならちゃんと自分の意志で戦いたいわ!
「手伝ってくれてありがとな、坊主。これなら問題なく使えそうだ」
「あ、ああ…。じゃあ俺行くわ。仲間を待たしちゃ悪いし」
「おう。気を付けて行けよ」
俺は店から出て、いそいそと西門へ向かった。
さっきは不用心だった俺を、心の中で戒めながら。
補足説明:サウスのおっちゃんが鑑定水晶を使わせた理由。
冒険者登録しに行くと、協会側は鑑定水晶でステータスの確認を行います。
ある程度冒険者のステータスを把握してないと、その人に合った仕事を斡旋しにくいからです。
なのでサウスのおっちゃんは、勇者とかそんなものを気にせずに、気兼ねなく冒険者をやれるぞと教える為にわざわざ鑑定水晶を用意しました。
なお鑑定水晶は教会でもう使ってない古い水晶を格安で買い取ったので、おっちゃんの懐は寒くなってません。
あと何かの装備に使えないか本気で模索しだすので、おっちゃんにとっても損ばかりではないです。
 




