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【2】

小さなろうそくの火が、闇に沈んだ部屋から彼女の姿を浮かび上がらせている。その灯が隙間風に揺れる度に彼女の影が大きく揺れ動く。


その部屋の主、キアラは、その薄暗い部屋で明日からのオカド遠征へ思いを馳せていた。

依頼主は実妹のエマ、依頼内容はエマを無事にオカドまで送り届ける事…と、そこまで考えてキアラは自分の思考回路がおかしくなりクスりと笑った。冒険者として今回の件を捉えている職業病のようなものを自覚したからだ。


「職業病と言えば、これもそうか」

キアラは手に持っていた愛刀の刀身をじっと見つめた。

【修復】の効果がエンチャントされており、このように手入れや状態確認をする必要が無い業物だ。しかし、キアラは毎晩のように愛刀を自分の目で確認し、必要のない手入れを行っている。

だからだろうか…エマが「自分の目でライリーの無事を確かめたい」と言った時、強く共感してしまい、エマがオカドに行く理由にこれ以上無い説得力を感じたのだ。


「それだけじゃないんだろうね。天秤共はリジェットを堕とした。それもあるんだろうな…」


リジェット国は北西に位置する獣人族を主体とする小国である。早々にリオーネス領を掌握したテミスの天秤は、遅々とした王国の対応を尻目に隣国であるリジェット国までも手中に収めることに成功していた。

属国となったリジェット国、その民の扱いは悲惨なものだと聞く。占領地での略奪行為に留まらず、獣人たちの高い身体能力を利用しようと強制的に戦の最前線に投入しているのだそうだ。


エマがライリーの身をより強く案じるようになったのはその件を知ってからだ。なんせ、エマにその情報を伝えたのはキアラ自身だ。話をしていくうちに変化していく愛妹の顔色に気付かないわけがなかった。

妹の親友であるライリー。竜人ドラゴニュートであるライリー。エマを通じて自分とも親交を深めていたその友人の無事をキアラも願う。


出立前の夜はゆっくりと、しかし、着実に更けていった。


★★★


妙齢の女性2人とおっさん7人が荒野を進む。

エマ、キアラ、筋肉、筋肉、髭、髭、筋肉、髭、筋肉というパーティー編成だ。傍目から見たら何とも言い難い集団に映るかもしれない。しかし、エマ達の両親が亡くなった後、家族同然に過ごしてきた彼らに別段気にしている所はない。むしろ、家族旅行にでも来ているかのような呑気な雰囲気がそこにはあった。


「しかしよぉ、ギルマスも分かっちゃいねぇよなぁ」

筋肉…もとい、オリバーが誰に問いかけるでもなく口を開く。


「エマちゃんは前々からライリーの無事を確かめたいって申し出てたんだぁ。それなのに何もしないで、いざ自分達でどうにかしようとしたら、聞いてないだの他人に迷惑が掛かるだのよぉ」

「最後の台詞、“戻ってきてもお前の席は無い”だったか?人を率いる立場の人間がそんな脅しで人を繋ぎ留めようとか、底が知れる」

オリバーの発言に昨夜の一波乱を思い出しつつ応えるおっさんの1人、髭ことリュカ。


昨夜の公共の場である食堂での彼らの話は直ぐにギルドマスターの耳に入ることになった。当然といえば当然である。

そして、明日にでも出立するというエマ達に苦言を呈しに食堂にやってきたのだ。それをエマとおっさん達は理路整然と諭した。


ギルマスは冒険者という人種が己の腕によって食べていける技術を持っているからこそ一所に留まる必要が無いという事を失念していた。

だからこその「他の村民が困る」という失言であったのだろう。彼はお願いして冒険者たちに村にいて貰う立場でありはすれ、不利を押し付けて彼らの行動を制限しようなどしていいものではなかった。

受付嬢であるエマがいたからこそ、強い態度に出てしまったのかもしれないが。


彼の発言は全てが裏目に出ていた。しかし、態度からして最後までそれを知ることは無かった様である。口論が起こっているその後ろでキアラが剣の柄に手をかけ、殺気も発せずいつでも抜刀出来る体勢であったことも。

キアラの内に秘めた殺意を何とか治めようと皆必死だった。必死にギルマスを説得した。お前、これ以上何も言うんじゃねえよと。


ギルマスに相対していた時、エマとおっさん達の背中には冷汗が流れ落ちていたのだ。主にキアラのせいで。

なんとかギルマスの首と胴が繋がった状態で帰すことが出来たのは、彼らの頑張りの成果に他ならない。


オリバーとリュカの会話でその事を思い出し、エマはブルリと身を震わせた。


「大丈夫?エマちゃん、体調が悪かったらすぐにお姉ちゃんに言うんだよ?」

「うん、大丈夫」

大丈夫ではなかった。主にキアラのせいで。


そんな会話がされつつ、一行は進む。

村から出て早々に街道から外れ、森に向けて一直線に進んでいる。

なるべく森の中にいる時間を短くしようと、今夜は森に入る手前で野営の予定だ。

明日にはいよいよ森に入る。

魔素が溢れ、人間を拒む魔境。ただ「森」と呼ばれるその地はもう目の前であった。


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