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皆さんと別れて私と碧生は屋台のおっちゃん達にお礼を言いに行った。あの時、もし碧生たちが抑えられなかったら、加勢してくれようとしていてくれたのはわかっていたからね。さり気なく男達を逃さないように囲んでいたし。


おっちゃんたちから私達もお土産を貰ってしまった。流石に七年も屋台を手伝っていれば、顔なじみは多いもの。


少し会場の隅で花火が上がるのを見て、早々に私達は碧生のマンションに帰った。といっても、私の部屋は碧生の隣の部屋なんだけどさ。


これも親たちの陰謀よ。女の子の一人暮らしは危ないとか、いろいろ言われて隣の部屋になったのよね。


部屋に戻ってもらったものを並べて私と碧生は、仲良く半分ずつ食べていった。お腹もいっぱいになり残りは冷蔵庫にしまった。


「ねえ、和花菜。先にお風呂に入る?」

「う~ん。確かに汗をかいたけど、これからまた汗をかくことするし、あとでいいわ」

「そっか」


碧生はそう言うと私を引き寄せて唇を合わせてきたの。唇を離すと嬉しそうに囁いた。


「これで和花菜は俺のものだから。もう放さないよ。・・・というわけで、あーれーをやらせて」


浴衣を脱がせることに妙な期待をする碧生に私は言った。


「バ~カ」



心地いい気だるさを感じながらベッドに横になっていると、碧生が話し掛けてきた。


「あのさ、和花菜。さっき実家を出る時に海翔兄からこれを貰ったんだよね」


いつの間にか目を閉じていた私は、目を開けて碧生のことを見た。碧生の手には封筒があった。私が見ている前で、封筒の中から紙を取り出して広げた。それを見つめた私達は顔を見合わせた。


「これって・・・」

「つまり書き込めば今からでも届けを出せるみたいね」


二人して渡された『婚姻届け』を凝視する。証人欄にはもう海翔兄の友人の名前と紅さんの友人の名前が書かれている。いったいいつ用意してくれたんだろう。


「まあ、焦らなくてもいいか。どうせなら家を買ってからにしようよ」


事も無げに言う碧生に私は笑った。


「そうだね。ところでそれは一軒家なの」

「とりあえずはマンションかな」


私は碧生の頬に唇を寄せてキスをした。


「好きよ、碧生」

「俺も、和花菜」


碧生が体の向きを変えて私の上に覆いかぶさってきた。唇を重ねる前に碧生が訊いてきた。


「そういえばさ、和花菜の落としどころって何?」


すぐ目の前に碧生の真剣な目が見えた。


「夏、かな」


そう答えたらガクッと言う感じに碧生の力が抜けて体重がかかった。


「重いよ、碧生」

「・・・そこはさ、好きだからとかないわけ?」


碧生がぼやくように言った。顔をあげないから私の左耳の辺りでくぐもった声が聞こえてきた。


「もちろん好きだけど・・・でも、学生での夏って今年だけじゃん」

「理由って、それ?」

「結構私的には重要よ」

「どうして」


やっと顔をあげたのか左耳に碧生の明瞭な声が聞こえてきた。


「だって、本当なら高校の時からつき合って、夏デートを満喫していたわけじゃない」

「でも、これからだって夏デートは出来るだろ」

「学生でのデートは今年だけじゃない」


碧生が体をもちあげて私の顔に両脇に手をついた。


「和花菜は春デートはしたくなかったの?」

「春は・・・別にどうでもよかったから」

「どうでもいいってなんでさ」

「だって、花見って言うと宴会のイメージだよね。そんなの二人でしたって楽しくないもの」


碧生は表情に困った顔で「あ~」とか「う~」とか唸りだした。なので、私も碧生に訊いてみたいことがあったから聞いてみることにした。


「ねえ、碧生は後の二人、桐谷さんと萱間さんのことを知っているみたいだったけど、どうして?」


碧生はピタリと口を閉ざして唸るのをやめた。言おうか言うまいかという表情が現れる。


「えーと、和花菜も菱沼さんと上条さんのことを知っているみたいだったけど?」


碧生が来るしまぎれに言ってきた。私にとっては隠すことじゃないから、素直に言った。


「内定をもらった会社の人だからよ。というか、さっきわかったんじゃないの」

「えーと、そうなんだけど。・・・で、俺も同じだよ。内定をもらった会社であの二人に会っていたんだ」

「もしかしてグループディスカッションしたってやつ」

「そう。俺の班になった奴が、いけ好かなくてやり込めてやったんだよ。そうしたら他の奴らが発言できなくなっちゃって、ヘルプしに来てくれたのが桐谷課長さんだったんだ」

「あー、それで、意見を戦わせたのね。そうか、気に入ったんだ」

「別にそんなんじゃねえぞ」


碧生は少しムッとした顔をした。私は腕を伸ばして碧生の首に抱きつくように腕を掛けた。


「ねえ、碧生。私、ちゃんと就職したいからそこはちゃんとしてね」

「別に和花菜が就職しなくても十分養えるぞ」

「そこは知ってる。でも、折角の縁は大切にしたいじゃない」

「・・・仕方がないな~。だけど、今だけは夏の恋らしく激しくいこうぜ」


碧生が私に顔を寄せて口づけながら言った。唇が離れると私は言った。


「バ~カ」

「そんな可愛くないことを言うのはこの口か~」


碧生に唇を塞がれた私は碧生の頭を抱きしめるように髪に指を絡めたのだった。



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