不遇の少年が強くなった経緯
ノヴァが産まれた村の名前はホムラという。由来は単純で、この村の初代村長の名前である。
父は元冒険者のガイヤール、母は元シスターのマールという。
父、ガイヤールはBランクの冒険者で、そこそこ名の知れた男であった。
冒険者の依頼をしている最中にマールと出会い、半ば駆け落ちのような形で結ばれた。というのが、大雑把ではあるがノヴァが両親から聞いた話である。
そんな二人の間に産まれたノヴァは、人間としては珍しいエメラルド色の髪を持っており、二人はかなり驚いた。
ガイヤールは黄色、マールは青い髪をしていた。驚くのも無理はない。
だからといって気味悪がるなんてことはなく、二人はノヴァにしっかりと愛情を注いだ。
村の一部の人間が、「緑の髪してるから、実はエルフの血でも混ざってるんじゃねぇの?」と言った時はガイヤールがそいつら纏めて締め上げたことは軽く村の伝説となり、怪談ネタとして使われることもしばしば。
すくすくと育っていったノヴァが5歳になった頃。ガイヤールお手製の木剣で同年代の子たちと遊び感覚で試合をするようになった。
さすが元Bランク冒険者の息子。その運動神経は他の子たちと比べて一つ抜きん出ており、見事全勝した。
しかし、それはほんの一週間だけの無双であった。
アイクという少年が、【通常スキル】剣術を取得したのだ。
この世界でのスキルの恩恵は計り知れない。剣術を持っていない者が、剣術持ちと剣で戦った場合、ほぼ確実に負ける。
ノヴァもその例に漏れず、アイクの剣術に防戦一方となり、完敗だった。
他の子どもたちも、それぞれ自分にあった武器のスキルを取得し、ノヴァは試合に勝つことが出来なくなってしまった。
一方で、最初は誰よりも剣の腕があると思われていたノヴァはというと……剣どころか、その他の武器すらスキルを取得することは叶わなかった。
スキルは、才能が無ければ取得出来ない。
剣が無理なら槍を、槍が無理なら弓矢を……と色々な武器を扱って来た。
しかし非情にも、ノヴァにスキルは手に入らなかった。持ち前の運動神経でどれもそれなりに扱えたが、結局はそれまでだった。
そんなノヴァのことを、周りは“不遇の少年”と呼ぶようになった。
ノヴァには運動能力だけで、戦闘向きスキルの一切の才能が無い。それは明らかであった。しかし……
「父さんがCランクに上がってすぐに、ドラゴンの緊急討伐依頼が舞い込んで来てな。父さんも名を上げたかったから、それに参加してよ。ただ、その時はAランク冒険者も何人かいたが、相手はドラゴンの中でも上位の存在で苦戦を強いられ―――」
物心付いた時から、父ガイヤールからよく冒険者だった頃の話を聞かせてもらった。
それを聞くノヴァの顔は、青く澄んだ瞳と同じようにキラキラとしていた。
(ぼくもおとうさんみたいな、すごいぼうけんしゃになりたい!)
そんな思いが強くあった為か、ノヴァは才能が無いからと冒険者の夢を諦めることは無かった。
ノヴァは自分に一切の才能がない事を受け入れた。受け入れたが、剣術を磨く努力をやめることはなかった。
他の子たちよりも剣を振った。他の子たちの試合を観察し、技術を磨いた。
するとノヴァは気付いた。剣術持ちの子たちの動きは、ある程度似通った型であると。
剣の振り方や構えに多少の違いはあれど、もちろん試合の状況にもよるが攻撃の仕方や狙っている箇所がほとんど一緒だった。
(これって、もしかしてスキルに引っ張られてる?)
スキル補正の定義に気付いたノヴァ。それは、スキルはただ所有者を手助けしてくれる便利な物でしかなく、自分自身の実力とは全く別物であるということに気付いた瞬間でもあった。
そして10歳なったノヴァ。
誰よりも剣術を研究し、磨き続けてきた彼は我流ではあるものの、剣術持ちの子どもたちよりも戦いが上手くなっていた。
次回からは場面が戻って、15歳です。
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