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碧生が気を利かせてお茶を持ってきてくれた。泣き止んだ彼女に渡して、私も一口飲んだ。


「えーとね、お節介かもしれないけど、何があったのか話して見ない? 溜め込むのは良くないっていうし、ね」


お節介かなと思いながら訊いてみた。彼女は誰かに聞いて貰いたかったようで、ポツリポツリと話してくれた。


「そうか~。不安に思っていたところに、嫉妬するような行為をされちゃあねえ~。でも、これは男が悪い! 男の人も結婚を前提とした告白しているんだから、もっとフォローをちゃんとしないとさ~」

「でも、彼は私の事を大事にしてくれています」

「うん、それはわかるよ。でも、聖子さんを不安にさせる時点で、彼氏失格じゃん」

「そうでしょうか」

「それにね、聖子さんも、もう少し我儘を言っていいと思うな~、私」


私は彼女、上条聖子(かみじょうせいこ)さんに安心させるように笑い掛けながらそう言った。そう言いながらも腹の中は、怒りで煮えくりまくっていた。こんな儚げ美人を泣かせるなんて。でも、口では優しく話した。


「だからさ、会ったら甘えちゃいなさいよ。なんだったら、今夜は帰りたくないと言ってみるとかさ」

「か、帰りたくない~・・・そんなこと、言えません」

「・・・これじゃあ、彼氏も手が出せないわけだわ」


真っ赤な顔の聖子さんが可愛すぎて、彼氏が手を出すのを躊躇う気持ちがわかったと思う。でも、それが不安にさせていると彼氏は思っていないんだろうな。お節介だろうけど、ちょっと取り持ってやろうという気持ちになったのよ。


「ところで、その彼とはどこで待ち合わせをしているの?」

「会場についたら連絡をくださいと言ってありますけど・・・」


携帯を取り出してみてみた聖子さんが呟いた。


「大変。気がつかなかったなんて」


慌てて電話をしようとしたから、聖子さんの手を押さえてやんわりと止める。


「その前にお化粧を直そうか」


聖子さんは「あっ!」という顔をして頷いた。一番近いトイレに案内したけど、案の定混んでいた。聖子さんがお化粧を直して出て来るまで、少し時間がかかった。



私は外で待っていた。その間に碧生に事情を簡単に説明した。


『それならさ、彼女が連絡した時に彼氏に彼女は預かった的なことを言ったらどうだ』

「え~、大丈夫かな」

『彼氏が彼女さんのことを大切に思っているのなら、探し回っているんだろ。何となくそうかなって人は見たから、あとはこの屋台に誘導してよ。そうしたら屋台の裏にいる彼女さんのところに案内するからさ』

「いいの、碧生」

『いいってば。上手くやれよ』

「うん。屋台の裏に行ったら顔を出すからね」

『おう。待ってるぜ』


戻ってきた聖子さんに私は笑顔で言ったの。


「じゃあ、連絡をしてね」


携帯を取り出して掛けている聖子さんの様子をみていたら、どうやら相手はすぐに出たみたい。


「すみません、わた」


言いかけた聖子さんから携帯を奪い取る。


「ちょっと失礼しまーす。聖子さんは、私、結城和花菜と一緒にいますので、ご安心ください。・・・というかさ、彼女を不安がらせんなよ。文句があるならフランクフルトを売っている屋台まで来な」


最後は凄みを利かせた低めの声で言って、通話を切る。携帯を聖子さんに返しながら顔を見たらあ然とした顔をしていた。


「何をするの、和花菜さん」

「えー、ちょっとした嫌がらせよ。というわけで、うちの店に行きましょう」


かなり薄暗くなってきた中をフランクフルトの屋台の裏まで歩いて行く。「屋台の店主に挨拶をしてくる」と言って離れ、碧生とおっちゃんに一言声を掛けてすぐに戻った。



「ごめんね~。って、あんたたち、なんか用なの」


聖子さんのそばには3人の男。心の中で舌打ちをする。こんな時にナンパすんなよ。


「なんだ~、待ち合わせって女の子じゃん。同性同士じゃつまんないでしょ。一緒に行こうよ」


勘違いした男が聖子さんの腕を掴む。


「ちょっと、聖子さんの手を放しなさいよ」


私が声を荒げてその男に掴みかかろうとしたら、別の男がわたしの腕を掴んできた。


「いいじゃん。そうだ、この後のさ、花火がよく見える穴場があるんだよ。教えてやるから一緒に行こう」

「嫌です。放してください」

「そうよ。放せよ。一緒になんか行くもんか」


勘違い野郎どもが誘ってくるけど、これじゃあこっちの計画がパアになる。私は男の手を外そうとしたけど、逆に強く握ってくる始末。腕に跡がついたらどうすんだ、こんにゃろう!


「おいおい、傷つくな~。ちょっと一緒に花火を見ようって誘ってるだけじゃん」

「そうだよ。ねえ、君もさ、そんなに警戒しなくてもいいじゃん。ちょっと楽しむだけだって」


私の手を掴む男が絶対にそれだけじゃすまないだろうことを考えている笑いを張り付けた顔でそう言ってきた。本気で倒そうかと思った時にすっごく不機嫌な碧生の声が聞こえてきた。


「ほお~、俺の和花菜と何を楽しむ気かな?」

「碧生! 遅いよ」

「私の聖子から手を放して貰おうか」


碧生の後ろから、イケメン浴衣男子・・・じゃなくて、男性が現れた。その人の目が一瞬聖子さんを見てホッとした色を浮かべるのを、私は見逃さなかった。なんだ、ちゃんと愛されてんじゃん。


「ほら、さっさと手を放せよ」


碧生が私を掴まえている男の手を捻じりあげた。聖子さんの彼も同じように聖子さんを掴まえた男の手を捻じりあげた。その様子に私は感心した。私と碧生は合気道を習っている。体のことを分かっているから簡単に抑え込めるの。だから、油断をしなければそこら辺の男に私は負けないと思う。そんな私が感心するくらい綺麗に押さえつけているのだもの。あれじゃあ、ちょっとやそっとじゃ動けないだろう。


「いてえな。放せよ。なんだよ、ちょっと声をかけただけだろう。そばにいないお前らが悪いだろうがよ」


男の言葉に、そう言えば3人だったと思い出し辺りを見回せば、やはり浴衣姿の男性に抑えられている男が目に入った。


「道具を使うなんていけないな~」


その男性は楽しそうに笑っていた。彼の連れなのか少し離れたところにいた小柄な女性が私達のそばに来た。


「あの、お二方とも、怪我はありませんか?」

「ええ。大丈夫です」

「私も。・・・えーと、あの人はあなたの彼氏なの」


私の問いかけに小柄な女性は男を取り押さえている男性に視線を向けたまま、熱っぽい声を出した。


「そうなの。私の好きな人なの」


屋台のおっちゃんが誰かと話しをしているのが見えた。程なくして祭りの警備員がやってきた。彼らに男達を渡して終わりかと思ったら、事情を聞きたいと言われた。こっちは被害者なのに。


私達6人は本部に行って何があったか話した。それを聞いた祭りの実行委員会の方々は、3人の男に厳重注意をして開放した。もちろん、嫌がる女の子を無理やり連れて行くのは犯罪だと匂わせてね。男達は警察沙汰になるかもしれないと言われて震えあがっていたのよ。痴漢の裁判のことを具体例に出して、職を失ったり世間からの陰口とか家族に及ぶあれこれなどを懇切丁寧に話されていたのよね。


本部から解放されて、別れる所で碧生は男の人達に屋台で買ったものを渡していた。これは本部に向かう途中で会った後輩に頼んでいたことだ。男の人達はそれぞれ碧生にお金を払おうとしたけど、碧生は受け取らなかったようだ。


私は別れる前に聖子さんにそっと耳打ちしたの。


「ほら、素直に甘えなさいね」



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