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【8】

山間の道を進む集団。

その先頭にて檄を飛ばし、兵達に活を入れている男がいた。


「全員遅れるな!!隊列を乱す者は処罰の対象であるぞ!!」

彼らの行く道は長い年月をかけて川が削り出して出来上がったものである。

日照りにより乾き切ったその天然の道は、当初大人数で進むのに適していると見られていた。しかし、実際に歩いてみると、所狭しと敷き詰められているかのようにしてある小石に足を取られ、踏ん張りが利かず、その歩みはなんとも遅いものであった。

唯一幸いな事があるとすれば、切り立った崖により日の光が遮られている点だろうか。


「ちっ、ようやく思う存分に暴れまわれる機会が来たってのによ」

「レンフレッド隊長、焦らずとも当初の計画通りです。明日の日の入りまでには予定地に布陣出来ましょう」

レンフレッドと呼ばれたその男は、副隊長の発言にその逸る気持ちを落ち着かせる。


「そうだ、予定通りだ。奴等を疲弊させたところで大軍にて包囲し、その心を攻める。人も地竜も全て傘下に加えることが出来れば、これは我らの大いなる力となる」

「そうです。利を焦らず、しかし、最大の益を取る。それが上からの指示でございます」

そうレンフレッドを宥めつつ、副隊長は当初の計画を思い出す。

‐奇襲による電撃戦での占拠‐それが当初の計画であった。

レンフレッド率いる奇襲部隊はこれに失敗。オカド村の警戒度を上げてしまう結果になる。


オカド村で育てられている地竜はその身体能力の高さから各所で評価を得ている。それこそ、今自分達が乗っている地竜など比べるまでもない。

それ故に、王国に対抗すべく力を増強させたいテミスの天秤にとっては押さえておきたい拠点であった。

しかし、山と森に囲まれた僻地に攻め込むのは容易ではなく、しかも、各地で同時に平定戦を繰り広げていた為、オカドにのみ人員を割くことは叶わなかった。他所の重要度からしてみれば、ここの優先順位が随分と下のものになってしまっているのも災いした。


奇襲戦が失敗に終わり、その後も攻めあぐねていたレンフレッドを補佐すべく、副隊長としてやってきたこの男は言った。


「いくら腕に自信があろうとも、人の心は脆いもの。そこを攻めるのです。当初の目的は“勝つこと”ではなく“オカド村の力を得ること”。であれば、隊長のこれまでの奮戦にオカドの民はどれ程恐怖しておりましょうか」


そして、夜戦を仕掛ける、伝令を見せしめとする、火矢によって焼き討ちを掛ける等、心を攻める作戦を展開した。

勇猛と言えば聞こえはいいが、短慮でもあるレンフレッドを宥め賺しつつ、他の地域での戦が終わるのを待つ。

そして、今。


本部より送られてきた320名に合流し、レンフレッド達は道を先導している。

これは、勝利へと続く道であった。


「しかし、俺だけで十分なのに上の奴らはヘイグストなど寄こして…」

「ヘイグスト様はその名を知らぬ者などいない英雄であります。レンフレッド隊長の武勇と合わせれば、元は民草と言えど、果敢に敵に立ち向かう勇気を得られます」

そう言いながら、副隊長はこれら320名が戦う機会は訪れないだろうと予想していた。形だけの案山子、その役割さえ果たしてくれるのならそれでいい。


レンフレッドはふんと副隊長を一瞥する。それ以上何も言わなかったのは彼の発言に気を良くしたからか。そして、はるか後方、その者がいるであろう方向に視線を向けた。

見えないはずだが、確かにそこに何かがいる。そんな圧を確認し、視線を前に戻した。


そして、見る。


くの字に曲がった道の先、そこに佇む凛とした女性。

空気が凍っている。いや、空気が彼女に平伏しているかのようだ。


白を基調に蒼が入った服を着て。

銀に近い金の色をした絹のようなその髪は、後ろで一つ纏められ、その先から流れるように下に落ち。

陶器のように白いその顔にあり、伏せられていた黄金の瞳がすうとこちらに向けられる。


周りから空気が、消えた。

耳鳴りがする。

きいん、きいん、きいん……


「敵襲!!!!」


副隊長のその声にはっと我に返る。

そして、黄金の蛇の瞳が目の前にあるのを知った。


「ぐおぉぉぉぉ」

とっさに腰にあるショートソードを抜き払い、己に迫る銀の軌跡にその刀身を合わせた。

しかし、その勢いを殺すこと敵わず。

槍先が滑るようにして動き、左腕にその切っ先が入っていくのが目に映った。


「く、おのれぇぇぇ」

「隊長!!一度お引きください!!魔法隊、弓隊、構え!!遠距離より牽制、隊長の退路を確保しろ!!」

「馬鹿を言うな、女一人に引くなど出来るか!!」


そう気を吐くレンフレッド。

左腕は使えず、しかし、右腕だけで白い女の攻撃を捌く様はさすがと言える。だが、誰から見ても劣勢であった。


「く、ライリーか。何度も何度も我々の邪魔をしおって」

引く気配を見せないレンフレッドを巻き込むのではないのかと躊躇し、兵達は攻撃を放てないでいる。

副隊長は、ならば自分がと、脳内でファイヤーランスの魔法式を構築。魔素が実体のある炎を形作り、敵を穿つ槍となって顕現し、飛び立つ。


彼も、また見る。

その黄金の瞳を。そこに走る漆黒の虹彩が蠢く様を。


竜の瞳は魔法の根源たる魔素を捕らえる。竜人族が強者と呼ばれる所以である。

そして、見えるのならば、ライリーに穿てぬものは無い。


炎の槍は鋼の槍にて霧散した。


「くそ、化け物が」

副隊長は毒づき、さらに攻撃を放とうとする。

だが…


「邪魔だ」

男の声がした。


銀の軌跡が己に迫っている。ひどくゆっくりと時が進む。空気が重さを持ったように粘着質に身体に纏わりつく。

その空気を切り裂き、銀の軌跡が、槍の穂先が自分の身体に入っていくのをただ眺めていた。

ああ、こんなものに反応できるなんて、あれでレンフレッド隊長はやはり凄いのだなと、場違いな事を考えながら。


地竜から転がり落ちた自分に男が語り掛けてくる。


「お前がオーウェン=リオーネスだな。リオーネス公の第三子。父を殺した者共になぜ協力する?」

「…知れた、こと。この国を…少しで、ご、…良くし…」


オスカーは物言わぬ骸となったオーウェンに心の中で祈りを捧げる。

彼の周りでは、ライリーの部下33名及びトムにハンス、オリバーが司令塔を失い混乱に陥っている敵兵の無力化に地竜を走らせていた。


彼らの動きにライリーの方の決着を知る。

そのライリーを見ると、その黄金の瞳は敵後方へと向けられていた。

今、そちらで戦っているであろう友の勝利を信じて疑わない。そんな真っ直ぐな瞳だった。



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