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蠍の蟲人の体質

【この刀剣に認められるには、誰かの、または誰かに仇を打つこと】


 サウスのおっちゃんから短刀を譲って貰い、防具を出世払いということで購入して、ホノ爺に用意してもらった宿屋に戻っていた。

 俺は今おっちゃんから貰った短刀を使えるようになる方法を小一時間ほど考えていたが、途中から謎の声に聞けば解決なのでは?と思い、今に至る。

 長時間悩んだのがバカみたいじゃん!もう夜だぞこんちきしょう!……いや「力を貸してくれ」って話しかけたり、魔力を込めてみたり、果てには菊一文字の時みたいに瀕死の状態になるしかないのかと少し絶望したりした俺は本当にバカだわ。


 とにかく例の謎の声のおかげで、やっぱり菊一文字と同じ刀剣というのが明確になった。

 しかし仇を打つって、物騒な刀剣だな…。俺の家族や友人が誰かに殺されるかしろって言ってるようなものだ。だけどこの『誰かの、または誰かに』って言葉が気になるなぁ。どういう意味だこれ?

 わざわざこんな言葉の使い分けをしてるってことは、俺が知ってる仇打ちとは違う……いや、たぶんそれも含まれてるんだろうけど、それともう一つ選択肢があるってことか?


 えぇ…。大切な誰かを殺した奴を殺す以外に、仇打ちという言葉に意味があるのか?あるんだったらそっちの方が断然良いんだろうけど…。

 俺がうんうん頭を悩ませていると、扉がノックされた。


「ノヴァ君。夕食の時間だよ」

「はーい。ありがとうございます、バンさん」


 僕は短刀を布に巻いて後ろ腰に差して、食堂へと向かった。菊一文字の時みたいに鞘は後で自動追加されると思って、わざわざサウスのおっちゃんには作ってもらっていない。


 食堂は仕事終わりの人たちで賑わっており、酒飲み勝負や腕相撲など、父さんから教えられていた酒場の定番行事が行なわれていた。

 ざっと見渡すと、奥の方の席にホノ爺とワッカさんが座っていた。


「すみません。遅くなりました」


「いいよ別に。バンもまだだしな」


「バンさんは俺を呼びに来てくれたんですけど、先に来てなかったんですか?」


「ほっほっほ。もう一人の客人を呼びに行ってるんじゃよ」


「もう一人?」


「すみません。遅くなりました」


 俺と同じことを言って現れたのは、昼間の猫探しのサブクエストで出会った、サソリの蟲人のサソりんだった。相変わらず立派なお目目と鋏と尻尾ですわね。隣にはバンさんもいる。

 そういえばホノ爺に紹介してあげるって話だったな。刀剣のことですっかり頭から抜けてた。


「ごめんサソりん。すっかり忘れてた」


「別に大丈夫。ノヴァからホノさんの臭いが残ってたから、それを頼りに自分から頼んだ。急なお願いにもかかわらず、受け入れてくれて感謝しているわ」


「ほっほっほ。構わんよ。用心棒が増えると思えば、こちらとしてもありがたいもんじゃ」


「……………」


 用心棒、ねぇ…。まぁ何も言うまい。本人はのんびり商人をしたいみたいだし。


「さて、皆揃ったことじゃし、早速食べるとしようか。ワシの奢りじゃ。たぁんと食べなさい」


「お!じゃあ遠慮なく!いただきまーす!」


「ちょっとワッカ。少しくらい遠慮する素振りくらいは見せなよ…」


 ホノ爺の言葉を皮切りに、ワッカさんがガツガツと食べ始める。

 俺は今のうちに、同期になる予定のサソりんと交流を深めようと、食事に手を伸ばしながら話しかけようとした……が、一つ疑問が生まれた。


 どうやってあの手で料理を食うんだ?


「サソりん。食べれる?」


「ん?……ああ。気にしないで。私は水だけでいいわ」


 彼女は水が入ったコップを持ちながらそう言った。


「え?水だけ?」


「ええ。一週間前にご飯食べたばかりだし、今は水だけでいいわ」


「んん?うん……うぅん?」


 サソりんの言葉に理解出来ず、俺は頭の中に『?』が浮かぶ。

 それを察したサソりんが説明してくれた。


「私たち(さそり)の蟲人は、凄く小食で燃費が良いの。だから三週間に一度の食事で十分なの。というか空腹は気にせずに、水分さえ取っていれば一年以上絶食していられるわ」


 何それ便利。


「うわぁ。味気ねぇ人生だな、それ…。美味いもん食う機会があまり無いってことだろ。こんな美味そうな飯を目の前にして、不憫に思ったことねぇのか?」


 しかしワッカさんは苦虫を嚙み潰したような、なんとも言えない顔しながらそう言う。

 たぶん純粋な疑問なんだろうけど、もうちょっとオブラートに包んだ言い方しようよ…。俺も味気無さそうって思ったけどさ。


「そうなりますね。ですが元々、蠍というのは一週間の食事が獲物一匹で済むほど小食なんです。そこからさらに小食、かつ燃費良く活動する為に進化したのが蠍の蟲人なんです。ですので、特に不憫に思ったことは無いですね。それにそのことも考慮しているのか、匂いだけでも十分味がわかるくらい、感覚毛も発達しているんです。第二の舌、って感じですね。まぁ人の身体を得た影響で、毎日の水分補給は必須なんですけど」


「マジかよ!俺も蟲人に産まれたかったな~。冒険者って、長期間の依頼だと食事は現地調達とかざらにあるらしいしさ。それに身体が武器とか、凄いカッコイイし!」


「そ、そう?カッコイイ?ふふん。もっと褒めてもいいのよ」


 サソりんの説明を聞いて俺がそう言うと、ほとんど無表情だった顔がドヤ顔になって、胸を張るように身体を逸らす。褒められるのが好きなんだな。可愛い。

 にしてもたった三週間の食事。しかも一年以上水分だけで生きていける上に、身体が武器だから武器を買う必要もないとは、正に冒険者向けの体質だ。……あ。だからサソりんって、スラッとした細身のたいけ、ひぃ!?


「なんか失礼なこと考えた?」


「え?いや、なんも考えてないけど?ワッカさんじゃない、考えたの?」


「ギクゥッ!?なんでそれがわかって……って、いやいや、か、かかか、考えてなんか、ないぜ?」


 俺が頭をサソりんの鋏で挟まれそうになり、裏返った声で適当なこと言うと、ワッカさんはわかりやすく動揺する。俺、さっき貴方が咄嗟に目を逸らしたのを見逃さなかったからね?

 ふぅ。ブラックゴブリン以上に命の危険を感じたぜ…。


 怒ったサソりんがシャキンシャキン、シャキンシャキンとワッカさんに迫るのを見ながら夕食を堪能した。


「ワッカさん、腕相撲しませんか?」


「俺の手が無くなるって!?」


「大丈夫ですよ。別に掴んだりしませんから~(シャキンシャキン)」


「絶対掴む気だー!?」


 この光景、夢に出そうだな。ワッカさんの。

シ〇ーマンを思い出す作者。


刀剣の能力は名前から取ろうか、逸話から取ろうか迷ってます。


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