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 大きくなったざわめきが落ち着くのを待つ。貴族たちはエリシアやアミリやサミュエルを見たりと落ち着きがない。クリスが告げた報告は大きな衝撃だったようだ。

クリスは本当はアミリの表情を確かめたかったが、そんなことをすれば自分がアミリを糾弾しているように見える。さすがにそれは出すぎた真似になる。報告は明らかにアミリに不利だった。

「どういうことだ?」


 茫然と呟くステュアートに見つめられながらサミュエルが進み出る。

「本当のことです、兄上。私はその日その時間、エリシア様に会っています」

「そんな……」


 ステュアートの絶望感に似た呟きはざわめきに掻き消されそうなほど弱い。

「間違いないな、サミュエル」


 王が再度念を押すように確認する。その強い目には覚悟があるのかと問うていた。サミュエルも怯むことなく見返す。

「はい、間違いありません」


 その声は決意に満ちていた。

「これではっきりしたな。エリシア嬢は無実だ!」


 王が高らかに宣言する。貴族たちは息を呑んだ。誰もがありえないと思っていた結末になったことに驚いている。王家が過失を認めたのだ。

「そんなわけない!では誰がアミリを虐めたというのだ!!エリシア以外にありえない!!」


 事実を受け入れられないステュアートが抗議する。大分昂っているらしく最後の方は声を張り上げていた。辺りに静寂が包む。

皆の思いは一致している。アミリが嘘を吐いていたのだと。エリシアを嵌めようとしたのだ。王太子を証言者にする手は確かに有効だ。

しかし、予定を彼にだけ合わせ、肝心のエリシアの予定を調べていなかったのはなんとも間抜けな話だが。

周りのアミリを責めるその空気を感じ取って、ステュアートはいきり立つ。エリシアに指を突きつけた。

「その女はまだたかが一貴族のくせに女王の如く皆を従えさせ、常に人を見下し、高慢ではないか!それに比べてアミリは控えめで優しく、いつも明るく笑ってくれる!

 我が王家に相応しいのはアミリだ!!」


 ステュアートの叫びが貴族たちの心に響くことはなかった。人々の目には痛ましい子を見るような苦悩の色が浮かんでいる。

「謝るのだ、ステュアート」


 深く低い声が広間を支配する。

「父上……」

「お前のエリシア嬢への侮辱、見逃すことはできぬ!」

「侮辱などっ、本当のことです!!」

「お前以外の誰もエリシア嬢をそんな風に見ている者はおらぬ!!確かにエリシア嬢は他の者たちと違い、親しみやすい雰囲気は持っておらぬ。

 しかし、だからと言って皆を見下していないことは話していればわかること、皆が従うのは尊敬しているからだ!!」

「尊敬などっ、王家以上に尊敬される者などいるわけがない!エリシアは将来王妃になると驕り、皆を従えさせているだけです!!」

「お止めなさい!!女性をそのように貶めるなど、男として情けない!どうしてそんな子になってしまったの!?」

「母上まで!エリシアはっ」

「ではエリシア嬢がどういった人物なのかもう一度確認してみよう」


 盛大な親子喧嘩を断ち切ったのはジークだった。というか彼以外は無理なのだが。ジークが目配せしたのでクリスは頷いた。

「月の日から金の日は朝から昼まで王宮でお妃教育を受けておられます。朝の9の時から昼まで教師から学び、帰ってから昼食、月の日の昼過ぎからは孤児院へ訪問、

 水の日は街の視察、金の日はまた孤児院へ訪問されてます。火の日と木の日は社交、主に茶会を開いたり招かれたりしております。土の日と日の日は予定のない時は自宅にて休息。

 多少の変更はありますが、概ねこの周期で過ごされています」


 一つ頷くとジークは「なるほど」と呟いた。

「随分と忙しく過ごしてるのだな」

「何故そうも頻繁に街に視察に行く必要があるんだ?」


 もはや言い掛かりに近い気がするが、クリスはステュアートの疑問に丁寧に答える。

「市場の仕組みや流れ、物価の状況、治水の技術、繊維産業の仕組みと、お妃教育で学ばれた内容を直にその目で見るためだそうです」


 余りもの勤勉さにステュアートは呆気に取られたようだ。ちなみについでとばかりに調べたステュアートの日程は割と緩かったなとクリスは心で呟く。

基本王宮から出ず、執務の合間の休憩は頻繁だった。もちろん王族は滅多に外出しないものだ。エリシアも今のうちだからと積極的に視察を行っていたのだ。

幼い頃からの婚約者のことをちっとも知らなかったとは呆れる。

「確かに尊敬されるだけのことをしているようだ」


 ジークの一言が決定打となったようでステュアートは項垂れてしまった。その姿に誰もがエリシアと比べてしまい、出そうになった溜息を飲み込んだ。

決してステュアートが頼りないわけではない。エリシアの国への姿勢は高潔過ぎて、彼の大らかさが少し物足りなく感じるだけだ。

「ステュアート様だって素晴らしい方です!」


 微妙な空気の中、静寂を甲高い声が破る。さっきまでステュアートの陰に隠れていたアミリが顔をしっかり上げて皆を睨んでいた。

「皆の期待に応えるために頑張ってるんです!重圧に苦しみながらいつも笑顔を絶やさないで皆に優しくしてるのに、どうしてわかってあげないんですか!」

「アミリ……」

「そもそもその人が出しゃばり過ぎなのよ!王様になるわけじゃないのにっ」


 アミリの言葉にステュアートは感動したようだが、ほとんどの者は反感を覚えた。貴族たちはステュアートを自分たちが冒涜したかのような言い様に、

王家への敬愛を軽んじられたことに憤った。そしてエリシアを尊敬する者たちも彼女を侮辱したことに。

「国のために尽くそうと頑張ることの何が悪いのですか!」


 サミュエルがアミリに噛みついた。大人しく控えめな王子の珍しい姿に皆が驚く。

「その通りだ」


 王がアミリを見据えながら口を開く。表情は苦々しい。

「我々は決してステュアートを軽んじているわけではない。そなたが庇う必要も、エリシア嬢を貶める必要もないのだ。控えよ」


 悔しそうに引き下がったアミリを見届けてからステュアートに視線を移す。

「ステュアート、今回のことは見過ごすわけにはいかぬ。何の罪もない令嬢を貶めようとしたのだからな」

「はい」


 殊勝な態度にどうしてもっと早く気付いてくれなかったのかと、恨めしい気持ちになる。

彼なりにこの国のために尽くそうとしていた姿を知っている。王家の一員とし、民を愛し、国を愛し、いずれ王として真摯に尽くしてくれるだろうと思っていた。

思慮深い性質ではなかったが、他人の声に耳を傾けない愚かな性格でもなかった。こうして素直に自分の非を認められる、道理をわきまえている。それなのに……、

壇上を降り、エリシアの前に進み出る背中は憐れだった。

「エリシア嬢、申し訳なかった」


 頭を下げるステュアートに周りの貴族たちは目を逸らす。見るに忍びなかった。エリシアも頭を下げる。許すなどと王族に偉そうに口にすることはできないので黙って受け入れた。

「済まなかったな、エリシア嬢」


 王からの謝罪も黙って頭を下げる。

「そなたらの婚約は解消しよう」

「はい」


 予想していたことなのでこれも素直に受け入れる。その様子に貴族たちからも惜しむため息が漏れた。







 




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