本当の悪役は誰?
サラッとお読みください
私達は双子の兄妹。私をいつも心配して、怪我をすると治してくれるお兄様。私はいつも怪我だらけのお転婆娘。
「リーフィア、すぐ手当てしてあげるからね。大丈夫、痛くない、痛くない」
「ひっく、うあ、あああ」
「大丈夫泣かないで、リーフィア。ずっとお兄ちゃんがいるからね」
お兄様は私の腕の『切り傷』を消毒し、包帯を巻いていく。私はガタガタと震えながら泣いていた。
「リーフィア!!貴女また怪我をしたの!?いい加減にしなさい!!縁談の事もそうだけど、ナーディスが毎回貴女の手当てをして迷惑をかけてると思わないの!?」
「ち、違う……お母様……」
「リーフィア」
お兄様が人差し指を口元に当てる。私の体は固まってしまい、声も出せない。ヒュウヒュウとした呼吸しか出来ない。
違う、違う、私は自分から怪我を負った事など一度もない。でも、私の体は傷だらけ。火傷の跡もある。全部私の不注意だと責められる。でも、本当の事を言ったら傷が酷くなる。そして、誰も私のいう事を信じない。
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今日は最近やっとできた婚約者である、伯爵家の跡取りであるエドワード・ヒュステル様。灰色の短髪に金色の瞳が狼を連想してしまう。目つきが鋭くて周りに人を寄せ付けない雰囲気をしてるが、悪い人では無い事を私は知っている。だが、エドワード様と婚約してからというもの、『怪我』が増えた。
今日のお茶会はエドワード様の雰囲気が剣呑で怖かった。
「リーフィア嬢、その傷は?この間も怪我をしていた様だが、今回はそれ以上に怪我をしているようだ」
「これは……私の不注意で……申し訳ありません」
「その腕の包帯、取らせて傷を見せてくれないか?」
また呼吸がヒュッと音を立てて止まる。カタカタとティーカップを持つ手が震える。エドワード様はそんな私の腕を優しく掴む。すると自然に震えがおさまった。すまないと一言、あとは無言で包帯を解き私の多数の切り傷が現れる。古いものから新しい傷で私の腕はボロボロだ。
その腕が醜く見え、涙が溢れる。エドワード様は傷を確認した後、私の涙を拭い怒った様に包帯を綺麗に巻いていく。
「両親か?それともナーディスか?」
「……」
「大丈夫だ、俺はリーフィアの言葉を信じるから」
また涙が溢れる。誰も信じてくれなかった、誰も助けてくれなかった、誰もがナーディスの言葉を信じる。本当は皆んな知ってるくせに、ナーディスの言葉を信じるのだ。だけどエドワード様が私の言葉を信じると言ってくださった。
「……小さい頃から兄は私に態と怪我を負わせ、手当てするのが好きでした。周りから良い兄だと褒められるために。それが婚約してから少しずつ酷くなって……あぁああ、ごめんなさい!!ごめんなさい!!もう許して!!」
「落ちつけ!!大丈夫、大丈夫だから。俺はそんな事はしない」
頭を抱え蹲る私をエドワード様は優しく壊物を扱う様に抱きしめた。私はガッシリとしたエドワード様の腕の中で震え泣く事しか出来なかった。
「今日から此処に住むと良い。話は俺がつける」
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「どうかしましたか?エドワード殿。リーフィアは何処に?」
「リーフィアの傷を見た。お前が周りに良く見られたいがための傷だ。彼女はこれから私の屋敷に住まわせる」
「リーフィアは僕の片割れだ。他の人間とは違う特別な絆があるんだ。今すぐに返してくれ」
「実の妹を虐待する奴には渡さない」
「返せ!!お前には血の繋がりなどないだろう!!僕達は双子だ!!産まれる前から二人で一つだったんだ!!お前が僕とリーフィアの何がわかる!!」
「お前のことは知らないが、異常者なのは確かだ。リーフィアはお前に怯えている。泣きながら許してくれと泣き縋る姿にお前は快感を得ているだけだ」
「違う!!」
「もうお前は二度とリーフィアに近づけさせない。それだけだ」
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月が雲で隠れて見えず真っ暗闇の中、私達は嗤いあう。
「リーフィアの言う通り、上手く事が運んで良かったよ」
「当たり前じゃない。ずっと欲しかったエドワード様が手に入ったんだから。人を簡単に寄せ付けないエドワード様の心を手に入れるには庇護欲をそそればいいのだもの。長年ナーディスに傷つけられた甲斐があるわ」
「幸せにね、リーフィア」
「ナーディスもね。私達は双子なのだから、二人とも幸せにならなきゃ」
暗闇の中私達二人の笑い声だけが響いていた。
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