プロローグ
新作です。
タイトル通り、RPGによくあるいつの間にか強くなっていた系です。
ですが主人公無双は雑魚以外は基本的に無いです。
赤い月が不気味に輝く夜。
人間を支配しようと目論む種族、魔族が住まう大陸、そこにある魔王城にて。身長2メートルを越えるやや細身の男が、一人の青年の首を掴んで持ち上げている。
青年は身体中傷だらけで、ポタポタと大量に血を流している。
「……つまらん」
青年を持ち上げている男は、この魔大陸と呼ばれる地の王。つまり、魔王であった。
魔王が言う。
「この程度で私を倒せると思っていたとはな。大したレベル上げもせずにここまで来るとは……ああ、愚かなり。これで勇者とは、聞いて呆れる」
「うぅ……」
勇者と呼ばれた青年が魔王を睨む。
魔王討伐の使命を神から承り、勇者の力を存分に発揮してこの魔大陸まで来た。
強い魔物も、魔王の幹部も、多少の苦戦を強いられてはきたが、仲間の力もあってその全てを余裕を持って倒すことが出来た。
だが、そんな勇者たちでも魔王には全く歯が立たなかった。
魔王の固有結界により仲間の魔法使いの二人が、攻撃も、回復も、補助も……全ての魔法を封じられてしまった。
勇者よりもパワーがあり、剣聖と呼ばれる英雄の剣も、魔王は指先一つだけで全て防いだ。
勇者も、神から与えられた特別なスキルの、多彩な攻撃を持ってしても、一太刀も浴びせることも出来なかった。
結果、剣聖が魔王の手で貫かれ、何も出来ない魔法使い二人も魔王の上級以上の威力を持つ初級魔法で呆気なく殺されてしまった。
残った勇者は果敢に立ち向かったが………ご覧の有様だ。
「私の配下を倒したことは褒めてやろう。だが、あの程度の者たちに手こずるようでは、到底私を殺すことなど叶わぬ」
「こ、こんな……ことが……」
「あってたまるか、などと言うつもりか?フン。甘いな。貴様ら人間の御伽噺では、勇者は必ず魔王を倒してハッピーエンドなのだろうが、そんなものは過去に一度もない」
「なん……だって…?」
「どいつも、私の力を一部封印するだけで終わっていた。そしてそのまま死んでいったのだが……貴様らは、それすら叶わなかった。今まで私の力を封印することで人間は魔族に支配されずに住んでいたが、ハズレとも言うべき不甲斐ない勇者のせいで、とうとうその時が来てしまうな」
赤い瞳を光らせ、魔王は邪悪な笑みを浮かべる。
魔王の言う通り、このまま何もできずに勇者が死ねば、世界は魔族の手に落ちる。
勇者は自分の弱さを心の中で嘆いた。
なぜもっと修練を積んでこなかった。なぜ神から貰ったスキルの強さに、ほとんど頼りきりになってしまっていたんだと。
仲間の剣聖に散々言われた。腕を磨くことを怠れば、勝てる相手にも勝てないと。だが、本人にはそんなつもりは無かった。
ちゃんと剣聖から剣を、魔法使いの二人から魔法を教わり、時には各国の英雄と呼ばれる人たちからも指南を受けた。
しかし、それでもダメだった…。魔王には、傷一つ付けられなかった。それだけでは、目の前の化け物を倒すには至らなかった。もっと修練を積むべきであったのだ。
(……だけどせめて、一矢報いるだけでも…!)
勇者は神から与えられたスキルを使い、一振りの刀をその手に召喚した。
これが勇者に与えられたスキル【トウケンショウカン】である。
勇者は刀に魔力を込めて、魔王にぶつけると大陸全体が揺れ、海が波打つ程の衝撃波が刀から放たれた。
魔王に掴まれていた勇者も巻き込まれたが、なんとか魔王の手から逃れることは出来た。
かなり吹っ飛ばされてしまったが、あれほどの攻撃ならば魔王も無事では済まないはずだ。そう思った。
「ふむ。まだ剣を隠していたか。100程度折って底が尽いたと思ったが、なるほど。良い切り札を持っている」
「うそ……だろ…?」
なんと、魔王は無傷であった。あの大地を揺るがす攻撃さえも、魔王にとっては痛くも痒くもない、本当になんでもない攻撃だった。
あまりの絶望を目の前に、勇者は動揺を隠せない。
「【ドウジギリヤスツナ】は、【テンガゴケン】の中でも一番破壊力を持っているんだ。なのに……なのになんで!?」
「……確かに、今までの攻撃の中で一番であったな。純粋なパワーによる破壊。全てをねじ伏せることが可能な程の威力だ……相手が私でなければな…」
「ッ…!」
「そも、貴様はそのスキルを使いこなせていなさ過ぎる。水の刃も、風の斬撃も……全てに於いて中途半端。その、【ドウジギリヤスツナ】と言ったか?使いこなせていれば、私に傷の一つでも付けられたであろうな。スキルを覚醒させてもいない状態では、生温い攻撃しか出来ないのも当然だ。……………まぁ、一番の要因は、そもそも貴様に剣の才能が無かったことか」
その言葉に勇者は、唇を噛む。
【トウケンショウカン】ばかりに頼ってきた訳ではない。【通常スキル】の剣術スキルのレベルも上げて、実力を付けていた。
それでも、人には才能というものがある。同じレベルでも、その才能の差で実力差が付くことなど、この世界では当たり前のことだ。
事実、剣の腕では勇者より仲間の剣聖の方が数倍上であった。
「……ああ。そうだな…」
だが、勇者の瞳は曇っていなかった。
もちろん、剣の才能が無い自分を呪ったこともある。今でもそうだ。
自分にもっと才能があれば、もっと上手く戦えただろうと。
……ふと、勇者に走馬灯のようなものが頭に浮ぶ。いつ死んでもおかしくない状態なのだ。不思議ではない
しかし、その走馬灯は何かおかしかった。それは小さい頃の思い出などではなく、3年前に旅の途中で泊まった小さな村での出来事だった。
人間では珍しい綺麗なエメラルドの髪に、青い空のように澄んだ瞳を持った12歳の少年がいた。今はもう15歳になっているだろう。
その少年は、いくら剣を振ろうが、槍を振ろうが、さらには弓矢で的を射ようが、通常スキルの一つも手に入ることの無かった不遇の少年だった。
しかし、少年は強かった。小さい頃から少年に付き合わされて剣を振っていた同年代の子たちが、剣術スキル持ちなのにも関わず、全員を圧倒していた。
それが一対一ならまだしも、一対五(内二人は魔法使い)という不利の状況なのに、圧倒していたのだ。
スキルを持っていない少年がだ。
三人の剣を捌き、魔法使いの放つ火球や水球を危なげなく避ける様を見た剣聖が、将来は一騎当千の戦士になるかもしれないと言うほどだ。
(スキルの恩恵により、人は強くなる。だけど、あの少年は……あの少年ならば……)
勇者は【ドウジギリヤスツナ】を送還し、違う刀を召喚する。それに魔力を込める。
「……………だったら、俺より才能がある奴に託せばいい」
「……何をする気だ?」
「この剣は、【シチセイケン】。最も古いトウケンなんだそうだ」
「……それで?」
「この剣に込められた【神託スキル】は、《流星群》。俺の手持ちの剣全てが、流星となって相手に降り注ぐ」
勇者がそう言うと、数え切れない程の刀剣が勇者と魔王の周りに召喚される。
「まだこれほどの剣を隠し持っていたか…。して、今さら剣の雨を降らせてどうする?どちらにしろ、私には効かぬぞ?」
「わかってるさ、そんなこと。……………あの少年には申し訳ないけど、俺の使命を継いでもらう」
「何の話だ?」
「俺よりも才能が無いのに、飛び切り努力の才能がずば抜けている奴がお前を倒すって言ってんだよっ!《我、勇者ウォルガは、勇者の名を神に還元する!》」
勇者が呪文を唱えると、周りのトウケンたちは光り輝き、手に持っていた【シチセイケン】も含めて空の彼方へと消えていった。
そしてトウケンたちは、バラバラに世界中へ流星となって散っていった。
「……………ふむ、次の勇者に託したか…。無駄だと思うがな。もはやこの世界に、私を殺せる者などおらぬ」
魔王は身を翻し、その場を去った。
勇者ウォルガは、立ったまま息を引き取っていた。
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【シ、シシシシ、シン、タクハ、ク、クダッタ。ノヴァ、二、【シンタクスキル】《ユウシャノウツワ》ヲ、ヲヲヲヲヲウォーーーー】
「はいっ!?何!?誰!?」
魔大陸とは反対に綺麗に輝く満月が照らす、とある小さな村の深夜。村全体が寝静まっている中、今年成人したばかりの少年は突然聞こえてきた声に驚き、飛び起きる。
「……………誰もいない、よな…?」
部屋を見渡すが、部屋には誰もいない。
誰かが話し掛けてきた気がするのだが……
「…………………………夢?夢か?」
一応、部屋に立てかけられたロングソードを手に、警戒する。
それから数分経っても何も起きないし、さらには夢かと思った声の内容も思い出せない。
思い出せないから、じゃあ夢だな。と、無理矢理納得しようとすると、外から何か落ちた音がした。
発生源は遠いようで、気付いたのは謎の声で起こされてしまった少年だけだった。
「なんだ?」
気になって、窓を開けて外の様子を伺う。
横へ顔を向けると、村の裏山の頂上から煙のような物が立ち登っているのが見えた。
「……………もしかして、隕石!」
月の光を反射する程に綺麗なエメラルドの髪に、青空のように澄んだ瞳を持った少年、ノヴァはこれから自分の身に数々の困難が待ち受けているとも知らずに、裏山の頂上をキラキラとした目で見つめていた。
タイトル回収まで長めの予定。
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