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《居合》未完成版

お久しぶりです。しばらく現代ラブコメに力を入れてましたが、そちらのモチベがイマイチ上がらず、こちらの投稿を再開することに致しました。

 猫探しのサブクエストから二日後。食堂に行くと、サソりんが水を飲みながら女将と談笑している姿が目に入った。


「おはようサソりん。今朝は早いな」


「おはよう。そう言う君も早いじゃない。出発は明日でしょ?」


「そうだけど、俺には俺の予定があるからな。女将さん、モーニングセット一つ!」


 女将さんに注文しながらサソりんの隣に座る。

 改めてサソりんの身体をよく見ると、切れ味抜群なハサミ。強力な毒を扱う尻尾。人間の倍くらい大きなつぶらな瞳。

 当然だが、凄く人間とかけ離れた見た目をしている。


 これが亜人か…。うちの村には亜人はいないから、本物の亜人をこうしてまじまじと見るのは新鮮だ。つい見入ってしまう。

 そして何より……


「やっぱカッコいいなぁ。身体が武器って」


 俺は昨日散々言ったことを口にする。

 だって身体が武器って、やっぱり冒険者に凄くピッタリだもんよ。いつ何に襲われるかわからない状況が常である冒険者にとって、即座に武器を構えられるっていうのは大きなアドバンテージになると思う。


 コボルトに襲われた時だって、即座に自慢の尻尾とハサミで応戦したらしいからな。

 見てみたかったな~。サソりんの戦い。


「ふふん。もっと褒めていいのよ」


 サソりんたち蟲人は、とにかく褒められるのが好きらしい。

 本人曰く、あまり表に感情が出ないらしいけど、褒められてる時は笑顔でドヤ顔決めていて可愛い。


「そういえば、今日はこれからどうするんだ?サソりんこそ特に予定はないはずだろ」


 昨日は夕方までサブクエストを探して町中をぶらぶらしていたが、一つも見つからなかった。

 結構な人口密度のはずなのに、意外と助けを必要とする人がいないらしい。


 サソりんは宿に残って町長の事情聴取の呼び出し待ちだったが、結局誰も来ずに一日を終えたらしい。暇で死にそうだったと言っていた。


「うん。それなんだけど、貴方に着いていっていいかしら?」


「え?俺に?なんで」


 俺に着いてきたいと言うサソりんの申し出に驚きつつ、訳を聞く。

 彼女は「う~ん」と唸ってから、口を開いた。


「君ってさ、強いよね?」


「へ?……えっと、まぁ。村だと一応、強い方だと思うけど…」


 サソりんの問いに対して「うん。強いよ」とは流石に言えなかった。

 だって俺。ユニークスキルと【神託スキル】以外のスキル持ってないし。

 いくらスキル持ちを圧倒出来る程の腕前だからって、俺は強いなんて自負する気はない。俺より強い奴の方が世の中多いんだし。


「謙遜することなんてないわ。コボルト一気に倒したその実力は、間違いなくCランク冒険者並みよ」


「いやでも、あれはスキルのおかげだしな。俺自身の力じゃない」


「? 君のスキルなのに、君の実力じゃない?……ごめん。どういうこと?」


 俺の言葉にチンプンカンプンなご様子のサソりん。

 だよな。普通の人はそう思うよな…。スキルは一応自分の力ではあるんだし。


 俺は、俺が思うスキルの仕組みや自論をサソりんに説明した。

 スキルはあくまでも補助道具的な役割。確かに勝負を分ける強力なスキルはあるが、それに頼り切りでは本当の意味で強くなれない。

 そのことを説明すると、サソりんは納得したような、してないような表情になる。


「なんとなく言ってることはわかるけど……でも、どうしてそういう結論に至ることが出来たの?普通はそんなこと、気付けないと思うけど」


「あー…。まぁ、それは追々説明するよ」


 流石に自分が神に見放されていたかもしれない不遇だったなんて言えない。

 菊一文字を手にした瞬間にスキルをくれたから、完全には見放されてはいなかっただろうけど。


 でもやっぱり、安易に口にしちゃいけないだろう。スキルの数とレベルが、その人の強さの基準になるんだからな。

 剣術スキルの一つも無しなんてこと公開したら、他の冒険者に舐められてしまう。


「それで。結局なんで俺に着いてきたいんだ?」


「それはね。蟲人の本能みたいなものなの」


「本能?」


 サソりんは頷きながら続ける。


「蟲人は武闘派が多い種族なの。だから強い者に惹かれやすい」


「ひ、惹かれやすい?」


「あぁ。勘違いしないでね。あくまで強さに惹かれてるだけなの。自分と同等かそれ以上の強者を見つけると、ついつい観察したくなるの」


 へぇ~。まるで戦闘狂だな。強い奴に惹かれるなんて。

 まぁ俺も強い奴を見たらワクワクするし、気持ちはわかるけど。


 ……あ。今のブーメランじゃん。

 なるほど。そういうことなら仕方ないな。


「わかった。じゃあ飯食い終わったら、一緒に行こうか」


「本当?ありがとう。嬉しいわ」


 ということで、今日はサソりんとのサブクエスト探しの旅になり申した。


――――――――――――――――――――――――


 朝食を食べ終えて、サソりんと一緒に何の目的もなく町をぶらぶら。傍から見れば何の目的もない散歩デート中のカップルみたいに映るんだろうか?

 なんて馬鹿な妄想しながらあるいていると、サソりんが訝しむ顔で口を開いた。


「……ねぇ。これってただの散歩?」


「うーん。そうとも言うし、そうとも言えない……かな?」


「なんで疑問形?」


 だってこれ、いつどこで発生してるともわからないサブクエスト探しの(さんぽ)ですし。

 それもかれこれ一時間続いてるんですが…。


 俺だってこんなことするくらいなら、やすらぎの森に行ってコボルトを借りてぇよ。でもワーウルフがいる可能性があるんじゃ、迂闊にレベリングしに行けやしない。

 もう何匹か倒した後だし、行ったら即ワーウルフに報復されそうだ…。戦ってみたいけど、死ぬのはごめんなんだ。理性ある戦闘狂を舐めるなよ?


「本当はさ。やすらぎの森に行ってレベリングしたかったんだよ。でもワーウルフがいるかもしれないとなると、下手にコボルトを狩るのはな~…」


「あー…。確かにね。私たちもうコボルトを何匹か倒してるし、あまりやすらぎの森には近寄らない方がいいわね」


 サソりんも俺と同じ見解だ。

 冒険者の登録試験の為にも、レベルはしっかり上げときたいんだけどな~…。


「きゃーーー!あなたー!?」


「「!?」」


 どうしたものかと考えていたら、前の方から声が聞こえた。

 目を凝らして見てみると、なにやら遠くから人垣をかき分けて一人の男がこちらに走ってきてるようだが……ん?男の手に、血の付いたナイフ?


「誰か!主人を助けてください!?あの男にいきなり襲われてしまって!」


 どうやら通り魔事件。いや、犯人が大事そうに抱えてる荷物を見るに、金品を狙った強盗か。


「どけーッ!死にたくなきゃ、道を開けろー!」


「うわぁ!?なんだ!」


「きゃー!血が……血が付いて…」


「巻き込まれるぞー!?」


 騒ぎに気付いた人たちは、強盗の被害に巻き込まれないように道を大きく開け始める。

 まるで大昔に海を割った英雄の物語のよう……て、おい!そこの槍持った奴、お前見るからに冒険者だろう!?なに素直に道を開けてんだっ!


「ノヴァ。下がってて。私が止める」


「……う~ん。いやいいよ。俺がやる」


 前に出ようとするサソりんを止めて、俺は菊一文字に手を掛ける。

 ……止める際、サソりんの肩に触れたのだけど、服越しに凄いゴツゴツした感触がした。


「今日は俺の観察日なんだろ?だったら見ててよ」


「……………わかった」


 俺の言葉に渋々といった感じで了承してくれるサソりん。


 俺は早速と、《居合》の構えを取る。

 男は周りが見えていない様子。だったら恐らく、そのまま真っ直ぐこっちに走ってくるはずだ。


「どけ、どけー!道を開けろーーー!?ガキーッ!!!」


 予想通り、こちらに向かってきた。男は強盗慣れしていないのだろう。だからあんなパニック状態になっているんだ。


「すぅーーー―――」


 大きく息を吸って目を閉じ、男の気配だけに集中する。《居合》は目で相手を見るのではなく、心で見ろ……みたいなことが昔読んだ剣術指南書に書いてあった。

 心で見る、なんて抽象的な意味は理解出来ないが、少なくとも気配を感じることは出来る。


「どけーーー!?」


 そして男の気配が目の前まで迫ってくる。それだけでなく、俺に向かってナイフを突き刺しに来てる気配までも感じた。


 ―――シュパッ!


 菊一文字を一気に引き抜き、思い切り、されど力はそれほど入れずに振るう。

 当たったのは、男が持っていたナイフ。そのナイフは、根本から綺麗に斬られていた。


 斬り飛ばされたナイフは宙を舞い、それをサソりんがキャッチしながら口を開く。


「おみごと」


「お褒めに預り、光栄です。なんつって」


「ひ、ひぃーーー!?」


 何が起きたのか理解が追いついていなかった男は、無様に腰を抜かして、失禁してしまった。

 ……しまった。女の子の前だからと、カッコつけて《居合》なんてするもんじゃなかったかも。未完成だけど。


「私、刺された人の応急処置してくる」


「ああ。頼んだ。俺はコイツを踏んじまっとく」


 その後、強盗犯は衛兵に連れていかれた。

 強盗犯に刺された男性は腹から大量の血を流していたが、サソりんの身体から生成された麻酔と治療のお陰で一命を取り留めた。


 あと奥さんには、何度も頭を下げられてしまった。


「ありがとうございます!ありがとうございます!……主人が死んだら、どうしようかと」


「いいですよ。私たちは人として当然のことをしただけですから」


「聖人かよサソりん…」


 サソりんの横で苦笑しながらそう言うと、奥さんが俺の両手を握りながらまだお礼を言う。

 いやもうええて…。本当に。

この話が面白いと思った方はブクマ登録と高評価、いいねと感想をよろしくお願いいたします。


読み返してはいますが、もし矛盾点などありましたらご指摘ください。

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