サブクエスト:行方不明の猫の捜索② サソりんとコボルト
漸く新キャラのインスピレーションが浮かびました。
猫の飼い主さんと一旦別れて、俺は町の人達から情報収集をすることにした。
経験値30は正直言ってショボい気がするが、ゴブリン15体分だと思えば多いと考えよう。
それに報酬も貰えるかもしれんし。寧ろサブクエストはそっちがメインの可能性がある。
あんまり良い物が貰えるとは思えないけど…。
「口元に黒子のような毛がある白い猫?俺は見てないな。お前は?」
「その猫って、あの猫好きの人のよね?私も見てないわね」
と、仲の良い夫婦から聞いた。
どうやら飼い主さんはそれなりに有名なようだ。
「いらっしゃい!あ?猫?そういえば主婦のおばちゃんたちが、白い猫が町の外の方へ行くのを見たとか何とか言ってたな。お?リンゴ一つ?毎度ありっ!」
八百屋のおっちゃんからは猫が町の外へ出て行ったかもしれないという話を聞いたムシャムシャ。
放浪癖があるって言ってたけど……まさかマジで町の外に?ムシャムシャリンゴうまっ。
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とりあえず、八百屋のおっちゃんから聞いた話を頼りに、町の出入り口の門へ足を運んだ。門は西と東があり、俺が入ってきたのは西門だ。
八百屋を後にした後も情報を集めた結果、西門から出入りしているのを見かけたっていう人が多かったので、西門に来ている。
仕事中の衛兵2人が門番をしているのだが、驚いたことに片方は女性だ。町に入る時も驚いたけど、今見ても違和感が凄い。
女性ビジネス社会というのが都会を中心に流行ってるそうだが、まさか荒事の多い衛兵の仕事をやってるなんてな。
女性は町に入る人の検問を行っているので、丁度手が空いているもう一人の男性の方へ声をかける。
「仕事中にすみません。町の外に白い猫が出て行ったりはしませんでしたか?」
「猫?ああ。そういえばここ最近、白い猫が出入りしているなぁ。小一時間程前にも出て行ったよ」
「その猫って、口元に黒子がみたいなのがありました?」
「ああ。あったよ」
マジかよ…。これで一気に捜索範囲が広がったぞ。
いや、せめてどっち方面に行ったかだけでも聞けばワンチャン…。
「どっちに行ったかってわかります?実は、その猫の飼い主が心配してて…」
「なるほど、そういうことか…。あの猫は確か……」
「やすらぎの森」
そう答えたのは検問をしていた女性衛兵さんだ。
黒髪黒目と、俺の髪色と同じくらい珍しい容姿をした美しい女性だ。
「ここから出て真っ直ぐ右の方に、やすらぎの森っていう場所があるわ。いつも通りなら、あの猫ちゃんはあと二時間もすれば戻ってくるけど……」
「えっと……ちなみに距離は?」
「徒歩で十分。君、レベルは?」
「9ですけど…」
「そう。急ぎなら行ってみたら?あそこは強いのでもコボルトくらいしか出ないし、レベル5の剣士であれば余裕で倒せる相手だから、油断しなければやられないし」
「ちょ、先輩!?衛兵がそれを勧めるのはどうかと思うんですが…?」
女性の方が立場が上だった件。
やはり女性ビジネス社会は流行りなのだな。上下関係に関係あるのか知らんけど。
コボルトは簡単に言えば、二足歩行している犬だ。体長は150センチ~160センチ程度。武器は特に持っていなくて、鋭い爪と牙が主な攻撃手段。
ゴブリンと同じFランクモンスターだが、強さはEに近い。実質Fランクトップの強さ。
「剣を携えているのだから、別に大丈夫でしょう。ねぇ?」
「まぁ、ブラックゴブリンを倒せるくらいの実力は持ち合わせています」
「はぁ!?レベル9で!?」
「ふふっ。それは凄いわね。それで、行くの?」
「……正直待ってる時間も惜しいですし、行くだけ行ってみます」
あと少しでレベルも上がるし、捜索がてらレベル10にしてしまおう。
確かコボルトの経験値は最低でも20って図鑑に載っていたから、エンカウント出来れば割とすぐにレベルアップするだろう。
………あれ?もしかしてやすらぎの森でレベリングした方が早い?
そうなるとサブクエストは報酬メインの可能性が高いな…。
まぁ何はともあれ、そのやすらぎの森に行ってみますか。防具はプレートアーマーしかないけど、油断せず行けば問題ないだろう。
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Saidサソりん
鳥のさえずりが響き渡るやすらぎの森。
私は今そこを通って、ランデムという町に向かっていた。
「……今はこの辺かな?」
自分の鋏で地図を切らないように慎重に広げて、場所を確認。私の種族上、視力が弱いのでどうしても顔を近付けなきゃいけないのが難点だ。
地図によれば、もうすぐやすらぎの森を抜けてランデムに着くはずだ。
そこから領都行きの乗合馬車ないし、どこかの商人さんの馬車に乗せてもらって、約一週間程で領都と…。そこまで行けば、あとは冒険者登録するだけ。
蟲人という虫の身体を持つ私を受け入れてくれるかわからないけど、今の人間社会は昔ほど人種差別していないってお婆ちゃんが言ってたし、大丈夫だと思う。
「ん?何かいる…!」
私は蠍の蟲人。視力が弱い代わりに、鋏と尻尾に生えた感覚毛という臭いや振動にかなり敏感な毛で気配を感じ取る事が出来る。
鋏と毒針を構えて警戒していると、ガサガサと草を揺らしながら現れたのは……
「ナーオ」
「……猫?」
薄っすらと映る視界には四足歩行の動物が見えた。鳴き声からして、これは猫だと断定。色は白っぽい。
なんで猫がこんな所に?
猫は特に警戒することなく近寄って来て、私の尻尾をテシテシと叩き始める。
「って、ダメよ。デス・ストーカー程じゃないけど、私の尻尾には立派な毒があるんだから」
毒は私の意志で出さないようには出来るけど、それでも刺さったら凄く痛い。特に私の針は尻尾も含めて太いから、痛みでショック死しちゃうかも。
「ナーオ」
「こぉら。ダメだって言って……ッ!?」
揺れる尻尾に尚も触ろうとする猫を宥めていると、私の感覚毛が後ろから忍び寄って来る気配を感知した。
この気配は何度も感じたことがある……コボルトだ。
道中で何匹か倒してきたから、仲間が仕返しに来たのかもしれない。奴らは仲間意識が高いから、こういうことはよくある。
……一先ず、この猫を下がらせないと。
「ッ!?ニャッ!」
しかし私が猫に声をかける前に、猫は脱兎の如くコボルトがいる方とは真逆の方向へ逃げていった。
どうやらあの猫も気配に敏感のようだ。
(とりあえず良かった。これで安心して戦える)
後ろの草がガサガサと揺れる音がした。同時に、1匹のコボルトが襲い掛かって来た。
私は振り返ることもなく、気配だけを頼りに尻尾を突き出した。
「キャウンッ!?」
ぐさりと刺さった針。私はそこから容赦なく毒を注入していく。
するとコボルトは忽ち痙攣を起こし、泡を吹いて倒れた。あとは一時間も放置しておけば勝手に死ぬ。
「さて、あと10匹……ん?まだ後続がいるのね」
周りにコボルトが10匹隠れているけれど、まだこっちに向かって来ている存在がある。
ざっと20匹程か。
(ここまでの群れが存在しているなんて……どこかにコボルトのコロニーがあるのかも)
通常、コボルトの様な群れを形成する魔物は、多くても10匹前後。
それ以上ともなると、コボルトより上位の魔物がコロニーを作っている可能性が高い。
でもこの辺りはランデムの町長が定期的に魔物の間引きをさせているらしいし、普通ならそんなことは起こらないはず。
……思えば、ここ最近コボルトに限らず、魔物全体の動きが活発になっている気がする。
(このことはランデムの町長に話しておいた方が良さそう。幸い証拠となる材料は沢山あるんだし)
「……ねぇ?いつまで隠れているの?……そっちから来ないなら、こっちから行かせてもらう」
そう言って私が一歩踏み出すと、草むらに隠れていたコボルトたちが一斉に飛び出して来た。
「《テイルウィップ》」
私はその場で回転して、尻尾を使ってコボルトたちを薙ぎ払った。
この太くて硬い尻尾は、それだけで凶器になりうる。ついでに毒針でも斬り付けたから、全員に毒が注入されている。一瞬なので微量だが、それでも十分だ。
そしてすかさず前に駆け出し、地面に倒れている2匹のコボルトの首を両手の鋏で切断。
頭と胴体が別れたコボルトは光の粒子となって消えた。毒で動きが鈍った相手は、こうも簡単に倒せる。
(残りは8匹。後続が来るまでに全員仕留める!)
未だ円状に倒れて毒に苦しんでいる残りのコボルトを、円に沿って駆け出して切断していく。
私の毒は微量でも、身体がマヒして自由が利かなくなる。なのでこれは簡単な作業であった。
「よし。終わった」
全員の首を切断して、後続に備える。
この程度の魔物なら、油断しなければ全員倒せる。
……ランデムに着いたら先にシャワーを浴びないと。主に鋏が返り血でべっとり。
と、私がコボルトが来る方を警戒していると、さっきの猫が逃げた方向から近付いてくる気配を二つ感知した。
一つはさっきの猫。もう一つは感じたことのない気配。
コボルトやゴブリンのような、魔物の気配じゃない。
「おいっ、待てよミャアちゃん!?あんまり奥行くと魔物が出て危ねぇって!」
気配の通り、猫が戻って来たようだった。
その後ろから、猫をミャアちゃんと呼ぶ人間の男の子が一緒に現れた。
「捕まえたっ!」
「ニャッ!?」
男の子は猫を捕まえて、ふぅと一息吐いた。
(今一瞬、凄いスピードで猫を捕まえたような……気のせい?)
「全く、森の中じゃ下手に《瞬歩》を使えねぇから苦労したぜ…。ん?魔物の気配?」
くっ……まずい。剣を腰に差してるみたいだけど、明らかにまだ成人もしてなさそうな男の子だ。剣はただの護身用としか思えない。
この子を守りながら戦うのは少し厳しい。
「そこの……なんか凄い装備をしているお姉さん。結構強いですよね?もしかして冒険者?」
男の子が私に問いかけて来る。
どうやら私を蟲人とは認識していないらしい。
「いえ。まだだけど……」
「へぇ。じゃあ仲間ですね。俺もまだ冒険者じゃないけど、結構やりますよ。……そうか。ミャアちゃんはこのお姉さんのピンチを知らせる為に、俺をここまで連れて来たんだな?」
「ナーオ」
「そうかそうか。じゃあ、ミャアちゃんは下がってな」
男の子は猫を近くの木の陰に置いて、剣を抜いて私の横に立った。
……この子。本気で戦う気なの?
魔物の気配は感じ取れるみたいだけど…。
「ちょっと、勝手に一人で進めないで。本当に大丈夫なの?相手はコボルトよ。それも凄い数」
「大丈夫大丈夫。俺はこれでもブラックゴブリンを倒した実績があるんで、実力に関しては信用してくれて良いですよ」
ブラックゴブリンを?こんな小さな男の子が?
どう見てもそんな実力なんて無さそうだけど…。
「とても信じられない」
「ですよねー…。じゃあ、初手は俺に任せてくれません?うまくいけば一気に5匹は狩れるんで」
一気に5匹?一体どこからそんな自信が出てくるの?
「おっと。おしゃべりはこの辺で。来たみたいだ」
男の子の言う通り、コボルトが姿を現した。
コソコソと隠れても無駄だと判断したのだろう。今回は堂々と現れ、私たちの周りを取り囲んだ。
「ざっと20匹くらい?」
「そんなところね。それで、本当に一気に五匹も倒せ……ッ!?」
私がもう一度問おうとするが、思わず息を呑んでしまった。
(笑っている…)
彼は笑っていた。純粋な子どものような瞳を、爛々と輝かせているのが感覚毛を通じてわかった。
「経験値が少なくとも400も手に入る…。すっげぇウハウハじゃねぇか!」
まるで狂ったように言葉を放ち、男の子の姿は一瞬で消えた。
そして……
ブシャーッ!
前にいた4匹のコボルトの首が、血を吹き出しながら飛ばされていた。しかしそこに男の子の姿はない。彼の気配は私の後ろにあった。
振り返ると、さらに3匹のコボルトの首が男の子の手によって飛ばされていた。
「ふぅっ。7匹か。上々上々♪だんだん《瞬歩》の扱いも慣れてきたな」
そんな楽しそうな様子を見て、彼が本当にブラックゴブリンを倒せる実力があるというのがわかった。
チートっぽい表現はあまりしたくないんですが、流石にFランクの魔物に苦戦するようなステータスではないので、このような感じになりました。たぶんそれっぽい表現なだけで、真のチートとは程遠いと思っています。
もっと山あり谷ありがあるバトル描写が出来る様に精進します。
サソりん
性別:女性
年齢:17歳
身長:167センチ
【蟲人という虫の身体をした人型の種族。サソりんは名前の通り蠍の蟲人で、蠍の鋏と尻尾がある。目も蠍のような単眼で、凄く大きい】
【サソりん含め、蟲人にとって『カッコイイ』や『可愛い』は最高の褒め言葉である】
【毒で相手の動きを封じたあとに、鋏で首チョンパが常套手段】
【基本的に落ち着いていて、感情を表に大きく出すことは少ない】
【スタイルは全体的に細く、モデル体型】
【補足:蟲人の名前はペットの虫に付けるような名前が多い】
顔立ちは可愛い設定なので、たぶん愛せる人は普通に愛せると思います。
どことは言いませんが、サソりんのカップはBd(グサッ
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サソりんの設定で何か矛盾点があれば、教えてくれると幸いです。




