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「何故殿下がこちらに?」


 シュレッセン男爵家に訪れると、応接間にはアミリと男爵の他にステュアートがいた。何とか笑みを崩さず済んだが、クリスの心中は不満たらたらである。

「アミリ達はこういうことに慣れていないから、少しでも力になれればと思ってね」


 実にいい笑顔で答えたステュアートにイラッとする。今回の騒動は王太子を巡る令嬢二人による諍いだ。その王太子が片方に肩入れするのは公平でない。

もともと騒動を起こしたのは王太子であり、最初からアミリ嬢の味方をしていたとしてもだ。

しかしクリスはそれを告げることはしなかった。相手のほうが身分が上なので言い辛いというのもあるが、この王太子が不利になろうと別に構わないという気持ちのほうが大きい。

「そうですか」と笑顔で流し、向かいのソファに座らせてもらう。

「初めまして、今回調査を任されたクリスティ・カスティオ-ネと申します」

「初めまして、アミリ・シュレッセンと申します。怖い方が来るんじゃないかと思ってたけど、とっても綺麗な方で驚きました」


 何事も装うことが常の貴族の中でアミリは正直な性格のようだ。無邪気に頬を染める姿は本当に今の状況を解っているのかと言いたくなる。

それを純粋と感じる人もいるのだろう、ステュアートは愛おしそうに見つめている。幸せな未来しか見えてない二人。男爵は娘を窘めはするものの声は弱い。大変気弱な性格らしい。

「それではお話を聞かせてください」


 クリスは笑顔を装い質問を始めた。







 予定よりも遅く戻ったクリスは、はしたなくも主の部屋のソファに寝そべった。今日は本当に疲れた。ずっと我慢してた眉間に思う存分皺を寄せる。何度笑顔が引きつりそうになったか。

ステュアートの話はすぐに脱線する。質問に答えてくれるが二言目にはアミリの自慢、それをアミリが恥らいつつ、仲睦ましい姿をこれでもかと見せつける。

父親の居心地悪そうにしている様子に構うこともない。自分達は祝福されるはずだ、誰もが仲を裂くのはかわいそうだと同情してくれるとでも思っているのか。

何度声に咎める色が出そうになったか。いや、完全には隠せてないかもしれない。父親はこちらの様子に怯えていた。

幼い頃に母親を亡くして寂しい想いをしていたのだと同情していたステュアート。あの父親は娘を甘やかしすぎたのだろう。

本人はまともなのに弱気がゆえに我の強い娘を諭すことができないようだ。同情はするが庇う気はない。

軽く頭痛を覚えて息を吐いた。ジークは食事に行っているらしく部屋は暗いままで、心を落ち着けるのにちょうどいい。帰って来るまで少しでも調子を戻しておこうと目を閉じた。



 ふと気配を感じて目を開けるとジークの顔が間近にあり、クリスは息を呑んだ。部屋はまだ暗い。明かりを点けてくれればもっと早く起きれたものを。

確信犯のジークを睨みつける。

「何をする気だった」


 ばれても退く気のないジークに警戒心は高まる。過去形ではない、現在進行形だ。過去のジークの様々な悪戯が過り、冷や汗をかく。近すぎて抜け出すこともできない。

「我が国麗しの貴公子殿の珍しい姿を堪能している。こんなに無防備な姿は有難くもあるな」


 楽しくて仕方ないようで喉を鳴らして笑っている。どうにも落ち着かなくてクリスは目を逸らした。

「早く退いてくれ」

「主の部屋でだらけた部下にも寛容なオレにその態度はないだろ」


 からかわれてるだけなので謝るだけ無駄だ。どうせならともっと厚かましい要求をすることにした。

「まだ食べてない。料理をこの部屋に運ぶよう頼んでくれ」


 呆れた様子で離れたジークにほっとしつつ上体を起こす。なんとか危機は脱したようだ。

「心優しいオレに感謝しろよ」


 一々恩着せがましいことを言わなければ感謝するものを、侍女を呼び出し、食事を頼むジークの背中にため息をこぼした。

「まぁ、今日は見逃してやる。昨日の俺の苦労が分かっただろ」

「私の方が絶対酷い。何故睦み合う姿を見せられなきゃならないんだ。……だけど結果いてくれて助かった」

「へぇ?」


 意外そうに眉を上げるジークは聞く気満々で、まぁこのくらいはいいかとクリスは話すことにした。

「シュレッセン男爵家は大らかな気質らしい。細かく記録を残してなかった」

「大らかねぇ……」


 言いたいことは分かるが、ジークの含みのある笑みに特に反応を返さず続ける。

「ステュアート殿下の記録がなければいつ、どこでという証明ができないところだったんだ。かならず殿下のいる近くで事が起こったみたいだから」

「かならずか!」


 可笑しくて仕方ないのだろう、ジークが高らかに笑う。気持ちは十分わかる。こうも何度も運よく遭遇するなど不自然だ。


「結果、殿下に確認に行く必要がなくて手間が省けたんだ」

「なるほど」


 丁度話し終えたところに侍女が食事を運んできた。ありがとうと微笑めばはにかみながら下がって行った。



 向かいのソファに座ってクリスが食べるのをしばらく見ていたジークが口を開いた。

「明日晩餐を開いてくれるらしい」


 口に物が入っているので返事ができない。目だけで続きを促す。

「調査状況を知りたいんだろ。そしてできれば王家にとって不利にならないよう話をしたいと、こんなところじゃないか」


 そうだろうなと頷く。明日は何を聞かれてもいいように準備しなければいけない。今日のまとめと明日の準備と算段をつけていく。

「今日はここでしろよ」


 目をやるとジークがしたり顔をしている。

「オレもある程度知っておかないと聞かれたことに答えられないからな」

「明日の朝報告書を出すからそれでいいだろ」

「オレは今暇なんだ!」

「知るか!」


 また無意味な応酬をされては堪らないと、後はゆっくり味わうことなく早々に食事を終え、さっさと部屋を後にした。










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