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VSワーウルフ③

 ついに届いた、致命傷となり得る渾身の一撃。

 肩から腰にかけて斬り裂かれた箇所から勢いよく血が飛び散り、自分の身体にかかる。ばっちぃ!


「グルァーーーーーッ!?!?!?」


 だがここで油断はしない。これで倒せるほど、コイツは弱くないから。

 俺が地面に激突した足の痛みを堪え、菊一文字を切り返した。


―――ガギンッ!


 結果、なんと菊一文字がワーウルフに噛み付かれた。《天断》は確かにワーウルフに大きなダメージを与えたようだが、まだ十分体力が残っているのがわかる。

 わかっていたけど、やっぱ一発だけじゃ倒れてくれねぇよなッ!?


 この状態では、俺はもう完全に無防備だ。その隙を見逃すほど、ワーウルフは甘くなかった。

 ワーウルフは両手を使って、その強靭な爪を突き刺してきた。


「ぐわぁーーーーーーーッ!?」


 体勢が悪かったおかげで、刺さりはしても爪を立てられる程度で済んだが……これはッ!


「グルルルァーーーッ!」


 このまま俺の身体を引き裂く気か!?

 やべぇ…。今度こそ、本当に―――


「《ポイズンショット》ッ!」


 だがそこへ、ワーウルフの背中に毒の弾がぶつけられた。


「グガァーーーーーッ!?」


 ワーウルフの悲痛な雄叫びと、ジューーー…と、焼き焦がすような音が聞こえる。

 だが強情なことに、菊一文字を離してはくれなかった。


「ノヴァから離れやがれ、この犬っころー!?《パワースラッシュ》ッ!」


「ガッ!?ガァ~…!」


 そして続けざまに、ワーウルフの首元に剣が突き立てられた。


「サソりん……ワッカさん…」


「すまねぇノヴァ……俺はどうかしていた!お前がこんなに頑張ってるのに、先輩の俺が怖がってちゃ駄目だよな!?」


「今からでも、一緒に戦う!」


 良かった…。二人とも、ワーウルフのデバフが消えたんだな。


「ガァ……グ、グルゥ~…!ガァーーーッ!?」


 もうすぐ体力が無くなりそうなワーウルフ。

 そこへワッカさんがさらに剣を押し込もうとするが、ワーウルフはワッカさんを腕で薙ぎ払うようにしてぶっ飛ばした。


「かっはッ!?」


「ワッカさんッ!?ぐわぁッ!」


 ワッカさんをぶっ飛ばす為に離された爪がまた突き立てられる。

 マズい…!意識が朦朧としてきた……残りの体力が少ないんだ!


「ノヴァから離れろって言ってんでしょ、この駄犬!」


 サソりんも自慢のハサミでワーウルフの背中を斬り付けて、さらに傷を負わせる。

 さらにそこから尻尾をぶっ刺し、直に毒を注入し始めた。


「グゥッ!?グ、グ……《グルァーーーーーーーーーー》ッ!!!!!」


 だがワーウルフも意地を見せつける。菊一文字を離してまたあの咆哮を放ち、俺たちにビリビリとした衝撃を与えてくる。

 そしてもう一度俺に嚙みついて来ようとするが―――


「―――ッ!?……はぁッ!……はぁッ!―――ふーーー…!もう効かないわよ……そんな遠吠え!」


 しかしサソりんは、それを受けても臆さなかった。

 むしろそこからワーウルフに組み付き、その首に両手のハサミで挟み込んだ。


「ガァーーーッ!?!?!?」


 そのおかげで、菊一文字は完全に自由になった。

 だが相変わらず爪は立てられたままだ。クールタイムは終わっているが、このまま《瞬歩》をしたら肉を引き裂かれて体力0になる。


「こんのーッ!」


「ガァーーーッ!?」


 ワッカさんも再びワーウルフの首に剣を突き立てるが、このままじゃ俺の体力が先に尽きちまう…。

 どうする……俺に、今の俺に何が出来る…。


―――あ。やべ……身体に力が……………入ら、なく…。


 なんとかワーウルフの手から脱出する方法を模索するが、目の前が段々暗くなってきた。

 ワーウルフの姿も、サソりんとワッカさんの姿も見えなくなっていき、菊一文字も手放してしまった。


「ノヴァ?おいノヴァ!?気をしっかり保てッ!」


「ノヴァ!しっかりして!?こんな奴にやられないでッ!」


 身体が冷たくなっていくのがわかる。これが……死っていう奴か…。

 はは…。死ぬ間際ってのは、あんま苦しくないんだな…。寧ろちょっとだけ気持ちよく思えてくる。

 苦しみながら生涯を終えるのを防ぐ、防衛本能のような物なのかもしれない。


―――あー。暗くなって、見えなくなった光景の代わりに、別の光景が広がってきた。これが走馬灯ってやつなのか…。


 その走馬灯と思われるものは、なんと自分が一生懸命《居合》の練習をしている場面であった。

 まさか自分を第三者視点で見ることになるなんてな。満足は出来ないが、我ながらなかなか鋭い太刀筋では?と思ってしまう。

 目の前であの《居合》をされたら、相手によっては何をされたかわからないまま死んでいきそうだ。


 ……しかし走馬灯というのは、今までで楽しかった思い出が呼び起されるって聞いてたんだがな…。

 なんで最後に見る光景が、自分が《居合》の練習している姿なんだ?


「ノヴァ!目を覚まして!?」


「死ぬんじゃねぇ!?俺たちがこのクソ犬を殺すまで、絶対に死ぬんじゃねぇぞッ!」


 なんとなしに自分の《居合》をしている姿を見ていると、声が聞こえた。

 サソりんとワッカさんだ。


 ……俺。一応まだ生きてんだな。たぶん気を失ってるんだろう。

 二人が俺を助けようと頑張ってくれてるんだな。


 俺だってこんなところで死にたかねぇよ。だけどワーウルフに掴まれてる状態じゃ何も出来ない。

 《瞬歩》も《天断》も使えないのに、どうやって―――


 そこまで考えて、ふと《居合》をしている走馬灯の俺が目に入った。

 その瞬間、頭を強く殴られた気持ちになる。


「―――俺の馬鹿野郎ッ!」


 俺は、知らず知らずのうちにスキルだけに頼ろうとしていたことに気付く。

 スキルはあくまでも戦いの補助。自分の実力とは、全くの別物である。

 ワーウルフというかつてない強敵を前にして、完全に失念していた。


 俺の持ち味はなんだ?他の奴みたいに、スキルに頼りっ切りになるような戦い方じゃないだろう。

 俺の持ち味は―――スキル持ちを圧倒する、トリッキーさだろうが―――!


「「ノヴァーーーッ!!!」」


―――サソりんとワッカさん。二人の悲痛な叫び声を皮切りに、俺は現実へと引き戻された。


 目を見開き、朦朧とする意識を気合で保つ。だが相変わらず身体に力が入らない。

 せっかく意識を取り戻したのに、このままじゃ今度こそ死んぢまうッ!


「……ポー、ション…」


 腰に掛けてるアイテムポーチへ手を伸ばすが、ワーウルフの腕が邪魔で手が届かない。


「ッ! サソりん!数秒だけ頼めるか!?」


「了解ですッ!早くノヴァにポーションを!」


 しかし俺の声を聞いたワッカさんが剣から手を離して、自分の袋からポーションを取り出した。


「ノヴァ!口開けろっ!」


 急いで駆け寄ってきた彼は、俺の口にポーションを流して込んでくれる。


―――ッ!?身体に一気に力が戻ってくるのを感じる!これ、結構お高めなポーションだろ!?


 ポーションを飲んだ瞬間、俺の身体から煙が出始める。高速で傷が塞がって行ってるんだ。

 だけどワーウルフの爪が刺さっているから、そのせいで再生の阻害をしているのもわかる。


「こんの~~~ッ!いい加減にッ…!」


 俺はワーウルフの腕を支えにして両足を上げる。


「離しやがれこの野良犬がーッ!?」


 そこからほとんどの生物の急所である鼻に向かって、連続で蹴りをお見舞いしてやった。


―――ズドドドドドドドドド―――ッ!


「グガガガガガガガガガ―――ッ!?」


 ワーウルフは鼻を蹴られる度に情けない声を上げる。

 やがてそれに耐えられなくなり、ワーウルフは俺から手を離して、鼻を抑えだした。


 解放された俺は落とした菊一文字に触れて、《瞬歩》で距離を取った。


「よしっ!サソりん、俺たちも一度距離を取るぞ」


「はいっ!」


 二人もワーウルフから距離を取る。サソりんはその際にワッカさんの剣を、尻尾を使ってワーウルフの首から回収するという追い打ちを掛けた。


「ガァーーーーーーッ!?」


 剣が抜かれたことにより、首から血が噴き出す。

 もうかなり血を流してるはずなのに、全然倒れる気配がない。タフ過ぎんだろ…。


「グゥ……《グルァーーーーーーーーーー》ッ!!!!!」


 ッ!?またこの咆哮か!


「きゃーっ!」

「ちぃっ!?」


 二人は不意の咆哮に対応出来ず、動けなくなってしまう。今の二人なら数秒もすれば動けるようになるだろうが、その数秒が完全に命取りになる!?


「グゥ、グガーーーッ!」


 一番近くにいたサソりんに向かって、ワーウルフが襲い掛かった。


「させるかよっ!」


 俺は《瞬歩》を使って間に入り、ワーウルフの爪を受け止める。

 そして続けざまに一秒経つ前に腕を思い切り蹴り上げて、ワーウルフの無防備な腹を露にしてやる。


 さらにそこからワーウルフの斜め後ろを指定して二回目の《瞬歩》を発動して、横を通り過ぎると同時に斬り裂く!


「グガァッ!?グゥルルルァーーーッ!?」


 ワーウルフはさらに激昂し、標的を俺に変える。サソりんの毒を大量に注入されてるのに、本当よくそんなに動けるな!?

 だがワーウルフの攻撃は今までよりも大振りで単調。《瞬歩》のクールタイムを数えながら冷静に躱し、受け流し、そして隙あらば―――


「ぜりゃあッ!」


 斬り付ける!

 それだけでは終わらせず、そこからさらにワーウルフの鼻目掛けてジャンプしながら左手のガントレットでアッパーカットを食らわせ、空中で身体を回転させてからの後ろ回し蹴りで顎を蹴り抜く!

 これで脳はかなり揺れたはずだ。


 だがしつこいワーウルフはまだ倒れず、空中で無防備な俺に向かって噛み付こうとしてくる。

 それに対して、同じ轍は踏まずに今度は嚙み付かれないようにして、菊一文字を直に牙にぶち当てる。


 そして身体を捻りながらワーウルフの力を下へ受け流し、回転しながらワーウルフのさらに上を取った。


 俺は【刀剣召喚】を活かして、菊一文字を鞘に納める。

 そして居合の構えを取りながら、《瞬歩》を発動する。


―――だがただ《瞬歩》を発動するだけじゃダメだ。《瞬歩》の速度を乗せるのは―――俺の腕だけ(・・・・・)だッ!


 次の瞬間、発動した俺自身でさえ見えない斬撃がワーウルフの首へと振るわれた。

 発動範囲を指定せずに《瞬歩》をしてしまったせいで、俺はとんでもない速さで何回も空中回転してしまったが、そんな中でも確かに見えた。


 ワーウルフの首が―――舞うように空中へ投げ出されていくのを。

 それと同時に、俺の目の前にあの短刀が現れ、激しく光り輝いた。




【ワーウルフ・幼体から2500の経験値を取得】

【ノヴァは10~11にレベルアップ。次のレベルまで1822】


体力:83/103→83/116

魔力:148/148→148/160

スタミナ:76/329→76/333

物理攻撃力:94→101

物理防御力:69→74

魔法攻撃力:47→50

魔法防御力:56→62

素早さ:73→81


【技《居合・首斬り舞》を習得】

【舞うように首を斬り飛ばす居合。腕にのみ《瞬歩》を行うことで発動する】

【距離にして最大10メートル分の回転をしながら斬り付けることが可能】

【《瞬歩》のスピードと回転量によって威力が変動する】

【回転攻撃を行った場合、三半規管が弱い者だとめっちゃ酔う】


【神託は下った。汝、刀剣【小夜左文字】に認められし武士なり。【神託スキル】《復讐の賛歌》を授ける】


【神託スキル】《復讐の賛歌》

【小夜左文字を装備時のみ使用可能】

【指定した相手を恨み、憎み、妬む者たちの怨念が塊となって襲い掛かる魔法攻撃。怨念の数が多ければ多いほど威力が増す。複数指定可能】

【使用者は怨念たちの感情を一身に受けることになり、精神が弱い者だと異常をきたし、心が崩壊する恐れがある】

【ユニークスキル【刀剣召喚】により、クールタイムなしで使用可能】

【消費MP44】

小夜左文字

・刃長は約24.5センチの短刀。

・小夜の中山という場所でとある女性が、旦那の形見である左文字の短刀を売りに行く道中で山賊に襲われ、奪われた形見の短刀で斬り殺された。

・時が経ち。成人した、殺された女性の息子が掛川の研師の下に弟子入りして働いていたある日。一人の浪人が、一振りの短刀の研ぎを頼みに来た。

その浪人は言った。「小夜の中山で殺した女から奪った物だ」と。

・息子はそれを聞いて浪人が母親の仇だと気付き、小夜左文字を預かるふりをして浪人を殺し、母親の仇を取った―――これが名前の由来であり、復讐の刀剣と言われた由縁である(諸説あり)


もう一つ由来となった話がありますが、そちらは割愛します。


今回の話が面白いと思ったらブクマ登録と高評価、いいねと感想をよろしくお願いいたします。

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