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【5】

「たぁ~のぉ~もぉ~」

間延びしたなんとも気の抜けるキアラの声に応えるように跳ね橋が降りてくる。

先にオカド村と接触していたキアラとサクラによって、エマ達が近くまで来ている事は既に中の住民に伝わっていた。


オカド村の入り口。堀で隔てられたその外側で、エマ達はその橋が降りてくるのをまだかまだかと待ち構えている。


とん…とととととととと…ダン!!


跳ね橋が降り切るそれよりも早く。軽快な足音をさせて橋を駆け上り、堀を飛び越える者がいた。


エマは大きく跳び上がったその人物を見定めようと目を向ける。

その姿が白色に光り輝いているように見えたのは、太陽の光が目に入ったからか、それとも、再会の喜びに心が歓喜した為か。


「ライリー!!!」

「エマ殿!!!」


互いに名前を呼び合い、再会の抱擁を交わす。その跳び出した勢いのままに。


「きゃっ」


当然のごとく倒れそうになるエマ。それを支えるように腰に手を添えたライリーであったが、その勢いは殺されることが無く。

友人を巻き込むまいとしたライリーは、エマの腰に廻した手を横に払う様にして彼女を突き飛ばすと、自身は顔面から地面に突っ込んだ。

エマは空中で「ぶ」「ご」「ぼほぉ」と、腹の中の空気を全部吐き出すような声を出したものの、放り投げられた先にいたキアラに上手く受け止められる。


「す、すみません」

その謝罪は放り投げたエマに対してだろうか、それとも引き起こしてくれたオスカーに対してのものであっただろうか。

ライリーの謝罪を聞いて、エマもオスカーも、他のおっさん達も…妹を放り投げたられたというのに、あのキアラでさえも声を出して笑う。


「会いたかったよ、ライリー」

「私もです、エマ殿」


何とか平衡感覚を取り戻したエマと、体中にこびりついた土を払い除けたライリーが今度こそはと再会の抱擁を果たす。


「ライリー」

そんな二人に声を掛けるおっさんが一人。オスカーだ。その声は非常に低く、彼の機嫌が悪いことを示していた。


「は、はい、師匠」

「女の子があんな事で顔に傷を作るとか、一体何事だ?」

「すすすすすみません」

「…いい。他に怪我している所はないか?」

「あ、ありませんです!!」

「そうか、ならいい。…おい、それよりも早く中に入った方が良いんじゃないか?」

「そ、そうですね、では皆さま、こんな時ですが、ようこそオカド村へ」


ライリーに招き入れられるようにしてエマ達は橋を渡る。

皆が渡り終わったところで入り口にいた人達がロープを引き、橋を戻した。

エマ達を歓迎するように声を掛ける者や笑顔を向ける者がいる中、櫓の上で見張りについている者達はこちらを一瞥して目線を外に戻す。

その隠しきれない殺伐とした気配が、今、オカド村が臨戦状態にあると雄弁に物語っていた。


「そうそう、伝えなきゃいけない事があってね」

ぴりぴりとした空気を感じつつも、キアラは明るく発言をする。暗くしていて物事が好転するならいくらでも暗く振る舞うが、それで事態が良くなった試しがないと常日頃から感じていたキアラ。それ故の明るい振舞いだ。

いや、もう、色々とめんどくさいから考えるのを止めているだけなのかもしれないが。


「シルヴァに会ったんだけどさ、ハンスが怪我させちゃったんだよね。えーと、他の人達も…多少?怪我してるかも…だけど、偵察を続けるのに支障はないからって、そのまま外にいるよ」


エマ達を襲ったエルフの集団は、オカド村の偵察部隊であった。

森からの襲撃を警戒していた彼女たちは、森で村の方を窺っている怪しいおっさん集団を発見。様子を見ていた所、先制攻撃をくらい、交戦状態に陥ってしまったのだった。


その行動力を常日頃からフル発揮しているキアラは、エマ以上に頻繁にオカド村に遊びにきており、更にその社交性を発揮して村の人達とも仲を深めていた。そこで知り合ったのがシルヴァだ。

リュカを除くおっさん達もオカド村に来たことはあるのだが、どうにも社交性という部分でキアラに負けていたらしい。誰もエルフと交友を結んでいる者がいなかった。

妙齢の見目麗しい女性に声を掛けるナンパ野郎がいなかったとも言う。


「シルヴァが怪我を…いえ、師匠たちを相手にということは、こちらから何か失礼を働いたという事ではないでしょうか?申し訳ありません」

「なんだ、ライリーは会ってからずっと謝ってばかりだな。お前、そんな奴だったか?」

「師匠、僭越ながら私、オカド村の防衛を任されて?おりまして。それ故、こう?何かあったら?責任?みたいなのを感じてしまって」

「なんで所々疑問形なんだよ。ま、そっちの方が()()()けどよ」


オスカーはライリーに槍術を教えた人物だ。教えたと言っても、機会がある度に模擬戦をしていたぐらいでしかない。しかし、いつからかライリーは彼を「師匠」と呼ぶようになる。オスカーは師匠呼びを止めさせようとしたが、それはもう諦めていた。


「しかし、まぁ、気負い過ぎるなよ」

若さ故なのか、一歩間違えればその“責任”に押しつぶされかねない危うさをライリーの中に見たオスカーは、そうなる前に再会出来て良かったと喜んだ。その喜びを顔に出すことはしなかったが。


「はいはい、二人ともシルヴァの事忘れてない?村に戻ったらとは言ったんだけどさ、みんな頑固でね。縛ったまま連れてきた方が良かったかも」

「いえ、シルヴァが大丈夫と言ったのでしたら大丈夫なのでしょう。交代の時間に帰って来たらちゃんと休ませます」


大丈夫かなぁと疑問に思いつつ、キアラはそれ以上の事は言わなかった。

ライリーだけじゃない、他の者も切羽詰まっている。それだけこの村がぎりぎりだったのだと感じたのだ。


「とにかく、です。現状の確認から始めましょう」

エマの言葉に全員が頷く。

ライリーの無事を確認しただけでは終わらない。皆がそう感じていた。


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