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雅洋

 秋晴れの中、洗濯をしている陽子の所に来客があった。陽子は感激した。自分の弟が会いに来てくれたのだ。結婚してから一回も会っていない。

 華やかな陽子と違い真面目で誠実そうな弟だ。名前は、雅洋。年齢は18歳。高校3年生。歳の少し離れた姉弟だ。


「姉さん、元気そうだね。どう上手くやっている?」

「そんなことより、早く上がって今お茶入れるから。良かった、今日食べようと思ってモンブランのケーキ買っていたのよ」

 テーブルの椅子に座らせると雅洋に、一番お気に入りの紅茶を入れた。


「勉強忙しいのによく来てくれたね。どう、店の方は上手く行っている?」


 店とは、陽子の実家の仕事のスナックのことだ。宏の働いている銀行の近くにあるスナックで仕事の終わりに通っていた。


「姉さんが、いなくなってから客が減ったよ。姉さん目当ての客が多かったから」

「まあね。それより今日はどうしたの? 顔を見に来ただけじゃないでしょう」


 雅洋は、紅茶を一口飲むと、思い切って言った。


「僕を、この家に置いてくれないかな」

「えっ!」


 陽子は、思いもよらない言葉に驚いた。


「僕、作詞家になりたくて。プロダクションに自分で書いたものを送ったら合格通知が来てね。プロダクションの学校が近くにあるからここに住めれば便利なんだけれど駄目かな?」

「駄目っていきなり聞かれても、宏さんに聞いてみないと、お客さんが来たとき用の部屋はあるけれど、雅洋ったら作詞家になりたかったなんて知らなかった。部屋にこもって大学受験の勉強をしていたのかと思ってた」

「高校を卒業してからの話なのだけれど話しておこうと思って。専門学校みたいなもので、週に2回授業みたいなものがあって。そのほかにこの近くで仕事しながら授業と作詞をして上手く行けば作詞したものを使ってもらえるんだ」

「へえ、雅洋にそんな才能があったなんて、お姉ちゃん知らなかったー」


 陽子は、モンブランを食べながら、目を大きく見開いて言った。

 雅洋の前では、アヤのように意地悪な陽子にはならないのであった。


「でも、家にはアヤっていう生意気な小娘がいるし、ほんと憎たらしいい子でさ。雅洋に悪影響がないか心配だよ。でも、宏さんに説得してみるね。宏さんは私の言うことは何でも聞いてくれるから」


 雅洋は、陽子と話をして帰って行った。

 その日の夜、太刀川家では、幸せな夫婦が話し合いをしていました。


「だから、今すぐじゃないんだけれど雅洋この家に置いてよ」

「駄目だ。家にはアヤがいる」


 でも、陽子は、強気で、


「そうよ。でも私の弟がアヤに手を出したりしないわよ」


 アヤは、父親が良いとは言わないと思っていたから黙って聞いていた。


「宏さん! 結婚前に私に言ったわよね、私の願いはどんな事でも叶えてくれるって。もし、弟をこの家に置いてくれなかったら、実家に帰らせてもらいます」


 宏は、うーんと唸った後、


「仕方がないな、約束は約束だから、渋々だけれど良いと言うしかないか」

「うそ! パパなんて言う事言うの? 本気?」

「ありがとう、宏さん」


 と陽子が嬉しそうに宏に抱きついてキスをした。


「ちょっと、何でそうなるの!」


 アヤは頭にきて、


「私は、嫌よ。パパ娘が心配じゃないの! この人の弟よ! そんな人が来るなら私、家出する。悪い子になるから」


 と涙目で訴えているアヤに陽子が、


「出ていきたいなら出ていきなさいよ」


 とほくそ笑む陽子。


「パパ、何とか言ってよ。パパお願い。他人を入れないでよ、お願い」


 と甘えた声を出して泣き真似をした。陽子の眉が片方つり上がった。


「なに甘えているのよ。雅洋は他人じゃないわよ。宏さんの弟でもあるのよ」


 と当然と言うように言った。宏は、


「部屋には鍵がつけてあるのだから夜はちゃんと鍵をかけておきなさい」


 その言葉に、アヤは黙ったまま自分の部屋に行って悔しくて泣いた。次の日の午後、陽子は電話で、


「雅洋、宏さんが来年の春に家に置いてくれると言ってくれたわよ」

「本当に良いの?」

「良いよ、二階の部屋が雅洋の部屋になったから。それより、ちゃんと勉強もして高校を卒業するのよ」

「分かってる。できるだけ頑張るよ。難しいけれど」

「そんなこと言わないで、頑張りなさいよ」


 陽子は電話をきるとご機嫌でお気に入りの紅茶とモンブランケーキを食べていた。

 冬もソロソロやってくる。

 冬が終わって、春休みになるときに、雅洋はアヤと宏と陽子の家にやってくる。

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