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勇者の運命

「試しに持ってみろ」


 サウスのおっちゃんがそう言って、短剣を差し出してくる……短い刀だから、この場合は短刀だろうか?

 菊一文字の時は意識が結構朦朧としていて、正確には覚えていないけど、触れたら光り輝いて俺にスキルをくれた。

 そしてその時の謎の声から考えるに、御伽噺でよく見る『剣に認められたら、その力を扱える』みたいな感じだった。


 恐らくこの短刀もそうだ。

 俺のことを認めてくれるなら、菊一文字みたいに光り輝くはずだ。


「……………」


 おっちゃんのお言葉に甘えて、短刀を手に持ってみる。が……


「……………」


「……………光らんな?その菊一文字っつう刀と同じなら、お前さんのスキルに反応すると思ったんだが…。まぁその刀みたいにあんま反ってねぇし、見た目がそっくりな紛い品の可能性もあるが…」


 いくら待っても短刀は光らず、刃の所の緩やかな波のような紋様が灯りで妖しく光るだけで、特に何も起きない。


「……確かに全然光らない。でも菊一文字の時も、触った瞬間に光った訳じゃないし、きっと何か条件があるんだと思う」


「まぁ、御伽噺から出て来たような剣だしな。そんな条件があっても不思議じゃないが。だけど変なんだよなぁ?」


「変?」


 おっちゃんはそろばんを取り出して、カシャカシャと計算しながら言う。


「ああ。ブラックゴブリンすらも両断する切れ味を持った菊一文字と同じ刀っつうんなら、薪の一つでも簡単に斬れそうなもんだけどな。昨日試し斬りしたら、鈍で叩いた感じしかしなかったんだ。結構な業物みたいな見た目してんのによ」


「あー…。じゃあ大丈夫だよおっちゃん。これは本物の刀剣だよ」


「はぁ?」


 俺はこの刀剣という物がどういった性質なのかを説明した。


「少なくとも菊一文字は凄い攻撃力を秘めてるけど、俺以外が使うと全く斬れなくなったんだ。たぶん本当に御伽噺みたいに、認めた相手にしか応えてくれないんだと思う」


「はぁ?斬ることすらも出来ねぇのかよ。思いっ切り刃が付いてんのにか?……もしそうなら、その短い刀にも同様の性質があるってことか。てことは、お前さんならそれを使って、この薪を斬れるっつうことだな?」


「いや、たぶん今は無理」


 俺はおっちゃんが取り出した薪に、短刀を思い切り振り下ろしてみる。

 しかし予想通り、短刀は全く食い込むこともせず、カッ!と音を立てるだけで終わった。


「だけど【刀剣召喚】のおかげなのか、これが菊一文字の仲間だっていうのは、なんとなくわかるんだ。だからおっちゃん……この短刀、俺に譲って欲しい!」


 スキルを通して、確かにこれは刀剣だっていうのはわかる。

 だからおっちゃんに頭を下げて、俺は譲ってくれないか頼む。


「おっちゃんの見立て通り、これはかなりの業物だと思う。今はそれに見合う持ち合わせが無いけど、冒険者になって稼ぎが出来たら、ちゃんと払うから」


「……………お前さんが持っていても、ただの鈍と変わらないのに、そんなに欲しいのか?」


「ああ。欲しい……この短刀に認められたら、きっと俺は今よりもっと強くなれる。ランクS冒険者になるには、これが必要なんだ」


 ランクS冒険者。それは簡単に言ってしまえば、英雄のような存在だ。

 数多の魔物を打ち倒し、どんな困難なダンジョンも打破出来てしまう超強い冒険者。俺はそれを目指している。


 そんな俺の啖呵を聞いたおっちゃんからは、厳しい視線を向けられてるのを感じる。


「……………坊主。それは本気なのか?ランクS冒険者は、ランクA冒険者よりも更に高い壁だ。一人で一国と戦える程の実力を持つ化け物と呼ばれているくらいなんだからな。確か今は三人だったか……とにかく、そんなホイホイなれるもんじゃねぇ。お前さんが貰ったスキルだけで、本当にそんな高みまで登れんのか?」


「スキルだけじゃない」


 俺は顔を上げておっちゃんの目を見る。


「俺は元々、スキルが持てない無能だ。だけどそんな俺でも、努力して、努力して、とにかく努力して……今じゃスキル持ちに勝てるようになったんだ。スキルを手に入れたからって、慢心するつもりは毛頭ない。これからも努力して、自分を鍛え上げ続ける。今は無理でも、スキル無しでも俺は強いんだって証明出来るくらいに」


 俺は小さい頃から無能だのなんだのと馬鹿にされてきた。だけど努力し続けることで、そいつらを見返せるようになったんだ。

 スキルが無いと勝てない相手ばかりだろうけど、レベルを上げまくって、いずれスキルを使わなくたってドラゴンを倒せるようになるつもりだ。


 そしていつかは、ランクS冒険者をも越える存在になる……それが俺の目標だ。


「……ふんっ。馬鹿なこと言ってんじゃねぇよ。人はスキルがあるから生活が成り立ってんだ。スキルがあるから魔物と戦えてるんだ。それを使わなくてもいいくらい強くなるだぁ?」


 おっちゃんはさらに厳しい目つきで、睨むように俺の顔を覗き込む。

 俺は自分の言ったことに本気であることを、しっかりその目を見返して訴える。


 お互いしばらく沈黙が続く中……おっちゃんがニヤリと笑った。


「面白い。だったらやってみろ。テメェの力だけで、強敵を倒せるようになってみろ」


 そう言っておっちゃんは、短刀を持ってる俺の手を握りながら言う。

 その目は、俺に防具を作ってくれた時と同じ目だった。


「そいつは今はどうせ何も斬れない鈍だ。金はいらん、そのままくれてやる……その代わり、ちゃんと有言実行しろよ」


「あ、ありがとう!おっちゃん!」


「ああそれと、コイツも持ってけ。コイツはさすがに代金を貰うが、出世払いでいい」


 おっちゃんは短刀を取り出した棚から、今度は防具を取り出した。


「え?それって……」


 おっちゃんが取り出したのは、真っ白なナックルガードとレッグガードだった。いや、以前のナックルガードは肘まで覆う防具だったのに対し、これはその半分程度までしかない。しかも分厚く作られてゴツゴツとしており、これで殴られたらただじゃ済まなそうだ。

 これではまるで武器用の籠手、ガントレットだ。


 おっちゃんはそれを俺に渡しながら言う。


「代金は白金貨三枚だ。それくらい簡単に稼げるようになるのが、ランクS冒険者だからな。精々頑張るこった」


「えっと……ちなみにこれの素材は?」


「アダマンタイトっつう、ランクBモンスターの身体が硬くて上質な鉱石で出来てる亀の魔物だ」


「えぇ!?な、なんでそんな魔物から作った防具を用意してたんだよ!?」


「俺をだれだと思ってやがる?元は国に仕えていた鍛冶師だぞ。客が次に求める物を先読みして作っておくくらい、造作もねぇよ」


「えぇ…」


 何その意味わかんないとんでも理論……こんな良い物を作ってくれて嬉しい反面、ちょっと怖い…。おっちゃん以外のところで作ってもらってたらどうすんのよ?製作費の無駄じゃん。


「そら、さっそく装備してみろ。合わなかったらすぐにサイズ調整してやるからよ」


―――――――――――――――――――――――――――


 ガントレットとレッグガードのサイズ調整が終わり、ノヴァの坊主としばらく話し込んで、坊主が帰った後。

 俺は店を閉めて酒を飲んでいた。今日は頭をを抱える出来事が立て続けに起きたからな。


 国の重鎮が俺の所に訪ねて来て、城に戻ってまた武具を作れと言ってきたんだ。

 だが俺はもう、人が人を殺す(・・・・・・)武器を作りたくなかった。だから俺は、適当なことを言ってその件は頑なに断った。幸い聞き分けのいい奴だったから、割とすぐ帰ってくれたが。


 しかし……問題はその後だった。

 アイツが……ノヴァの坊主が、勇者ウォルガと同じ剣、刀を持って訪ねて来たんだ。

 俺はまさかと思って、他人のステータスを完全に看破出来るスキル《神の眼》を使って、坊主のステータスを見てしまった。


 案の定、坊主は【神託スキル】という神から授かる特別なスキルと【真の勇者の器】という称号があった。

 神は坊主を勇者と認めたということだ。あんな成人したばかりのガキが、なんと酷な運命を背負わされたのか……本当に、昔から若い者ばかり損な役目を担うな…。

 本人は隠したがっていたから話を合わせていたが、いずれ坊主は魔王と戦うことになるだろう。


 それが勇者に選ばれた者の宿命であり、運命だからな…。


「あのアダマンタイトの装備が、少しでも役に立てばいいんだが…」


 あのガントレットとレッグガードを用意していたのは、一ヶ月前に夢を見たからだ。

 これから起こる出来事の、夢を。


 その夢とは、勇者ウォルガの死とノヴァの坊主の装備が壊れるという夢だった。

 こういう未来予知の夢を見るのは初めてじゃない。神が夢枕にでも立っているのか、昔っからよく勇者に関する夢を見るんだ。

 最初は坊主の夢は何かの間違いかと思った。なにせスキルを持たない無能と呼ばれてるらしかったからな。しかし俺の夢はいつも現実になりやがる。

 だからあのアダマンタイトの装備を作っておいた。ノヴァの坊主が勇者だった時の為に。


「結果、作っておいて良かったがな…」


 それでも、あんな基礎スキルすら習得出来ないガキが勇者だなんてよ……全く、神さんは何を考えてんだか。

 俺は大きいため息を一つ吐き、酒を喉に流し込んだ。


 願わくば、これ以上若い者の命が散ることがないのを祈るばかりだ。

 人の戦いから身を引いた俺には、そんな無駄なことしか出来なかった。

防具がナックルガードで、武器がガントレットという認識の世界ということにしました。

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