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「ぜひ楽しんで欲しい」


 王の一言で皆が杯を掲げ、口を付ける。

「これは素晴らしい」


 ジークが酒の感想を告げると王と王妃はほっと気を緩ませた。和やかな食事が始まる。

食卓に着いているのは国王夫妻と二人の王子、そしてジークとクリスだけだ。

しばらく料理に舌鼓を打ちながら、当たり障りのない会話を交わしていたが、主菜が出されると王が本題を切り出した。

「調査のほうは今どういった具合ですかな?」

「お蔭さまで皆さんの協力の元順調に終えたところです」


 ジークの答えにわずかに緊張が走る。

「なんと、もう終えられたのか。さすが大国」


 動揺を抑えきれず王の声は震えていた。終えたということは今更便宜を図ってもらうことが難しいということだからだ。

大国にとってこの程度はすぐ終わる。戦場において大切な迅速、即決を得意としているからだ。こちらとしてはむしろ今ごろ探りを入れようとする、この国こそがえらく暢気だと感じる。

「それで、どのようになされるつもりで……」

「前回同様皆に見守っていただきましょう。この国の行く末を決める大事なことですから」


 皆が息を呑む中、ステュアートだけが朗らかに返事をする。

「そのとおりです。大国のご英断がこの国をますます繁栄に導き、後世に語り継がれることとなるでしょう」


 周りの微妙な空気に気付くことなく、上機嫌に主菜に手を付ける息子を王が苦々しく見つめる。一片たりとも自分が間違っているとは思わないのだろう。政治を行う上で思慮深さは欲しい所だ。

クリスはサミュエルに視線を移した。俯き気味の表情は暗い。

「この国は王族と民の関係が本当に素晴らしい。王族は民を子のように慈しみ、民は王族を親のように慕っている。その信頼を裏切ることなく、ぜひともこのままでいて欲しいものです」

「もちろんですとも!」


 将来を担う予定の王太子たちの会話は一見良好な関係を築けているように見えるが、スチュアート以外誰も楽観視していない。

王家の威信を損なわれぬよう便宜を図ってくれるというようにも取れるが、身内可愛さに贔屓せず民のために、国の将来のために正しい判断をしろと脅されているようにも感じているだろう。

国王夫妻はどちらか測りかねているようだ。


 釘を刺され、結局調査内容に手心を加えてもらうこともできず晩餐はお開きになった。

予定が押しているのでなるべく早く貴族たちに集まってもらいたい、明日はさすがに急すぎでしょうから明後日でも、と実に図々しくお願いをしたジークに王は硬い表情で頷いた。

息子ほどの年下に良いように仕切られ、不愉快に違いないだろうが王は反発心は抱いていないようだ。度量が大きいのか……、いや、それどころじゃないのかもしれない。



 護衛を従え部屋への道を戻る。相手の言い分を聞くだけ無駄とばかりに言わせなかったジークのなんと傲慢なことか。強引な者は人を惹き付けるが敵も作りやすい。

クリスはジークの背中にそっと息を吐いた。

結局駆け引きも何もなく、さらりと早々に流してしまい肩透かしもいいとこだ。サミュエルがどういった人物か、今回のことをどう思っているのかも分からず仕舞い。

頼んだのにジークは何もしてくれなかった。無駄かもしれないが念のためと、明日改めて自分からお伺いを立ててみるか、と思案していると走ってくる足音が聞こえた。

「待ってください!」

「サミュエル殿下」


 駆けてきたサミュエルはジークに詰め寄る。

「ジークベルト殿下はどうなさるおつもりですか!?もしエリシア様を断罪されるつもりでしたら皆の前でなんてっ……」

「殿下は今回の騒動、エリシア嬢が悪いと思われてるのですか?」

「それは……」


 ジークの問い掛けに、勢いを失くしたサミュエルは俯いた。躊躇いつつ答える。

「私は兄上の言うことが間違っていると思います。エリシア様はそんな方じゃありません」

「ステュアート殿下が嘘を吐いていると?」

「そうではなくっ……、あの、令嬢が……」

「アミリ嬢が嘘を吐いていて、ステュアート殿下がそれを信じたと」

「っ……、はい」


 サミュエルの表情には悔しさが滲んでいる。

「どうして兄上はあんなことを言うのでしょう。エリシア様は本当にこの国のことを思っていて、尽くしているというのに……」

「サミュエル殿下はエリシア嬢のことをよくご存じなのですか」

「それは……、義姉上となられる方ですし、お妃修行のため王宮にもよく来られるので、会えば話をしました」


 サミュエルはエリシアに好意を持っている、クリスははにかむサミュエルを見てそう思った。それが憧れによるものか、恋慕かは深く追及する気はない。

どういう好意であれ、それならエリシア嬢に有利になる証言をしてくれるかもしれない。だが今それを自分が聞くのは無礼なので、期待を込めてジークを見つめる。

「そういえば、この間エリシア嬢が孤児院へ訪問された際、サミュエル殿下に会われたと仰っていましたが」

「この間?」

「アミリ嬢がエリシア嬢に突き飛ばされたと言っていた日です」

「!!」


 すぐさま切り込んだジークと息を呑んだサミュエル、思わずにやけそうになったクリスは歯を食いしばって耐えた。期待通り。

サミュエルは動揺からしばらく言葉が出なかったようだが、ようやく恐々と訊き返してきた。

「私の証言があればエリシア様の身の潔白が証明されるのですか!?」

「その代りステュアート殿下が不利になります」

「構いません!間違っているのなら正さねば!!」

「王家の威信は地に落ちるでしょう」

「……民に失望されるのは辛いですが、信念を曲げてしまえば清廉ではいられない。王家が真っ先に腐るわけにはいかない、最後まで誠実であるべきなんです!!」


 サミュエルの目は強い光を湛えていた。











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