表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/14

3






 感情的なステュアートに対し、冷静であろうとするエリシア。クリスの印象でいえばエリシアの方に好感が持てる。このまま彼女が罰せられるのは忍びない。

だがこの場でクリスに口を出す権限はない。他国のことであるし、クリスの身分はこの国の王族より下である。口を出せるとするなら……

「失礼」


 人垣をすり抜けて現れた人物に周りの者たちも戸惑っていたが、すぐに何者かに気付いた数人が息を呑む。遅れを取ったクリスもジークに続いた。

「ジークベルト殿下」


 王が愕然と呟いた名前にざわつきが増す。大国の王太子に醜態を知られてしまったのだ。

「申し訳ない、話は聞かせてもらった」


 勝手に会場に紛れ込んだ非礼を軽く済まし、ジークは楽しそうに会場を見回した。

「どうやら行き詰っているようなので、微力ながら力を貸そう」


 有難迷惑だろうと断ることのできない相手に、王は言葉を濁しながら軽く頭を下げた。

ジークはそれを満足そうに見やると壇上へと足を進めた。傲慢な態度がよく似合う、とクリスは笑みを噛み殺す。

「さて、もう一度話を整理しよう」


 壇上はまるで劇の舞台で、ジークの見せつけるかのようにわざとゆっくり振り向いた仕草は人々の視線を惹き付けた。

「失礼、美しい令嬢、貴女のお名前を聞かせていただきたい」

「エリシア・フォンタントと申します」


 優雅にお辞儀したエリシアは主役の相手役として引けを取らない、堂々とした振る舞いだった。先ほどの動揺からは落ち着いたらしい。確か侯爵家だったなとクリスは記憶を浚う。

「もう一度確認させてほしい。エリシア嬢、君はあちらの令嬢の身分を馬鹿にしたり、水を掛けたり、突き飛ばしたりなどという暴力を振るったのかな?」

「いいえ、いたしておりません」


 頷いたジークは今度はもう一人の令嬢へと振り向いた。

「可愛らしい令嬢、貴女のお名前は?」

「えっと、あの……わ、わたしはアミリ・シュレッセンで……と申します」


 初々しい反応は微笑ましくもあるが、エリシアと比べると貴族の令嬢として未熟である。

「貴女はエリシア嬢から身分を馬鹿にされたり、水を掛けられたり、突き飛ばされたりしたのかな?」

「あの……それは……その……」

「申し訳ありません、アミリはこのような場に慣れていないのです。ましてや人を悪く言うようなことはできない優しい娘なので、僭越ながら私が答えさせていただきます」


 まさしく姫を庇う王子、ステュアートがアミリを背に庇い前に出る。優しげで品の良い顔立ち。誰もが好意を抱くほど彼の容貌はこの役割に大変良く似合っている。

「アミリは確かに虐めに合っていました。犯人はエリシアで間違いありません」

「ああ、貴方はその現場を見たんだったな」


 横やりを寛大に受け入れたジークは、我が意を得たりとばかりに笑みを深くした。ステュアートはその笑みを好意だと受け取ったようだ。

「はい!濡れそぼった姿はいたわしく、泥の付いた姿は痛ましく気の毒でなりませんでした」

「その時貴方は何をした?」

「もちろん慰めました!泣いてるアミリの涙を拭ってやり、人目につかないよう匿い、ダメになってしまったドレスの代わりを贈ったりしました」


 辛そうに眉を顰めるステュアートの言葉は本心だと思われた。この国の王太子は夢見がちではあるが、善良なのは自国民たちが知っている。真実なのではないかという雰囲気が濃くなった。しかし……

「それだけか?」

「え?」


 ジークの投げかけた問いが空気を変えた。

「貴方はエリシア嬢がアミリ嬢を虐めていた所を見たのだろう?その場でエリシア嬢を咎めたりしなかったのか?」

「そ、その場……?」

「しなかったのか」


 当然すべきことを何故しなかったのか、と不可解な表情をしたジークにステュアートは慌てて弁解する。

「もちろんいたらしてます!ですがその場にエリシアはいなくて…」

「いない?虐めていたところを見たのに?」

「あ、いや……私が見たのはアミリの可哀想な姿だけで」

「なんだ、虐めたところを見たわけじゃないのか!」


 大袈裟に驚いて見せたジークにクリスは思わず笑いそうになった。実に白々しい。王太子の見たと言ってた内容の正しい意味に気付いていたくせに。

ステュアートは狼狽えていて、その様子に周りが再びざわつきだす。

「見ていないのだな?」


 父親である王がステュアートに念を押す

「はい……」


 か細い声による肯定で広場に沈黙が広がった。無言の責めに居た堪れなくなったのかステュアートは慌てて言葉を繋げる。

「しかし、アミリが酷い目に合ったのは確かで、泣きながらエリシアにされたと訴えたのです!アミリが嘘を吐くはずがありません!!」


 ステュアートが必死に訴えても雰囲気は変わらない。現場を見たと思ったからステュアートの言葉に取り合ったのだ。男爵令嬢一人の言葉で侯爵令嬢を責めることはできない。

「なるほど、アミリ嬢がエリシア嬢にやられたと言って、貴方はそれを信じたのだな」


 窘めようとした王より先にジークが口を出す。ジークの声からは不穏は感じなかったが王は青褪めた。自国の王太子の浅慮を責められた気がしたのだろう。

しかし続く言葉は意外にもとぼけたものだった。

「アミリ嬢はされたと言って、エリシア嬢はやっていないと言う。さてどちらを信じればいいのか」



 困ったように思案するジークの姿に、誰もがどう決断が下されるのかと固唾を呑んで見守った。

 









 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ